日本地震工学会論文集
Online ISSN : 1884-6246
ISSN-L : 1884-6246
16 巻, 4 号
特集号「2011年東北地方太平洋沖地震の地震動と地盤」
選択された号の論文の17件中1~17を表示しています
巻頭言
総説
  • 大野 晋
    2016 年 16 巻 4 号 p. 4_2-4_11
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/03/31
    ジャーナル フリー
    東北地方太平洋沖地震の強震動の距離減衰特性と地震動評価式の適用性について述べた。主な知見は下記の通りである。1) Mw1次式を用いた場合は巨大地震を過大評価する傾向があり,断層最短距離、等価震源距離どちらを採用した場合でもω-2モデルに対応した震源項のモデル化が必要である。2) 最短距離を用いた式では振幅の頭打ちの見直しが必要な場合がある。3) 巨大地震では断層の広がりの影響が従来よりも遠方まで及ぶことから,距離の定義により,距離減衰特性の相違に加え,震源項のスケーリングが見かけ上異なる場合があることに注意が必要である。
  • 三宅 弘恵, 浅野 公之, 纐纈 一起, 岩田 知孝
    2016 年 16 巻 4 号 p. 4_12-4_21
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/03/31
    ジャーナル フリー
    2011年東北地方太平洋沖地震では、遠地地震波形・強震波形・測地・津波等の稠密な公開観測記録に基づき、多数の震源解析結果が提示された。本稿では、強震記録を用いて推定された震源モデルを対象に、共通点と相違点に着目して概説する。周期約10秒以上の長周期帯域で解かれた震源インバージョン結果からは、震源付近および海溝軸付近に大すべり域が推定された。一方、周期約10秒以下の短周期帯域を説明する強震動生成域や強震動パルス生成域は、震源付近および陸域側に大きな応力降下を伴う領域が複数推定され、宮城県沖では大すべり域と一部重なるものの、福島県沖や茨城県沖では相補的な関係となった。また、強震記録を用いたバックプロジェクション、アレイ解析、エンベロープインバージョンや震度インバージョンによる震源解析結果は、長周期帯域や短周期帯域を説明する震源モデルの特徴と概ね調和的であった。なお、2011年東北地方太平洋沖地震は、2010年チリMaule地震と同様、M9クラスの長周期震源とM8クラスの短周期震源の組み合わせと解釈することも可能である。ただし、断層傾斜方向に複雑な破壊進展を呈し、同じ場所が複数回すべる等の新たな知見が得られ、地震の震源の多様性が認識された。なお、強震記録による海溝軸付近の震源分解能は決して高くなく、今後の海域観測が期待される。
  • 松島 信一
    2016 年 16 巻 4 号 p. 4_22-4_34
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/03/31
    ジャーナル フリー
    平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震の際に大加速度と震度7が観測されたK-NET築館とKiK-net芳賀および建物被害が多くみられたK-NET古川・JMA古川において、観測点近傍及びその周辺での余震・微動観測記録の解析および数値シミュレーションにより、大加速度記録と表層地盤の関係について検討を行った研究を取り上げた。また、K-NET築館では地盤増幅とともに大加速度の成因となったと指摘されている地震計基礎の浮き上がり振動の影響についても取り上げた。表層地盤による増幅、深部地盤構造の影響、不整形性の影響、地形効果などを考慮して、既存の強震観測点での観測記録や臨時で観測された地震動や微動記録を説明する検討が行われ、用いる手法が異なっても、概ね共通の速度構造が得られることが分かってきたが、一意の構造が得られておらず、課題が残されている。さらに、地震動の空間的広がりについても、精力的な地震観測や微動観測より得られた記録から浅部および深部地盤構造の不整形性の影響が大きいことが改めて示された。
論文
  • 津野 靖士, 山中 浩明, 翠川 三郎, 地元 孝輔, 宮腰 寛之, 佐口 浩一郎, 酒井 慎一, 三宅 弘恵, 纐纈 一起
