震源断層近傍の地動にみられる残留変位とパルス状の変位を模擬する関数を作成し,スペクトルフィッティングによって地震動記録からこれらの成分を抽出する方法を提案した.また,加速度記録から変位波形を推定する際に,ローカットフィルターに代えて上記の関数のスペクトルを接続することで,低振動数のノイズ成分を除去しつつ,合理的に変位波形を推定することを試みた.この手法を2016年熊本地震本震の地震動記録に適用したところ,残留変位とパルス状の変位が混在する変位波形を適切に推定することができた.
波動解析において,人工的に設けた境界からの反射波は解析誤差の一因となる.本論文では,Clayton and Engquist (1977)の手法に基き,時間領域の有限要素法解析において境界からの反射波を吸収する要素を提案する.消波要素内を,変位が一方向にP波速度またはS波速度で伝播するとして,線形加速度法を用いて,要素内の変位分布を表し,その変位分布から要素マトリックスを導出する.導き出した要素を消波境界として用いた2次元波動解析を行い,提案した消波要素によって効率よく反射波が吸収されることを示した.
本論文では,国宝彦根城の地震時安全性評価の基礎資料を得る目的で,天守・附櫓・多聞櫓とその周辺地盤の微動計測を行った.建物の微動計測の結果から,天守・附櫓・多聞櫓の固有振動数や建物相互の連成振動特性を分析した.また,面的に行った地盤の単点微動計測より,西の丸や本丸の表層地盤厚さや地山形状の概要を把握することができた.一方,石垣周辺のH/Vスペクトルには,石垣直近を除いて方向性は顕著ではなく,石垣から数m離れた地点では,表層地盤の卓越振動数の他に,石垣周辺地盤の卓越振動数が見られる場合があることを示した.
小林・儘田(2018)が示した,観測サイトの上部地殻から基盤層(地震基盤)にかけての深い基盤における地震動の伝達特性,すなわち「基盤特性」を考慮することが地震動評価に有効であることを確認するため,2016年鳥取県中部の地震(Mj6.6)の特性化震源モデルを用いて,観測サイトの基盤特性を考慮した統計的グリーン関数法に基づく基盤地震動の評価を行った.基盤地震動として,鳥取県西伯郡の1000 m鉛直アレー観測点の深度300 m(S波速度2.8 km/s)及び深度1000 m(S波速度3.2 km/s)における50 Hz高周波数帯域までの地震動,並びにKiK-net関金観測点の深度100 m(S波速度2.1 km/s),KiK-net伯太観測点の深度101 m(S波速度2.8 km/s)及びKiK-net湯原観測点の深度100 m(S波速度2.4 km/s)における25 Hz高周波数帯域までの地震動の再現性を検討した.その結果,統計的グリーン関数法において観測サイトの基盤特性を考慮することにより,fmaxによる高域遮断フィルター補正を施さずに2016年鳥取県中部の地震の対象観測点における高周波数帯域までの基盤地震動を高い精度で評価できること,fmaxによる高域遮断フィルター特性が観測サイトの基盤特性に対応することを示した.
2019年に発生した山形県沖の地震を対象として,震度5強以上を記録した強震観測点周辺の被害調査を行った.その結果,いくつかの観測点周辺で外装材や瓦屋根の被害といった建物の軽微な被害は見られたが,全壊・大破といった大きな被害を受けた建物は見られなかった.観測された強震記録の性質と被害との対応について検討した結果,震度6弱以上といった大きな計測震度を記録したにも関わらず,大きな被害を受けた建物が見られなかったのは,計測震度に対応した周期1秒以下の短周期が卓越し,建物の大きな被害と相関がある周期1-1.5秒応答が小さかったためであると考えられる.また,瓦屋根の被害は複数の観測点周辺で見られ,特に村上市府屋震度計周辺で瓦屋根被害率は32.1 %に達していたが,これも発生した地震動が,瓦屋根の被害と相関がある周期1秒以下の短周期が卓越していたためであると考えられる.