チーム医療は,チーム参与者が,医学や看護はサイエンスに基づくアートであるという考え方を認識した上で,患者にはその医療の結果がどういう outcome を示すかを絶えず考えながら,各自の専門性を生かさなければならないことを強調した.
そして,EBMとクリニカル・パスがどういう関わり合いをすべきかという点にも触れた.
また,ケアは医学的・看護的,そして家庭的ケアに統合されるべきことを述べた.
呼吸ケアの患者教育に関して,教育プログラムを効果的に実践するための基本原理と教育方法,およびプログラム評価について,在宅酸素療法患者を対象に例示し述べた.基盤におく教育理念が教育プログラムを左右するので,その中心におく基本概念を熟慮する.教育担当看護師(コーディネーター)が立案から評価までの役割をとり,患者が主体的に参加する教育方法を重視する.看護ケアの成果として,教育プログラムの効果を検証する.
呼吸機能正常予測値を求める上で最も確実な方法は十分なる期間個人の変化を経過観察した多数例のデータ解析である(縦断的解析).しかしながら,この方法による解析には膨大な時間を要する.そこで,当該指標を規定する要因が十分なる範囲に分布する多数例データをある時間断面で集積する方法がとられる(横断的解析).横断的解析の結果は縦断的解析の近似的内容を与えるものであり cohort 効果など種々の誤差に影響される.それゆえ,横断的解析によって決定された正常値の解釈・適用は慎重に行われなればならない.
日本呼吸器学会より日本人のスパイログラムと動脈血ガス分圧の新しい基準値の報告を受けて,現在日本国内で使用されている法律と肺機能検査値との関係について検討した.これまで%肺活量は Baldwin らの基準値を用いていたが,日本呼吸器学会の新しい日本人の基準値を用いた場合,どのような変化が生じるかについて検討した結果, Baldwin らの基準値に比し,日本呼吸器学会の新しい基準値は%肺活量で約10~20%大きな値を示していた.日本人の正しい障害判定をするには日本人の正しい基準値を使用することが必要と考えられた.
介護保険が施行されてから約2年,高齢者の方もようやく利用のしかたがわかるようになってきたかな,というのが現状である.慢性呼吸不全患者での介護認定状況での問題は,評価項目が基本動作項目であるため,麻酔や痴呆症状のない状況では,要介護度が低くなることである.HOT患者の場合は,屋内セルフケアは自立レベルを保つ方が多いが,実際には生活するためには,介護を必要とする部分が多い.「動くと息苦しい」という慢性呼吸不全の患者の特性をいかに介護認定基準に組み込めるかが大きな問題であるといえる.
運用しながら,改善を図ることになっている介護保険制度ですが,元気痴呆・中途失明・内部障害者にとっては,実状を十分反映しているとは言い難い.ここでは,在宅呼吸ケア(主にHOT)を必要とする人にとって,現行制度がどうあるかについて検討した.在宅酸素療法(HOT)加算は,0.8分と少なくHOT患者の状況を介護認定に反映させるためには,調査票・主治医意見書への記載が重要で,特別な医療の加算時間も再考を要する.
わが国において在宅酸素療法と在宅人工呼吸療法は保険適用を契機にその恩恵を受ける患者数は近年急増している.在宅酸素療法の適応基準は日本呼吸器学会から発表され,それに追随する形で社会保険適用となっている.しかし,最近は適応基準を満たさない症例が増加している.一方,在宅人工呼吸療法の適応(導入)基準に対する統一見解はなく,各研究者から個別に提案されているのが現状である.最近は非侵襲的人工呼吸器の普及が目覚しく,それに伴い対象疾患も従来の神経筋疾患から呼吸器疾患へと変化してきている.今後,早急な基準作りが必要である.
小児の呼吸機能検査のうち,特にスパイロメトリーにおける問題点を検討した.%肺活量算出のための予測式はいまだに30年以上前のものが使用されている.この間日本人小児の体格の変化は著しく,重大な問題と思われた.臨床的には筋ジストロフィーの呼吸不全評価に有用である.一方,身体障害者認定基準におけるスパイロメトリー評価では小児例は全く考慮されておらず今後の再考が望まれる.