    2016 年 16 巻 4 号 p. 4_35-4_51
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/03/31
    ジャーナル フリー
    2011年東北地方太平洋沖地震で観測された東京湾西岸部に於ける周期2~3秒の強震動生成要因を把握することを目的として、本震記録が取得されている6サイトでアレー微動観測を実施し、表層から深部までのS波速度構造を推定した。その結果、沿岸部の埋め立て地であるJKPM(城南島海浜公園)とUK1222(浮島町公園)に於いては、Vs 150m/s程度の最表層が50m以上、Vs 400m/s程度の層が深さ200mまで堆積していることが明らかになった。また、アレー微動観測による推定構造を用いたサイト増幅特性は、本震記録で見られた地震動特性の傾向と6サイトとも良く整合した。本検討より、2011年東北地方太平洋沖地震の東京湾西岸部に於ける周期2~3秒の強震動は、地表面から200m以上の深部地盤構造を考慮した上で、実体波であるS波を仮定した1次元解析より評価可能であることが結論付けられた。
  • 佐藤 智美
    2016 年 16 巻 4 号 p. 4_52-4_65
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/03/31
    ジャーナル フリー
    2011年東北地方太平洋沖地震で震度7あるいは7相当となったK-NET築館、KiK-net芳賀の大振幅記録の成因を分析した。その結果、K-NET築館では地盤の非線形性とMotosaka et alの指摘している地震動ではない振動により、NS成分は4Hzで10倍、上下成分は8Hzで15倍程度増幅していることがわかった。KiK-net芳賀では、地震動ではない振動により、水平成分は2Hzで2倍、上下成分は4Hzで10倍程度増幅していることを示した。そして、仮定した動的変形特性に基づく等価線形解析により、地震動ではない振動がない場合のKiK-net芳賀での波形を推定し、推定波形から算出される計測震度は6.2、震度は6強となることを示した。
  • -新潟県中越地域の高密度強震観測記録の分析-
    植竹 富一, 引間 和人, 関根 秀太郎, 澤田 義博
    2016 年 16 巻 4 号 p. 4_66-4_79
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/03/31
    ジャーナル フリー
    新潟県中越地域に展開された観測点間隔5 km~10 kmの高密度地震観測網により観測された東北地方太平洋沖地震の記録の分析を行った。加速度波形は、太平洋側の宮城県・福島県とは異なり特徴的なパルスを持つ波群はなく、丘陵部で10~20 cm/s2、平野部で30~40 cm/s2である。加速度フーリエスペクトルは、高周波成分が小さく1 Hz以下の振幅が大きい。また、0.1 Hz以下はほぼ同一でNS成分の0.02 Hz、EW成分及びUD成分の0.04、0.06、0.08 Hzに共通のピークが認められる。0.1~2 Hzのスペクトル振幅は、平野部で周辺丘陵部の約5倍である。速度波形ではEW成分及びUD成分に二つの明瞭なパルスが確認される。最大加速度、最大速度は、丘陵部で小さく平野部で大きく大局的には地形と対応がよく、AVS30との相関も確認できる。ただし、最大速度は既往の知見よりAVS30に対する傾きが小さく低周波数側の影響が示唆される。また、周期5秒、10秒の加速度応答(減衰5%)は、地形よりも地震基盤深さ分布との相関が見られ、厚い堆積層の影響も示唆される。
  • 佐々木 隆, 伊藤 壮志
    2016 年 16 巻 4 号 p. 4_80-4_92
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/03/31
    ジャーナル フリー
    1995年1月17日の兵庫県南部地震を契機として大規模地震時における土木構造物の安全性の確保に対する社会的要請は非常に高くなり、当該地点で現在から将来にわたって考えられる最大級の強さを持つ地震動(レベル2地震動)に対する各種土木構造物の安全性の評価に関する調査研究が各分野で精力的に行われている。そのような中、ダムサイトにおけるレベル2地震動の評価の目的のため、ダム基礎部で観測された地震記録に基づく地震動距離減衰式が提案されてきている。 本論文では2011年3月11日に東北地方太平洋沖地震(MW9.0)で観測された地震動をも考慮した最新の加速度応答スペクトルの距離減衰式の概要と実地震動との適合性を検討した結果を報告するものである。
