日本腹部救急医学会雑誌
Online ISSN : 1882-4781
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34 巻, 8 号
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症例報告
  • 北山 紀州, 寺岡 均, 西村 潤也, 埜村 真也, 野田 英児, 西野 裕二, 平川 弘聖
    2014 年 34 巻 8 号 p. 1419-1423
    発行日: 2014/12/31
    公開日: 2015/04/02
    ジャーナル フリー
    症例は64歳,男性。外傷性くも膜下出血後,当院慢性期病棟入院中に腹部膨満が出現したためCT検査を施行した。腸管気腫を伴う著明な小腸の拡張および腹水貯留を認めたため当科紹介。腹部は著明に膨満していたがvital sign等に特記すべき異常は認めなかった。画像上内ヘルニアを疑い,緊急手術を施行した。腹腔内に淡黄色腹水を認め,小腸は広範囲に渡って膨満していた。回腸末端付近の小腸間膜に1×2cmの異常裂孔を認め,そこに小腸が陥頓し捻転をきたしていた。さらに腸管膜に多数の気腫を認めたが壊死所見や穿孔は認めなかった。陥頓腸管の整復を行った後,異常裂孔を縫合閉鎖し手術を終了した。小腸間膜裂孔ヘルニアは,腸間膜の異常裂孔に腸管が陥入し腸閉塞を発症するまれな疾患であり,高齢者の報告例は少ない。イレウスに遭遇した場合は本疾患も念頭に置き迅速な対応が必要である。
  • 黒川 敏昭, 福田 晃, 安藤 昌之, 荒井 邦佳
    2014 年 34 巻 8 号 p. 1425-1429
    発行日: 2014/12/31
    公開日: 2015/04/02
    ジャーナル フリー
    患者は精神発達遅滞がある33歳の男性。嘔吐を繰り返しイレウスが疑われ紹介受診。腹部CT検査で,小腸および間膜が上腸間膜動静脈を軸として渦巻き状に回転する所見(whirl sign)と腸管の造影不良があり,緊急手術を施行した。小腸全体が反時計方向に捻転し色調不良を認めたが,捻転を解除することで速やかに改善したため整復のみで終了。解剖学的異常や腫瘍,索状物を認めず,原発性小腸軸捻転症と診断した。第29病日に嘔吐し,腹部CT検査でwhirl signを認めたため緊急手術を施行したところ,前回同様に小腸が反時計方向に捻転し,色調不良を認めた。捻転解除により小腸の色調は回復したが,再々発の予防のためにNoble手術を併施した。原発性小腸軸捻転症の治療は可逆的な血流障害であれば捻転整復のみでよいとされるが,初回の捻転解除後早期に再発したため,腸管固定術であるNoble手術を併施し良好な結果を得た。
  • 東口 貴之, 清水 智治, 園田 寛道, 太田 裕之, 北村 直美, 竹林 克士, 三宅 亨, 谷 徹
    2014 年 34 巻 8 号 p. 1431-1434
    発行日: 2014/12/31
    公開日: 2015/04/02
    ジャーナル フリー
    要旨:妊娠合併症の中でイレウスは比較的まれな疾患である。妊娠17週に発症した絞扼性イレウスの1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する。症例は30歳の0経妊0経産女性,28歳で子宮筋腫核出術の既往があった。妊娠17週目に嘔吐および腹痛が出現した。腹部造影CTで腸管の血流低下と腹水の増加を認め絞扼性イレウスと診断した。全身麻酔下で開腹手術を行い,広範囲の小腸壊死を認め小腸150cm切除した。術後経過は良好であり術後12日目に退院した。腹部症状の再燃無く妊娠継続され自然分娩で出産し,新生児にも特に障害を認めなかった。情報収集が可能であった妊娠合併イレウス174例では,妊婦の年齢は31歳以上が91例と過半数であり,同様に89例が28週以上の妊娠後期に発症していた。10例に胎児死亡を認め,手術のタイミングを逸しないよう積極的な診断法の選択および治療法の決断が必要であると考えられた。
  • 町田 智彦
