南西諸島の先島諸島(宮古諸島・八重山諸島)地域は,過去に地震動や津波による被害の報告がなされており,この地域が将来強い揺れに見舞われる可能性があることも指摘されている.地震動評価においては,地下構造モデルのS波速度構造は重要なパラメータの一つである.南西諸島地域のS波速度3 km/s相当の地震基盤上面までの深部地盤モデルは,防災科学技術研究所のJ-SHISで公開されているが,地震動評価に必要な地下構造モデルの物性値の情報源は,重力異常によるもの以外に少ない.また,大洋中の小規模の島での微動アレイ探査の事例も非常に少ない.本研究では,日本各地で多数の実施事例のある微動アレイ観測データを用いた解析を先島諸島の島嶼部で適用し,地震基盤上面までのS波速度構造を推定することを試みた.その結果,各地点で3層と地震基盤の1次元S波速度構造を示すことができ,基盤深度は,宮古諸島で1.6~2.0 km,八重山諸島で0.1~0.6 kmとなり,八重山諸島でのその深度は,J-SHISのものとは大きく異なっていた.また,速度構造の3次元数値モデル作成を視野に入れ,全地点の推定結果から,各層のS波速度の平均値とこの場合の各地点の層境界深度も示した.この地域の陸地部分はわずかであるが,有人島の地震防災の観点から,島嶼部の深部地盤のS波速度構造の情報は,地下構造モデルの改良や地震動評価の精度向上に役立ち,また,多くの調査地点が地震観測点近隣であるため,この結果は,地震観測データの解析等にも有益な情報になると考えられる.
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