オランダハッカは,従来,欧州から導入された帰化植物と考えられていたが,欧州のフロラを記載した文献に本変種は記載されてない。筆者等は,最近,中尾佐助氏が,ブータン国で採集した野生ハッカの栄養系をゆずりうけたが,このハッカは,2n=48で,まぎれもなく,わが国のオランダハッカであつた。このようなことから,オランダハッカの原産地の決定には,なお,慎重を要するのではないかという示唆をうけた。わが国のオランダハッカには,2n=54の系統と2n=48の系統とがある。形態的に変りなく,染色体数以外の点では,区別することが困難である。両者とも,自然状態では,もつぱら,栄養繁殖を行い,種子繁殖しない。しかし,両系とも,細胞学的に安定していて有性繁殖によつて,染色体数の変らない子孫を残すそこで,ハッカ属中,もつとも,染色体数が少なく,単一ゲノムからなる種と考えられる M.rotundifolia(ゲノム式RR)を分析種として,両系オランダハッカのゲノム分析を行つた。雑種F
1のPMCのMIにおける染色体接合型にもとずいて,2n=54のオランダハッカにはRRS
cS
c+a
1a
1a
2a
2a
3a
3なるゲノム式を,また,2n=48のオランダハッカには,RRS
cS
cなるゲノム式を与えた。ここに,RとSとは,それぞれ12の染色体から成り,前者はM. rotundifoliaと共通のまた,後者は,オランダハッカに特有のゲノムである。a
1,a
2,a
3は,過剰の染色体であつて,たがいに,同質接合できる,部分相同染色体である。トウモロコシやライムギに見られるB-染色体に類似する準不活性の過剰染色体と推定される。
抄録全体を表示