栽培イネの葉身に含まれるエステラーゼ同位酵素は,寒天・ポリビニールピロリドンを支持体とする平板薄層電気泳動法では,約14種のパンドがある。このうち,主要なバンド,1A,6A,7A,11A,12Aおよび13Aについて交雑実験により遺伝様式を調べた。バンド1Aはすべての交雑組合せでF
1個体に出現し,その活性は1A保有品種親より低かった。F
2集団では,1A個体と非1A個体との比は3:1の単遺伝子分離に適合した。したがって,1Aの活性発現は単一の主働遺伝子に支配され,その座位にEst
1の遺伝子記号を与えた。バンド6Aおよび7Aの遺伝も1Aと同樹こすべての交雑組合せで単遺伝子分離を示し,それぞれ主働遺伝子支配が明らかとなった。一方,両者はたがいに近接し,活性も同程度であり,これまで調査した在来種にはどちらか一方のバンドしか見い出されないことから,対立関係にあるアロザイムの可能性が大きいので,6A品種と7A品種の交雑を行った。その結果,F
1個体は両酵素の活性があり,雑種酵素は出現せず,F
2では正逆いずれの交雑組合せても6A型とF
1型および7A型が1:2:1の割合で分離し,双方非活性の個体は出現しなかった。したがって,6Aと7Aの対立遺伝子座支配が証明された。この座位にEst
2の記号を与え,6AをEst
2s,7AをEst
2Fとした。バンド12Aと13Aも6Aと7Aの関係と同様であり,複対立主働遺伝子支配であった。しかし,そのF
2分離比はある程度“ゆがみ"(distorted segregation)を示し,これは受精時に配偶子選択が起こるものと考えられた。12Aと13Aを支配する座位をEst
3とし,12AにEst
3S,13AにEst
3Fの記号を与えた。つぎに,上記3座位の連鎖関係を検討したところ,少なくともEEst
1とEst
2およびEst
2とEst
3との間では,有意な連鎖は認められなかった。以上から,栽培イネのエステラーゼ同位酵素は3座位の7対立遺伝子群(Est
1,Est
10,Est
2S,Est
2F,Est
20,Est
3S,Est
3F)に支配される。さらに,バンド2AはEst
1,14AはEst
3にそれぞれ支配され,バンド10Aは別の遺伝子座支配と予想される。この3座位の4対立遺伝予群を加えると,今後標識遺伝子として4座位の11対立遺伝子群が利用可能となろう。
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