育種学雑誌
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35 巻, 2 号
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  • FUKOSHIMA Mario Thukasha, 日向 康吉, 角田 重三郎
    1985 年35 巻2 号 p. 109-117
    発行日: 1985/06/01
    公開日: 2008/05/16
    ジャーナル フリー
    水・陸稲8品種を使用し,光合成速度(P),蒸散速度,水ポテンシアル,拡散伝導度,水分含量を各種土壌湿度条件下で測定した.土壌湿度は,湛水,10,20,40cbarおよび捲葉点(50~62cbar)とした.湛水状態では水稲(IR8およびBOsque)および矮性突然変異体(大黒1号)が高いP値を示した。10cbarでは水稲品種のPが大幅に低下したが,陸稲品種(熱帯陸稲,Moroberekan,IAC1246,Batatais;日本陸稲,戦棲,陸稲農林24号)のPの低下は少なかった.そして大黒1号以外の品種のP値は近似した。20cbarに土壌湿度を下げると陸稲品種のP値が高く,大幅にP値を低下した水稲品種とに差が見られるようになった.土壌水分が40cbar以上になると,水稲品種および日本陸稲のP値が大幅に低下し,熱帯陸稲と大黒1号は比較的高いP値を示した.以上の結果から乾燥に対する反応によって,供試品種を,水稲,熱帯陸稲,日本陸稲,大黒1号の4型に分類した. ある土壌水分で品種を比較した時も,またある品種について各種の土壌水分条件で比較した時も,Pの値と葉水分バランスに関与するパラメーターとの間には常に相関が認められ,品種の反応には差があること,また,葉水分バランスがP値に強い影響を与えていることがわかった。水稲品種は土壌湿度の変化に応じて,水分バランスを大幅に変化させるが,熱帯陸稲品種の水分バランスの変化は少ない.日本陸稲の湛水下での水分バランスは熱帯陸稲に似ているが,強乾燥条件下における日本陸稲は水稲と同様水分パラメータを極度に低下させる.一方大黒1号は,湛水下で水稲品種同様の良好た水分パラソスを示し,また,いずれの条件下でも水分含量が高く,水ポテンシァルも高い値を示した. 捲葉を示す土壌湿度も品種によって異なり,水稲では50cbar,日本陸稲53cbar,熱帯陸稲56cbar,大黒1号62cbarであった.また灌水停止時から捲葉が認められる迄の日数も品種によって異なり,水稲9.6日,日本陸稲10.5日,熱帯陸稲10.8日,大黒1号ユ2.8日であった.
  • 大村 三男, 能塚 一徳, 秋浜 友也
    1985 年35 巻2 号 p. 118-126
    発行日: 1985/06/01
    公開日: 2008/05/16
    ジャーナル フリー
    パラフルオロフェニルアラニン(PFP)によるブドウの染色体数の変異誘起の特徴を明らかにするため,フェニルアラニン誘導体及びアミノ酸アナログを,種子の発芽期に処理し,根端細胞における変異を比較した. フェニルアラニン関連物質のうち,フェニル基を修飾したPFP,バラクロロフェニルアラニン,パラブロモフェニルアラニン,パラアミノフェニルアラニン,パラニトロフェニルアラニンで染色体数変異の誘起効果が確認された.フェニル基を置換したβ-2-チエニルアラニン,及び,アラニル基を修飾したα-メチルフェニルアラニンでも変異が誘起されたが,フェニルアラニン及びチロシンでは変異はみられなかった(Tab1e1). フルオロフェニルアラニンの3つの構造異性体を検討した結果,PFPとともに,メタフルオロフェニルアラニン及びオルトフルオロフェニルアラニンも染色体数の変異を誘起した.しかし,PFPの立体異性体の比較では,D-PFPには効果が認められず,染色体数の変異誘起には,L-PFPが有効であることが示された.さらに,PFPのアミノ基を修飾し,N-アセチル-PFPにした場合,変異の発作はみられなかった(Table2). ほかのアミノ酸のアナログ8種類について比較した結果,メタフルオロチロシン及び5-フルオロトリプトファンが,PFPと同様に染色体数の変異を誘起した(Tab1e3).
