土木学会論文集D3(土木計画学)
Online ISSN : 2185-6540
ISSN-L : 2185-6540
71 巻, 5 号
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土木計画学研究・論文集 第32巻(特集)
  • 福山 祥代, 羽藤 英二
    2015 年 71 巻 5 号 p. I_1-I_19
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/21
    ジャーナル オープンアクセス
    ネットワーク上を移動する個人単位の軌跡の観測技術が進展し,観測の進化を受け止めるモデルの開発も進んでいる.本稿では,これに伴い詳細なデータの取得が可能となった都市空間での1kmスケールの歩行者行動を基に,人の移動の観点から空間計画を評価することを考え,このための数理的な分析手法に関する技術的状況を整理する.歴史的な文脈と現在の行動の両面から都市の空間構造や特性を把握するための枠組みの構築に向けて,グラフ理論を用いたネットワーク特性の分析手法と,観測データを用いた歩行者行動の分析・予測のためのモデリングの手法を取り上げ,近年の動向を概観し,今後の方向性について議論する.
  • 日下部 貴彦
    2015 年 71 巻 5 号 p. I_21-I_31
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/21
    ジャーナル オープンアクセス
    目覚ましい情報通信技術の発展によって交通分野におけるデータに対する関わり方が変りつつある.近年では,継続的・長期的に収集された大量の交通に関わるデータの蓄積が実際にみられるようになってきている.一方,これまでの交通分野では,空間的に広い範囲のデータを時間的に高密度でかつ長期的に収集することは困難であったことから,変動に対する理論的なフレームは必ずしも十分でなかったと推察される.本稿は,これまでの交通分野での研究について,データ取得と蓄積という視点から整理し,新たな枠組みであるデータオリエンテッドな交通研究に焦点をあて,蓄積データを背景とした交通変動の分析に関する展望についてまとめるものである.
  • 白柳 博章, 北村 幸定
    2015 年 71 巻 5 号 p. I_33-I_40
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/21
    ジャーナル オープンアクセス
    わが国においては,少子高齢化・人口減少や経済活動の減退により,家庭排水や工場排水量の減少が進み,下水道事業における汚水関連施設の処理能力に余剰が生じつつある.その一方で集中豪雨による内水氾濫の頻発といった自然災害に関するリスクが増加しているが,下水道事業における雨水排水対策は一向に進んでおらず処理能力が不足している.
    本研究では下水道システムにおける地下空間の有効活用を目指すべく,雨水を汚水関連施設へ流入させる方策についての提案を行うとともに,ハイブリッドな下水道システムの構築と運用,防災面・環境面の効果について概説するとともに,内水氾濫軽減効果について定量的評価を行った.そして,河川改修や雨水貯留事業といった従来の施策と比較した結果,有効かつ即効性の高い施策であることを明らかにした.
  • 小野 憲司, 滝野 義和, 篠原 正治, 赤倉 康寛
    2015 年 71 巻 5 号 p. I_41-I_52
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/21
    ジャーナル オープンアクセス
    東日本大震災以降,港湾物流の分野でも港湾機能の継続のための計画(港湾BCP)策定の取り組みが進んでいるが,それらの現下の港湾BCPは,災害時の緊急対応計画と被災した港湾施設の復旧計画を主な内容とする.しかしながら,地域の生産活動や消費を支える一方で厳しい港間競争にさらされる現代の港湾においては,単なる一刻も早い施設の復旧と輸送機能の回復にとどまらず,港湾利用者のニーズに的確に応えうる効果的で効率的な物流機能継続マネジメントの視点が重要なものとなる.
    このようなことから本稿においては,企業が作成するBCPにおいて重視される顧客確保の観点に立ったBCP策定手法として,施設の被害リスク評価の手法と並び重視されるビジネス・インパクト分析の手法を港湾BCPに導入するための手順と方法論について論じる.
  • 長尾 一輝, 大畑 長, 柿元 祐史, 花房 比佐友, 二上 洋介, 江藤 和昭, 桑原 雅夫
    2015 年 71 巻 5 号 p. I_53-I_68
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/21
    ジャーナル オープンアクセス
    東日本大震災では,避難者の多くが自動車を利用したことにより,各地で激しい交通渋滞が発生し,避難途中で津波に巻き込まれる等,多くの犠牲者を出した.こうした大規模地震時の交通渋滞は,津波避難の遅れだけでなく,交通事故の誘発や緊急車両の通行障害など,様々な影響をもたらすことから,自動車避難者が迅速かつ確実に避難できる方策の検討が急務となっている.
    本研究では,災害時の自動車避難行動モデルを組み込んだ避難行動シミュレーションを構築し,発災時の交通状況を再現した.さらに,当シミュレーションを用いて,交通集中による渋滞を抑制するための避難施策をハード・ソフト両面から検討し,その有効性を定量的に評価した.
  • 長曽我部 まどか, 武吉 弘樹, 榊原 弘之
    2015 年 71 巻 5 号 p. I_69-I_80
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/21
    ジャーナル オープンアクセス
    市民や地域住民自らがコミュニティに存在する問題を解決するためには,コミュニティの問題認識を明確化する必要がある.本研究では,コミュニティの中で市民や住民自らが主体的に問題解決を図る仕組みをコミュニティ・ガバナンス,コミュニティ全体の認識を「社会的文脈」と呼ぶ.社会的文脈は,時系列的に遷移するものと考えられる.そこで,近年の自転車交通問題を例として,コミュニティ・ガバナンスにおける社会的文脈の遷移過程を明らかにした.新聞記事テキストの内容分析を行い,ある特定の語と共起する語群より社会的文脈を特定した.さらに共起語の時系列的な変化より,社会的文脈の遷移過程を明らかにした.近年の自転車交通問題では,自転車の放置問題から,道路空間上での自転車走行のあり方へと社会的文脈が遷移したことを示した.
