育種学雑誌
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47 巻, 1 号
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  • 山本 俊哉, 西川 晶, 中島 有紀, 大江田 憲治, 広原 日出男
    1997 年 47 巻 1 号 p. 1-6
    発行日: 1997/03/01
    公開日: 2010/07/21
    ジャーナル フリー
    葯培養による体細胞突然変異で育成したイネ無毛品種「すみたから」の無毛性について,遺伝学的および形態学的に解析した。走査型電子顕微鏡によって,原品種の「黄金晴」を含む有毛イネ12品種の葉毛と穎毛の形態を観察した結果,すべての品種で葉の表面に1種類の毛茸と3種類の剛毛が,また籾には穎毛が観察された。一方,すみたからでは黄金晴と同様の形態・密度の毛茸は持つものの3種類の剛毛と穎毛が無く,交雑育種によって育成された無毛品種と同様の形態であった。すみたからの無毛性は,剛毛と穎毛の形成阻害によるものであることが明かとなり,またイネでは毛茸と剛毛(穎毛)で形態形成の制御が異なることが示唆された。すみたから×黄金晴,すみたから×アケノホシ(無毛)のF1およびF2集団の葉毛を調査したところ,前者のF1では有毛親と比べて少ないものの葉毛が観察され,F2では有毛個体と無毛個体に分離し,χ2検定の結果,単因子による分離比3:1に適合した。すみたからの無毛性は単一の劣性遺伝子によることが示された。一方,後者のF1,F2はすべて無毛性を示したことから,すみたからの無毛遺伝子はアケノホシと同一座にあり,従来から育種に利用されてきた無毛性と同じであることが確認された。無毛体細胞突然変異の誘発メカニズムを解析する目的で,すみたからのプロトプラスト培養を行った結果,頻度は低いものの無毛から有毛への復帰体細胞突然変異体が得られた。これらの結果をもとに,無毛変異および毛の形態形成について考察した。
  • 内田 煌二, 戸丸 信弘, 戸丸 智恵美, 山本 千秋, 大庭 喜八郎
    1997 年 47 巻 1 号 p. 7-14
    発行日: 1997/03/01
    公開日: 2010/07/21
    ジャーナル フリー
    ヒノキ[Chamaecyparis obtusa(SIEB. et ZUCC.)ENDL.]天然林11集団(Fig.1)のアロザイム変異を10遺伝子座を用いて明らかにした。またそれを,精英樹選抜育種事業で人工林から選出されたヒノキ精英樹12群のアロザイム変異と比較した。天然集団では,他の多くの裸子植物と同様に遺伝的変異のほとんどが集団内にあり,集団間分化は低かった(Table 1)。しかし,集団の地理的位置に従ってG6p,Pod,Got-1およびPgmの4遺伝子座の対立遺伝子頻度に遺伝的勾配がみられた(Fig.2)。集団間の遺伝的距離(Table 2)をもとに2つの方法でクラスター分析を行った結果,天然集団はほぼその地理的位置に従って分けられた(Fig.3)。天然集団と精英樹群とのアロザイム変異の比較では,一般に,天然集団のアロザイム変異は精英樹群にも保持されていることがわかった(Tab1e 1)。しかしながら,まれな対立遺伝子の有無(Table 3),平均対立遺伝子頻度(Table 3),集団間または精英樹群間の対立遺伝子の頻度分布(Fig.2)において天然集団と精英樹群との間に遺伝的差異が観察された(Fig.4)。
  • 石川 貴之, 高山 智子, 石坂 宏, 石川 恵子, 三位 正洋
    1997 年 47 巻 1 号 p. 15-20
    発行日: 1997/03/01
    公開日: 2010/07/21
    ジャーナル フリー
