強震動予測に重要な高域遮断周波数fmaxの生成要因を探るため,硬質岩盤サイトの鳥取県西伯郡(花崗岩地域)において,地震基盤に達する深度1000 mの大深度ボーリング調査・物理検層及び200 Hz高速サンプリングによる深部地震動観測を実施した.深部地震動観測として地表地震計及び二連式孔中地震計による鉛直アレー観測を行い,深度0 m(S波速度0.2 km/s)の表層地盤,深度300 m(S波速度2.8 km/s)及び深度1000 m(S波速度3.2 km/s)の地震基盤における観測地震動を取得した.1000 m鉛直アレー観測記録及び複数のKiK-net観測記録を用いてサイト特性及び伝播経路特性を詳細に評価し,震源特性として2016年鳥取県中部の地震の前震(Mj4.2),本震(Mj6.6)及び最大余震(Mj5.0)の3地震によるfmaxを評価した.その結果,深度300 m及び深度1000 mにおける3地震の観測地震動によりそれぞれ個別に推定された震源スペクトルから,深度300 mでおよそ20~30 Hz及び深度1000 mでおよそ40~50 Hzの異なるfmaxを得た.いずれの深度においても3地震によるfmaxは高周波数を呈して顕著な地震規模依存性は見られない.深度1000~300 mにわたる基盤中で地震動の減衰特性が確認されており,これらの影響が高周波数側の周波数特性,すなわち両深度の観測地震動により推定されるfmaxの違いとして現れている.一つの仮説として,fmaxの生成が震源特性ではなく地震基盤以深の深い基盤(基盤層~S波速度3.6 km/s相当層)における基盤中の減衰特性いわゆる「基盤特性」によってもたらされると考え,地震のω-2則に基づく理論震源スペクトルに伝播経路特性及び先の基盤特性を考慮することにより,fmaxを介さずに理論基盤スペクトルを算出することを試みた.その結果,深度300 m及び深度1000 mにおける基盤スペクトルに加えて,別途,震源域周辺の地中S波速度が2 km/s以上を呈する3か所のKiK- net観測点の地中地震計設置深度における各地中観測スペクトルをおおむね説明できることを示した.地震基盤以深の深い基盤による減衰特性とfmaxによる高域遮断フィルター特性がほぼ一致しており,fmaxが従来考慮することのなかった基盤特性に対応する可能性がある.
本文は地震時に水道管内の水圧が異常に低下する現象を解析的に分析した結果を報告している.東北地方太平洋沖地震時に川越市内で起きた水圧低下に関し,貯水槽のスロッシングによる水圧変化と管路内の水の振動外力による運動に分けて応答計算を行った.水圧低下量を説明できるのは水の圧縮性を考えた管路内の水の解析結果であり,外乱によって蓄えられたエネルギーが消散していく過程で水圧低下が起きることを説明している.
地震調査研究推進本部(2016)による「強震動予測のためのレシピ」では,活断層で発生する地震に対して,断層長さが長くなって断層破壊が地表に達する場合も,断層面積として表層部分の断層面積を除いた地震発生層内の断層面積を用いて地震モーメントを算定しており,地震モーメントを過小評価している可能性がある.そこで,本論文では,このような断層面積の算定方法の違いが,巨視的断層パラメータや微視的断層パラメータにどのように影響するかを検討した.また,具体例として,長さが30 km,50 kmおよび200 kmの断層モデルを設定して強震動を試算し,その結果,30 kmと50 kmの断層では断層面積の算定方法の違いの影響は最大加速度では小さいが,最大速度とやや長い周期の応答スペクトルでは表層部分の断層面積を含めた方が大きくなる地点が多いこと,200 kmの断層では断層面積の算定方法の違いの影響は最大加速度および最大速度では小さいが,長い周期の応答スペクトルでは表層部分の断層面積を含めた方がわずかに大きくなることがわかった.
