史学雑誌
Online ISSN : 2424-2616
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129 巻, 11 号
選択された号の論文の4件中1~4を表示しています
  • 2020 年 129 巻 11 号 p. Cover1-
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/09/16
    ジャーナル フリー
  • 2020 年 129 巻 11 号 p. Cover2-
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/09/16
    ジャーナル フリー
  • シュトラースブルク司教領をめぐる訴訟(1682-1719)を事例に
    安酸 香織
    2020 年 129 巻 11 号 p. 1-33
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/11/20
    ジャーナル フリー
    近世ヨーロッパ史研究では、ここ半世紀のあいだに近代化論から離れ、近世国家の特質をめぐる議論を展開してきた。この傾向は、近世アルザス史研究にも、フランス絶対王政の新たな理解に基づく再考を促した。しかし、一七世紀のアルザス譲渡以降についてフランスとの関係にのみ注目し、神聖ローマ帝国とのつながりを度外視するならば、同地域の秩序を根本的に理解することはできない。近年では両関係が考慮されつつあるが、いまだ事例研究の数は少なく、まして体系的な研究には至っていない。それゆえ本稿では、アルザス最大勢力であるシュトラースブルク司教の訴訟を事例とし、帝国、王国、アルザスの諸権力を視野に入れて同地域の秩序を描き出すことを試みた。
    具体的には、第一章にて近世アルザス史を概観し、第二章にて前述の訴訟を分析し、第三章にてアルザス周辺の紛争と解決における特質を浮かび上がらせた。特質として、以下三点を指摘できる。第一に、アルザス地域諸権力は、フランス王が創設したアルザス最高評定院を、紛争解決の唯一の手段ではなく、選択肢の一つとみなしていた。第二に、彼らは神聖ローマ皇帝とフランス王の双方の封臣として、多様な紛争解決手段を利用できた。しかし第三に、手段の複数性は、裁判所間、さらには皇帝とフランス王のより大きな紛争を引き起こす危険性を孕んでいた。彼らがこの危険を避け、当事者間の示談を試みたことは、多様な選択肢の一時的な放棄を意味したが、しかし結果として彼らの自立性を高めることにもなった。
    本稿では、フランスの主権確立や州の統一という従来のアルザス史像とは対照的に、また新旧制度の併存という近年の理解を発展させて、地域的・国家的枠組みを越えた柔軟な紛争解決に基づくアルザスの秩序を明らかにした。この成果は、近世ヨーロッパの政治秩序を、国家間の勢力関係や近世国家論とは異なるかたちで描き出す可能性を秘めている。
  • 戦間期日本における催涙性ガス使用の事例から
    太田 聡一郎
    2020 年 129 巻 11 号 p. 37-60
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/11/20
    ジャーナル フリー
    本稿は、毒ガスの一種である催涙性ガスの戦間期日本における使用事例から、警察概念の援用が戦時国際法解釈・運用にどのような影響を与えたのか考察した。
     第一次世界大戦後の国際社会では、毒ガスの戦時使用を国際条約で禁止しようと改めて試みられる一方で、治安維持やデモ制圧など催涙性ガスの警察使用がアメリカを中心に普及していった。日本陸軍はアメリカ軍人の議論の受容や一九三〇年の日本国内における催涙性ガスの警察使用への導入を通じ、催涙性ガスの警察使用を例外的に人道的と見做す発想を定着させた。
     一九二五‐三四年に開催されたジュネーヴ一般軍縮準備会議・軍縮会議では、催涙性ガスの違法性や警察行為の位置づけが初めて問題化した。参加国の大多数が催涙性ガスを含む毒ガスの包括的禁止を求めたが、アメリカは催涙性ガス使用、特に警察使用の特例化を主張し、戦時使用は禁止する一方警察使用は容認するという催涙性ガスの特異な位置づけが条約案として確立していった。
     軍縮会議と同時期に進行した第一次上海事変・満州事変において、日本陸軍は戦時国際法遵守の必要性と軍縮会議の議論との整合性を意識し、使用する化学兵器を煙幕に限局し対外的に声明するなど一定の配慮を行った。しかし関東軍‐陸軍中央は催涙性ガスの使用を「国内警察行為」と位置づけて法理的には問題ないと見なし、事変後満鉄警備などで実際に使用するようになる。また第一次上海事変の海軍や日中戦争の陸軍は、警察使用から戦時使用の合法性を導出することで催涙性ガス使用を正当化した。催涙性ガスの事例は、化学兵器を使いたいという陸軍内の軍事的要請と、催涙性ガスに関する国内外の法的位置づけを、事実上の戦争における「警察」概念の多義性によって合法的に結節しようとした試みだったと評価できる。
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