史学雑誌
Online ISSN : 2424-2616
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125 巻, 1 号
選択された号の論文の4件中1~4を表示しています
  • 2016 年 125 巻 1 号 p. cover1-
    発行日: 2016年
    公開日: 2018/10/05
    ジャーナル フリー
  • 2016 年 125 巻 1 号 p. cover2-
    発行日: 2016年
    公開日: 2018/10/05
    ジャーナル フリー
  • 海老根 量介
    2016 年 125 巻 1 号 p. 1-38
    発行日: 2016年
    公開日: 2018/10/05
    ジャーナル フリー
    申は、西周期~春秋前期に河南省南陽付近にあった姜姓の諸侯国である。この申は春秋前期に楚に滅ぼされ、以後は楚の北方の大県として、楚の中原進出に大きな軍事的貢献をしたことがよく知られている。ところが『左傳』昭公十三年条や曾侯乙編鐘銘文、上博楚簡『靈王遂申』によれば、申国は楚に滅ぼされた後も存在していた。ただし申国はずっと存続していたのではなく、申県を構成する旧国人層の大部分によって、共王期後半~康王・郟敖期に復国されたと考えられる。
    春秋後期の申の所在地については、信陽に結びつける説が近年勢いを得ている。しかし、それを支持する確かな文献・考古資料は存在せず、成り立ち難い。一方、上博楚簡『靈王遂申』・『平王與王子木』や彭氏家族墓といった新出史料によれば、申は南陽において復国され、申県と併置されていた可能性が高い。
    申の復国は、春秋中期に中原と呉の二方面に対処しなければならなくなった楚が、軍事負担の増加した諸侯を懐柔し、楚王を中心とする国際秩序を保つために行った政策であった。申の旧国人層は復国によって心理的安定を得られるとともに、他の諸侯にも楚が小国を存続させる方針であることを知らしめる効果があった。
    楚にとって諸侯軍は対外戦略のために必要な存在であったが、同時に潜在的な脅威でもあった。そのため楚は諸侯を懐柔するだけでなく、遷邑などの手段で諸侯を構成する国人層への介入を進め、その解体を徐々に図っていた。申国と申県の併置は、申県において国人層に頼らず民を直接支配する体制の確立を目指すとともに、申を分断して国人層を弱めるためでもあった。楚は春秋後期には諸侯を次々と滅ぼして直接支配下に置いていくが、それは民を兵役につけることが始められ、国人層の解体が進み諸侯軍の重要性が失われつつあったことが背景にある。すなわち申の復国は、春秋から戦国への過渡期という時代的特徴を極めてよく反映した施策であった。
  • 古賀 康士
    2016 年 125 巻 1 号 p. 42-68
    発行日: 2016年
    公開日: 2018/10/05
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    本稿の課題は、近世初期細川小倉藩の鋳銭事業の全体像を再構成し、その歴史的位置づけを明らかにすることである。小倉藩による鋳銭事業は短期間で頓挫したものの、幕府の寛永通宝の導入に先立つ大名領主の本格的な銭貨鋳造として、早くからその歴史的意義が注目されてきた。だが、既存の研究では新銭の流通開始直後に現れる「にせ銭」と不良銭の撰銭の問題などを始め、鋳銭事業の全体像はなお未解明であった。そこで本稿では、(一)新銭の鋳銭体制の復原、(二)新銭を含む銭貨の流通形態の解明、(三)新銭のベトナム輸出の実態分析という三つの分析課題につき検討した。
    第一の新銭の鋳銭体制については、複数の銭屋による競争的な請負制が明らかとなった。銭屋の操業は分業による一元化がなされず、各自の採算性に基づいて鋳銭が行われた。そこでは新銭の競売による価格圧力も存在したため、低品質な銭貨が大量生産され、不良銭の撰銭現象が惹起した。これに対応し、小倉藩は新銭一貫文=銀五匁とする公定の固定相場制を導入し、価格競争的な鋳銭体制を修正した。
    第二の新銭の流通形態については、流通開始直後の「にせ銭」の問題から、小倉藩が新銭を公式の銭貨とする専一流通策を採用したこと、また近世初頭の中国西部・九州北部において、新銭と同等ないしそれ以下の低品質な銭貨が地域的貨幣として広く鋳造・流通したことを導出した。
    第三の新銭のベトナム輸出に関しては、ベトナム輸出の可能性が鋳銭事業の廃止を小倉藩に決定させる主要因となったことを示した。また日本では低品質な銭貨として位置づけられた新銭も、ベトナムでは精銭範疇に属する「大銭」として認識されたことが確認された。
    以上の結論からは、寛永通宝の「銭座」体制の歴史的前提となる鋳銭体制の組織面・経営面での革新や初期藩札との貨幣政策上の類似性といった問題が新たな課題として示唆された。
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