小児期発症の神経筋疾患における呼吸機能障害評価基準の課題として,まず,肺機能検査には,6歳程度の理解度を要する.また,発育障害や痩せも多く,体重に基づく指標や,年齢と身長(アームスパンで代用)を用いるBaldwinの式では不適切なことが考えられる.今後,児の肺や胸郭の発達も考えた呼吸機能障害のマネージメントに,呼吸機能評価をどのように活用するのか,本邦小児の標準値を蓄積しながら検討を要する.
日本呼吸器学会の院内肺炎ガイドラインは,原因菌不明例に対しては各種危険因子の有無と肺炎の重症度を組み合わせて4つに群別して選択抗菌薬を推奨したが,「治療に際しては,当初から広域で強力な抗菌薬を十分量,短期間投与し,かつ施設における抗菌薬の選択を出来るだけ偏りのない多様なものとする」ことを基本姿勢とした.個別の薬剤名をできるだけあげずに多様な抗菌薬の短期間の投与によって薬剤耐性菌の抑制を意図したものである.
私達は平成8年に「愛知在宅人工呼吸療法研究会」を組織した.研究会では定期に学術集会を開催する傍ら登録活動を行い,これまでに43の施設,部署から236例の実施届出と127例の個人登録を受け付けた.また毎年実態調査を実施してその結果を現場にフィードバックし,各種の資料を作成して各施設,家庭に配布した.しかし私達の成し遂げた貢献はまだわずかであり,この活動の今後には多くの課題を抱えている.
近年,本邦でも睡眠呼吸障害を専門とする医療機関が増加している.睡眠呼吸障害の潜在患者は多く,ビジネスとしての成立が比較的容易であることから,今後,欧米と同様に隆盛となるだろう.しかしながら,睡眠医療は「ソフトな呼吸ケア」を必要とする睡眠呼吸障害の患者だけのものではない.「ハードな呼吸ケア」や他の睡眠障害の患者にも必要である.「ソフトな呼吸ケア」の医療者は,こうした患者の医療にも関心をもつべきである.
呼吸理学療法は,包括的呼吸リハビリテーションの中心をなすものである.我々はホームプログラムを中心とした呼吸理学療法を施行し,COPDだけではなく慢性拘束性肺疾患に対しても一定の成績を上げてきた.また,家庭訪問にて各プログラムの継続性をチェックし,再指導することでこれらの実施率が向上した.在宅では低負荷運動が理想的であるが,その有効性を検討するためには,シャトルウォーキングテストが簡便に行えるひとつの効果的な評価方法である.
呼吸リハビリテーションは,安定期の慢性呼吸器疾患の包括的かつ標準的治療と考えられチーム医療として実施される.呼吸リハビリテーションにおけるチーム医療では多職種による専門家が患者のケアに関し統一したコンセプトを持つことが重要である.看護師は理学療法士,栄養士,薬剤師などのコメディカルとともに患者の教育・指導にかかわるだけではなく,チームリーダーとしての医療とともにプログラムのコーディネーター役を担うことにより円滑なチーム医療が実施可能となる.
HOTの保険適応から16年,現在は,医師だけでなく,看護師,理学療法士,作業療法士などが参加し生活に密着した指導が行なわれるようになり,退院後の自己管理は見違えるように改善された.また,病院内だけでなく居宅でも医師,訪問看護師,医療機器会社,ホームヘルパーなど多くの職種が在宅医療者を支えている.入院期間の短縮化や医療機器の発達により,今後さらに医療依存度の高い利用者が増えることが考えられる.患者や家族の「生活の質の保障・有意義な在宅療法」が可能となるような居宅サービスの整備が必要とされている.
最近における呼吸ケアは,医療施設内はもとより日常的な生活の場においても高度な技術を要する呼吸ケアが行われるようになってきており,チームとして行うことの重要性がますます大きくなっていると考えられる.そのため,安全かつ効果的な呼吸ケアを行うには,医療施設内のチーム体制だけでなく,地域医療機関との連携も含めたチーム作りが不可欠であると同時に連絡,調整役としてのコーディネータが必要と考えられる.