    2014 年 34 巻 8 号 p. 1435-1440
    発行日: 2014/12/31
    公開日: 2015/04/02
    ジャーナル フリー
    症例は88歳,男性。腹痛出現後1週間後にも右下腹部痛と嘔吐を認め,当院に緊急搬送された。来院時,腹膜刺激症状があり,WBC 11,200/μL,CRP 21.54mg/dLであった。腹部CTでは腹水を認め,回盲部から右結腸傍溝に沿って腸間膜内ガス像を認めた。回腸穿孔,汎発性腹膜炎と診断し,緊急手術を施行した。回腸末端から約15~20cmの回腸が発赤・肥厚し,腸間膜内膿瘍が認められた。回腸部分切除術,双孔式人工肛門造設術を施行した。病理組織学的所見で回腸憩室穿孔と診断した。術後経過は良好で,術後2ヵ月目に軽快退院した。小腸憩室は非常にまれな疾患であるが穿孔(穿通)を合併した場合には重篤化することがある。穿孔後4時間以内であれば腹部Xpだけでなく腹部CTでも腹腔内遊離ガス像の検出率は高くなく術前診断が困難なことが多い。今回,遠位回腸に生じた憩室穿通の1例を経験したので報告する。
  • 山下 貴司, 卜部 憲和
    2014 年 34 巻 8 号 p. 1441-1444
    発行日: 2014/12/31
    公開日: 2015/04/02
    ジャーナル フリー
    34歳男性が左前胸部上部刺創で救急搬送された。諸検査で左血気胸,左横隔膜損傷ならびに横隔膜ヘルニアの診断となり,腹腔内臓器損傷は否定的であった。循環動態は安定しており,準緊急手術で対応可能と判断され,搬入後17時間で手術が行われた。手術所見では肺損傷は存在せず,胃穿孔が認められた。横隔膜は経胸的に縫合され,経腹的に胃損傷を修復した。十分に洗浄して閉創とし,術後に膿胸,腹腔内感染の発症はなく軽快退院した。昨今系統的な外傷診療が普及しても,体表の損傷状況から,ある程度の範囲の損傷が想定される場合は,体表受傷部位を中心とした診療となり,遠隔部位の損傷判断は疎かになりがちである。胸部穿通性外傷において横隔膜ヘルニアが存在する場合には,腹腔内臓器損傷は高率に起こり得て,消化管内容物が胸腔内へ漏出すると重症化する可能性が十分あるため,緊急手術に踏み切るべきであった。
  • 仲野 哲矢, 皆川 昌広, 高野 可赴, 滝沢 一泰, 若井 俊文, 高野 徹, 黒崎 功
    2014 年 34 巻 8 号 p. 1445-1449
    発行日: 2014/12/31
    公開日: 2015/04/02
    ジャーナル フリー
    膵頭十二指腸切除術(以下,PD)後の仮性動脈瘤出血は致死的合併症の一つである。経カテーテル的動脈塞栓術が第一選択の治療とされるが,肝不全,肝膿瘍の危険性を回避するため,近年では肝血流を維持した上で止血可能なStent-assisted coiling(以下,SAC)を用いられることがある。今回,PD術後の仮性動脈瘤に対しSACを施行した3症例を経験したので,その有用性と問題点について報告する。1例目は肝膵同時切除後に仮性動脈瘤を認めたが経過観察とし,治療の遅れがあった。2例目は仮性動脈瘤の部位に関して誤認があった。3症例目は準備に時間がかかったもののPD術後仮性動脈瘤出血に対してSACを用いて治療し得た。いずれの症例もSAC後に肝不全は認めていない。PD後の仮性動脈瘤出血には積極的な治療と,放射線科医との情報共有が欠かせないと考えられた。
  • 深江 洋恵, 岩永 真一, 長野 秀紀, 山田 和之介, 富安 孝成, 谷 博樹, 渕野 泰秀, 城崎 洋
    2014 年 34 巻 8 号 p. 1451-1456
    発行日: 2014/12/31
    公開日: 2015/04/02
    ジャーナル フリー
