米国から導入した一年生多胚の細胞質雄性不稔系統と二年生草胚系統の交雑組合せ後代から,一年生多胚稔性回復系統(P-MM)と一年生草胚稔性回復系統(P-mm)をそれぞれ育成した。両系統を花粉親に用いて,一年生多胚の細胞質雄性不稔系統(TA-2-MS)と一年生単胚の細胞質雄性不稔系統(TA-1-MS)との間で,TA-2-MS×P-mmとTA-1-MSXP-MMたる交雑を行ない,F
1とF
2世代を準備した。胚数性と雄性不稔の2形質に関するF
2世代の分離調査は,花粉親系統とF
1世代も加えて,山形大学農学部(鶴岡市)の実験ほ場において1972,1973および1974年の3か年にわたって行なった。本研究においても単胚性の遺伝は,F
2世代のF
2-MMの分離において単胚個体の出現が期待値よりもやや少ない傾向が認められたものの,劣性単因子遺伝であることが確認された。雄性不稔の表現型分類は5段階法(完全稔性型,半稔性型,半不稔II型,半不稔I型,完全不稔型)でまず行ない,仮説と連鎖のX
2検定は稔性型(半稔性型,完全稔性型),半不稔型(半不稔I型,半不稔II型),完全不稔型の3段階法に分類し直してのち行なった。花粉親系統とF
1世代で,完全不稔型は全く生じなかったが,半不稔型はかなり出現した。半不稔型の出現には主働遺伝子に作用する変更遺伝子や環境の影響が考えられた。本研究に用いた稔性回復系統における雄性不稔発現の遺伝様式は,0WEN(1950)の仮定したごとく,稔性型はX遺伝子とZ遺伝子の補足作用によって発現し,完全不稔型と半不稔型の発現は2種の主働遺伝子のうちのX遺伝子座によって主として支配され,完全不稔型はX遺伝子座の劣性ホモの状態で発現すると考えられた。さらに,なお雄性不稔の程度は変更遺伝子によっても影響されると推定された。胚数性と雄性不稔の2形質に関与する遺伝子間の連鎖関係については,まず,X遺伝子と胚数遺伝子の連鎖関係は認められなかった。Z遺伝子と胚数遺伝子の連鎖関係については,それらの遺伝子間で交互作用に有意性が認められる場合も存在したが,これは相反の連鎖フェースであるにもかかわらず,あたかも相引のごとき現象を生じたことに帰因していたので,Z遺伝子と胚数遺伝子の連鎖も本研究の材料については存在しないものと推定された。
抄録全体を表示