睡眠時無呼吸症候群の病態の特徴は,繰り返す上気道閉塞と間欠的低酸素血症である.間欠的低酸素血症は,NF-κBの増加など細胞に炎症を,生体にインスリン抵抗性を惹起する.これらは血管内皮細胞傷害を引き起こし,動脈硬化病変の形成を招く.睡眠時無呼吸症候群は,肥満を伴わない場合でも高血圧症,耐糖能異常,脂質代謝異常を惹起し,メタボリックシンドローム成立の危険因子になりうる.
わが国の看護師の結核発病リスクはその他の職業よりも約4倍高いとされており,検査技師,解剖従事者は看護師以上にリスクが高いとされている.医療現場での結核感染の増加には,塗抹陽性高齢者結核患者の増加,若い医療従事者の大半が結核未感染,結核診断の遅れ,気密性の高い施設構造,気管内挿管やネブライザーなどの処置の増加などが関与している.結核の院内感染を防止するには,結核菌の感染成立の連鎖を念頭に置いて,結核患者の早期発見と隔離,患者のマスク着用,咳エチケット,病院内での十分な換気,必要に応じた紫外線殺菌灯の設置,細菌検査室での安全キャビネット,必要な場面でのN-95マスクの着用,クォンティフェロンTB,胸部X線撮影などを用いた医療従事者の健康管理,などの総合的な対策が必要である.
禁煙指導はヘルスプロフェッショナルの重要な役割であり,日常診療の場で医師はすべての喫煙患者に対して禁煙を強く勧めるべきである.禁煙のための介入方法として,欧米では5Aのアプローチと5Rによる動機づけが推奨されているが,日本語で対応させた「たちつてと」と「かきこけく」がある.これらの手順に従えば比較的容易に患者の禁煙指導ができると思われる.禁煙指導に保険が適用されるようになったことでもあり,今後ますます禁煙治療を実施する医療機関が増えることを期待する.
問診とバイタルサイン,身体所見は効率的な診断,治療に直結する.基本的に急性の症状はバイタルサインに,慢性期の病態は身体所見に反映される.たとえば頚部の呼吸補助筋が発達しておれば肺気腫の可能性が高い.肺野でクラックルを一部分で聴取すれば肺炎の合併,両側の肺底部で左右対称に聴取すれば間質性肺炎の可能性が高い.四肢末梢の皮膚温で心拍出量も推定できる.このような観察で必要な検査や処置の選択もすみやかにできる.
大学生1406名を対象に,喫煙行動,喫煙に関する知識・態度について,集団調査法による無記名自記式質問紙調査を実施した.大学生の喫煙行動は性別・年齢・家族や友人の喫煙の影響,喫煙に関する知識は現在の喫煙行動・大学での専攻の影響,喫煙に対する否定的態度は現在の喫煙行動・大学での専攻・友人の喫煙の影響を受けていた.大学生への喫煙防止教育では,知識の提供や喫煙に対する否定的態度の育成については専攻別に内容や方法を検討し,友人の喫煙への対処の技術を組み込む必要があることが示唆された.
慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者において禁煙は重要である.今回,呼吸リハビリテーションプログラムに参加した30名のCOPD患者への禁煙支援を医療ソーシャルワーカーが行い,退院後の禁煙継続の追跡調査を行った.その結果,1年禁煙率は,男性75%,女性50%であり,そのうち,ニコチン代替療法を利用したものは40%であった.また,家族へのアプローチを試みた9名については,全例,1年後の禁煙が継続できた.
大学病院でスパイロメトリーが施行された40歳以上の患者で,すでに定期通院しているCOPDおよび喘息を除く1657例のうち,閉塞性換気障害を認めた者は内科系診療科受診患者の19.4%,外科系診療科受診患者の12.8%で,中等症以上が48%を占めた.外科系診療科からの依頼は消化器外科・整形外科の比率が高かった.アンケートの回答が得られた患者のうち,31%は全く呼吸器症状を認めず,併存疾患では高血圧症が最も多かった.
NESWTのプロトコル確立を目的にCOPD患者を対象に再現性を検討した.その結果,3回のNESWTで歩行時間のTest 1 vs 2,Test 1 vs 3にのみ有意差を認めた.各歩行時間の差の平均はTest 2 vs 3で5.1秒となり,95%信頼区間に0を含んだ.ICCはそれぞれ強い相関関係を示した.よってNESWTは2回目から高い再現性が得られることが示された.
安定期COPD患者の吸気筋トレーニングにおける呼吸困難について,酸素摂取量と換気指標を用いて検討した.その結果,酸素摂取量は安静時と比較して40%PImaxで約1.4倍に有意に増加し,呼吸困難は負荷圧の増加とともに有意に強くなった.よって,安定期COPD患者の吸気筋トレーニングにおいて,酸素摂取量の増加は軽度であるが,呼吸困難を考慮したプログラムを立てる必要性があることが示唆された.