  • 吉城 秀治, 辰巳 浩, 堤 香代子, 西坂 従道
    2015 年 71 巻 5 号 p. I_81-I_90
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/21
    ジャーナル オープンアクセス
    幼少期の経験や体験は,その後の生き方に影響を及ぼしてくることが様々な分野において示されている.幼少期における都心での経験や体験を捉え,現在の都心への指向性との関係を明らかにしていくことで,将来にわたって都心に人々を惹きつけ続けるための知見が得られるものと考えられる.
    本研究は,福岡市民を対象にアンケート調査を実施し,都心での幼少期の関わりの実態や思い出について分析した.その結果,幼少期における都心の思い出には,百貨店での食事や屋上遊園地での遊びなどの思い出があげられていた.また,これらの思い出の中でも,特に都心での遊び体験を軸とした多様な体験,経験が現在においても都心を指向させる要因になり得ることが示されている.
  • 井村 美里, 秀島 栄三, 中川 慎也
    2015 年 71 巻 5 号 p. I_91-I_99
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/21
    ジャーナル オープンアクセス
    地域の主題に地域で自発的に対応しようとする取り組みが増えている.取り組みのために組織を立ち上げる際には関係者は直面する幾多の障壁に戸惑いながら立ち上げに臨むこととなる.本研究では,このような地域活動組織を立ち上げるプロセスにおける関係者の立場や関心事,行動などの変遷を明らかにすべく,まず,まちづくりに見る様々な変遷を記述する方法の既往例を類型化し,それぞれの特徴を明らかにした.次いで地域活動組織の始動過程の一事例として「レトロ納屋橋100年実行委員会」が立ち上がるプロセスを取り上げ,その記述方法として「関与変遷図」を考案し,関係者の組織への関わりを可能な限り客観的に捉えた.本方法により関係者の意識の変化,参加の程度,関係者相互の関係性などを明確に示すことができた.
  • 福井 のり子, 森山 昌幸, 黒田 耕一, 西村 成人, 藤原 敏弘, 佐々木 洋, 竹原 正友, 藤原 章正
    2015 年 71 巻 5 号 p. I_101-I_109
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/21
    ジャーナル オープンアクセス
    本研究では,道路整備事業の事業段階におけるコミュニケーションツールとして,出雲大社門前の神門通りに継続的に設置したオープンハウスが果たした役割や効果について検証を行った.この結果,スタッフが中立的な「第三者」として住民や店舗と行政との架け橋となり,疑問・苦情等への対応や,コミュニケーションを経て策定された計画のフォローアップなど,関係主体間での円滑なコミュニケーションを実現できたことが確認された.また,工事期間中であることを活かしたイベントの実施などが,事業PRとしての大きな役目を果たしたことがわかった.
  • 松井 京子, 島村 誠
    2015 年 71 巻 5 号 p. I_111-I_119
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/21
    ジャーナル オープンアクセス
    近年頻発する竜巻災害に対しレーダー観測等を用いた警報システムの開発が切望されているが,精度の経済評価および効率的運用の指針は欠如している.低頻度・局所事象警報の空振り削減は難しいが,誤警報は警報の信頼性を減じ事業者損失を発生させる.そこで,直前警報によって被害の軽減が可能な個人・事業者を対象に,竜巻警報の経済価値定式化を行った.これは,警報の精度特性と対象者の損益構造によって経済価値を最大にする捕捉率・誤警報率を導き出すものである.本研究の結果は,「警報には最適な誤警報率・捕捉率の組み合わせが存在し,これは受け取り手の損益構造によって異なる」「誤警報による損失が大きい場合には,『閾値を高く設定してカタストロフィックな災害は回避するが,弱い竜巻を見逃す』戦略が有効である」の2点を示唆する.
  • 杉本 賢二, 橘 竜瞳, 森田 紘圭, 加藤 博和, 林 良嗣
    2015 年 71 巻 5 号 p. I_121-I_128
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/21
    ジャーナル オープンアクセス
    大規模自然災害においては直接的な人的被害だけでなく,ライフラインや医療機関へのダメージにより,発災後から長期的に様々な被害が発生・拡大することが予想されている.本研究では,被災者の生命・健康へのダメージを時系列で予測し,余命指標を用いて定量的に評価する手法を構築する.構築した手法を南海トラフ巨大地震に適用した結果,発災から1ヶ月後に至るまで,多くの地域において医療対応が不足し,重軽傷者の回復に遅れが出る上に,健康であっても避難所生活が長期に渡れば,新たな健康被害も発生することが確認された.また,これらの現象を障害調整生存年(DALY)で統合的に評価した結果,発災1ヶ月後においても人々へのダメージは緩和せず,事前のライフライン強化や発災後の医療・避難環境のケアが重要であることが示唆された.
  • 大平 悠季, 津田 宙, 織田澤 利守
    2015 年 71 巻 5 号 p. I_129-I_141
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/21
    ジャーナル オープンアクセス
    都市は,人々がコミュニケーションを行う場として,より一層その重要性を増している.本研究では,都市内におけるフェイス・ツゥ・フェイスのコミュニケーション(face-to-face communication) が都市の空間構造に及ぼす影響について分析を行う.その際に,コミュニケーションを行う主体間に働く相互作用を明示的に扱う点が本分析の特徴である.モデル分析の結果,均衡において起こり得る都市の空間構造が明らかとなった.また,交通費用の低下が都市構造の分散化を促すことにより,却って厚生の悪化をもたらす可能性があることが示された.
  • 田中 皓介, 藤井 聡
    2015 年 71 巻 5 号 p. I_143-I_149
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/21
    ジャーナル オープンアクセス
    先の東日本大震災からの復興や,高い確率でその到来が予測されている首都直下型地震及び東海・東南海地震等に対する防災・減災の観点からしても,公共事業の重要性は近年一層高まっていると考えられる.そうした公共事業の実施に当たっては,国民世論並びに世論形成に影響を及ぼし得るメディアの報道が重要であるといえる.ところがそうしたメディアの主要な一つである新聞の,近年の報道が公共事業に対し批判的な傾向であることが示唆されている.ついては本研究では,既往研究からさらに範囲を広げ,戦後から現代までの日本における大手新聞社の公共事業に対する報道傾向を分析した.その結果,その論調は戦後徐々に批判的なものへと変遷していき,特に2000年代の論調は他の年代のそれに比べても極端に否定的な論調であったことが示唆された.
