同一観測条件における地震動の再現性という観点から、マグニチュードと震源距離がそれぞれ等しい2地震を同一地点で観測した加速度記録ペアをもとに地震動応答スペクトルの自然対数についてばらつきの標準偏差を調べた。検討にあたっては、観測地震動におけるスペクトル振幅のばらつきを、観測方向成分によるばらつきと地震によるばらつきの2種類のばらつきの和であらわされるものと仮定し、これらを独立な確率要素とする'random effects model'(Brillinger and Preisler, 1984) を用いて周期毎にばらつきの標準偏差を求めた。東北地方南部太平洋側~関東南部の12地点における275組の加速度記録ペア (M=3.6~6.7、X=16~198km) を用いた解析によれば、観測方向成分によるばらつき、地震によるばらつき、全体のばらつきの標準偏差は短周期領域でそれぞれ0.23, 0.43, 0.49であった。しかしながら、震源地が異なるかあるいは深さが20km以上違う17のデータペアを除いて再評価したところ、観測方向成分によるばらつきの標準偏差は変わらず地震によるばらつきと全体のばらつきの標準偏差のみそれぞれ0.38, 0.44となった。震源地を限定することにより全体のばらつきの標準偏差が0.05程度減少したことになる。また、これらの結果を中村・八代 (2000) が評価した震央からの方位によるばらつきの標準偏差と比較して、地震によるばらつきの標準偏差を破壊伝播方向によるばらつきの標準偏差と方位によらない震源放射のばらつきの標準偏差に分解したところ、両者は短周期領域でそれぞれ0.20, 0.32と見積もられた。短周期地震動については震源における地震波励起特性の違いがばらつきの最大要因となっているものと考えられる。
抄録全体を表示