  • 有賀 小海, 中島 哲夫
    1985 年35 巻2 号 p. 127-135
    発行日: 1985/06/01
    公開日: 2008/05/16
    ジャーナル フリー
    前報で述べたように,タバコの花粉からの不定胚発生は糖飢餓によって誘導され,糖飢餓下で,不定胚形成へのDNA合成まで進行した.本報においては,不定胚形成のためのDNA合成を行なった花粉が,細胞分裂を開始し,不定胚形成を経て発芽個体へと発育するために必要とする条件を解析した. 一定期間葯培養を行なった後,花粉を単離し,無機塩と蔗糖のみのNITSCH(1972)の培地(本論文では培地Aと表わす),およびそれにアミノ酸とイノシトールを添加したNITSCH(1974)の培地(培地Bと表わす)との2種類の培地で花粉培養を試みたところ,葯培養を4日以上行なえば培地Bでは花粉が不定胚形成への細胞分裂を開始した.これに対し,培地Aでは,10日間以上葯培養を行なった場合にのみ花粉の細胞分裂が認められた(Table 1). 葯培養10日目には培養葯内でも不定胚形成への細胞分裂が開始するので,培地Aにおける細胞分裂は花粉培養に移す時点で始まっていたものと考えられた.
  • 藪谷 勤
    1985 年35 巻2 号 p. 136-144
    発行日: 1985/06/01
    公開日: 2008/05/16
    ジャーナル フリー
    我が国こおけるハナショウブ[Iris ensata THUNB. var. ensata(MAKIN0)NAKAI, 2n=24]の育種は,他種との交雑不和合性が極めて高いためにもっぱら種内変異の利用に頼ってきたが,育種効果の飛躍的な増大のためには種間交雑の導入に一よる変異の拡大が必要である.相互の交雑不和合性が高いハナショウブとカキツバタ(I.laevigata FISCH., 2n=32)との間では,既に胚培養によりカキツバタ×ハナツヨウブのF1雑種(2n=28)が育成されているが,両親種染色体間の相同性が低いため,これまでF1雑種の花粉および種子稔性は認められていない.このようたF1雑種の不稔性を克服するために,コルヒチン処理胚の培養を実施し,カキツバタ×ハナショウブの人為複二倍体(2n=56)の獲得に成功した.本報では,この複二倍体について育成の経過在らびに特性を明らかにした.
  • 佐山 春樹, TIGCHELAAR E.C.
    1985 年35 巻2 号 p. 145-152
    発行日: 1985/06/01
    公開日: 2008/05/16
    ジャーナル フリー
    トマト果実の色を高める二つの遺伝子,ハイピグメント(hp)とクリムソン(ogc)遺伝子,に付随する収量性と加工品質を明らかにし,加工トマト育種に一役立たせるため,クリムソソ・ハイピグメソト系トマト(ogcogchphp)と普通系トマト(og+og+hp+hp+)を交配し,その後代に得られたF5系統のうち,四つのホモ接合遺伝子型の系統-クリムソン・ハイピグメント(ogcogchphp),ハイピグメント(og+og+hphp),クリムソソ(ogcogchp+hp+)および普通(og+og+hp+hp+)系統一を無作為に選抜し,遺伝子型ごとの形質の違いを比較検討した. その結果,ハイピグメント(hp)遺伝子を有する系統では,早期収量が普通系統と比べ約50%の減少がみられ,全収量も常に低い傾向に、あった.一方,クリムソン(ogc)遺伝子を有する系統は,早期収量や全収量で一定した傾向を示さず,平均では普通系統と大きな違いはみられなかった.この事から,ハイピグメント(hp)遺伝子を育種的に利用するには,早生性の遺伝子と組合わせて用いるのが望ましいことが,指摘された.
  • 中村 郁郎, 蓬原 雄三
    1985 年35 巻2 号 p. 153-159
    発行日: 1985/06/01
    公開日: 2008/05/16
    ジャーナル フリー
    β-アミラーゼは,多くの植物体に分布しているでん粉・アミロースなどを加水分解する酵素である.ダイズおよびサツマイモの酵素はすでにその詳しい性質が調べられており,前者は単純タンパク質であるのに対して,後者は同じサブユニットの四量体から構成されていることが知られている.ダイズ(G.max)のβ-アミラーゼには,ゲル電気泳動法において易動度の異なる2本のバンドが認められている.この2つのバンドは一遇伝子座の共優性複対立遺伝子(Sp1a,Sp1b)に支配されていることが明らかにされた(G0RMAN and KIANG 1978, HILDEBRAND and HYM0WITZ 1980).また,MIKAMI et al.(1982)は,ゲル等電点焦点法を用いて7つのアイソザイムを認め,品種によって2つの泳動パターン,高(H)PIタイプおよび低(L)pIタイプ,を示すことを見いだした.しかし,2つの電気泳動システムにおける特性の間の関係はまだ明らかにされていない.本論文では,上記した2つの特性に加えてSDS-ゲル電気泳動法における易動度(相対分子量)を比較することにより,ダイズのβ-アミラーゼアイソザイムを荷電,分子量およびSp1遺伝子の3者によって特徴づけようとした.