  • 大澤 遼一, 本田 利器
    2015 年 71 巻 5 号 p. I_151-I_161
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/21
    ジャーナル オープンアクセス
    インフラ維持管理の計画策定は,期待LCC最小化の長期的な効率性の観点からの最適化問題として扱われることが多い.一方,インフラの高齢化に伴い,劣化損傷に伴う事故などの重大事象を避けることも重要性となっている.
    本稿では,インフラ維持管理の計画策定時に用いる,重大事象の発生というリスクを評価する指標について検討した.この際,管理者の行動を考慮したモデル化を行い,維持管理戦略の変更に伴うリスクの変化を分析し,管理者が実施する点検の精度に応じてリスクのTailの厚い分布に近づくことを示した.このリスクの変化に対し,Tail部の形状を情報エントロピーを用いて精緻に評価するEVaRを用いることで,ロバストに評価でき,その結果重大事象の発生可能性を低減する計画の有用性を合理的に評価できることを示した.
  • 喜多 秀行, 池宮 六季, 菅 洋子, 四辻 裕文
    2015 年 71 巻 5 号 p. I_163-I_169
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/21
    ジャーナル オープンアクセス
    公共交通サービスの計画方法論を構築するための理論基盤として,潜在能力アプローチの援用が少なからず見受られる.しかし,伝統的な効用理論に基づくアプローチでは何が不十分なのか,潜在能力理論に基づくアプローチがなぜ有用なのかについては,これまで明解な説明がなされてこなかった.
    そこで,本研究では,提供されるサービスを十分利用できない状況に置かれている人の存在,すなわち,潜在能力理論でいう“資源”を“機能”に変換する“資源利用能力”が最適解選択に支配的な影響を及ぼしている構造を明示的に組み込んだ計画モデルを構築し,資源利用能力が異なる場合,効用アプローチに基づく最適解が潜在能力アプローチに基づく最適解とが異なること,および,効用アプローチではその差異自体を考慮しえないことを指摘する.
  • 熊谷 兼太郎, 富田 孝史
    2015 年 71 巻 5 号 p. I_171-I_180
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/21
    ジャーナル オープンアクセス
    発生頻度は小さいが規模は大きい津波に対し,わが国では避難を中心とした対策を講じることになっている.避難の計画に有用なのが避難シミュレーションであるが,その際に,津波避難開始時間の適切なモデル化が必要である.そこで本研究は,地震時の津波避難行動を再現するような津波避難開始時間の数理モデルについて検討した.その結果,避難開始理由によって避難者を3群に分類し,各群の避難開始時間の数理モデルを与え重ね合わせることにより,2011年東北地方太平洋沖地震時の避難開始時間の累積分布曲線を提案した.また,岩手県釜石市及び宮城県仙台市を対象に各群の構成比を変化させて適用し,構成比以外のパラメータ設定手法についてはより詳細な検討が必要であるものの,両市の同地震時の避難開始時間の累積分布曲線をある程度再現できた.
  • 地主 遼史, 井料 隆雅
    2015 年 71 巻 5 号 p. I_181-I_189
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/21
    ジャーナル オープンアクセス
    消費者が全ての店舗の情報を保持しているとは限らず,そのような情報の偏りは店舗選択等に大きく影響するだろう.本研究ではこの情報の偏在の解決を地域商店街等復興の糸口ととらえ,その一因の候補として広告に注目した.企業による広告発信を扱う既存のモデルのうち,消費者が広告を受け取る量の限界を考慮したモデルを活用する.離散的な地域と広告媒体の対象範囲の違いという2つの空間的な要素を組み込み,数値計算による分析を行った.料金上昇を対象範囲の狭い媒体のみに行うと,対象範囲内で(比較的)収益を上げる企業の認知度が(地域を跨ぐ企業に比べ)低下し,かつ発信の効率低下を意味する混雑悪化を招く場合があることを示した.あわせて,媒体が複数ある場合,限定的な条件下で包括的な料金上昇がパレート改善を達成することを証明した.
  • 中道 久美子, 山形 与志樹, 花岡 伸也, 王 旭陽
    2015 年 71 巻 5 号 p. I_191-I_200
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/21
    ジャーナル オープンアクセス
    気候変動緩和策としてCO2排出量の削減は,国際的にも喫緊の課題である.これまで地域レベルでの排出量推定の試みがなされてきたが,全部門を総合して直接・間接排出量の両面から推計・整理し,その空間分布を比較した研究はない.本研究は,市区町村レベルで直接排出量を全部門で統合するとともに,家計消費に伴う間接排出量を推計し,両者を比較することを目的とする.具体的には,4部門の直接排出量を算定する研究成果を加工・統合するとともに,産業連関表を反映した2種の原単位に基づく間接排出量を推計し,面積カルトグラムを用いて比較した.排出量を排出場所に割り付ける直接排出と最終需要者側に割り付ける間接排出の両面から推計することで,排出責任の観点から比較し,大都市圏での消費生活が環境負荷に及ぼす影響を示すことができた.
  • 小池 淳司, 定金 乾一郎, 古市 英士, 片山 慎太朗
    2015 年 71 巻 5 号 p. I_201-I_208
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/21
    ジャーナル オープンアクセス
    我が国は,世界的にも有数の自然災害大国であり,防災・減災対策に向けた取組は極めて重要である.災害時においては,とりわけ道路ネットワークの多重化(リダンダンシー)が被害軽減に大きな役割を果たすが,突発事故による渋滞や高速道路等の工事といった通常時においてもその効果を発揮するものと考えられる.この通常時におけるリダンダンシーは,企業の生産活動へ大きな影響を与えると想定されるが,これらの影響・効果が定量的に分析された事例はない.そこで本稿では,固定効果モデルによるパネルデータ分析手法を用いて,リダンダンシー(第2最短経路)と企業立地の関係を統計的に分析した.その結果,有意な地域がいくつか得られ,リダンダンシーによる企業立地効果を捉えることができた.
