慢性閉塞性肺疾患(COPD)の薬物療法に関しては,これまで閉塞性障害の非可逆性が強調されるあまり,それほど熱心には取り組まれてこなかった.しかし,近年登場した長時間作用型β2刺激薬(Long acting β2 agonist, LABA)や長時間作用型抗コリン薬は,COPDに対して大きな有用性を示す.特に換気量増大時にみられる「動的肺の過膨脹」抑制効果が重要で,COPD患者の症状やQOLを大きく改善する.さらにLABAは気管支拡張作用に加え,繊毛運動亢進作用や細菌による繊毛剥離予防効果なども示し,COPD患者管理に有用である.吸入ステロイドはCOPDの病変の進行抑制作用はなく,喘息とは異なり第一選択薬とはなりえない.しかし,重症以上(%1秒量が50%未満)では,増悪頻度を減らしQOLの低下速度を減少させる.喀痰調整薬も増悪頻度および期間を滅らす利点があることがメタ解析で明らかとなった.これらの薬剤の作用機序の詳細は今後の検討課題だが,増悪はCOPD患者の病変の進行やQOL低下と大きな関連があり,吸入ステロイドや喀痰調整薬を気管支拡張薬と組み合わせて使用することが重要である.一方,COPD治療の現時点での大きな問題点は病態(肺胞と細気管支の炎症)に対する根治的な治療がないことである.この点に関しては,近年気道の炎症のバイオマーカーがいくつか提唱され,その制御で新治療に結び付けようとする試みがなされている.そういったなかから,phosphodiesterase(PDE)阻害薬,抗酸化剤,プロテアーゼ阻害薬,好中球遊走阻害薬等も検討されている.PDE阻害薬に関しては臨床応用も近い.その他,現在は気管支拡張薬に位置づけられるテオフィリン製剤のCOPDに対する抗炎症作用に関しても新しい知見が報告されている.以上のことを踏まえ本稿では,COPDに対する薬物療法の現状と将来展望について述べる.
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