  • 野口 科子, 佐藤 浩章, 笹谷 努
    2016 年 16 巻 4 号 p. 4_93-4_105
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/03/31
    ジャーナル フリー
    2011年東北地方太平洋沖地震の際に強震動に見舞われた3箇所のボアホール強震観測点について、東北沖地震本震とその前後数年間の地盤応答特性の経時変化を、地盤の非線形応答の簡易的な定量的指標DNLを用いて調べた。3箇所共に本震時には強い非線形応答がみられた。本震の際の最大加速度が共に1 Gを超えたMYGH10とTCGH16では、本震後のDNL値の低下やスペクトル比の回復においてMYGH10の方がTCGH16より早かった。これは地盤構造の違いに起因すると考えられる。また、最大加速度は上記2箇所より小さいが、本震時にスパイク状の波形が観測されたFKSH14は、TCGH16と同様に本震後のDNL値の低下やスペクトル比の回復が遅かった。この2箇所の地盤応答特性は、3年近く後の2014年末でも本震前の状態に完全には戻っていない。この結果は、当該地点での地盤構造が、本震前の地盤構造とは異なる状態のままであることを示唆する。以上の検討に基づき、強震動予測において重要となる地盤応答特性の地震動レベルによる変化とその回復を大量・長期間のデータを用いて定性的ながら簡便に求める手法として、DNLの有効性が確認された。
  • 野津 厚
    2016 年 16 巻 4 号 p. 4_106-4_125
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/03/31
    ジャーナル フリー
    海溝型巨大地震などの想定地震に対する強震動予測を行う場合に、表層地盤の非線形挙動の影響を考慮することは重要である。著者らは既往の研究において多重非線形効果の概念を提案し、これを考慮できる簡便な強震動シミュレーション手法として、「堆積層における平均的なS波速度の低下率」と「堆積層における平均的な減衰定数の増分」を表す二つのパラメター(ν1とν2)を用いる方法を提案している。ただし、表層地盤の非線形挙動の影響を受けた強震記録がこれまで限られていたことなどから、多重非線形効果の観測事実に基づく検証と手法の検証は断片的なものに留まっていた。そこで、本研究では、東北地方太平洋沖地震がもたらした数多くの強震記録を活用し、上述の方法による強震動シミュレーションを行い、多重非線形効果の検証と簡便法の有効性の確認を行った。その結果、検討したいずれのケースにおいても、多重非線形効果に起因すると考えられる卓越周波数の低下と後続位相の継続時間の短縮が観測波形に認められ、また、これらの効果に対応する二つのパラメターを考慮することにより、表層地盤の非線形挙動を考慮しない場合よりも観測記録の再現性は向上した。また、得られた結果に基づき、予測問題におけるパラメター設定方法についても検討を行った。
  • 田中 浩平, 津野 靖士, 山中 浩明, 地元 考輔, 片岡 俊一
    2016 年 16 巻 4 号 p. 4_126-4_141
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/03/31
    ジャーナル フリー
    2011年東北地方太平洋沖地震において、強震観測網Small-TitanのCCHG観測点で、震度7相当となる大振幅速度波形(水平2成分合成142kine)が観測された。本論文では、2011年東北地方太平洋沖地震のCCHG観測点で見られた地震増幅特性の整理を行った。CCHGの地震増幅特性を把握するために、CCHG観測点のS波速度構造の推定を目的としたアレー微動観測を実施した。その結果、得られた速度構造から、地盤が線形とみなせる程度の地震動における増幅を説明するためには、工学的基盤以深の深部地盤における増幅を考慮する必要があることを示した。続いて、推定された速度構造をもとに東北地方太平洋沖地震の本震記録の再現を試みたところ、深部地盤の影響を考慮しても、線形解析では観測されたフーリエ振幅スペクトルを説明できないことがわかった。このことから、CCHG観測点において強震時に表層地盤の非線形化が起きている可能性を示唆した。