  • Sayamon SAIYOT, Mihoko MATSUYUKI
    2015 年 71 巻 5 号 p. I_209-I_220
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/21
    ジャーナル オープンアクセス
    The main objective of this study is to investigate and provide further empirical evidence of the complex relationship between poverty and social and economic vulnerability in a case study of urban Thailand.
    From our pre-survey, these house characters are expected to affect flood decisively. The case study is carried out in Bangkok and Pathumthani province. In both case study areas, there are some communities joining “The Baan Mankong Collective Housing Program (BM Program)” which as one pillar to improve the house for low-income people. In the field survey, in-depth interview and face-to-face questionnaire survey at the household level were conducted.
    As the results, average “situation of the flood”, “damage level” in Pathumthani province found higher than in Bangkok that notifies damage on a house in Pathumthani province is more severe than in Bangkok. As expected, risk exposures have the positive correlation with flood damage. There are several indicators of “adaptation to risk", and especially house characters have the significant correlation with risk exposure and flood damage. Moreover, there is no significant relationship between poverty and adaptation to risk. By the way, poor communities have social capital; they can join the BM program and receive support to improve their house.
    This study reveals that the most vulnerable group is poor communities that locate in the more flood-prone area and look rather a drawback in social capital. Originally a low-income community is vulnerable and can not join the program that supports to enhance its adaptation to risk. To mitigate poor people's vulnerability to flood, enhancing their social capital is through indirect but essential way.
  • 浅田 拓海, 生富 直孝, 有村 幹治
    2015 年 71 巻 5 号 p. I_221-I_228
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/21
    ジャーナル オープンアクセス
    本研究では,札幌市の「都市計画基礎調査」データに空間解析を適用して得られる当該住宅や周辺住宅の立地特性値から,住宅の立地パターンを推定するモデルを開発した.まず,立地パターンとして,「出現と非出現」および「消失と非消失」における立地特性値の差について明らかにした.次に,差が見られた立地特性値を用いて非線形SVMによる「出現・非出現」および「消失・非消失」の判別を行ったところ,前者では77%,後者では83%の判別成功率が得られた.さらに,札幌市北区を対象に,本モデルを用いて,現状のまま住宅立地が進む場合の将来住宅分布の予測を行ったところ,都心近郊と郊外部では住宅の立地が集中する一方,その中間部では古い住宅が残る,すなわち居住地の2極化が生じる可能性が示された.
  • 金井 昭彦
    2015 年 71 巻 5 号 p. I_229-I_245
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/21
    ジャーナル オープンアクセス
    19世紀のドイツ駅舎は,大都市の頭端駅においては,フランスの駅舎の配置計画が,正面配置やU型配置を黎明期に採用したのとは対照的に,初期の頃から乗降を線路の側面に分離する両側面型を多用した.さらに,フランスとは違い初期の頃から,ホームへのアクセスが認められ,過渡期のL型配置がフランスより早い1860年代から現れ始め,1880年代には乗降動線を正面本屋付近に集中させる正面配置を多用するようになる.また,フランスの多くが頭端駅を採用したのとは対照的に,1880年代には中央駅にも通過駅を採用し,その多くは高架駅,時には,中央部に頭端駅を持つ,ハイブリッドタイプも計画した.本研究では,フランスと比較しながら,ドイツ駅舎平面配置の巧みな動線処理と多様性について分析し,その歴史的変遷を明らかにする.
  • 小滝 省市, 高山 純一, 中山 晶一朗, 埒 正浩
    2015 年 71 巻 5 号 p. I_247-I_259
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/21
    ジャーナル オープンアクセス
    本研究では,都市中心駅の駅前広場を対象として,都市計画現況調査のデータや,行政担当職員,広場ユーザーへのアンケート調査,事例調査の結果を元に,駅前広場の環境空間の実態を整理するとともに,同空間を歩行空間,交流空間,修景空間に分類し,計画課題を明らかにしたものである.広場に関するユーザーの評価値を元に分析した結果,高評価の広場空間とするためには,駅舎から乗降場までの移動距離を150m以内とすることや,環境空間比を標準値の0.5以上とすることが必要であるとした.また,広場の計測値とユーザー評価値の関係による重回帰分析を行った結果,交流空間や修景空間の充実や,歩行空間における休憩スペースの確保が,ユーザーの評価に影響することを明らかにした.
  • 谷本 圭志, 土屋 哲
    2015 年 71 巻 5 号 p. I_261-I_268
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/21
    ジャーナル オープンアクセス
    ガソリンの国内需要が減少傾向にある中で,市場から撤退する給油所が増えている.特に過疎地域では,住民が身近な場所で燃料を調達することが困難になりつつあり,現存する給油所の撤退を回避するための対策を自治体が立案し,実行する事例が出現している.これらの対策を検討するに際しては,自治体が一般的なデータを用いて給油所の持続可能性が概略的に診断できれば有用である.そこで本研究では,損益分岐点分析を用いて,給油所の持続可能性を評価するための手法を開発するとともに,その手法を実際の地域に適用してどれだけの有効性が確認できるのかを検証する.
  • 小野 泰, 岩倉 成志
    2015 年 71 巻 5 号 p. I_269-I_280
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/21
    ジャーナル オープンアクセス
    社会資本の計画・整備期間に世論が影響を与えることは一般的に言われているものの,ある特定の分野を詳細に検討した研究はない.本研究では都市鉄道及び高規格堤防事業を対象に,長期化と世論の因果関係についての仮説を新聞記事や議会議事録などの公開情報をもとに11種類作成し,事業に実際に関わり,その進捗に直接的・間接的に影響を与えていた14名の方々へのインタビュー調査を実施した.
