この研究の発端は乳幼児・高令者が災害弱者と総称されている一方で、その実態が判然としないままとなっていることに疑問を持ったことにある。この疑問解消への手始めとして、いくつかの地震・津波襲来時の死者発生状況について年令区分別に詳しく調べた。その結果、主な出現パターンが4種類あることが判った。すなわち、通例のように横軸を年令軸、縦軸を死亡率とする座標上でみると、英語大文字のU字型、J字型で代表される年令依存性の高いもの2種類と、年令依存性のほとんどないFlat型のもの2種類である。Flat型の一つは死亡率が低く年令依存性が現れるには至らないもの(F
low)、他の一つは被災域のほぼ全員が死亡という極端ケース(Fextreme)である。こういった整理の中で、2011年東日本大震災に伴う死者がJ字型パターンをなすことを確かめた。次に、各パターンの形成と推移関係について考察した。考慮したのは入力側で地震動(津波)強度、発生年代・時間帯等であり、受け手の側としては被災域がもつハード・ソフト両面の防災対応力の強弱に加えて人間自身がもつ行動能力の年令等依存性である。その結果、死亡率を左右するものとしては、入力側の強度が特に大きいが、受け手側の諸特性によるところも大きく、出現形態は多様である。すなわち、死亡率は先ずF
low型で始まり、防災知識・対応力が「無」の場合U字型となり、一方「有」の場合はJ字型となる。しかし、入力がさらに強くなるとU字型は勿論、J字型も最悪の場合にはFextreme型へ移行する恐れがある。こういった分析結果は防災対策、特に死者の低減を考える際に不可欠な基本知見となる。
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