日本地震工学会論文集
Online ISSN : 1884-6246
ISSN-L : 1884-6246
16 巻, 5 号
特集号「巨大都市における地震・水害等による複合災害対策の現状と課題」
選択された号の論文の15件中1~15を表示しています
巻頭言
総説
  • 永野 正行, 肥田 剛典, 田沼 毅彦, 中村 充, 井川 望, 保井 美敏, 境 茂樹, 森下 真行, 北堀 隆司, 上林 宏敏
    2016 年 16 巻 5 号 p. 5_2-5_11
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/04/25
    ジャーナル フリー
    2011年東北地方太平洋沖地震以降、超高層集合住宅で強震観測を実施している企業の担当者を中心に『超高層集合住宅地震観測合同研究会』を立ち上げ、強震記録の分析、シミュレーション解析を進めてきた。同時に、首都圏で得られた地表地震記録の収集・分析、居住者を対象とした室内被害のアンケート調査、微動計測、振動台搭乗実験等を実施し、強震下の超高層集合住宅の挙動と室内被害の解明、動特性把握と大地震時の被害推定に向け取り組んできた。得られた資料は、今後発生が予測される南海トラフの海溝型巨大地震、都市直下の内陸地殻内で発生する大地震後の、超高層集合住宅を対象とした即時被災度判定、復旧対策等への活用が期待される。
  • 久田 嘉章
    2016 年 16 巻 5 号 p. 5_12-5_21
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/04/25
    ジャーナル フリー
    本論では首都東京を事例とする震災と水害による都市型複合災害の現状と課題を整理し、将来に向けた対応策を検討した。首都圏では2011年東日本大震災における大混乱の経験を経て、国や自治体による首都直下地震などを想定した様々な被害推定が行われ、甚大な災害が推定されている。但し、防災目的の想定結果とは異なり、歴史上のM7級の首都直下地震の大多数は中小規模の災害であることに注意が必要である。一方、今後は震災だけなく、水害(津波・洪水・高潮・内水氾濫)が連続して発生し、大群集の避難に伴うパニックなど最悪な状況を想定した都市型複合災害への対応も必要となっている。事例として新宿駅と北千住駅の周辺エリアを対象として、震災と水害に関する対策の現状と課題を整理した。今後の対策として著者がかかわった関連学会の委員会で検討が行われており、事前対策として災害をできるだけ出さない「逃げる必要のない建物・まち」を目指すとともに、万が一の災害が生じた事後の対応力・回復力の向上が必要となる。そのためには、高い耐震性能に加えて、可能性の高い中小被害から万が一の過酷な災害まで柔軟な対応力を有するレジリエントな都市型施設とまちづくりが求められている。
  • 加藤 孝明
    2016 年 16 巻 5 号 p. 5_22-5_32
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/04/25
    ジャーナル フリー
    大都市域において地震火災による想定被害は大きいとされる.本稿では,既存の地震火災危険の評価方法を用いて最近の大都市域の地震火災リスクを確認した上で,昭和40年代から始まる地震火災対策の到達点,課題を整理した.更に今後の対策,および,研究の方向性について議論を行った.現行の地震火災対策は一定の成果を収めているものの,地震火災の延焼被害の可能性が未だ高いことと,さらに同時多発延焼火災を要因とした大量死に至る可能性があること,その可能性の定量化,大量死発生のメカニズムの解明,それへの対処方法の検討が現在の技術レベルで可能であることを紹介した.
論文
  • 上林 宏敏, 永野 正行, 釜江 克宏, 川辺 秀憲
    2016 年 16 巻 5 号 p. 5_33-5_45
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/04/25
    ジャーナル フリー
    地震観測や微動観測による動特性が評価されていない大多数の超高層RC造を対象に、強震時における損傷度(最大変形や剛性低下率)を簡易に評価できる指標を提案した。擬似速度応答スペクトル(pSv)の平均値(1.25T0∼2.25T0における平均値;T0は初期剛性時の固有周期)が等価一質点系弾塑性モデルによる最大層間変形角と高い相関を持つことを想定南海地震による大阪平野の予測波を用いて確認した。提案したpSvの平均値と最大層間変形角間の関係式を用いることによって、大地震時に建物周辺地盤で得られた強震記録やシミュレーションによる再現波から建物の損傷度が評価できる可能性がある。なお、本検討ではできるだけ現実に近い動特性モデルを設定するため、骨格曲線の第2勾配までを制御するパラメータに、平成7年兵庫県南部地震と平成23年東北地方太平洋沖地震時の複数の超高層RC造の強震観測記録に基づく回帰分析から導かれた値を適用した。
  • 高田 和幸, 藤生 慎, 大原 美保, 山下 倫央, 金野 貴紘
    2016 年 16 巻 5 号 p. 5_46-5_55
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/04/25
    ジャーナル フリー
    2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震による甚大な被害の発生を受け、震災・津波等に対する防災対策が見直されると共に、災害による被害最小化を図る減災に対する取り組みが今まで以上に求められるようになった。また異なる災害の被災リスクが同時に高まる複合災害への関心も高まり、その対策の必要性が叫ばれている。そこで本研究では、震災と水害という異なる災害の危険度が高い「足立区千住地区」を研究対象地区に設定し、当地区の居住者に災害避難に関するアンケート調査を行い、その中で、仮想的な災害の状況を提示し、その状況下における避難意識に関する選択実験を行った。また選択実験の結果を用いて、避難に関する選択行動モデルを推定した。さらに異なる災害の状況を設定し、各状況下における避難者数等の推計した.