    その結果,当該事業に対する「首長の否定的発言」や「国民の理解度が低い」ことを起因とし,否定的世論が急増すること,首長の「否定的世論の形成」により事業が一時凍結に至ることを明らかにした.
  • 笠間 聡, 松田 泰明
    2015 年 71 巻 5 号 p. I_281-I_292
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/21
    ジャーナル オープンアクセス
    近年,公共事業の効率性がより求められる中,整備効果の明示や,事業や施策の妥当性や必要性に関する明確な説明が重要になってきている.これに対応するため,景観に関する事業や施策についても,その効果に関する評価手法の確立が期待されている.
    本研究は,筆者らが先行研究において提案した景観の効果の発現プロセスに関する試案の検証,およびそれら効果の発現状況の評価手法について検討を行うためのものである.全国の優れた景観形成の取組み事例について,自治体担当者を対象としたアンケート調査から,景観の効果の発現状況について調査・分析を行い,試案の妥当性について確認した.また,それら分析結果から,景観の効果の評価に適した評価指標について考察を行った.
  • 桑野 将司, 福山 敬
    2015 年 71 巻 5 号 p. I_293-I_303
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/21
    ジャーナル オープンアクセス
    本研究では,世帯構成員や友人による活動代替性や送迎可能性を考慮した生活関連施設の利用可能性の評価手法の提案を行った.具体的には,アンケート調査によって捕捉した個人の支援者数や支援者属性をもとに,複雑ネットワーク分析を応用して,地域のソーシャルネットワークを再現する手法を構築した.さらに,離散選択モデルを用いて,個人の交通手段別の施設利用可能性をモデル化した.これら2つの分析結果を組合せ,個人が自分で施設が利用可能な状況を表現する直接アクセシビリティと,他者による活動の代替や送迎によって施設が利用可能な状況を表現する間接アクセシビリティを算出し,地域全体のアクセシビリティを定量化する方法を提案した.
  • 後藤 菜月, 平田 輝満
    2015 年 71 巻 5 号 p. I_305-I_312
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/21
    ジャーナル オープンアクセス
    雇用力の弱い地方市町村では若年層における就職・転勤といったライフイベントの際に大都市圏や周辺中心市等への若者の転出が多くなる.そのような市町村での若年人口流出を極力抑えるためには,周辺中心市等へ移住せずとも通勤・通学が可能な若年層を自市町村に繋ぎとめることが最低限求められてくると考えた.市町村の枠を超えた広域生活圏で中心市を核とした都市サービスの維持が考えられているが,そのような中でも周辺市町村に一定程度の人口を維持し年齢構成バランスも確保することが望ましい.本研究では茨城県を対象に各市町村における年齢構成バランスの実態に関して分析し,さらに中心市と周辺市間の通勤者・転出者数を用いた地元定住度指標を提案し,周辺市町村への留まりやすさに影響する都市サービス面・交通面の要因に関して考察を行った.
  • 正木 恵, 寺部 慎太郎, 葛西 誠, 武藤 雅威
    2015 年 71 巻 5 号 p. I_313-I_322
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/21
    ジャーナル オープンアクセス
    本論文では,ご当地グルメにより地域活性化を目指す自治体がご当地グルメを観光資源として有効活用できているのかを振り返るために,ご当地グルメの成熟度(栄枯盛衰)を把握する方法を考案することを目的とした.先行研究に引き続き,ご当地グルメの観光資源としての成熟度はその店舗立地に表れるのではないかと考えた.本稿では特に「店舗配置の時間方向への変化」に着目し,2012年と2014年の二時点での浜松餃子店舗の位置情報を用いて1)ご当地グルメの観光資源としてのポテンシャルの変化を集積度により評価すること,2)店舗間の関係性(競合・補完関係)を空間点過程により定量的に評価することを提案し,これらがご当地グルメの成熟度を把握するためのツールの基礎となり得る可能性を示した.
  • 荒木 雅弘, 溝上 章志, 円山 琢也
    2015 年 71 巻 5 号 p. I_323-I_335
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/21
    ジャーナル オープンアクセス
    近年,熊本市では,中心市街地の魅力と活力向上のために様々な施策がとられている.その中でも,人々の回遊行動を促進させることは,中心市街地を活性化させる有効な施策のひとつであると考えられている.そのためには,歩行者の回遊行動の実態を詳細に分析し,回遊行動に影響を及ぼす要因とメカニズムを明らかにすることが必要である.本研究では,街路構成指標なども説明変数として導入して,まちなかの空間的魅力向上のための政策提言に活用できるモデルを構築する.その後,現在熊本市が計画している桜町地区の再開発事業「桜町地区第一種市街地再開発事業」が来街者の回遊行動に与える効果を政策シミュレーションによって分析することを目的としている.
  • 中村 一樹, 林 良嗣, 中村 文彦, 福田 敦, 中道 久美子
    2015 年 71 巻 5 号 p. I_337-I_346
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/21
    ジャーナル オープンアクセス
    CO2排出の急増が見込まれるアジア開発途上国の都市での交通の低炭素化は,国際的な重要課題の1つであるが,その実現において都市の経済や社会の利益を損なわない持続可能な開発が必要が急務である.しかし,大きく社会経済が変化する大都市において,長期的将来の低炭素交通システムを設計するには,従来の予測分析手法の適用は限界がある.本研究では,アジア開発途上国大都市において2050年の低炭素交通システムをAVOID,SHIFT,IMPROVEの戦略で設計するために,それぞれの戦略の重要性を診断し,低炭素交通システムのビジョニングから生活の質(QOL)の分析を用いた施策評価までを治療として行う手法を提示する.