    透明感のあるシンプルな花色が好まれて根強い人気を持つAlstroemeria ligtu hybridと,早生性,大輸性の性質を持つA. pelegrina L. var. rosea間の種間雑種を育成するため,胚珠培養の利用について検討を行った。A.ligtu hybridとA. pelegrina var. roseaの花を供試した。開やく前に除雄を行い,他の花粉が受粉しないように袋をかけ柱頭が裂開した直後に正逆交配を行った。その結果,共に交配後胚珠の肥大は認められるものの種子は得られなかった(Table 1)。交配後の胚の発達を調べる目的で,交配後の子房を定期的に採取しFAA液で固定した後に,パラフィン切片を作製して胚の発達状況を観察ところ,A.ligtu hybridにA. pelegrina var. roseaを交配した場合,交配後28日から退化した胚が観察され始め,交配後35日には全ての胚が崩壊していた(Fig.1, Table 2)。また,A. pelegrina var. roseaにA.ligtu hybridを交配した場合,交配後35日から退化した胚が認められ,交配後42日には観察した全ての胚が崩壊していた。これらの胚を救済する目的で,A.ligtu hybridを種子親とした交配後7,14,21日の胚珠と,A. pelegrina var. roseaを種子親とした交配後21,28日の胚珠を70%エチルアルコールに60秒,2%次亜塩素酸ナトリウムに20分浸漬後,子房壁を取り除き胚珠に胎座をつけたままMS培地(Sucrose3%,ゲルライト2g/l,pH5.7)に植え付け,20℃16時間照明下(40μmolm<-2>s-1)で培養を行った結果,両組み合わせにおいて幼植物体が形成された(Table 3)。A.ligtu hybridを種子親として得られた成熟個体の形態的な特徴を比較したところ,両親の形質が表現されていた(Table 4)。さらに,根端細胞の染色体の観察,DNA分析により,種間雑種であることが確認された(Fig.2, 3)。
  • 佐藤 雅志, 熊谷 忠
    1997 年 47 巻 1 号 p. 21-26
    発行日: 1997/03/01
    公開日: 2010/07/21
    ジャーナル フリー
    我々はこれまで,日本水稲品種ササニシキと農林1号は近縁品種にも拘わらず,前者は紫外線(UV-B)照射に強い抵抗性を示し,後者は弱い抵抗性を示することを明らかにした(1992)。弱い抵抗性が優性形質で多数の遺伝子が関与していることが示唆された(1994)。この報告では,ササニシキと農林1号とに見られるUV-B抵抗性の差異と紫外部吸収物質の葉身への集積との関係ついて調べた.人工光型ファイトトロン内でササニシキと農林1号,それらのF2個体,およびF3系統をUV-B照射区と対照区(UV-B照射を行わない区)で栽培した。単位面積当たりの紫外部吸収物質の集積量はUV-B照射に関係なく農林1号に比較してササニシキで多かった(Tab1e 1,Fig. 1)。さらにその集積量は両品種共にUV-B照射により増加した。抽出された紫外部吸収物質について薄層クロマトおよび吸収スペクトルにより分析した結果,葉身に集積した紫外部吸収物質の品種間差異は質的ではなく量的な差異であることが分かった(Fig. 2, 3).UV-B照射下で生育したF2個体では,葉身への紫外部吸収物質の集積量と地上部新鮮重との間に統計的に有意な相関が認められた(Fig. 4)。一方,UV-B照射を行わない対照区ではそれらに相関関係が認められなかった。さらに,強い抵抗性を示したF3系統は弱い抵抗性を示したF3系統に比較して紫外部吸収物質の集積量がUV-B照射区および対照区ともに多かった(Fig. 5)。したがって,ササニシキと農林1号との間に見られるUV-B照射に対する抵抗性の差異の要因の一つとして,葉身への紫外部吸収物質の集積量が示唆された。また,UV-B抵抗性品種を育成する場合,葉身への紫外部吸収物質の集積は検討すべき有用な形質であると考えられた。
  • 遠藤 昇, 小川 紹文 /, S.Gurdev Khush
    1997 年 47 巻 1 号 p. 27-32
    発行日: 1997/03/01
    公開日: 2010/07/21
    ジャーナル フリー