  • 地元 孝輔, 津野 靖士, 山中 浩明
    2016 年 16 巻 4 号 p. 4_142-4_154
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/03/31
    ジャーナル フリー
    2011年東北地方太平洋沖地震では、茨城県内において、震源断層の南端部に近い太平洋沿岸のK-NET日立やK-NET鉾田で1000cm/s2を優に超える最大加速度を記録し、栃木県境のKiK- net岩瀬においてもほぼ1000 cm/s2の最大加速度を記録した。しかし、それらのあいだに位置する茨城県中部の東茨城台地では強震観測点が少ないため、本震記録が得られておらず、また地下構造も十分に明らかではないため、余震観測と微動観測によって、同地域の地盤震動特性を評価する。余震観測記録は、露頭基盤である台地西部に比べて、台地東部と台地中央で大きくなっている。そこで、S波速度構造モデルを推定したところ、地震基盤は台地の西から東に向かって徐々に深くなる一方で、表層地盤は台地中央で深くなっている。それにより、東茨城台地における地盤震動特性は、表層と深部地盤によって異なる特徴を示す。台地西側では短周期で卓越するが、台地中央では周期1秒程度で卓越し、台地東側では長周期と短周期で卓越するため、地震動が大きくなることがわかった。推定されたモデルによる地盤増幅特性と、余震記録によるスペクトル比を比較したところ、両者は類似した。
  • 金田 一広, 中井 健太郎, 野田 利弘, 浅岡 顕, 澤田 義博
    2016 年 16 巻 4 号 p. 4_155-4_166
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/03/31
    ジャーナル フリー
    東北地方太平洋沖地震では東京湾沿岸域の埋立て地盤で広範囲な液状化被害が発生した。今後発生する巨大地震に対して液状化対策を行う上で、今回の地震被害について検証する必要がある。このような地盤変状について再現シミュレーションをするためには地盤情報と入力地震動の評価が重要であるとともに、複雑な現象を再現することのできる弾塑性有限変形解析が必要である。本研究では土骨格構造の働きを記述できる弾塑性構成式(SYS Cam-clay model)を用いて、まず、浦安地区で詳細な地盤調査を実施し、地盤物性の把握と共に弾塑性パラメータの同定を行った。次に、太平洋沖地震で観測された液状化の発生がみられず比較的非線形の影響が小さいと考えられるK-NET浦安の地表面加速度を取り上げ、この構成式を搭載した有効応力解析コードGEOASIAを用いて、EW、NS両方向の観測波を同時に再現するように基盤上昇波を伝達関数法によって推定した。
  • 小阪 宏之, 松島 信一, 長嶋 史明, 川瀬 博
    2016 年 16 巻 4 号 p. 4_167-4_183
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/03/31
    ジャーナル フリー
    本論文では(国研)港湾空港技術研究所の港湾地域強震観測網の仙台の観測点敷地内に於いて、多チャンネル表面波探査(MASW)法による計測を行い、ボーリング調査による地下構造が公開されているボアホール強震観測点における表層地盤のS波速度構造を求め、ボーリング調査による構造と比較した。また、観測点の敷地内の複数の地点において微動観測を行い、敷地内の各観測点について微動H/Vスペクトル比を算出した。MASW解析結果及び各地点の微動H/Vスペクトル比の結果より、観測点の敷地内はおおよそ水平成層構造であると見なせることが分かった。次に、拡散場理論に基づいた地震動のH/Vスペクトル比及び地表観測点と地中観測点の間で得られた地震動記録の水平動伝達関数をターゲットとして地下速度構造のインバージョンを行い、既往調査の結果を尊重して探索範囲を限定したため、最適解ではないものの与えた条件下において観測記録(地震動H/Vスペクトル比と地表/地中スペクトル比)をより良く説明できる速度構造が推定できた。
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