  • 佐藤 洋一郎, 林 喜三郎
    1985 年35 巻2 号 p. 160-166
    発行日: 1985/06/01
    公開日: 2008/05/16
    ジャーナル フリー
    既報(佐藤・林 1985)で述べた感光相(PSP)が短かく基本栄養生長期間(BVP)も短かい早生品種群に属する日本の在来イネ品種について,到穂日数の温度反応(感温性)および基本栄養生長期間(BVP)の品種間差異とその遺伝様式を調べた.供試した早生24品種は,生育期間中の温度が高いほど到穂日数が減少し温度反応を示したが,その品種間差は小さかった.早生品種群内には到穂日数がさらに短かいもの,やや長いものの2群が存在した.BVPの長さを支配するEf-1b遺伝子との相同性検定の結果,多くの早生品種はEf-1b遺伝子とこの作用を強める複数の変更遺伝子をもつと推定されたが,一部の品種はEf-1b以外の早生遺伝子をもつと考えられた.Ef-1b遺伝子は,北海道から鹿児島に至る日本の各地に分布した.これらのことから北部日本の早生品種は必ずしもイネの北進の過程で自然淘汰の結果分化したとは限らず,むしろイネの日本への伝播の初期にすでに分化していた早生品種が選抜されて北上したと考えるほうがよいと結論された.
  • 吉田 久, 川口 數美, 神尾 正義
    1985 年35 巻2 号 p. 167-174
    発行日: 1985/06/01
    公開日: 2008/05/16
    ジャーナル フリー
    わが国コムギ品種・系統がもっている早熟性の特性を再評価することによって,早熟化の可能性を見出そうとした.すなわち,コムギの全生育期間を播種~茎立,茎立~出穂,出穂~開花,開花~成熟期の4つの期間に分割して,個々の期問の短い品種・系統の遺伝特性を育種的に集積することにより,早熟化の可能性を検討した.コムギ農林登録品種とその系譜上の計296品種・系統について,茎立,出穂,開花,成熟期を2ケ年圃場調査した.同一出穂期および同一成熟期の品種問で,茎立期および開花期に早晩があり,その結果,同じ生育環境下で4つの生育期間に品種間差異があることを認めた.茎立期あるいは出穂期とその後の各生育期間との間には,高い負の相関関係が認められた.しかし,この関係からはずれた各生育期間の短い有用育種素材を選定することができた.これらの育種素材の組合せにより,生育期間の短い遺伝特性が組換えられたと仮定しても,農林61号より1週間程度早熟な実用品種の育成が限界であるとみられた.さらに早熟化のための育種方法を考察した.
  • 馬上 武彦, 上原 武
    1985 年35 巻2 号 p. 175-182
    発行日: 1985/06/01
    公開日: 2008/05/16
    ジャーナル フリー
    ネギの細胞質雄性不稔性を利用して得たF1雑種の雑種強勢と生長率および自殖系統の自殖弱勢が,幼苗重,葉鞘重および一株全重で調査された.材料は細胞質雄性不稔個体(雄性不稔個体に細胞質雄性不稔維持系統加賀を2回戻し交雑をしたB2)と,経済品種6である.第1試験では経済品種4つを使って細胞質雄性不稔個体x経済品種の雑種(F1),経済品種の兄弟交配系統(Sib)および自殖系統(S)として,第2試験では経済品種2つを使って自殖を2回重ねた系統を自殖1代(Si)と自殖2代(S2)として育成した.第1試験の3者(F1,Sib,S)の比較から次のような結果を得た.幼苗重では,4品種のF1すべてに大きな雑種強勢が認められた.しかし,葉鞘重では,生育の初期で岩槻(Y-5)のF1に雑種強勢が観察されただけで,その他の品種には観察されなかった、この試験でのネギの雑種強勢は生育が進むに従って小さくなるのが特徴であった.葉鞘の1日当り生長率(葉鞘重)は,生育初期で3者(F1,Sib,S)間で大きな差はなかったが生育後半ではSibが最も大きかった.一株全体の1日当り生長率(一株全重)は,F1では生育の初期から中期にかけてSibおよびSと比較して余り変らないが,収穫期に近い後期でSibおよびSより劣った.それに対しSibおよびSの1日当り生長率は,生育の中期から後期にかけてF1より増加した.第2試験の兄弟交面己系統と自殖系統(Sl,S2)の比較による葉鞘重および一株全重は,S1からS2世代へと自殖が進むに従って減少した.結論としてこの試験のネギの雑種強勢は生育の初期には大きいが,後期には小さくなった.また,自殖弱勢も若干認められた.
