神経筋疾患の病態は神経筋系統・呼吸器のみならず多臓器に及んでいる.またその一部である呼吸器の病態も単に換気量の不足のみではなく複雑である.したがって神経筋疾患の呼吸管理は全身視野で行われる.<br> この分野の向上は,障害をもつ人々とともに暮らすこの社会の文化的成熟度の物差しである.本人・家族・社会全体が自然の形で喜べる姿で神経筋疾患症例の予後の改善・QOLの改善へ努力することが呼吸器病学の底上げ,社会の成熟化のテコになるものと信じている.
気道クリアランスの方法には種々の方法があげられ,最も用いられている方法には体位排痰法がある.しかし,その科学的根拠はどの程度あるか明らかにされていない.そこでEBMの立場から気道クリアランスの諸法のメタ分析を行った結果,古典的な体位排痰法は有効であるとはいえなかった.また,排痰手技の比較ではpercussionよりもsqueezingの方が有効であり,排痰の生理学からみればより望ましい方法である.
運動療法を中心とした欧米の呼吸リハビリテーションでは,呼吸機能や動脈血ガスは改善しないが,呼吸筋機能,運動耐容能,HRQLは改善している.それに比べ,われわれの研究では,呼吸機能,動脈血ガス,呼吸筋機能,運動耐容能においても改善を認めた.その理由として,呼吸筋力,胸郭可動域の改善に伴う肺メカニクスの改善と,それに伴う運動耐容能の改善をあげることができる.また,呼吸リハビリテーションの効果は栄養状態に関連していることが示唆され,包括的呼吸リハビリテーションプログラムの中では呼吸理学療法,栄養療法が重要な構成要素であると思われ,わが国における呼吸リハビリテーションガイドラインの確立が必要である.
慢性呼吸器疾患における呼吸困難感に対してどのような治療が実施されているのかの現状を検討するため,東京都内の病院(356施設)にアンケート調査を行った(回収率33.4%).1)治療に苦慮する疾患では慢性閉塞性肺疾患が最も高頻度であった(79%).2)呼吸困難治療における各治療の割合は,酸素療法が最も高頻度になされていた(77%).3)呼吸困難度の客観的評価は十分になされてはいなかった.<br> 本邦における呼吸困難に対する治療は第一線医療機関では酸素療法が中心となっており,包括的な治療として実施されていないと考えられた.
運動負荷は運動制限因子の決定に役立ち,運動制限因子が何であるかにより運動リハビリテーションの内容は決定される.肺気腫に運動負荷をさせ運動制限因子を検討した結果,換気能のほかO2-Pulseが制限因子であった.すなわち肺が過膨張であることが運動を制限していた.このことよりリハビリテーションは呼気の筋力を訓練することと考えられた.
高齢者で鼻マスク式非侵襲的陽圧呼吸を導入した10症例に対し,導入1ヵ月後に訪問を実施し,在宅療養の問題点を検討した.1)全症例において継続して実施されていた,2)機器の管理に関し,理解力の低下例がみられ,機器の不適切な使用による実施中の不快感が増加した,3)導入により患者のQOLの改善はみられず,介護者への負担が増加する症例が認められた.以上より,高齢者では在宅にの反復指導および患者および介護者への支援体制の確立が必要であることが示唆された.
藤田保健衛生大学病院に入院中のCOPD症例と非COPD症例に対し,共通の呼吸リハビリテーションプログラムを施行し,その肺機能に対する効果を比較した.その結果,COPD症例ではリハビリ前後で肺機能は不変であったが非COPD症例では肺活量が増大した.この増大は総排気量の増大によるものであり,トレーニングによる胸郭の拡張性の改善が影響しているものと考えられた.