日本各地には、石油等を貯蔵・備蓄するタンクが多数設置されている。タンクの固有周期は直径と液深により計算することができ、通常の石油タンクに限っていえばおよそ5秒から10秒と非常に長い周期となる。そのため、これらは長周期地震動の影響を大きく受け、スロッシングなどにより火災が発生する可能性がある。本研究では、今後発生が予測されている巨大地震に対してもこうした事故の可能性が高いと考え、長周期地震動が原因となる石油タンクのスロッシング危険度の評価を行った。その際、多数のタンク高さなどを空撮画像から取得する手法を用いた。さらに、2011年東北地方太平洋沖地震の観測記録や想定南海トラフ巨大地震の予測波形を用いてスロッシング波高を計算し、溢流の有無などから京葉コンビナートに位置する石油タンクの危険性について評価を行った。
全無限均質弾性体の点震源解(ダブル・カップル)を用いて、遠地項、中間項、および近地項を評価した震源近傍の変位波形を振動数領域で計算する手法を提案している。この解析では、中間項と近地項に含まれる永久変位(ステップ成分)によって解が発散し、通常のFFTを用いた振動数領域の解析は困難と考えられている。提案手法はこの問題を解決する極めてシンプルな方法であり、安定して変位波形を求めることができ、加速度、速度、変位波形は完全にcompatibleである。
液状化に伴う残留変形を求める方法を提案した。この方法では残留変形は4つのプロセスで求められる。最初に工事の過程なども考慮した解析により地震前の応力(初期応力)を求める。次に、液状化解析により液状化に対する抵抗率FLを求める。これに続き、FLと液状化強度比RLより、液状化後の応力-ひずみ関係を求め、これを用いた流動解析を行う。この解析では初期応力と液状化後の応力-ひずみ関係で受け持つことのできる応力との差を外力として作用させる。最後に過剰間隙水圧の消散に伴う地盤の沈下を簡易圧密解析で求める。地震後の応力-ひずみ関係を求めるために一連の実験を行い、応力-ひずみ関係をRLとFLの関数として表した。また、流動時の変位を求めるためには非液状化層の挙動も重要であり、その表現のために、Mohr-CoulombとDracker-Pragerの破壊条件を用いた弾完全塑性モデルを提案した。最後に、二つの被害事例をシミュレーションした結果、実現象を良く表現できることがわかった。
上町断層帯を震源とする地震によって発生する広域的な地盤変動に伴う、東部大阪の氾濫リスクにつながるハザードを示す。まず、地盤を均質な半無限弾性媒質と仮定し、既往の調査・研究成果から矩形断層モデルと断層パラメータを設定した上で、Okadaの式1)(ディスロケーションモデル)に基づき、媒質中の矩形断層のくいちがいによって生じる地表面の鉛直方向の変動量を、数値シミュレーションによって求める。次に、上町断層帯の1回の活動に伴う、東部大阪の地盤変動の傾向を把握する。ここで、大阪平野を構成する洪積粘土層であるMa12層とMa10層の堆積状況に着目し、同地層が堆積し始めた年代以降の、断層の推定活動回数に基づいて求めた地盤変動量を分析する。その結果、東部大阪において、両地層の堆積年代間の傾動速度がシミュレーションと相関することを示す。その上で、上町断層帯の1回の活動による広域的な地盤変動が、東部大阪の河川の逆勾配化という、流域の氾濫リスクにつながるハザードとなることを明らかにする。
2016年熊本地震における木造建物の被害の要因を分析することを目的として、益城町で建物被害が大きかった範囲を対象に空中写真により建物の建築年と倒壊の判定を行った。その結果、倒壊被害集中域は帯状であり前震と本震でずれがあることがわかった。また、倒壊建物と地盤の常時微動計測結果・建築年・観測地震動との関係を分析し、観測地震動の擬似速度応答スペクトルのピーク値と倒壊率との相関が高いことなどを明らかにした。さらに、1981年の新耐震設計法施行後に建てられた築1982年以降の木造建物でも倒壊した地域があり、倒壊率が最も高い地域では築1982年以前と以降で倒壊率に大きな差がなかった。
東日本大震災で自宅が全壊被害を受けた人達の中で、津波来襲までに帰宅した人や避難途中に家族の迎えなどの立ち寄りをした人が、著者の単純加算で44%に達していた。そこで国土交通省と東京大学空間情報科学研究センターでまとめられた聞き取り調査データを用い、岩手県と宮城県の沿岸主要市町をリアス部と平野部に区分し、さらに徒歩避難と自動車避難に区分して、帰宅行動と立ち寄り行動の目的とそれらの影響を分析した。その結果、浸水域を脱して安全域に到達するまでの時間が、避難途中に立ち寄りをすることにより平野部の徒歩避難で3.2倍、リアス部の自動車避難で3.6倍に増加すること、帰宅や立ち寄りの目的には家族・親戚・知人の安否確認や迎えが多く、自動車を使用した立ち寄りの場合はそれらがリアス部で58%、平野部で64%に達すること、などがわかった。さらに、徒歩避難と自動車避難が浸水域を脱して安全域に到達するまでの時間を比較すると、リアス部と平野部、帰宅の有無、立ち寄りの有無、の組み合わせで結果が異なるが、全ての組み合わせをデータ数で加重平均して比較すると、徒歩避難と自動車避難の時間はほぼ同じであった。
大阪平野の沖積地盤における、土木構造物の地震応答解析の実施にあたり、工学的基盤面設定の妥当性を検証する。骨子は次のとおりである。まず、沖積地盤における工学的基盤を、土木構造物の設計で堅固な地盤とされる、S波速度Vsが300m/s程度に相当する地層とする。次に、大阪平野の沖積地盤は、沖積層の下層にVsが300m/s程度以上の洪積砂礫層とそれ以下の洪積粘土層が互層を形成していることから、大阪平野の沖積地盤を代表していると考えられるいくつかの地点を選定し、それぞれの地点で1次元非線形地震応答解析を実施する。既往の研究において工学的基盤として示されている洪積砂礫層(Dg2層)の上端と併せ、その下層のVsが300m/s程度以下の洪積粘土層下端の基盤面に、それぞれ地震波を入力して、地表面の最大加速度や最大せん断ひずみの深度分布等がどうなるのかを検証し、土木構造物の耐震性能を検討する上で、既往の研究で提案されている工学的基盤面を評価する。
2014年に発生した長野県北部の地震を対象として、震度6弱を観測した全ての強震観測点と、震度5強を観測した一部の強震観測点周辺の建物の被害調査を行った。その結果、いくつかの観測点で外装材の剥落といった建物の軽微な被害は見られたが、いずれの観測点でも、大破・全壊といった建物の大きな被害は見られなかった。観測された強震記録の性質について検討した結果、そのほとんどが周期0.5秒以下の極短周期が卓越した地震動で、建物の大きな被害と相関を持つ周期1-1.5秒応答は小さく、このことが震度が大きいにも関わらず建物の大きな被害が生じなかった原因と考えられる。
2016年熊本地震で得られた強震記録を用いたスペクトルインバージョン解析により、震源および伝播経路の特性を評価した。得られた震源スペクトルから求められる短周期レベルAは、前震・本震とも横ずれ断層を対象とした既往研究結果よりも大きな値となることが分かった。また、伝播経路の特性をあらわすQ値は、九州地域を対象とした既往研究と同様の傾向となり、その特性はQ=79f0.78とモデル化された。
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