日本腹部救急医学会雑誌
Online ISSN : 1882-4781
Print ISSN : 1340-2242
ISSN-L : 1340-2242
37 巻, 6 号
選択された号の論文の28件中1~28を表示しています
原著
  • 谷脇 慎一, 中野 昌彦, 古川 哲, 松尾 英生, 吉田 正
    2017 年 37 巻 6 号 p. 825-830
    発行日: 2017/09/30
    公開日: 2018/02/27
    ジャーナル フリー

    2011年4月~2016年12月に当院で施行したイレウス手術症例83例を対象に腹腔鏡手術の有用性とその適応について検討した。腹腔鏡手術群(以下,L群)(n=34)と開腹手術群(以下,O群)(n=49)に分け,L群をさらに腹腔鏡完遂群(以下,LC群)(n=18)と開腹移行群(以下,OC群)(n=16)に分けた。これらの患者背景と手術成績を後方視的に検討した。L群とO群を比較すると,患者背景に差はなかったが,L群で有意に術後死亡例が少なく,術後在院日数が短い手術成績となった。LC群とOC群を比較すると,患者背景に差はなかったが,LC群で有意に手術時間が短く,術後合併症は少なく,術後在院日数が短い手術成績となった。今回の検討により,全身状態に問題がなければ,癒着性イレウスの症例と絞扼性イレウスであっても腸管拡張が限局しておりworking spaceが確保できる症例は腹腔鏡手術の適応と考えられた。

  • 河崎 正裕
    2017 年 37 巻 6 号 p. 831-835
    発行日: 2017/09/30
    公開日: 2018/02/27
    ジャーナル フリー

    【目的】医療被曝低減を図るため当院の急性虫垂炎における画像診断の実施状況を調査した。【対象および方法】2006年1月から2015年12月までの15歳以下の急性虫垂炎例(以下,AA)またはAAが疑われCTを施行した例を集計し画像診断の選択を診察医別に解析した。また医療被曝のリスクに関する医師の意識調査を実施した。【結果】対象患者136例中83例は最初に超音波検査(以下,US)が施行され,うち34例でCTが追加された。残り53例は最初にCTが施行された。AAの93例のうち49例はUSで,44例はCTで診断された。小児外科医は全例USを,内科系医はCTを選択していた。医療被曝リスクについての意識調査では内科系医の認識度が低かった。【考察】当院ではAA診断時,USを先行させればCTを必要としない例が少なくないと考えられる。そのためには診察医のUS診断技術の向上,また被曝リスクの周知を図る必要がある。

特集:腹部救急疾患に対する診断と初期治療─総合診療医の役割─
  • 横江 正道
    2017 年 37 巻 6 号 p. 839-844
    発行日: 2017/09/30
    公開日: 2018/02/27
    ジャーナル フリー

    プライマリ・ケア医として,総合診療医は腹部救急疾患に大きくかかわることが予想される。現在の総合内科医にとって,腹部救急疾患へのアプローチや専門医との診療連携などに関して,アンケートを行って現状や課題を検討した。総合内科医は病歴聴取や身体所見を重んじる傾向があり,画像診断に対する重みは専門医ほどでない結果であった。そうした背景もあってか,専門科へのコンサルテーションに関して,画像診断で確定的ではないときに入院を拒まれたりすることに悩みを持っていることもわかった。画像診断が偽陰性のときに見えないからといって診断を除外してしまうことには問題があり,せめて経過観察入院などを行うなどの対応が必要である。鑑別診断にあたっては,頻度と重大性を考慮して対応を進める傾向があり,消化器領域以外の疾患も検討していた。見えるもののみを相手にするのではなく,考える消化器診療には内科診療の本質があると考える。

  • 島田 長人, 本田 善子, 髙地 良介, 酒井 隆光, 皆川 輝彦, 一林 亮, 本多 満, 船橋 公彦, 瓜田 純久
    2017 年 37 巻 6 号 p. 845-851
    発行日: 2017/09/30
    公開日: 2018/02/27
    ジャーナル フリー

    東邦大学医療センター大森病院では,2003年の診療科再編成に伴い総合診療・急病センターが設置された。このセンターは総合診療内科と総合診療外科で構成されている。腹痛患者は,原則として当センターを受診する。内科医と外科医がお互いに情報交換を行い,診断・治療方針を決定している。手術が必要な場合は総合診療外科が対応するが,症例により他科と共同で治療にあたる。腹部救急診療においてもっとも重要なことは,commonの症候の中から killer diseaseを見逃さないことと,外科治療のタイミングを逸しないことにある。つまり,救急医療の最前線にいる総合診療医には,緊急度の高い疾患を的確に拾い上げる能力が要求される。そのためには,総合診療の中に内科医だけではなく外科医も同時に配置することにより,総合診療医の診療レベルが上がるものと考えられる。当院における総合診療医を中心とした腹部救急診療の現状を報告する。

  • 菊池 友太, 安武 正弘, 兵働 英也, 古木 裕康, 内田 英二
    2017 年 37 巻 6 号 p. 853-857
    発行日: 2017/09/30
    公開日: 2018/02/27
    ジャーナル フリー