  • 大原 美保, 姜 菲
    2016 年 16 巻 5 号 p. 5_56-5_68
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/04/25
    ジャーナル フリー
    地震災害時における被災者の「避けられた死」を無くすためには、重傷者を迅速に災害拠点病院に搬送し、適切な医療対応を行う必要がある。本研究では、首都直下地震時の建物被害による道路閉塞・火災・渋滞を考慮した上で、道路ネットワークを用いて重傷者の病院への搬送のニーズを推計した。重傷者を一定時間内に車で病院に搬送することができるエリアを「病院への到達圏」と定義し、被災状況に応じた到達圏を分析することにより、重傷者の搬送が困難になり得るエリアを特定した。これらの定量的な分析を通して、起こり得る災害状況に基づいた災害医療対応計画の提案を行った。
  • 大原 美保, 藤生 慎, 高田 和幸
    2016 年 16 巻 5 号 p. 5_69-5_82
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/04/25
    ジャーナル フリー
    東日本大震災以降、地震や水害だけでなく、複合災害への対策に関する検討の必要性が指摘されている。本研究では、地震、水害及び複合災害のリスクの高い東京都足立区千住周辺地区を対象として、地域住民及び通勤通学者の災害時の避難意向に対する意識調査を行った。当該地域の人々の災害リスクの認知状況や災害時に想定する避難方法を把握するとともに、居住または通勤通学する建物の特性等や災害事象の程度に応じて避難行動の意向が異なることを明らかにし、これらの差異を踏まえた避難計画が必要であることを示した。
  • 板垣 修, 松浦 達郎, 服部 敦
    2016 年 16 巻 5 号 p. 5_83-5_92
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/04/25
    ジャーナル フリー
    本論文は、地震と洪水の複合災害を対象として、被害低減対策ごとの被害低減効果の特性について分析し、対策検討上の留意事項を抽出することを目的とする。分析に当たっては、国土交通大臣直轄管理河川を念頭に設定した延長約60kmのモデル河川において、地震・洪水規模、両者の生起間隔、対策ケースを変化させた計120ケースについて直接被害額及び死者数を試算した。本成果を活用することにより複合災害時の被害低減対策についてより具体的に検討できるようになると著者らは考えている。
  • 持尾 隆士, 北原 至博
    2016 年 16 巻 5 号 p. 5_93-5_110
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/04/25
    ジャーナル フリー
    市街地において巨大地震の発生後には、人々には広域避難場所等への迅速な避難が要求される。しかし巨大地震発生直後には、火災や建物の倒壊等により必ずしも事前に決められている避難場所に避難できるとは限らない。特に現地の地形等を知らない旅行者・出張者等は自身の判断のみで避難場所(と思われる所)に集まる可能性がある。この結果、防災計画では想定していなかった一部の避難場所のみへの集中避難で受入許容量を超え、他の避難場所へ一部の避難者を移動させねばならない緊急事態が発生する可能性がある。他方、避難場所に無事避難していたが近辺で新たな大火災が発生し、他の避難場所へ移動せねばならない緊急事態が発生することも考えられる。この際には、新しい避難経路設定が必要となるが、膨大な組み合わせ経路の中からリアルタイムで最適避難経路を再探索することは、計算機の能力上、大きな負担となる。そこで、通信網や電力の全面ダウンとなる想定外事象も念頭に置きつつ、全経路の評価を行うこと無しに最小限の計算時間で最大の効果(厳密解もしくは厳密解に近い最適避難経路を発見すること)を得るために生体の優れた機能(群知能)を援用した新たな解析手法を提案している。開発した解析手法による試計算では大幅な計算時間短縮が可能であることを示唆している。
  • 廣井 悠, 大森 高樹, 新海 仁
    2016 年 16 巻 5 号 p. 5_111-5_126
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/04/25
    ジャーナル フリー
    本研究は首都圏を対象として大都市避難シミュレーションを構築し、東日本大震災時における首都圏滞在者の移動データを利用して作成した帰宅意思モデルを用いて、帰宅困難者対策の量的評価を行うとともに、災害時における混雑危険度指標を提案するものである。この結果、首都圏において仮に大規模災害時に帰宅困難者の一斉帰宅が行われると、6人/m2を超える密集空間の道路延長距離は東日本大震災の約137倍となることや、このような歩道の混雑を低減するためには就業者の一斉帰宅抑制がより効果的であること、車両の平均移動速度が3km以下となる車道の渋滞は比較的長期かつ広域に発生することが判明した。