    小川ら(1991)は,イネ白菜枯病抵抗性群としてJava14群(Xa-3),TKM6群(Xa-4),DZ192群(Xa-5),Cas209群(Xa-10)の4主要群を定めた。これら品種群の分化は,アイソザイム分類(Glaszmam1987a)による生態型分化と密接に関連する。ミャンマーは,Cas209群とTKM6群が高頻度で分布し,アジアにおける両群の分布が交差する地域のひとつである。本研究では,ミャンマーのイネ白菜枯病抵抗性品種群の特徴を詳細に検討する目的で,アイソザイム分析を行った。その結果,Cas209群,TKM6群,Xa-4とXa-10を合わせもつMond Ba群は全てIsotypeI型であることが確認された。Java14群はIsotypeV型に分類され,Cas209群,TKM6群とは明らかに異なった。DZ192群はIsotypeI型と中間型に分類され,アジア全体に多いIsotypeII型は認められなかった。中間型の遺伝子頻度がIsoty-peII型の特徴を持ち,DZ192群の品種は全て非感光性である点がCas209群とTKM6群のIsotypeIと異なることから,DZ192群のIsotypeIはCas209群やTKM6群のIsotypeIと起源が異なると考えられた。IsotypeIを構成する遺伝子頻度および組み合わせ(アルゴリズム)を分析した結果,ミャンマーにおける分布頻度が高いCas209,TKM6両群は最も使用頻度の高いアルゴリズムが異なり,TKM6群はアジア全体のIsotypeI型と共通する特徴を持ち,Cas209群はAmp-14の頻度がTKM6群とは明らかに異なることが示された。出穂期,粒型,病斑長などがアルゴリズムと関連して有意な差を示す傾向にあることから,アルゴリズムの違いは品種の遺伝的背景の差と関連が深いと考えられた。アジア全体でのCas209群の分布は,Amp-14の分布域に一致し,TKM6群はアジア全体のIsotypeIの分布域と一致する。これらの結果から,ミャンマーのCas209群とTKM6群は異なる起源をもつ可能性が高い。
  • 高品 善, 今西 茂, 江頭 宏昌
    1997 年 47 巻 1 号 p. 33-37
    発行日: 1997/03/01
    公開日: 2010/07/21
    ジャーナル フリー
    トマトの野生種 'peruvianum-complex'に属する Lycopersicon peruvianum の5系統, L. peruvianum var. humifusum の2系統,L. chilenseの2系統を花粉親とし,栽培種2品種を種子親とするF1雑種およびF1を花粉親とするB1F1戻し交雑種を胚珠選抜法によって育成した。F1およびB1F1の獲得効率は果実あたり発芽数(GOF)により評価した。F1および1994年と1995年のB1F1についてGOFの栽培品種間の相関係数を求め,さらに,それらを組み合わせた相関係数を求めたところ,正の有意な値となった(r=0,750**,d.f.=11)。年次問においても組み合わせた相関係数は有意な正の高い値となった(r=0,907^*,d.f.=3)。F1とB1F1間の相関係数は,2栽培品種とも正であるが有意ではなく,組み合わせた相関係数も有意にはならなかった(r=0,433,d.f.=3)。しかし,供試した系統の中で1系統がF1とB1F1間で全く異なるGOFを示したので,この系統を除くと,F1とB1F1の間に正の有意な相関係数が得られた(強力大型東光:r=O.754*, d.f.=5;Early Pink:r=O.924*,d.f.=3)。相関係数に関するこれらの結果は,栽培種に対する野生種の交雑不親和性に関して野生種系統間で差があり,さらにB1F1の獲得において野生種の各系統の交雑不親和性がF1の場合と同じように現れることを示している。供試した系統の交雑不親和性を3グループに分けるとおおよそ次のようになった。最も高いグループに L. peruvianum var. humifusumの2系統が入っており,中間のグループの全てはL. peruvianumであった。最も交雑不親和性の低いグループはL. chilenseの2系統であった。一方,F1とB1F1の回帰直線は,Y(B1Fl)=O.1082X (F1)+ 0.3364:強力大型東光, Y=O.1054X + O.0366:Early Pinkとなった。この結果から,予想に反してB1F1の獲得効率がF1よりも小さいことが推察された。
  • 赤澤 経也, 柳澤 康博, 笹原 健夫
    1997 年 47 巻 1 号 p. 39-44
    発行日: 1997/03/01
    公開日: 2010/07/21
    ジャーナル フリー