    症例は82歳,女性。腹膜炎の診断で当院へ紹介となった。血液検査では炎症反応の上昇がみられ,腹部造影CT検査で腸間膜脂肪識は不均一な濃度上昇がみられた。脾静脈内に小範囲の脾静脈血栓を認めた。腹膜炎の原因疾患は特定できず,輸液,抗生剤投与を開始した。炎症反応は遷延しており,入院10日目に腹部造影CT検査を再検したところ脾静脈血栓,腹水が著明に増加していた。血栓は門脈内にも認められ,血栓に伴ううっ滞が考えられた。抗血栓療法を開始したところ炎症反応は改善し,経過良好で30日後退院となった。血栓形成の原因は判然とせず,特発性脾静脈血栓症と診断した。脾静脈血栓症はまれな疾患であり,膵炎や血液凝固因子異常等による続発性が多い。特発性脾静脈血栓症に対し抗血栓療法で良好な経過を経た1例を経験した。本症例は本疾患における経時的な画像所見を比較し得た1例であり若干の文献的考察を加えて報告する。
  • 柿原 知, 佐々木 愼, 寺井 恵美, 渡辺 俊之
    2014 年 34 巻 8 号 p. 1457-1461
    発行日: 2014/12/31
    公開日: 2015/04/02
    ジャーナル フリー
    症例は65歳,男性。間欠的な腹痛と発熱を認め,腹痛が徐々に増悪したため当院救急搬送された。来院時の血液生化学検査で白血球とCRPが上昇しており,腹部造影CT検査でS状結腸に50mm長の緩やかに弯曲する細径の高輝度領域と腸管外ガスを認めた。魚骨によるS状結腸穿孔を疑い,緊急手術を施行した。術中所見ではS状結腸腸間膜側から魚骨が突出しており,後腹膜も一部損傷していた。S状結腸部分切除とS状結腸にて人工肛門造設術(ハルトマン手術)を施行した。摘出した魚骨の長さは57mmであった。誤嚥された異物のほとんどは自然排泄されるため,消化管穿孔や穿通により腹膜炎を発症することや,腹腔内膿瘍を形成する確率はまれであると報告がある。異物の割合は日本人では食生活の影響などから魚骨が50%近くを占める。今回のように50mm超える魚骨が誤嚥の認識なく,穿孔による症状で発見された症例は極めてまれである。
  • 福井 勇人, 井上 健, 土肥 萌由, 土肥 統, 玄 泰行, 城 正泰, 時田 和彦, 内藤 裕二
    2014 年 34 巻 8 号 p. 1463-1466
    発行日: 2014/12/31
    公開日: 2015/04/02
    ジャーナル フリー
    十二指腸憩室内潰瘍からの出血に対して止血鉗子を用いて内視鏡的に止血を得た症例を経験した。食道,胃,十二指腸に明らかな出血源がなく,十二指腸内に血液の貯留を認める場合,十二指腸憩室内潰瘍からの出血も考慮すべきである。憩室出血に関してはクリップ法による止血法が第一選択と考えられる。しかし,本症例では傍乳頭憩室内に潰瘍が存在しており,クリップを展開するスペースが十分に確保できなかったが,止血鉗子を用いることで,視野の確保が困難な憩室内も安全に止血処置を行うことが可能であった。また十二指腸憩室内の潰瘍から出血する原因としてNSAIDs内服が関係している可能性が示唆された。
  • 松山 温子, 鈴木 正彦, 浅羽 雄太郎, 三宅 隆史, 臼井 弘明, 水上 泰延
    2014 年 34 巻 8 号 p. 1467-1470
    発行日: 2014/12/31
    公開日: 2015/04/02
    ジャーナル フリー
    症例は56歳,男性。突然の上腹部痛を主訴に当院へ緊急搬送された。来院時は発症から1時間経過しており,嘔吐・水様便と心窩部の自発痛・圧痛を認めた。腹部造影CT検査で上腸間膜動脈本幹の血管造影不良を認めたため,急性上腸間膜動脈閉塞症と診断し緊急入院した。腹部血管造影検査で上腸間膜動脈本幹に血栓を認めたため,ウロキナーゼによる血栓溶解療法を行い血流の再開を確認した。これに伴い腹痛も軽減したため,抗凝固療法を継続し,ICUでモニタリングを行った。その後は血栓の再燃を認めなかったが腸管内出血と腹痛の遷延を認めた。腸管の虚血性病変を除外するため,処置後5日目にカプセル内視鏡を行い,明らかな虚血性変化は無いことを確認した。同日より水分摂取,6日目から食事を開始し15日目に退院とした。血栓溶解療法後の腸管虚血の評価にカプセル内視鏡は有効であり,かつ非侵襲的な検査であると考えられた。
  • 荒澤 孝裕, 当間 雄之, 宮内 英聡, 鈴木 一史, 西森 孝典, 大平 学, 成島 一夫, 栃木 透, 藤城 健, 花岡 俊晴, 石井 ...
