新城(1969)の発見した雄性不稔細胞質およびそれに対する稔性回復遺伝子の地理的分布を明らかにするため、本実験を行なった。本研究に用いたイネ品種は16国から蒐集した153品種である。細胞質検定親に遺伝子型(ms
+)rf rfの6系統を、核内遺伝子型検定親には遺伝子型(ms)rf rfの6系統を用いた。前者の検定親は父本に、後者の検定親は母本に用いた。これら2種の検定親と153品種の交雑を行なった。主としてF
1の花粉および種子稔性から、それぞれの品種の細胞質型と核内遺伝子型を推定した。これらの推定が困難であった品種についてはB
1F
1か自家受粉による後代系統の稔性から推定した。細胞質の検定を行なった146品種のうち、4品種のみがChinsurah Boro IIと同じ雄性不稔細胞質(ms)をもち、他の142品種は正常細胞質(ms
+)をもっていた。雄性不稔細胞質をもつ4品種は、VavilovがIndian Centerと名づけたインドおよび東パキスタンから蒐集したboro型のものであった。核内遺伝子検定を行なった153品種のうち、54品種は効果的な稔性回復遺伝子を、28品種は弱回復遺伝子を、残りの71品種は非回復遺伝子をもっていた。効果的な稔性回復遺伝子はインド型が主に栽培される熱帯地方に、一方非回復遺伝子は日本型が栽培される温帯地方に分布していることがわかった。弱回復遺伝子はいずれの地域にも見られた。
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