  • 池田 結樹, 福山 敬
    2015 年 71 巻 5 号 p. I_347-I_358
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/21
    ジャーナル オープンアクセス
    近年,地方交通政策をはじめ地域が行う自主的かつ自立的な取り組みを国が支援する地方創生・地域再生が国の重点政策として掲げられた.地域間交通基盤の整備は,地域の自立的発展や地域間の連携を支える上で重要な役割を担っている.地域間交通基盤整備の地域自身による意思決定は,その性質上,地域政府間での戦略的な行動を伴うが,このとき,各地域が決定する地域間交通基盤への投資水準とともに,その決定のタイミングも各地域厚生に影響を与えるものと考えられる.そこで本研究では,小地域開放型経済下において地域政府が地域間交通基盤整備を行う場面を想定し,同時および逐次ゲームによる分析を通じて,地域間交通基盤整備の意思決定のタイミングが投資水準や地域厚生に与える影響について分析する.
  • 窪田 愛実, 羽鳥 剛史
    2015 年 71 巻 5 号 p. I_359-I_366
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/21
    ジャーナル オープンアクセス
    まちづくりを進める上では,住民の自発的な参画が重要となる.本研究では,地域の「物語」に着目し,住民の協働事業への受容意識や参画意識との関連を実証的に検証する.この目的の下,既存の物語研究の知見を踏まえて,地域の物語と住民協働事業との協和性認知が当該事業に対する受容意識や参画意識と関連すると共に,そうした協和性認知の効果が地域愛着に依存しているとの仮説を措定した.この仮説を検証するため,松山市東雲公園におけるコミュニティファーム事業を取り上げ,周辺住民を対象として,本事業に対する受容意識や参画意識,地域の物語との協和性認知や地域愛着についてアンケート調査を行った.その結果,本研究の仮説を支持する結果が得られ,地域住民による協働事業を進める上で,地域の物語が重要な役割を果たすことが示された.
  • 梶本 涼輔, 加知 範康, 塚原 健一, 秋山 祐樹
    2015 年 71 巻 5 号 p. I_367-I_374
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/21
    ジャーナル オープンアクセス
    本研究では,近年の降雨強度の増大により多発する土砂災害を対象に,生活の変化が小さい集落内規模の距離での災害危険区域から安全な地域への住居移転が,地方自治体の財政的に実現可能か検討した.具体的には,「移転先での住宅の整備費用の補助」を「移転元で削減されるインフラ維持管理費用,土砂災害復旧費用」で賄うことができるかを検討した.既存統計では災害危険区域内の詳細な住居等の情報が少ないため,居住者情報や建物情報が含まれている「建物ポイントデータ」を用いた.土砂災害の発生件数の多い九州地方で適用した結果,九州地方全ての移転元メッシュのうち約2割が土砂災害危険区域からの集落内防災移転の財政的実現性があることが明らかとなった.
  • 鈴木 温, 鈴木 和佳奈, 栗田 歩
    2015 年 71 巻 5 号 p. I_375-I_385
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/21
    ジャーナル オープンアクセス
    近年,我が国では大都市を中心に保育所待機児童の発生が問題視され,施設の拡充等による子育て支援体制の強化が求められている.保育所の需給ギャップと空間的ミスマッチを解決するため,保育所アクセシビリティに関する研究が行われてきた.しかし,いくつかの課題も残されていた.そこで,本研究では,それらの課題を解決するため,マッチング理論を応用した新たな保育所アクセシビリティ指標を提案し,名古屋市緑区を対象として,新たな保育所アクセシビリティを用いた分析を行った.その結果,より現実に近い入所選考プロセスを表現可能となり,保育所アクセシビリティの空間分布だけでなく,待機児童の発生を分析可能であることが確認できた.
  • 栗原 剛, 坂本 将吾, 泊 尚志
    2015 年 71 巻 5 号 p. I_387-I_396
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/21
    ジャーナル オープンアクセス
    インバウンド観光需要が高まる中,今後は訪日リピーターの獲得が一層重要になると考えられる.本研究では,2010年より実施されている観光庁の訪日外国人消費動向調査を用いて,訪日リピーターの観光消費を分析した.初訪日旅行者と訪日リピーターの観光消費を比較した結果,訪日リピーターの方が消費額が小さくなる傾向が示された.消費のうち大きな割合を占める買物代について内訳をみると,初訪日旅行者には家電製品等が多く購入される一方,リピーターになると服・かばん・靴の購入額が増加することが明らかになった.また,訪日回数別に観光消費額を比較したところ,初訪日よりも2回目の旅行者のほうが有意に少ないことが認められたものの,2回目から5回目の旅行者にかけての消費額には有意な変化が見られなかった.
  • 氏家 晃仁, 福本 潤也
    2015 年 71 巻 5 号 p. I_397-I_406
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/21
    ジャーナル オープンアクセス
    社会経済活動を観測した空間データから集積領域を検出することは,地理空間上で営まれる社会経済活動のメカニズムや特性を把握する上で有益である.疫学で提案された空間スキャン統計を始めとして,多数の集積領域検出手法が提案されてきた.既存手法では集積領域は地理的に連結した地理的単位から構成されると仮定する.しかし,集積領域の厳格な連結性を仮定して詳細な空間データから集積領域を検出すると,集積領域検出を通じた分析の結果が歪む恐れがある.本研究では画像処理で広く用いられるモデルベースクラスタリングの枠組みに基づき,厳格な形状制約や連結性を仮定しない集積検出手法を提案する.1/2地域メッシュ単位の事業所数データを用いたケーススタディを通じて,本手法の有効性を示す.
  • 片岡 源宗, 吉井 稔雄, 二神 透, 大口 敬
    2015 年 71 巻 5 号 p. I_407-I_414
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/21
    ジャーナル オープンアクセス
    日本の課題の一つとして,今後生ずるであろう高齢人口の増加や生産年齢人口の減少を見据え,救急車の救急搬送業務の効率化を図るため,中長期的な視野の下,提供する適切なサービスレベルについて検討することが極めて重要である.