    大豆(Glycine max (L.) Merr.)には,未熟種子を野菜として利用する枝豆と完熟種子を納豆,味噌,醤油等として利用する普通大豆(又は種子用大豆)の2つの型が存在する。本研究では,枝豆(1O品種)と普通大豆(13品種)の未熟及び完熟種子の水溶性窒素(セミ・ミクロ・ケールダール法で分析)と遊離アミノ酸含量(高速液体クロマトグラフィーで分析)について検討した。未熟種子は,枝豆として収穫される開花後30~40日の種子で,生の種子を咀嚼して,市販の場合の硬さを指標として採取した。1991年に測定した水溶性窒素含量と1992年に測定した遊離アミノ酸含量は,完熟種子に比較して,特に未熟種子段階で高い正の相関を示した。遊離アミノ酸のうち,アスパラギン,アラニン,グルタミン酸,アルギニン,セリン,ヒスチジン及びバリンの7種類のアミノ酸は,普通大豆よりも枝豆で高い含量を示した。これら7種類の遊離アミノ酸含量を用いて判別分析を行った結果,枝豆と普通大豆の2つの型が判然と識別された。一方,遊離アミノ酸の分析には多大の労力と費用を要することから,ケールダール法による水溶性の窒素の測定は多数の品種・系統を取り扱う上で簡便である。上述のような未熟種子でのケールダール法による水溶性窒素と遊離アミノ酸含量の高い相関関係を利用すれば,多数の大豆品種の探索と枝豆品種改良における系統選抜の簡易な指標となり得ることが示唆された。
  • 河瀬 眞琴, 落合 雪野, 福永 健二
    1997 年 47 巻 1 号 p. 45-49
    発行日: 1997/03/01
    公開日: 2010/07/21
    ジャーナル フリー
    パキスタンで収集したアワ(Setaria italica (L.)P.Beauv.)から16系統を選び,それらに雑種不稔性に基づくアワ地方晶種群の分類に用いた3系統のテスター(A,B,C)を交配した。雑種第一代(Fl)の花粉稔性には14.2%から94.7%に至る幅広い変異が見られた。それに対してパキスタン在来品種およびテスター系統の自殖個体はすべて正常な花粉稔性を示した。パキスタンの在来品種はF1の花粉稔性に基づいて,既知の6型の地方品種群のうちC型(8系統),BC型(2系統)およびX型(6系統)と分類された。A型,B型あるいはAC型は見られなかった。C型はパンジャブ州,北西辺境州南部およびバルディスタン地方に見いだされた。X型は北西辺境州北部,ギルギット地区北部およびバルディスタン地方に分布していた。X型と分類された系統の中には複数の品種群が含まれている可能性が示唆された。それは北西辺境川のX型とバルディスタン地方のX型との雑種が高い不稔性を示したことで裏付けられた。パキスタン北部地域の中では異なった形態的特徴をもつ3種類の品種群が分類され,それぞれが特異的な地理的分布をもつことがすでに報告されているが,雑種の花粉不稔性によって分類された地方品種群はそれらとは対応しなかった。本研究の結果から,さまざまな遺伝的背景をもつアワがこの地域に導入され,その後形態的に異なった品種群に再構成されていった可能性が示唆された。
  • 宮田 伸一, 平井 篤志
    1997 年 47 巻 1 号 p. 51-55
    発行日: 1997/03/01
    公開日: 2010/07/21
    ジャーナル フリー
    イネ(Oryza sativa L.)のミトコンドリアでは,B1,B2,B3およびB4の4種の小環状プラスミド様DNAが同定されている。現在までこれらプラスミド様DNAの機能についてはほとんどわかっていない。そこでこれらの機能を探るため,ノーザンハイブリダイゼーションとRNaseプロテクション法を用いB1,B2,B3およびB4の転写について調査した。まず我々は,B1,B2,B3およびB4が,イネのカルスおよび黄化幼植物体において一方向にのみ転写されていることを明らかにした。RT-PCRとノーザンハイブリダイゼーションの結果より,他のミトコンドリアの遺伝子と同じようにB1,B2,B3およびB4でも転写がすぐに止まらず,長い一次転写産物がつくられたのちにプロセシングを受けて,それぞれのサイズの転写産物になることが示唆された。またB1,B2,B3の転写産物は複数のORFを含んでいたが,データベース検索の結果,B3のORFを除いて相同性を持つものは見つからなかった。そのため,これらの転写産物が機能的なタンパク質をコードしているかどうかを明らかにできなかった。本研究の結果は,プラスミド様DNAの核内相同配列がRNAを介してミトコンドリアから核へ移行したという仮説を補足できると考えられる。
  • 金田 泉, 加藤 正弘
    1997 年 47 巻 1 号 p. 57-65
