日本地震工学会論文集
Online ISSN : 1884-6246
ISSN-L : 1884-6246
23 巻, 4 号
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論文
  • 横屋 翔, 林 和宏, 齊藤 大樹
    2023 年 23 巻 4 号 p. 4_1-4_23
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/08/31
    ジャーナル フリー

    本論では,都市計画基礎調査を用いて市町村規模での木造住宅の地震被害推定を行うことを目的に,過去の地震の被害状況から算定された既往の被害率関数による地域メッシュ単位の被害推定の精度向上と,個々の木造住宅を対象とした損傷確率曲線による損傷評価手法について検討した.前者は,豊橋市を対象に,住宅・土地統計調査から求めた年代別平均木造住宅割合を市内すべての地域メッシュに適用した場合と,都市計画基礎調査による都市に実在する建物の分布状況を個別に反映した年代別木造住宅分布を適用した場合で,それぞれ南海トラフ地震の想定地震動に対する既往の被害率関数を地域メッシュ単位で適用することで被害推定を行い,その結果を比較することで検討した.後者は,防災科学技術研究所の強震観測網K-NET, KiK-netで観測された強震波を入力とした漸増動的解析(IDA)により,個別の木造住宅を対象とした損傷確率曲線を算定し,木造住宅個別の損傷確率推定を行った.都市計画基礎調査を使い,実建物の分布状況を個別に反映した被害推定は,市内全体を平均した年代別建物割合による被害推定に比べ,推定精度が高いことを明らかにした.また,南海トラフ地震に対する木造住宅ごとの損傷確率評価により,同一地域メッシュ内であっても被害に差があることを明らかにした.

  • 金田 惇平, 田中 信也, 久田 嘉章
    2023 年 23 巻 4 号 p. 4_24-4_40
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/08/31
    ジャーナル フリー

    経験的グリーン関数法(Empirical Green's Function Method,以下,EGF法)は過去に発生した地震の地震動の再現に関して実績が多く,広く用いられている手法である.しかし,要素地震の選定については明確な基準はなく,特に破壊伝播効果の影響については十分には考慮されていない.本研究では震源破壊過程が明らかな地震として2004年新潟県中越地震のM6以下の余震を対象に,点震源と仮定することができる地震としてM4以下の小地震とのフーリエスペクトル比から観測記録の特徴を分析した.その結果,工学的に主要な周波数帯の1 Hz程度において,既往の震源逆解析結果から推測した破壊方向に位置するForward地点と反対側のBackward地点とでは,破壊伝播効果の影響でフーリエ振幅スペクトルに2倍程度の差異が生じていることを示した.また,EGF法による波形合成においても同様に破壊伝播効果の影響が現れることを示した.次に本震を対象とした波形合成を行い,本震と要素地震の破壊伝播特性の違いが観測記録の再現性に大きく影響することを示した.また,地震動予測において想定地震の破壊伝播特性と近い地震を要素地震として用いることで予測精度が高くなる可能性があることを示した.最後に要素地震の破壊伝播効果を補正する手法を提案し,複数の観測地点で検証することでその有効性と今後の課題を示した.

  • 渡部 真夕子, 中澤 駿佑, 境 有紀
    2023 年 23 巻 4 号 p. 4_41-4_53
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/08/31
    ジャーナル フリー

    木造建物を対象として,耐力が高いにもかかわらず,大きな被害を受ける地震動の性質とその発生条件について検討した.その結果,そのような地震動は,0.5–1秒応答が大きいという特徴をもっており,0.5–1秒加速度応答が減衰定数5%で1800 cm/s2以上になると,耐力が高いにもかかわらず,大きな被害を引き起こすことがわかった.ただ,そのような地震動は,過去あまり発生していなかった.そこで,そのような地震動が発生する条件について,KiK-net観測点の記録を用いて調べたところ,地中での地動最大加速度300 cm/s2程度以上で,表層地盤の表層30 mの平均せん断波速度が全国の半数を占める200~400 m/s程度ということがわかり,将来,このような地震動が発生する可能性は,低くないと考えられる.

  • 鈴木 亘, 木村 武志, 久保 久彦, 先名 重樹
    2023 年 23 巻 4 号 p. 4_54-4_69
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/08/31
    ジャーナル フリー

    近年の首都直下地震の被害想定においては,南関東直下のフィリピン海プレート内のM7クラスの地震が発生確率及び被害の大きさの観点から代表的な地震として取り上げられている.本研究では東京湾直下のM5クラスのプレート内地震を要素地震とし,首都圏において稠密に展開されているMeSO-netで観測された波形記録を用いて,経験的グリーン関数法によりM7クラスの地震の強震動シミュレーションを実施した.経験的グリーン関数法を用いることで,実際に東京湾直下で発生した地震の震源特性や震源メカニズムと,首都圏直下の沈み込むプレートや厚い堆積層による複雑な地下構造の影響を踏まえた広帯域地震動のシミュレーションを実現した.内閣府中央防災会議(2013)による微視的震源特性を踏まえて強震動生成領域を設定し,波形フィッティングから仮定した要素地震の面積を基に強震動生成領域の分割個数を決定した.波形合成は要素地震の東西走向及び南北走向それぞれの節面に対して,破壊伝播が東京都区部に向かって進展する設定とした.MeSO-netは地中20 mで観測しているため,地表臨時観測記録に基づく震度増分を用いて地表震度分布を推定した.2つの断層モデルによる合成波形の加速度応答スペクトルを比較すると,破壊伝播方向に位置する観測点では1秒前後の応答が卓越する傾向が見られた.震度分布では,東京都区部は2つの断層モデルによる震度の大きさは同程度である一方,東西走向断層モデルでは多摩地域において,南北走向断層モデルでは千葉県北西部から茨城県にかけての破壊伝播方向延長に位置する地域で震度の大きい観測点が多く見られる.要素地震において多摩地域等の震源域より遠方でも震度が大きいという特徴が見られており,この特徴と破壊伝播の効果が重畳し,上述の震度分布が現れたと考えられる.

報告
  • 西坂 直樹, 大西 耕造, 石川 慶彦, 大野 正登, 宮腰 淳一, 池田 倫治, 辻 健, 隈元 崇, 奥村 晃史
    2023 年 23 巻 4 号 p. 4_70-4_88
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/08/31
    ジャーナル フリー

    構造物の耐震設計で考慮すべきハザードとして,地震動とともに断層変位が重要である.近年,確率論的断層変位ハザード解析に関する実施標準や安全ガイドが策定され,重要施設直下での断層変位を確率論的に照査することに対する社会的要求が高まっている.しかしながら,その実践は世界的にも非常に限られており,国内では特定の構造物を対象として本格的に実践した報告は見当たらない.将来の広範な適用を目指して,まずはなるべく精度の高いモデルに基づく確率論的断層変位ハザード解析を実践し,現状の課題を把握すべきである.本稿では,SSHACレベル3ガイドラインを国内で初めて適用した伊方サイトでの震源特性モデルを活用した確率論的断層変位ハザード解析を実践し,2016年熊本地震の観測データから得られる知見も踏まえた上で,実務レベルでの適用における具体的な課題を報告する.

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