    本稿では,救急救命搬送サービスの効率的運用に向けて,救急搬送需要予測モデルを提案する.次に,松山市を対象に,救急搬送需要予測モデルの適合度を検証する.更に人口当たりの搬送件数は,75歳以上の年齢層は他の年齢層に比べて非常に高いこと,季節や曜日,時間帯によって需要は異なる等の知見を報告する.
  • 坂井 勝哉, 日下部 貴彦, 朝倉 康夫
    2015 年 71 巻 5 号 p. I_415-I_424
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/21
    ジャーナル オープンアクセス
    ボトルネック通行権取引制度は,ネットワーク形状によらず社会費用を最小化できるが,複数ボトルネックの場合には必ずしもパレート改善しないことが知られている.本研究の目的は,合流部に通行権取引制度を導入し,パレート改善を達成する方法を示すことである.そこでまず,V字形ネットワークを対象に通勤交通のモデルを定式化し,通行権取引を単に導入するだけでは必ずしもパレート改善しないことを示し,通行権購入価格が制度導入前の渋滞待ち時間による費用よりも高くなる利用者がいることが原因であることを明らかにした.次に,パレート改善達成のための通行権導入施策を3種類提案し,パレート改善できることを示した.また,通行権収入を使ってボトルネック容量を増強すれば,パレート改善と同時に社会費用はさらに小さくなることも示した.
  • 浅田 拓海, 岡田 和洋, 松田 真宜, 有村 幹治
    2015 年 71 巻 5 号 p. I_425-I_431
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/21
    ジャーナル オープンアクセス
    コミュニティサイクル(以下,CC)は,新しい公共交通サービスとして世界的に注目されており,我が国においても都市部を中心に展開されつつあるが,駐輪ポートの受給ギャップ対策などの管理方法に関する知見は十分に揃っていないのが現状である.本研究では,札幌都心部で展開しているCC事業「ポロクル」の利用履歴データにRBFネットワークを適用し,動的に変化するポートの発生集中交通量を短期的に予測するモデルの構築を試みた.その結果,利用回数が多いポートでは30分後発生集中交通量の予測精度が低下するものの,それ以外のほとんどのポートでは高い精度で予測できることが示された.さらに,他のモデルとの比較から,CC利用動態の短期予測には,RBFネットワークが有効であることが示された.
  • 紀伊 雅敦, 中村 一樹
    2015 年 71 巻 5 号 p. I_433-I_442
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/21
    ジャーナル オープンアクセス
    プローブデータは個人の訪問頻度のスケーリング則を明らかにしたが,データの空間精度や観測期間が分布パラメータに与える影響は不明である.本稿では長期カープローブデータを用い訪問頻度分布パラメータへの空間精度,観測期間の影響を分析する.また,訪問頻度のパレート分布を導く交通行動モデルを用い,新規訪問先の増加過程と訪問頻度分布の整合性を検証する.最後に,交通行動モデルと訪問頻度分布から示唆されるモーダルシフト策に必要な政策を考察する.以上により,交通政策分析手法の深度化に貢献することが本稿の目的である.
  • 冨永 真裕, 嶋本 寛, 宇野 伸宏, SCHMÖCKER Jan-Dirk, 中村 俊之, 山崎 浩気
    2015 年 71 巻 5 号 p. I_443-I_450
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/21
    ジャーナル オープンアクセス
    本研究では,交通機関選択特性の異質性を考慮した分担配分統合モデルを構築した.具体的には,旅行者を交通機関に対する選好やコストに対する感度をもとにして複数のクラスに分類し,各クラスの旅行者をネットワーク上に同時に配分する分担配分統合モデルを均衡問題として定式化した.
    構築したモデルを簡易的な仮想ネットワークに適用し,モデルの性能に関する評価と旅行者の機関選択・配分に対する感度分析を行った.本研究の結果から,旅行者の個人特性に基づき分類されたクラスの構成が変化することでネットワーク全体の機関選択・配分に影響が及ぶ,すなわちバスに対する選好が高いクラスの人が占める割合が減少することにより,他のクラスのバス利用者数が増加する可能性があることを示した.
  • 鈴木 崇正
    2015 年 71 巻 5 号 p. I_451-I_458
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/21
    ジャーナル オープンアクセス
    鉄道と他の交通機関との乗り継ぎ利便性の向上は,鉄道のさらなる利用促進に資する.しかし,鉄道と他の交通機関との乗り継ぎの定量的評価はこれまで行われてこなかった.そこで,鉄道とバスの乗り継ぎに着目し,移動距離のほか歩行安全性やバス停設備など駅周辺の様々な特徴が乗り継ぎ利便性の評価に与える影響を定量的に分析した.はじめに一対比較による仮想乗り継ぎ行動調査を行い,利用者の多様な利便性評価観点を抽出・整理した.その上で,取得されたデータに基づき,ロジスティック回帰モデルを援用した乗り継ぎ利便性評価モデルを構築し,歩行環境やバス停設備が評価に与える影響を定量的に明らかにした.最後に,その結果を用いて,各経路の利便性を定量的に評価する指標と,その試算結果を示した.
  • 柳原 崇男
    2015 年 71 巻 5 号 p. I_459-I_465
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/21
    ジャーナル オープンアクセス
    高齢者の外出頻度は心身機能や社会活動性を包含した健康指標であるとも考えられている.つまり,健康指標として,外出頻度を交通施策等の評価にも応用できると考えられる.高齢化社会に向けては,交通施策等が健康維持や介護予防に寄与することを,実証的データにより立証していくことも重要となる.本研究では,外出頻度と移動手段,活動能力の関係を実証的データから検討し,今後の高齢者の介護予防や健康維持の観点から移動手段のあり方について考察する.その結果,外出頻度に最も影響を与えるのは,移動手段であり,特に「車(自分で運転)」であり,自分で運転しない場合は,年齢やIADL(手段的自立)が影響している.また,本調査地域においては,公共交通や家族送迎・タクシー等の交通手段は,外出頻度に影響を与えていないことがわかった.
