南米ペルー共和国の古代神殿建造物と推定されている複数の遺構では、「シクラ」と呼ばれる“植物繊維の籠で包まれた礫”を積層して基壇を構築し、その上に神殿が建造されていたと考えられている
1)。著者らは、この基壇内に用いられる積層されたシクラの一部をモデル化した試験体による振動台実験を実施し、個々のシクラが回転運動を起こすことで地震応答加速度を低減させる、免震構造のような効果を有している可能性について報告した
2)。本研究では、このような古代の基礎構造が有する地震応答低減効果の再現性と安定性について調べ、今から約3,500~5,000年前
1, 3)に用いられた古代技術の工学的な意義について検討することを目的とする。そのため、シクラの製作および積み方のランダム性や入力地震波の種類などいくつかの変動因子を設定し、これらの条件が変わることによる結果への影響と効果のばらつきを調べるための振動台実験を実施した。本実験の結果より以下の知見が得られた。1)シクラを用いた基礎構造が有する応答加速度の低減効果は、何れの実験においても再現された。振動台実験のビデオ解析からは、球形のシクラがある加速度以上になると回転を始める現象が確認された。これは、転がり支承を用いた免震構造と同様な機構であり、このことが応答加速度の低減効果をもたらしたと考えられる。2)シクラは、個々の大きさや形状が揃っておらず形も完全な球とはいえないことから、人手にのみ頼るシクラの製作や基礎構造の施工に起因する実験結果のばらつきについて調べた。その結果、本実験においては基壇上に生じている加速度平均値の±25%に納まっており、応答加速度低減の現象は比較的安定して再現されることが分かった。3)本実験では、振動台上の加速度が大きくなるに従って基壇上の応答加速度の低減効果が大きく、例えば正弦波で加振した場合は、振動台上の加速度が4.0m/s
2のとき基壇上の加速度は約76%の3.05m/s
2程度、6.0m/s
2のときは約63%の3.8m/s
2程度であり、振動台上の加速度が6.0m/s
2よりさらに大きくなっても、基壇上の加速度は4.0m/s
2で頭打ちを示した。一方、地震波をイメージしたランダム波で加振した場合は、基壇上の応答加速度は振動台上の加速度の約40~80%となり、正弦波の場合よりもさらに大きな低減効果が見られた。
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