    発行日: 1997/03/01
    公開日: 2010/07/21
    ジャーナル フリー
    Brassica属の野生種の一つであるBrassica oxyrrhina Coss.(2n=18)を種子親,ダイコン(Raphanus sativus L. 2n=18)を花粉親にした交雑後代より作出した複二倍体(2n=36)にダイコンを連続戻し交配した。その結果,B2世代においてB.oxyrrhina細胞質を持つ2n=18の個体を作出した。核置換が進行しても花粉稔性の回復はあまり見られず,B.oxyrrhina細胞質はダイコンの花粉の授精髭カを抑制させる効果があることが分かった。また,核置換の進行とともに種子稔性も上昇したが,その程度は良好ではなかった。B.oxyrrhina細胞質を持つダイコン9系統とそれぞれの反復親である9栽培種との間で正逆交雑を行い,得た両F1植物の種子稔性,花粉稔性,生育,形態などを調査した。その結果,B.oxyrrhina細胞質を持つダイコンにおけるクロロフィル欠乏はまったく見られなかった。根長,根径,根重,葉重について見ると,赤丸二十日,聖護院,四十日,宮重において,B.oxyrrhina細胞質がダイコンの生育に影響を及ぼしていたが,Raddike ostergruss,練馬においては影響は見られなかった。したがって,B.oxyrrhina細胞質と不調和を起こさない核遺伝子が存在する可能性があり,このような核遺伝子を導入することにより生育阻害の問題は解消できると考えられる。B.oxyrrhina細胞質を雄性不稔細胞質として利用することに関しては,50%以下の花粉稔性では種子ができないこと,また,充分な花粉稔性を持ったものでも授精髭カを持っていない個体もあり,実用的に利用できる可能性もあると考えられる。
  • 北村 智, 井上 雅好, 近江戸 伸子, 福井 希一
    1997 年 47 巻 1 号 p. 67-70
    発行日: 1997/03/01
    公開日: 2010/07/21
    ジャーナル フリー
    Nicotiana gossei Domin (2n = 36)あるいは N. rustica L. (2n = 48) とN. tabacum L. (2n = 48)との間では高い交雑不親和性があり,通常の交雑で種間雑種を得ることが非常に困難である。胚珠培養によりN. gossei× N. tabacum で種間雑種を,交雑によりN. rustica×N. tabacumaの雑種を得た。これら種問雑種での親由来の染色体を識別するために,ゲノミックin situハイブリダイゼーション(GISH)を行った。プローブとして,ビオチン標識した N. rustica あるいは N. gossei の全ゲノムDNAを用い,非標識のN. tabacum の全ゲノムDNAによるブロッキング処理は行わなかった。N. rustrca×N. tabacum の雑種では,対比染色剤DAPIにより染色された48本の染色体(Fig. 1A)のうち,24本の染色体で,N. rustica の全ゲノムDNAとの強いハイブリダイゼーションシグナルを検出した(Fig.1B)。また,これら24本の染色体のうち,2本の染色体では,比較的弱いシグナルを示す部分がある(Fig.1C)ことから,N. rustica× N. tabacumとのゲノム間で,染色体の転座あるいは組み換えが起こっていることが示唆された。N. gossei× N. tabacumの雑種では,DAPIにより染色された42本の染色体のうち,18本の染色体の全長にわたって,N. gosseiの全ゲノムDNAとの均一なハイブリダイゼーションシグナルが認められた(Fig.2C)。また,フラグメント様染色体も観察された(Fig.3)。以上のように,遠縁交雑での種間雑種では,ブロッキングDNAを用いないGISHにより親由来染色体を明確に識別できることが明らかになった。
  • 多田 雄一, 原田 二郎, 松村 雄, 山田 実, 松田 幹, 安達 貴弘, 中村 良, 高橋 正昌, 藤村 達人, 島田 浩章
    1997 年 47 巻 1 号 p. 77-81
    発行日: 1997/03/01
    公開日: 2010/07/21
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