  • 宇野 伸宏, 中村 俊之, 馬場 悠介, 山崎 浩気, 倉内 文孝
    2015 年 71 巻 5 号 p. I_467-I_479
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/21
    ジャーナル オープンアクセス
    現在,ドライバーに提供されている旅行時間情報は現在情報に類するものであり,情報提供時の利用者の反応を考慮したいわゆる予測情報ではない.ITおよび観測技術の進展により,実際に現在情報としての所要時間情報に付加的に矢印により短期的な交通状態の変動を示す情報(傾向情報)をVMS等で提供するサービスが我が国の都市高速道路で開始されている.本研究では,所要時間に関する傾向情報提供について利用者の日常的な交通行動を踏まえた,テーラーメイド型のSP調査を,阪神高速道路の利用者を対象として実施した.分析の結果,とりわけ増加傾向の提供が,ドライバーの経路選択に有意な影響を及ぼす可能性が示唆された.
  • 寺山 一輝, 小谷 通泰
    2015 年 71 巻 5 号 p. I_481-I_491
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/21
    ジャーナル オープンアクセス
    本研究では,個人のモビリティを計測するための方法として,交通手段別に各人の利用可能性指標を算出することを提案した.そして,神戸市の郊外住宅団地における居住者へのアンケート調査結果をもとに,回答者の交通手段別の利用可能性指標を算出し,年齢階層別にそれらの類似性から回答者をグルーピングした.この結果,同じ年齢階層であっても多様なモビリティ水準が存在していることを明らかにすることができた.また,当該地域における居住者による商業・医療施設へのアクセス交通を対象に,提案した利用可能性指標を既存のアクセシビリティ指標に組み込むことによって,アクセシビリティを評価する際には,個人のモビリティの多様性を考慮することの必要性を示唆した.
  • 鈴木 弘司, 松村 悠貴
    2015 年 71 巻 5 号 p. I_493-I_502
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/21
    ジャーナル オープンアクセス
    本研究では,都市高速道路合流部の安全性向上を目的とし,構造の異なる3か所を対象として,合流挙動に影響を及ぼす周辺交通状況を分析し,合流部改善評価を行った.まず,合流挙動のデータに対し,コンフリクト指標であるPICUD指標を用いて衝突危険性を評価することで,合流部において潜在的に衝突危険性が高い錯綜の発生状況を明らかにした.また,得られたPICUD指標の結果をもとに判別分析を行い,潜在的な衝突危険性に影響を与える要因を示した.これらの結果から,各合流部において,合流車両が合流を開始する位置及び合流時の本線到着交通量が潜在的な衝突危険性に対して影響を及ぼす主な要因となることがわかった.さらに,感度分析を行い,衝突危険性の発生変化を示すとともに,各合流部における衝突危険性低下施策について考察した.
  • 石原 雅晃, 井料 隆雅
    2015 年 71 巻 5 号 p. I_503-I_509
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/21
    ジャーナル オープンアクセス
    交通量の動的利用者均衡配分では,均衡解を必ず解く解法が知られておらず,唯一性などの解の性質が保証されていないなど,重大な問題の存在が指摘されている.均衡解はDay-to-dayダイナミクスの収束点の候補であるため,均衡解そのものを直接求める代わりに,Day-to-dayダイナミクスの計算結果から得られる解の軌跡を均衡解として代用することで,これらの問題が緩和されることが期待できよう.本研究では車両を離散化した動的交通量配分問題を定式化し,各車両の日々の経路変更をマルコフ連鎖でモデル化した.マルコフ連鎖が吸収点を持てば,それはNash均衡に相当する.そうでない場合は定常性を確認する必要がある.数値計算を行い,少なくとも小規模なネットワークにおいては,Nash均衡に収束するか,あるいは軌跡の定常性の存在を確認できた.
  • 川村 竜之介, 谷口 綾子, 大森 宣暁, 谷口 守
    2015 年 71 巻 5 号 p. I_511-I_521
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/21
    ジャーナル オープンアクセス
    本研究では,我が国において,公共交通車内における「弱者に席を譲る」「騒ぐ自分の子どもを注意する(抑止する)」という二つの協力行動を促すための有効な方策を明らかにすることを目的とし,欧州と東アジアの6か国における協力行動と規範の関係性に着目した.協力行動と規範の主観的評価については国際アンケート調査から,「マナーに関するアナウンスや掲示物」等,協力行動に影響を及ぼすと考えられる環境要因については鉄道会社のWebサイトや現地調査から把握し,分析を行った.その結果,「優先席」で席を譲る行動を促すアナウンスは,優先席以外で席を譲る行動を阻害している可能性がある事,また「騒ぐ自分の子供を注意する」行動を促すためには,周囲の協力行動に対する認知「記述的規範」を高める事が効果的である可能性が示された.
  • 川崎 智也, 轟 朝幸, 小林 聡一
    2015 年 71 巻 5 号 p. I_523-I_532
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/21
    ジャーナル オープンアクセス
    首都圏の都市鉄道では,朝ラッシュ時に定常的な混雑が発生している.混雑緩和に対する一つの解決策として,時差通勤をした者に対して,抽選で賞金が当たる抽選型報奨金制度がある.本研究では,東京メトロ東西線利用者を対象として,オーダードロジットモデルを用いて抽選型報奨金制度を導入した場合の鉄道利用者行動モデルを構築し,当選金額および当選金額に対する感度分析を実施した.その結果,当選の期待値が100円の下で当選金額を28.9千円(当選確率0.33%)とした場合,定額型施策よりも時差通勤施策の参加者が増加する可能性が示され,混雑率は197.5%となり,現状の混雑率である199%から1.5%減少することが示された.当選金額を20万円(当選確率0.05%)と高額に設定すると,混雑率は196.9%まで減少し,定額型施策よりも0.6%低下した.
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