    2014 年 34 巻 8 号 p. 1471-1474
    発行日: 2014/12/31
    公開日: 2015/04/02
    ジャーナル フリー
    症例は80歳代,女性。3日前より続く食欲不振・発熱のため当院入院。炎症反応高値のため抗菌剤を投与したが改善傾向が乏しく,第4病日に施行した腹部造影CTで上行結腸および膵十二指腸の背面にガスを含む液体貯留を認め,消化管穿孔による後腹膜膿瘍と診断された。経皮穿刺も考慮されたがアプローチ不可能のため断念し緊急手術とした。開腹し後腹膜に達すると膵十二指腸周囲の炎症は強く穿孔部確認は困難であった。副損傷や拡大切除を回避すべく洗浄ドレナージ術を選択した。術直後より後腹膜からは胆汁が排泄されたが腹腔への漏出は認めなかった。ドレーン管理で膿瘍腔の縮小を図ったところ,造影で十二指腸水平脚憩室が描出された。穿孔部の治癒にやや時間を要したが第43病日にドレーン抜去し,第56病日に退院した。十二指腸憩室穿孔では術式選択に苦慮するが,侵襲の低いドレナージ手術は有用な選択肢となりうる。
  • 村瀬 秀明, 大野 玲, 平岡 優, 吉野内 聡, 石場 俊之, 上田 吉宏, 円城寺 恩, 小畑 満
    2014 年 34 巻 8 号 p. 1475-1479
    発行日: 2014/12/31
    公開日: 2015/04/02
    ジャーナル フリー
    症例は88歳,女性。義歯をつけたまま就寝し,翌朝義歯がなくなっていたため,誤飲を疑い外来を受診した。胸部単純X線で下縦隔に有鉤義歯を確認した。内視鏡で観察すると義歯の鉤が食道右壁に刺さっていた。鉗子による摘出を試みたが,さらに食道壁に食い込み,筋層が一部露出した。CTで皮下,縦隔および後腹膜に気腫を認め,食道穿孔と診断し,手術の方針とした。左側臥位として右胸壁にポートを留置した。超音波凝固切開装置で義歯周囲を切開し,食道壁を開放して義歯を摘出した。胸腔鏡下に4-0吸収糸の連続縫合で穿孔部を一期的に閉鎖し,吸収性組織補強材で被覆した。術後経過良好で術後19日目に退院した。高齢者に対して低侵襲な術式を選択することで,術後合併症なく退院しえた1例であった。
  • 岡崎 充善, 西島 弘二, 二上 文夫, 中村 隆, 西村 元一
    2014 年 34 巻 8 号 p. 1481-1484
    発行日: 2014/12/31
    公開日: 2015/04/02
    ジャーナル フリー
    要旨:症例は70歳,男性。入浴中の意識消失を主訴に,当院救急外来へ搬送された。血圧66/54とショック状態で,上腹部痛も認めた。造影CTで網囊内と肝周囲の液体貯留があり腹腔内出血と診断した。造影剤の血管外漏出像はなかったが,右胃動脈に7mm大の動脈瘤があり,右胃動脈瘤破裂による腹腔内出血を疑った。急速輸液,輸血後もショック状態が続いたため緊急開腹手術を施行した。腹腔内に計1,800gの血液,血腫を認めた。右胃動脈近傍の小網内に血腫を認め同部位からの出血と判断し,小網切除術を施行した。術後経過良好であり,第18病日に退院した。切除した標本ではsegmental arterial mediolysis (SAM)の組織像はなかった。以上より,右胃動脈瘤破裂による腹腔内出血と診断した。右胃動脈瘤破裂は非常にまれであるが,ショックに陥ることもあり,腹腔内出血の原因として念頭に置くべきである。
  • 松永 篤志, 浦上 秀次郎, 石 志紘, 島田 敦, 大石 崇, 磯部 陽
    2014 年 34 巻 8 号 p. 1485-1488
    発行日: 2014/12/31
    公開日: 2015/04/02
    ジャーナル フリー
    症例は48歳,男性。特に既往歴はなく,排便習慣も良好であったが,2日前よりの便秘症状を認め,突然下腹部を中心とした腹痛で搬送された。精査の結果,S状結腸穿孔による汎発性腹膜炎を疑い緊急開腹術を施行した。S状結腸に約10mm大の穿孔を認め,同部には便塊が貯留しており,泥状便が腹腔内に流出していた。穿孔部を含めてS状結腸を切除し,口側に単孔式の人工肛門造設を行った。術後エンドトキシン吸着療法を必要としたものの経過は良好であった。切除標本には明らかな腫瘍性病変や憩室を示唆する所見は認めず,宿便性の大腸穿孔と考えられた。宿便性の大腸穿孔は長期臥床の高齢者や精神疾患の既往のある患者に散見される。既往歴がなく,排便コントロール良好な40歳代の健常者で宿便性大腸穿孔を発症することはまれであり,文献的考察を加え報告する。