報告
  • 鱒沢 曜, 久田 嘉章, 村上 正浩, 新藤 淳
    2016 年 16 巻 5 号 p. 5_127-5_138
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/04/25
    ジャーナル フリー
    本論文では、新宿駅周辺地域における地震時の災害対応力を高める教育訓練プログラムに触れ、2013年に新宿駅西口エリアの超高層ビル街で行われた総合防災訓練における傷病者対応の実践事例について報告した。著者らは、新宿駅周辺エリアにおける事業者等が参加する新宿駅周辺防災対策協議会の活動および平成25年度に実施した教育訓練プログラムの概要を紹介した。そして著者らは、2013年に新宿駅周辺防災対策協議会が新宿駅西口エリアで実施した総合防災訓練の概要を示したうえで、超高層ビル街における地震災害を想定し、事業者、医療者および関係機関が連携して行われた傷病者対応訓練について報告した。
  • 本橋 直之, 鱒沢 曜, 田中 聡, 久田 嘉章, 水越 熏, 中嶋 洋介, 宮村 正光, 諏訪 仁
    2016 年 16 巻 5 号 p. 5_139-5_158
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/04/25
    ジャーナル フリー
    多数のテナント事業所が入居する超高層テナントビルを対象に、地震災害時の初動期における衛消防組織を活用した建物被害確認・情報集約手法を提案し、非建築専門家でも調査が行えるよう設計したチェックシートおよび携帯情報端末ツールを開発した。まず、地震災害発生後に行われる主な建物被害調査を比較し、発災直後から数時間を目安とする災害対応の初動期における調査の位置づけを示した。次に、テナント入居者および建物管理者による災害対応初動期における建物被害確認の流れを提案した。さらに、建物被害の確認と情報集約の手法として、紙版チェックシートを用いた手法と携帯情報端末(iPad)ツールを用いた手法を提案した。そして、新宿駅西口地域で行われた地震防災訓練に検討した建物被害の確認と情報集約の手法を適用し、その有効性の検証を行い、訓練結果や参加者の意見より抽出された主な課題を示した。
  • 新藤 淳, 村上 正浩, 久田 嘉章
    2016 年 16 巻 5 号 p. 5_159-5_176
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/04/25
    ジャーナル フリー
    近年、大都市の中心市街地における共助の仕組みであるエリア防災が注目され、新宿駅周辺地域においても、国の制度を活用して新宿駅周辺地域都市再生安全確保計画が進められている。その中で、西口現地本部は災害発生時の地域の中心的な活動拠点として位置づけられている。本報では、国際標準に則った西口現地本部の機能、役割及び訓練の推進を目的として、災害・危機対応に関する国際規格(ISO22320)を活用した検証を行なった。本研究により、都市再生安全確保計画に基づくエリア防災活動を推進するにあたっての、課題や今後の方向性を明確にすることが出来た。
寄稿
  • 伯野 元彦
    2016 年 16 巻 5 号 p. 5_177-5_182
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/04/25
    ジャーナル フリー
    近い将来、関東南部に、M7クラスの直下地震が予想され、特に都心にひどい被害を与える仮想の地震、都心南部直下地震を想定し、その被害が内閣府によって発表された。それによると、都心の一部は、震度7, 6強という激しい揺れに襲われ、山手線の外側ドーナツ状地域の北側半分は老朽木造家屋密集地のため、倒壊、火災が多く、火災による死者は16000人に達し、家屋倒壊などによるものを含めると全体としての死者は23000人となるという。そして地震翌日でも、帰宅困難者は800万人にのぼり、交通は新幹線、地下鉄が1週間、JR在来線、私鉄が1か月ストップと大変な被害となる。一方、2020年には東京オリンピックが開かれるが、この開催中に地震が起こっても外国人観光客の安全を特に考えなければならない。また、開催の3年前より後に起こると、オリンピックの開催そのものが地震災害のため不可能となるのではないかと心配される。地震慣れした日本人すら23000人も死ぬのである。地震の経験のない外国人観光客の安全を図るには大いに頑張らなければならない。
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