本論では,都市計画基礎調査による地震時における建物被害分布の精度の高い即時推定を目指し,2016年熊本地震で甚大な被害を受けた益城町の被害状況を基に,動的漸増解析(IDA)を利用した個別木造住宅の被害分布推定の精度,および建物倒壊に起因する道路閉塞の推定精度を検証した.初めに,空間補間により本震時の地表面最大速度分布を推定し,近距離で最大速度が大きく違う地域での高密度な地震観測の必要性を述べた.次に,地表面観測記録と益城町役場1階の観測記録の違いに着目し,過去に観測された複数地震波によるIDA曲線,地表面の実観測記録によるIDA曲線,益城町役場1階の観測記録によるIDA曲線の3つの曲線をそれぞれ求め,本震に対する益城町の被害甚大地域における木造住宅の個別被害推定を行った.その結果,益城町役場1階の観測記録のIDA曲線による推定結果が最も実被害に近くなり,地表面の観測記録だけでなく,建物最下階床面の観測波を用いることも有効である可能性が示された.最後に,推定した建物被害分布に基づく道路閉塞手法の精度を,発災後の航空写真と比較することで検証した.現状の手法では,道路区間全長に対して最大78.8%の割合で実被害と推定結果が一致することを確認した.
KiK-net富来観測点における2024年能登半島地震の観測記録にNIOM解析を適用し,地盤の非線形挙動を検討した.その結果,(1)本震以前のS波の伝播時間(NS成分0.2365 s,EW成分0.2333 s)が本震主要動においてそれぞれ,0.3136 s,0.3245 sまで増加したこと,(2)波形終了時のS波の伝播時間は本震以前の伝播時間より6~6.5%程度大きいことなどを示した.また,SHAKE91の解析から(3)非線形化の影響はGL-28~-50 mの層が特に著しいと考えられることなどを指摘した.