  • 坂田 治人, 鈴木 孝雄, 清水 英一郎, 藤田 和恵, 森 幹人, 松原 久裕
    2014 年 34 巻 8 号 p. 1489-1492
    発行日: 2014/12/31
    公開日: 2015/04/02
    ジャーナル フリー
    症例は16歳の女性で,心窩部痛で当院受診した。入院時現症:上腹部に軽度の圧痛あり,腹部X線で著明なニボー像と,CTで拡張した小腸と腹水を認め腸管虚血が示唆された。手術歴なく内ヘルニアによる絞扼性イレウスと診断し緊急手術とした。手術所見:上腹部正中切開で開腹すると,大量の血性腹水と上腹部に壊死小腸を認め,検索すると回盲部は後腹膜と固定がほとんどなく回盲弁から約150cmにわたり回腸が大網横行結腸間膜の裂孔から網囊内に入り,さらに小網の裂孔より腹側に脱出していた。回盲弁は裂孔を通過せずに脱出した回腸が壊死に陥っていた。回盲部+小腸切除術を施行し手術終了した。術後は順調に経過し11病日に退院した。本疾患の診断は容易ではないが,今回の検討で本疾患は上腹部中心の臨床所見を呈することが多く,嵌頓を起こしやすい。内ヘルニアで上腹部に所見が集中する場合は,本疾患を考慮して早急な手術対応が必要である。
  • 川越 勝也, 濵﨑 景子, 石川 啓, 福岡 秀敏, 稲村 幸雄
    2014 年 34 巻 8 号 p. 1493-1496
    発行日: 2014/12/31
    公開日: 2015/04/02
    ジャーナル フリー
    症例は17歳男性で,自閉症に伴う精神発達遅滞で,近医精神科通院中であった。発熱と腹痛を認め,近医内科を受診した。腹部単純X線検査で,腸閉塞と消化管異物を認め,当院に救急搬送された。腹膜刺激症状を認め,腹部CT検査で小腸内異物とその周囲に腹腔内遊離ガス像を認めた。イヤリングなどが紛失しており,異物による消化管穿孔の診断で緊急手術を施行した。回腸末端にはカーテンの吊り具やイヤリング等多数の異物を認め,異物摘出術と小腸切除術を施行した。術後経過は良好で自宅退院となったが,再度異食による腸閉塞を発症し,術後約1ヵ月で2度目の手術を行った。異食症では,その異物の特定が重要となるが,精神科疾患を背景とした場合,本人からの問診は困難であるため,家族や施設スタッフへの詳細な問診が重要である。また,異食を予防するためには,施設スタッフ,精神科医等,多職種との連携が必要である。
  • 原田 潤一郎, 松谷 毅, 野村 務, 萩原 信敏, 内田 英二
    2014 年 34 巻 8 号 p. 1497-1500
    発行日: 2014/12/31
    公開日: 2015/04/02
    ジャーナル フリー
    要旨:71歳,男性。主訴は空腸瘻造設部の腸管脱出。約6年前に当科でT1食道癌に対し縦隔鏡補助下食道切除術,胃管再建,空腸瘻造設を施行した。手術終了し抜管後,喉頭痙攣による気道閉塞をきたし,低酸素脳症および遷延性意識障害となった。術後6年が経過し,経管栄養チューブは14-Fr尿道バルーンカテーテルを使用していた。何の契機もなく突然に,空腸瘻造設部から腸管の粘膜面が反転した状態で約10cm体外へ脱出・嵌頓をきたし,一部壊死を認めたため,緊急手術を施行した。脱出・嵌頓した腸管を切除し,機能的端々吻合を行い,吻合部の肛門側空腸に空腸瘻を再造設した。栄養チューブには8-Fr 成分栄養チューブを使用した。切除標本の先進部に腫瘍はなかったが,小腸全層が壊死していた。長期間の空腸瘻による栄養管理中に,栄養チューブの刺入部から腸管が脱出し嵌頓した症例を経験したので報告する。
  • 大谷 剛, 三木 明寛, 森岡 広嗣, 北村 好史, 井上 達史, 石村 健, 吉谷 新一郎, 石川 順英
    2014 年 34 巻 8 号 p. 1501-1504
    発行日: 2014/12/31
    公開日: 2015/04/02
    ジャーナル フリー
    症例は75歳,男性。心房細動でワーファリン内服中であった。突然の腹痛を自覚し,症状持続のため翌々日当院を受診された。造影CTで左胃大網動脈瘤の破裂による腹腔内出血と診断したが,造影剤の血管外漏出は認めなかった。治療は外科手術か血管塞栓術が選択されるが,瘤が左胃大網動脈末梢に位置し,今後もワーファリンの継続が必要であることから,塞栓術は瘤の中枢・末梢両側からの塞栓が望ましいが手技的に困難と判断し,より確実な治療法として手術を選択した。患者の循環動態が安定しており,瘤の局在も手技的に無理なく切除可能と判断し,破裂例であったが,より低侵襲な治療法として単孔式腹腔鏡下動脈瘤切除術を施行した。未破裂例や破裂後でも循環が安定している症例,瘤の局在が解剖学的にアプローチ容易である等の要件を満たしている場合,腹腔鏡下動脈瘤切除術は,低侵襲に安全かつ確実に行える有用な治療法の一つと考えられた。