慢性呼吸不全患者に対する栄養指導においてはカロリー補給を目的としたやせ型への指導に重点がおかれているが,臨床の現場では肥満型症例や高齢者に特有の合併症など患者はさまざまな悩みを抱えている場面を経験する.今回,栄養に関する悩みアンケート調査を実施した結果,食欲不振や体重減少といった悩み以外にも疲労感,骨粗鬆症,からだの冷え,かぜ予防,貧血など多彩な栄養上の問題点を患者自身が意識している実態が判明した.本調査によってBMIに応じたさまざまな悩みに対する柔軟な栄養指導の必要性が再認識された.
冬季のCPAP(continuous positive airway pressure)使用中の結露の実態と,結露がCPAP治療に及ぼす影響を知るため,当院にてCPAP治療中の患者にアンケート調査および結露の有無によるCPAPアドヒーランスデータの比較を行い検討した.その結果,冬季には結露を問題とする患者が約半数を占め,アドヒーランスデータの比較からも結露による冬季の平均使用時間の低下が有意にみられた.結露がCPAP治療に影響を及ぼしていることが明らかになった.
高齢者への非侵襲的陽圧換気療法(NPPV)の有効性について報告する.対象は80歳以上の呼吸性アシドーシス患者16例.救命率は62.5%(10/16)で,グラスゴー・コーマ・スケールが7以上,APACHE Ⅱ SCOREが25点以上が救命成功予測因子と考えられた.80歳以上の高齢者の呼吸性アシドーシスでは意識状態が良く,重症度が低い場合,NPPV治療は有効であると考えられる.
国立病院機構施設に入院中の神経筋疾患および重症心身障害の長期人工呼吸例に関する調査を平成16年7月~平成19年12月に計4回実施した.患者数は最終的に84施設に2316例で,3年間で約300例増加していた.最終調査では,筋ジストロフィーが最も多く1157例(入院患者の59.5%),以下,筋萎縮性側索硬化症494例,重症心身障害児・者398例,その他の神経疾患267例であった.長期人工呼吸患者増加率は3年間で筋ジストロフィーでは103.9%,筋萎縮性側索硬化症120.5%,重症心身障害児・者150.2%であり,特に重症心身障害児で年少者の増加率が著明であった.
呼吸筋トレーニングに関する国内外の臨床研究について,システマティック・レビューを行った.レビューに際しては,比較対照試験(RCT)であること,対照群があること,呼吸筋に対する適切な負荷方法でトレーニングが行われていること,適切な生理学的評価が行われていることの4点を評価基準にした.その結果,COPDにおける呼吸筋トレーニングの効果は,呼吸筋力・呼吸筋耐久力の増加に関しては確実であり,高負荷の呼吸筋トレーニングでは運動耐久力の増加と呼吸困難の改善が得られ,健康関連QOLの改善に関しては呼吸筋トレーニング単独では疑問であると考えられた.健康関連QOLの改善に関しては,呼吸筋トレーニングと他の運動療法との併用で効果が期待されることから,今後の臨床研究が待たれる.
人工呼吸の安全管理のためには,システムの構築は必要だが,最終行為者であるスタッフの教育も重要となる.当院では,医師,臨床工学技士,看護師,医療安全推進室で「人工呼吸安全管理ワーキンググループ」を組織し,研修医や新人看護師を対象とした教育プログラムを作成した.内容は,酸素療法,気管挿管管理,人工呼吸器管理の3編で構成し,講義形式と紙芝居を使いながら器具を実際に使用する演習重視の形式を取り入れた.人工呼吸に関する知識・管理方法を標準化し,多職種で教育プログラムを作成,組織横断的に教育活動を行っていくことが,安全管理には重要である.
肺容量減少術を行って7年が経過する慢性閉塞性肺疾患患者に対し,在宅における運動状況の聞き取り調査を行った.内容は歩行,買い物,下肢筋力トレーニング等であり7年間変化がなかったが,歩行数は当初1日に2万歩程度であったものが,術後3年目から1万歩程度に,7年目には7500歩程度と減少していた.運動の継続には公園での歩行,屋外での趣味,友人との外出,時間的余裕などの要因が有利に働いていたことがうかがわれた.
重症急性呼吸不全では,急性期治療後にも肺の線維化による低肺機能のため回復が困難なことがある.今回われわれは回復期において人工呼吸器下歩行訓練を施行した患者を経験した.症例は65歳,男性.薬剤性の急性間質性肺炎として集中治療を行ったが,回復後に低肺機能を残した.通常のリハビリテーションでは呼吸困難感が強く回復困難だったため気管切開口より人工呼吸器を装着し歩行訓練を施行し,人工呼吸器離脱,独歩退院した.
陽・陰圧体外式人工呼吸器(RTXレスピレータ®,以下RTX)は,胸郭外から陽・陰圧を加えて換気を行う非侵襲的人工呼吸器である.直接胸郭運動に関与するため,換気の効果以外に呼吸理学療法の側面からの効果も期待できる可能性がある.当科でRTXを使用した3例で呼吸理学療法における有用性を検討した.RTXでは胸郭のストレッチ効果や用手的に代わる呼吸介助効果が期待でき,優れた排痰効果も併せ持ち,有用性が高かった.
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