近年における呼吸リハビリテーションの動向,課題,効果について述べ,さらに,呼吸理学療法の個々の方法の効果として,腹式呼吸,口すぼめ呼吸,呼吸筋訓練,体位排痰法(squeezing),気道クリアランスの諸法,運動療法,呼吸筋ストレッチ体操について述べた.今後,呼吸理学療法の個々の方法論あるいは併用による効果についての生理学的研究,わが国における包括的な呼吸リハビリテーションの定着および成果についての研究が必須である.
東京都立神経病院に入院した人工呼吸器装着ALS(筋萎縮性側索硬化症)患者47例について,同じくDuchenne型筋ジストロフィー(PMD)患者17例を対照に,呼吸管理の特性を検討した.ALSの呼吸不全は,PMD同様,肺胞低換気の状態であるが,呼吸筋麻痺に球麻痺が加わった病態で起こるため,現れ方が特異である.ALSにおける人工呼吸器の適応には議論があるが,その使用はいずれの病型にも延命効果をもたらす.
国立療養所24施設646例のHOT患者に対しSIPに準じた12項目のQOLのアンケート調査を行った.QOLの自己評価は,歩行,行動範囲,家事で特に低かった.HOT開始により,QOLが良くなったと回答した症例の方が多かったので,HOTは慢性呼吸不全患者のQOL向上に有用であると判断される.しかし,HOT開始により,社会生活,歩行,行動範囲など,QOLが悪くなったと回答した患者が22~27%にみられた.
31P-magnetic resonance spectroscopy (MRS) を用い,肺気腫患者と肺結核後遺症患者の筋肉エネルギー代謝に差があるか否かを検討した.対象は,健常成人15名,1秒率60%以下の肺気腫20名,%肺活量50%以下の肺結核後遺症13名,筋肉エネルギー代謝の評価には31P-MRSより得られたPCr/(PCr+Pi) を用いた.肺気腫患者および結核後遺症患者ともに,健常人に比べ,PCr/(PCr+Pi) が低下したが,両患者群間に差はなかった.
12組の在宅人工呼吸療法療養者と家族は,療養受容群9例と非受容群3例に群別された.2群間で調査時および退院時の医学的身体状況,療養環境整備状況に相違は認められなかったが,退院時家族の在宅療養希望に相違が認められた.在宅人工呼吸療法を療養者と家族が受容できるものとするために,「HMV開始時に,療養者と家族がともにHMV療養を希望し,選択すること」,「長期人工呼吸療法療養者のケアシステム整備の重要性」が示唆された.
症例は67歳男性.肺結核後遺症による慢性呼吸不全のため在宅酸素療法中,意識障害にて入院し人工呼吸管理を開始した.何度か離脱を試みたが呼吸筋疲労のため不成功であり,患者の意思を尊重し,在宅人工呼吸療法(HMV)の導入を検討した.さらに本人と家族の強い希望により発声可能なカニューレを製作した.主治医がコーディネーターとなり呼吸器内科スタッフ,家族,病棟看護婦,臨床工学技師,ホームドクター,当院訪問看護部,地域保健婦等の協力によりHMVを開始した.1994年3月より呼吸器疾患におけるHMVの保険適応が認められるようになり,在宅可能患者が増加することが予想されるが,導入にあたっては病院と業者との事務的手続き,診療体制などの問題点があり今後検討が必要と思われた.
癌腫による終末期呼吸不全症例16例に行われた在宅酸素療法(以下HOTと略す)について検討した.HOT開始から死亡までの期間は平均73日(HOT継続期間の平均は40日)であった.最終的には3例のみが家庭で死亡した.13例は再入院の後に死亡したが,再入院例の1/3の遺族から再入院のタイミングのずれが指摘された.死後に行われた遺族に対するアンケート調査では,HOTに支えられた終末期在宅生活は高く評価された.終末期に行われるHOTは密着した心身面の支援を必要とする場合が多く,訪問看護や家庭医のはたす役割は大きい.終末期症例へのHOT導入基準について,別に新たに検討されてもいいかもしれない.
過去8年間に当科で施行した91例のHOT患者の生存率と予後に関連する因子を検討した.5年生存率は,DPB: 82%,TB後遺症:55%,気管支拡張症:50%,COPD:42%,IPF:22%で,IPFだけが他疾患に比し有意に予後不良であった.生存率に関与したのはBMIとFEV1.0で,BMI<21,FEV1.0≧900 mlの群は有意に予後不良であった.右心カテーテルを施行した46例では,M-PAP≧25 mmHg, PCWP≧12 mmHgの群の予後が有意に不良であった.
鼻マスクIPPV(NIPPV)は多量の喀痰を伴う呼吸不全治療には適さないとされている.今回,われわれは多量の膿性痰を伴うびまん性気管支拡張症の急性増悪時(Ⅱ型呼吸不全)にNIPPVを試み,良好な呼吸管理が行えた1例を報告した.過分泌症例にNIPPVを導入する過程の検討から以下のことが示唆された.(1)気道過分泌は自力喀出が可能な限り,NIPPV導入を妨げない.(2)急性例の導入には,患者の協調性が残された早めに導入を試み,高炭酸ガス血症の性急な改善を求めないことが重要である.
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