  • 上原 悠也, 高見沢 康之, 小松 健一, 貝塚 真知子, 藤田 敏忠, 小林 義典, 山田 武男, 濱口 實, 浅野 功治, 大坪 毅人
    2014 年 34 巻 8 号 p. 1505-1508
    発行日: 2014/12/31
    公開日: 2015/04/02
    ジャーナル フリー
    KIT抗体を用いた免疫組織診断が用いられるようになり,gastrointestinal stromal tumor(GIST)と平滑筋肉腫などの間葉系腫瘍との鑑別診断が可能となり,小腸原発の平滑筋肉腫はまれな疾患であることがわかった。症例は74歳男性で1ヵ月前から続く間欠的腹痛を主訴に他院から紹介受診となり,腹部CT検査で小腸腸重積症と診断し手術(小腸部分切除術)を行った。病理組織学的検査で小腸平滑筋肉腫による腸重積症と診断した。今回われわれは,小腸平滑筋肉腫による腸重積症を経験したので若干の考察を加えて報告する。
  • 磯崎 哲朗, 当間 雄之, 宮内 英聡, 大平 学, 久保嶋 麻里, 米山 泰生, 松原 久裕
    2014 年 34 巻 8 号 p. 1509-1512
    発行日: 2014/12/31
    公開日: 2015/04/02
    ジャーナル フリー
    症例は55歳,男性。肺と副腎に腫瘤を指摘され近医で精査を予定されていたところ,貧血のため緊急入院となった。間欠的な腹痛を認め,CT検査で腸重積症と診断され当院紹介となった。CTでは2ヵ所の腸重積を認め,いずれも先進部に腫瘍の存在が疑われた。右肺上葉には原発巣と思われる腫瘤を認め,左副腎転移を伴っていた。肺癌小腸転移による腸重積症と診断し緊急手術を行った。空腸に1ヵ所重積を認め,また上部空腸を中心に計5個の転移性腫瘍が確認された。重積を用手的に整復し小腸部分切除術を施行した。術後経過は良好であったがさらなる精査・加療の希望なく術後49日目に癌死した。転移性小腸腫瘍は重積・出血・穿孔などの腹部救急症状を呈することがある。悪性腫瘍終末期の場合は手術適応の判断に迷うが,肺癌では数ヵ月の予後が期待でき切除を考慮してよいと思われた。
  • 今北 智則, 中島 紳太郎, 阿南 匡, 衛藤 謙, 小村 伸朗, 矢永 勝彦
    2014 年 34 巻 8 号 p. 1513-1516
    発行日: 2014/12/31
    公開日: 2015/04/02
    ジャーナル フリー
    症例は68歳の女性で2010年に穿孔性腹膜炎に対して当院でHartmann手術を施行した。術1年後より傍ストーマヘルニアを認めていたが,慢性関節リウマチに対してステロイドが長期投与され,用手還納可能のため経過観察を行った。2012年9月,ストーマ部の膨隆と腹痛が出現したため受診した。同部は非還納性で圧痛を伴い,腹部造影CTで小腸の脱出を認め,傍ストーマヘルニア嵌頓と診断し,緊急手術を施行した。ストーマ外側に弧状切開をおいて,腹直筋前鞘と外腹斜筋腱膜を露出しヘルニア囊を開放して腸管壊死がないことを確認した。腸管を腹腔内に還納しComponents separation法に準じて外腹斜筋腱膜と腹直筋前鞘に減張切開を置き,内外腹斜筋間を剥離して正常筋膜をスライドさせ,緊張なくヘルニア門を閉鎖した。同修復法は単純閉鎖よりも再発率が低く,汚染環境などを理由にメッシュ使用不能症例でも有効と考えられた。
  • 北山 紀州, 寺岡 均, 西村 潤也, 埜村 真也, 野田 英児, 西野 裕二, 平川 弘聖
    2014 年 34 巻 8 号 p. 1517-1521
    発行日: 2014/12/31
    公開日: 2015/04/02
    ジャーナル フリー
    術中内視鏡が治療方針決定に有効であった,非閉塞性腸管膜虚血症(nonocclusive mesenteric ischemia:以下,NOMI)の1例を経験したので報告する。症例は70歳,男性。頭部外傷で当院脳神経外科入院中に嘔吐が出現したため,当科紹介となった。腹部CTで門脈ガスおよび小腸壁内気腫を認め,腸管壊死が疑われたため緊急手術を施行した。空腸に非連続性の発赤および浮腫を認めNOMIと診断したが,腸管のviabilityが明らかでなく術中内視鏡を施行した。粘膜側には不整形の浅い潰瘍および発赤,浮腫を認めたが壊死所見は無く腸管切除術は行わなかった。若干の文献的考察を加えて報告する。
