近年,抗結核剤が進歩し,肺結核症は著しく減すると同時に,主として二次感染である腸結核も少なくなったが,本邦においては腸結核はいまだ文献上でしばしば散見される.
その好発部位は回腸もしくは回盲部とされているが,われわれは比較的稀な十二指腸結核を経験した.
患者は肺結核の既往を有する57歳男性で,反覆する上腹部痛,嘔吐を主訴として入院.
ツベルクリン反応陽性.一般検査所見正常.胸部X線像で両側上肺野に石灰化像を認める.低緊張性十二指腸造影で十二指腸末端部の2ヵ所に狭窄像,憩室様拡張部を認め,既往歴と伴せ考え,結核性十二指腸狭窄を疑ったが,確診がつかぬまま開腹手術を施行した.
開腹所見では十二指腸終末部とトライツ靱帯から5cm,肛門側空腸漿膜に多数の栗粒大白色結節,腸管壁の瘢痕性肥厚,狭窄を認め,さらにそれより肛門側空腸の同様変化あり, 2ヵ所で各々14cm, 5cm長にわたる腸切後,端々吻合を施行した.また回腸にも2ヵ所に病変部を認めたが,狭窄所見なく放置した.
組織検査で結核結節を認めたが,結核菌は証明されなかった.
腸結核症は文献上,回腸および回盲部に多く,十二指腸発生例は今日までに40数例の報告をみるにすぎない.
症状として特徴的なものはないが,十二指腸発生例では嘔吐が必発といわれる.
確定診断には病理学的検索が必要であり,臨床上,術前診断は困難なことが多い.現状ではX線診断が最も有用で,二重造影による精密診断が推漿され,クローン病との鑑別が最も問題にされる.
化学療法が無効の場合には手術が適応になり,罹患腸管切除が理想的ではあるが,時には姑息的術式もやむをえないこともある.主病巣の切除が可能ならば,残存病変には化学療法の効果が期待できるものと考える.
抄録全体を表示