藤田保健衛生大学病院に入院および外来通院中の呼吸器疾患患者に対し,6分間歩行試験中の呼気ガス計測が可能であるかを試みた.呼気ガス分析器を装着して6分間歩行試験中の呼気ガス計測を行い,非装着時の歩行とで歩行距離,呼吸困難感,酸素飽和度,呼吸数,脈拍数を比較検討した.結果,呼吸ガス分析器装着下では非装着の場合と比べ呼吸困難感は増大するが,歩行距離への影響はわずかであった.また,呼吸ガス計測においては歩行開始から3分後より安定し,ほぼ一定値を示した.計測開始3分~6分の間でのVO2は500~700 ml/min,VCO2は350~550 ml/min,VEは15~25 L/minであった.したがって私達の用いた呼気ガス分析器は実際の歩行にほとんど影響を与えることなく歩行時の呼気ガス分析が可能であると考えられた.
呼気筋トレーニングに用いる負荷圧の代謝に及ぼす影響について若年健常者を対象に呼吸筋訓練器を用い検討した.その結果,呼気筋トレーニング時,安静時と比較して,METSは30%PEmaxで約1.3倍,40%PEmaxで約1.4倍,収縮期血圧は40%PEmax
で1.1倍,収縮期血圧と心拍数の積であるダブルプロダクトは1.3倍に有意に増加した.以上の結果から,若年健常者では40%PEmaxまでの呼気筋トレーニングは呼吸・循環系に対してそれほど大きな負荷とならないと考えられた.
在宅酸素療法患者が外出時使用する携帯型小型酸素ボンベの使用時間を延長し,かつ,体動時の低酸素血症を防止する新しい呼吸同調型酸素供給装置を開発した.本装置は患者の呼吸数の変化に対応して酸素供給量を自動的に増減するものである.在宅酸素療法患者8人に本装置を応用したところ,トレッドミル運動負荷に伴う低酸素血症を防止し,さらに,本装置を使用しない場合に比べて約40%の酸素節約効果もあった.また,本装置は従来の呼吸同調器の内蔵プログラムを変更するだけで製作でき,今後の臨床応用が期待できる.
人工呼吸下の呼吸理学療法手技が横隔膜運動に与える影響を明らかにすることを目的とし,超音波断層法による横隔膜運動の検討を行った.健常成人15名を対象としNPPVによる換気補助中に各種理学療法手技を行った.NPPV中の低下した横隔膜運動は Chest squeezing, Chest lifting により増加し,Chest squeezing では自発呼吸レベルまで増加することがわかった.
PSG検査でSASと診断された288例の患者のうち,生活習慣病を合併していたのは247例もあった.内訳は肥満症63%,高血圧50%,高脂血症38%,糖尿病型28%などであった.これら生活習慣病の多くは,AHIが高いほど合併率が高く,SASと生活習慣病の関係の深さを示していた.特に日本人をはじめ,東アジア人は顔面骨格の構造上,やせていてもSASになりやすいので,生活習慣のうち,とりわけ肥満に注意すべきである.
人工呼吸療法の要否の判断を必要とした慢性呼吸不全患者8例を対象として,意思決定のプロセスを明らかにし,看護介入のあり方を考えた.インタビューと診療記録から,意思決定のための主な情報源は医師の説明,自己学習,介護経験や他の患者の様子であった.また,要因として病名告知,呼吸困難による苦痛,家族および社会的な支援の有無,事前の説明や話し合いによる意思決定の機会および,方法の選択肢の有無があげられた.
悪性腫瘍以外の疾病による慢性呼吸不全患者の遺族に対して終末期としての認識と終末期医療についてアンケート調査を行った.回答率は71%であった.在宅酸素療法の開始は患者に「死」を突きつけるものではなかったが病状について患者や家族が改めて認識する契機になった.呼吸苦の増強は患者の「死」を家族に意識させるきっかけになったが,多くの遺族にとって寝たきり状態のほうが患者の「死」を強く意識する病態であった.在宅酸素療法の開始を慢性呼吸不全の終末期の出発点として認識し,患者に正確な情報を上手に与えながら治療内容を選択し,患者自身の思いを臨床経過に反映させていく努力が大切である.
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