本稿では,国際捜索救助諮問グループ(INSARAG)の実施する検定制度「IEC」が,海外の大規模地震災害等に派遣される日本の国際緊急援助隊(JDR)救助チームの能力強化に貢献したのかについて,2010年のIEC受検,2015年のIEC再受検(IER)の事例を基に考察する.IEC/RはJDRのチーム体制の変更,日本に定着していなかった技術の導入,他国チームからの学びなどを促すことで,その能力強化に貢献した.さらにその効果はJDR救助チームに限られることはなく,メンバーの所属先である捜索救助機関にも波及し,日本国内における捜索救助技術の向上にも貢献したと結論づける.
一般建築物や原子力施設等では,その構造の耐震健全性を評価するために,時刻歴応答解析が用いられている.時刻歴応答解析では,評価対象物の規格基準で定められたターゲットスペクトルを満たす模擬地震動が利用されることがある.このターゲットスペクトルは減衰定数が0.01から0.05程度で与えられる場合が多く,これに適合する模擬地震動を用いて,その減衰定数以外の構造物の応答を評価する場合,この解析で得られる応答のばらつきは大きくなる.この問題に着目し,異なる減衰定数のターゲットスペクトルに同時に適合させる手法として,模擬地震動の原波形に複数の補正波を挿入する手法が提案されている.しかし,免震構造物のように0.2~0.4程度の減衰定数下では補正波の干渉がターゲットスペクトルへの収束性に悪影響を及ぼすことから,これらの減衰定数と規格基準で要求される減衰定数のターゲットスペクトルを同時に満たすことは困難となる.そこで,本論文では,補正波の干渉回避に着目し,免震構造物で想定される高減衰定数下でも対応可能な手法を提示する.また,この手法を用いて,一般建築および原子力施設の規格基準で用いられるターゲットスペクトルを例に,その有用性を示す.
四時ダム(福島県いわき市,センターコア型ロックフィルダム,堤高83.5m)は2011年東北地方太平洋沖地震ならびに2011年福島県浜通り地震の強震動を受けており,本ダムで得られた長期間にわたる加速度記録はロックフィルダム堤体の動的物性を検討する上で極めて貴重な記録である.本研究では本ダムの観測記録にNIOM解析を適用し,強震動とその前後のS波の伝播時間の変化を検討した.その結果,(1)東北地方太平沖地震以前の伝播時間の0.153 s(平均伝播速度565 m/s)に対して,本震主要動では堤体の非線形挙動により最大で0.23 s(375 m/s)まで増加したこと,(2) この変化はせん断弾性係数が初期値のおよそ45%まで減少したことに相当し,その際の歪レベルは2~3×10-4程度と見積られること,(3)福島県浜通り地震においても東北地方太平沖地震と同様の伝播時間の変化がみられること,また,(4)堤体の内部減衰も本震主要動で増加し,主要動後に低下するが,この変化は伝播時間の変化と同じような挙動を示すこと,などを指摘した.
2016年熊本地震(2016年4月16日01:25,M7.3)では,約900km離れた千葉県北西部で長周期地震動階級2が観測された.関東平野へ入射した長周期地震波は,南北方向の震動が卓越した卓越周期10秒強のLove波が主体であった.入射波形は,山地部では継続時間60秒弱のパケット状であるが,基盤の深い平野部では継続時間が延び振幅も増大した.東京湾西岸付近の観測点では継続時間が約90秒,振幅は山地部の約3倍である.平野東側の観測点ほど後続波が成長し,東京湾北東側の観測点では継続時間が150秒程度に延び,東西成分の震動も励起されていた.一方,基盤の浅い茨城県内の観測点では顕著な後続波は見られない.波形の分散性や伝播方向から考えて,継続時間の延びには,表面波の分散性と回り込みが影響している.なお,平野内の記録の卓越周期は約10秒であり,周期10秒のスペクトル振幅は,震央と反対側の東京湾北東側(千葉県北西部)が最も大きかった.