  • 荻野 秀光
    2014 年 34 巻 8 号 p. 1523-1526
    発行日: 2014/12/31
    公開日: 2015/04/02
    ジャーナル フリー
    症例は10歳,男児。発熱と下痢で発症し,近医で急性腸炎と診断され投薬を受けたが改善せず,紹介受診となった。造影CT検査で右前腎傍腔に巨大膿瘍を認め,穿孔性虫垂炎と診断して緊急手術を行った。手術は腹腔鏡下に右傍結腸溝から後腹膜膿瘍を解放してドレナージを行った後に回結腸を脱転して虫垂を同定して切除した。術後2日に経口摂取を開始し,術後創感染や膿瘍形成など合併せず術後11日に軽快退院となった。腹腔鏡下虫垂切除術は,低侵襲性に加えて創汚染が少なく良好な視野で膿瘍ドレナージや洗浄が可能であるため穿孔性や膿瘍形成を伴う複雑な虫垂炎に対しても有用な術式と考えられた。
  • 原 仁司, 柳 在勲
    2014 年 34 巻 8 号 p. 1527-1530
    発行日: 2014/12/31
    公開日: 2015/04/02
    ジャーナル フリー
    症例は74歳,女性。既往歴は特になし。臍周囲の皮膚発赤と腹痛を主訴に当院を受診した。腹部CT検査で,大網に線状の高吸収陰影を内部に有する膿瘍を認めた。魚骨による大網膿瘍と診断し,緊急手術を施行した。手術所見では炎症性腫瘤に包まれた大網膿瘍を認め,大網部分切除術を施行した。膿瘍内には魚骨を認めた。炎症性腫瘤は横行結腸に接していたが,明らかな穿孔を認めなかった。手術所見より,横行結腸から大網内へ穿通した魚骨が原因と推測されたが,穿孔部はすでに閉鎖したものと考えられた。術後経過は良好で術後第7病日目に退院となった。術前診断可能であった魚骨による大網膿瘍の1例を経験したので文献的考察を加え報告する。
  • 大内 晶, 浅野 昌彦, 渡邊 哲也, 加藤 雄大
    2014 年 34 巻 8 号 p. 1531-1535
    発行日: 2014/12/31
    公開日: 2015/04/02
    ジャーナル フリー
    症例は58歳の男性で,結核性腹膜炎で開腹手術の既往があった。腹痛,嘔吐で当院に紹介され,CTで癒着性イレウスと診断した。イレウス管を挿入して保存的に治療したが,減圧が不十分でイレウスは改善しなかった。入院後7日目に腹痛の増強を認めて緊急手術を施行したが,腸管壊死の所見を認めず癒着剥離のみで手術を終了した。術後2日目の午前中にイレウス管を抜去したところ,同日の夜に大量の下血を認めて出血性ショックとなった。腹部ダイナミックCTで上部空腸に造影剤の血管外漏出を認めて小腸出血と診断し,緊急開腹手術を施行して止血しえた。組織学的には漿膜の炎症性変化を伴う非特異性潰瘍であり,イレウス管による物理的外力によるものと考えられた。イレウス管による小腸潰瘍出血の報告は本邦では自験例が2例目とまれであるが,大量出血をきたし致命的になることもあり注意を要する。
  • 魚嶋 晴紀, 伊藤 亮治, 賀古 眞
    2014 年 34 巻 8 号 p. 1537-1540
    発行日: 2014/12/31
    公開日: 2015/04/02
    ジャーナル フリー
    症例は71歳,男性。50年以上の常習飲酒家。2011年3月シンガポールへ渡航歴あり。同年4月上旬に黄疸を指摘され,近医より当院紹介受診となった。受診時より肝性脳症Ⅱ度,血液検査はAST 3,672IU/L,ALT 1,267IU/Lと肝機能酵素の著明な上昇,プロトロンビン時間は24.4%と延長が認められた。常習飲酒家で,HA-IgM Ab陽性であることから,A型肝炎を契機に発症したacute on chronic型肝不全と診断した。第1病日より人工肝補助療法を計7回施行したところ,transaminaseは急速に下降したが,黄疸は増悪傾向であったため,第8病日からステロイドパルス療法を併用した。その後,意識障害は一時的に改善されたが,黄疸は依然増悪傾向であった。第31病日に腹痛が認められ,画像検査より急性膵炎の合併と診断し,集学的治療を行うも治療に反応なく,第35病日に永眠となった。