  • 足立 泰二, 中務 将弘, 浅香 康昌, 宇多 武久
    1985 年35 巻2 号 p. 183-192
    発行日: 1985/06/01
    公開日: 2008/05/16
    ジャーナル フリー
    本研究はPortulaca属植物における花色多彩化育種の一環として,放射線照射後代に見出された突然変異系統の遺伝分析を実施し,その特性変化としてのベタレイン色素の生合成に関与する遺伝子の作用性について考察を加えたものである.R sp.`Jewel'のX線突然変異系統XM-2たらびにXM-3の遺伝分析の結果,花色発現に必要な遺伝子として同一染色体に座乗するM1およびM2遺伝子の存在を仮定し,これによる実験結果を説明できた.この結果からさらに色調を淡色化する遺伝子が存在することも推定した.なお,M1はM2に対し上位性を示すものとした.一方,高速液体クロマトグラフィの技法を用いて含有するベタレイン色素について系統比較したところ,突然変異系統に構成色素の変化がみられ,さらにm2遺伝子の発現は温度に感受性を示し,酵素活性に関与すると推察された.
  • 稲垣 正典
    1985 年35 巻2 号 p. 193-195
    発行日: 1985/06/01
    公開日: 2008/05/16
    ジャーナル フリー
    コムギ(Triticum aestivum L.)半数体の染色体(2n=21)を効率よく倍加する目的で,オオムギ野生種(Hordeum bulbosum L.)との交雑から得たコムギ品種農林61号の半数体を用いて,発育程度の異なる時期にコルヒチン水溶液で処理した.その結果,2~3本の分けつ時の半数体を0.10%コルヒチン水溶液に20℃で5時間浸漬した場合に95.6%の効率で結実種子を得ることができた.
  • 森口 卓哉, 秋浜 友也, 小崎 格
    1985 年35 巻2 号 p. 196-199
    発行日: 1985/06/01
    公開日: 2008/05/16
    ジャーナル フリー
    ニホンナシの冬芽茎頂を用い,液体窒素(-196℃)中での生存条件を明らかにするため,ジメチルスルホキシド(DMSO),グルコース,ソルビトールの凍害防御効果および予備凍結温度と凍結保存後の加湿.速度の影響を検討した.-40℃で予備凍結した冬芽茎頂は,凍害防御剤を加えずとも,液体窒素中に投入後,生存することが認められた(Table 1)・0`10℃の予備凍結では,38℃の温湯中で、急速に,または0℃の空中で緩慢に加温しても茎頂は生存できず,-20`-30℃の予備凍結では,、急速に加温した場合の生存率は緩慢に加温した場合よりも高かった.そして,-40℃,またはそれ以下の温度で予備凍結すると,加温方法にかかわらず,液体窒素中に投入後約80%の茎頂が生存した(Fig.1)・さらに,冬芽茎頂の液体窒素中での長期保存の可能性を検討するため,10% DMSO 溶液とともに最高40日間保存した、その後,38℃の温湯中で急速に加温し,生存率を調べたところ,40日間の保存でも,95.2%と高い生存率を得た(Table2, Fig.2).以上のことから,ニホンナシの冬芽茎頂の液体窒素中での長期凍結保存の可能性を示すことができた.
  • 中根 晃, 戸谷 清美, 稲垣 正典
    1985 年35 巻2 号 p. 200-203
    発行日: 1985/06/01
    公開日: 2008/05/16
    ジャーナル フリー
  • 吉田 智彦
    1985 年35 巻2 号 p. 204-208
    発行日: 1985/06/01
    公開日: 2008/05/16
    ジャーナル フリー
    カンショ育種試験における収量試験の精度を調べるために,収量や収量関係形質の約20年間にわたる年次間相関をデータベース化した育種試験成績から計算した.相関は実生二年目と三年目,三年目と四年目,四年目と五年目,五年目と六年目の収量試験間の共通供試品種について計算した.実生二年目と三年目の間の相関の値は約20年間の平均で,いも収量が0.29,切干歩合が0,58,圃場判定(収量,外観などを総合的に観察した判定)が0.15であり,いも収量と圃場判定の相関の値が小さかった.三年目と四年目の間の相関の平均はいも収量が0.49,切干歩合が0.68,いもの大きさが0.48,一株いも数がO.48,圃場判定が0.35であり,五年目と六年目の相関の平均(標準栽培)はいも収最が0.72,切干歩合がO.84,いもの大きさがO.65,一株いも数が0.67,つる重が0.62,圃場判定が0,30,ネグサレセンチュウ抵抗性が0.91,ネコブセンチュウ抵抗性が0.85等であった.これらの結果から一般的には初期の試験間よりも後期の試験間で相関の値が高く,初期の選抜では収量よりも切干歩合やセンチュウ抵抗性について選抜をするほうが良いことがわかった.
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