  • 貝田 将郷, 荒畑 恭子, 伊藤 麻子, 財部 紗基子, 木村 佳代子, 岸川 浩, 西田 次郎, 松井 淳一
    2014 年 34 巻 8 号 p. 1541-1546
    発行日: 2014/12/31
    公開日: 2015/04/02
    ジャーナル フリー
    要旨:症例は75歳,女性。大腸内視鏡検査前処置の下剤(sodium picosulfate hydrate)を服用した後に腹痛とショックをきたし緊急入院となった。緊急内視鏡検査で直腸に亜全周性の腫瘍を認め,その口側には暗赤色に変色した著明な拡張結腸がみられ,閉塞性大腸炎と診断した。全身状態不良なため緊急手術は困難と判断し,減圧目的のため経肛門的イレウス管を留置した。その後全身状態の改善が得られたが,第17病日に穿孔をきたし緊急手術となった。病変は全結腸に及んでおり,結腸亜全摘術および回腸瘻造設が施行された。これまで本症に対するイレウス管留置の報告例はなく,多くの症例で緊急手術が行われているが,本症例において全身状態の回復を待つための対処療法としてイレウス管を留置したことは一定の意義はあったと考えている。大腸狭窄が疑われる患者に対しては,本症の発生を常に考慮した上で,慎重な下剤投与を行う必要がある。
  • 野口 大介, 伊藤 貴洋, 大森 隆夫, 濱田 賢司, 田岡 大樹
    2014 年 34 巻 8 号 p. 1547-1551
    発行日: 2014/12/31
    公開日: 2015/04/02
    ジャーナル フリー
    要旨:症例は77歳,男性。既往歴に高血圧,狭心症,心房細動,脳梗塞,慢性腎不全,糖尿病を認める。腹痛を主訴に当院救急外来受診された。初診時,腹部全体に筋性防御を認め,血液検査ではWBC 9,800/μL,CRP 18mg/dLと高値だった。CTで多量の腹腔内遊離ガス,胆囊と胆管内にガスを認め,胆道消化管瘻を伴った消化管穿孔の診断で緊急手術施行した。開腹すると腹腔内は膿汁で充満し,胆囊に穿孔を認めた。上下部消化管には穿孔なく,胆道と消化管の交通も認めず,気腫性胆囊炎穿孔と診断し,胆囊摘出術を施行した。本邦では腹腔内遊離ガスならびに胆管内ガスを伴った気腫性胆囊炎穿孔は3例にすぎず,術前診断の困難性からも興味深い症例と考えたため報告する。
  • 神谷 忠宏, 寺崎 正起, 岡本 好史, 鈴村 潔, 田中 顕一郎, 土屋 智敬
    2014 年 34 巻 8 号 p. 1553-1556
    発行日: 2014/12/31
    公開日: 2015/04/02
    ジャーナル フリー
    要旨:症例は83歳女性で,既往に慢性心不全と心房細動があった。腹痛と呼吸困難感を訴え,当院の救急外来を受診した。意識清明,血圧82/62mmHg,心拍100/minで不整,SpO2は87%,体温34.9℃であった。腹部の圧痛は認めず,左鼠径部に手拳大の腫瘤を触知した。腹部造影CT検査で,左鼠径部に小腸の嵌頓と,上腸間膜動脈閉塞の所見を認めたため,緊急開腹手術を施行した。術中所見で左大腿ヘルニア嵌頓と小腸から右結腸にかけて壊死所見を伴う虚血性変化を認めた。手術は小腸大量切除術および右結腸切除術を施行し,小腸瘻と横行結腸瘻を造設した。術後,中心静脈カテーテル感染や尿路感染などの感染性合併症を認めたが,いずれも保存的治療を行い軽快した。第53病日に慢性期病院へ転院となった。今回,大腿ヘルニア嵌頓に上腸間膜動脈閉塞症を合併した非常にまれな症例を経験したので,文献的考察を加えて報告する。
  • 呉林 秀崇, 高嶋 吉浩, 宗本 義則, 鈴木 勇人, 佐野 周生, 島田 雅也, 斎藤 健一郎, 三井 毅, 飯田 善郎
    2014 年 34 巻 8 号 p. 1557-1561
    発行日: 2014/12/31
    公開日: 2015/04/02
    ジャーナル フリー
    症例は77歳,女性。認知症があり,ほぼ寝たきりの状態であった。発熱を主訴に近医を受診し,胸部X線検査で遊離ガス像を認め,当院を紹介受診した。腹部CT検査で,腹腔内遊離ガス像を認め,緊急手術を施行した。術中所見および内診で非穿孔性の子宮留膿腫と診断した。術後経過は良好であった。高齢女性の腹膜炎の鑑別診断にあたり,本疾患も念頭に置く必要があり,また全身状態を十分考慮した上で,治療方針を決定する必要があると考えられた。
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