    近年,総合診療科を併設する施設が増加している。当院では2008年10月に総合診療センターが設立され1次,2次救急患者の初期診療にあたっている。2015年に急性腹症診療ガイドラインが作成され,その初期対応が重視される中,総合診療部門の医師が担う役割は大きい。治療までの時間が予後を規定する心血管系疾患を短時間で診断することに加え,手術を要する消化器疾患に関しては適切な時期での外科との連携が重要である。2014年7月から2015年6月において,総合診療センターを受診した急性発症の腹痛患者は1,770名,消化器外科紹介は100名(5.6%),緊急手術施行は40名(2.3%)であった。消化器外科紹介疾患は急性虫垂炎が51症例と最多であったが,緊急手術例は20例(39%)にとどまった。Interval Appendectomyの有用性が報告される昨今,外科への適切な紹介時期に関しては今後検討を重ねたい。

  • 山岡 稔, 芦谷 啓吾, 大庫 秀樹, 大崎 篤史, 草野 武, 白崎 文隆, 野口 哲, 菅野 龍, 木下 俊介, 井上 清彰, 小林 威 ...
    2017 年 37 巻 6 号 p. 859-863
    発行日: 2017/09/30
    公開日: 2018/02/27
    ジャーナル フリー

    【対象と方法】2014年4月~2015年8月まで消化器症状で緊急入院した患者を対象に患者背景,臨床症状,疾患,治療について検討した。【結果】消化器症状での緊急入院は183例で,年齢15歳~97歳,平均65歳で,男女比88:95であった。腹痛が70例と最も多く,貧血,血便,食思不振,下血,下痢,嘔吐,吐血と続いた。疾患は胃癌18例,大腸癌13例,急性膵炎12例,腸閉塞11例,虚血性腸炎11例,胃潰瘍10例,総胆管結石6例,大腸憩室炎6例,食道癌4例,胃前庭部毛細血管拡張症(GAVE)4例で,急性膵炎,腸閉塞,虚血性腸炎,胃潰瘍,大腸憩室炎,GAVE,総胆管結石は当科で治療した。胃癌,食道癌,大腸癌はガイドラインに準じて内視鏡治療適応病変に対しては内視鏡的粘膜下層剥離術を行った。外科的治療や化学療法が必要な症例は当院外科または国際医療センター消化器外科に紹介した。【結語】消化管疾患を中心に診断から治療まで行い,あらゆる内視鏡検査,治療に対応した。

  • ―総合診療医の意識調査から―
    梶山 潔, 皆川 亮介, 古賀 聡, 木村 和恵, 由茅 隆文, 武谷 憲二, 笠井 明大, 吉屋 匠平, 坂野 高大, 賀茂 圭介, 武末 ...
    2017 年 37 巻 6 号 p. 865-871
    発行日: 2017/09/30
    公開日: 2018/02/27
    ジャーナル フリー

    当院では総合診療医の97%は,腹部救急医療へかかわることは意義があると考えている。深刻な医師不足の中,救急医・外科医の疲弊回避と総合診療医の臨床力向上の観点からは,腹部救急診療と総合診療にはWin―Winの関係が成り立つ。問題は,総合診療医と専門科医師との連携がスムーズでないことであった。原因は,相互の理解不足とコミュニケーション不足と考える。対策としては,総合診療医の腹部救急診療を外科などの専門科がバックアップする。また,教育的には,症例のアウトカムを踏まえ,初療医へのフィードバックが重要であり,総合診療医もそれを求めている。総合診療科と専門科との双方向的な連携によるチーム医療をシステム化し,効率的な役割分担をすること,つまり互いに理解しあい歩み寄ることが重要である。総合診療医が積極的に腹部救急医療にかかわることは互いの弱点を補填しあい,本邦救急医療の危機を打開するカギになりうると思われた。

  • 森脇 義弘, 奥田 淳三, 象谷 ひとみ, 大谷 順
    2017 年 37 巻 6 号 p. 873-878
    発行日: 2017/09/30
    公開日: 2018/02/27
    ジャーナル フリー

    消化器関連救急病態(腹部救急疾患)で緊急度や重症度が低いと,敬遠され院内たらい回し状態となりやすい。非都市部人口非密集地域(医療過疎地)の小規模病院である当院では「専門診療」や「臓器別診療」に対する「総合」ではなく「地域性」を重視した地域内完結的「総合」として「地域総合診療科(総診)」を設置し,総診のみの専属専従でなく敢えて第二診療科とし,地域内診療完結希望患者に,初期診療から入院,地域内死亡までの継続診療を担ってきた。他診療科の外来担当例の入院担当科としての連携面では,非専門科から総診という専門科への高診ではなく,同じ非専門科の外科との連携という位置付けとなり,内科的高度専門性を要さない病態では内科でも総診でも依頼可能な2科平行対応となり,入院担当依頼での障壁が軽減され得る。現状の各専門医が総診の意識を持ち,総診専門医がこれを排斥せず,総診部門が各専門診療科と重複することが重要かもしれない。

症例報告
  • 佐野 達, 高野 公徳, 小澤 陽介, 疋田 康祐, 沖原 正章, 富田 晃一, 千葉 斉一, 河地 茂行
    2017 年 37 巻 6 号 p. 879-883
    発行日: 2017/09/30
    公開日: 2018/02/27
    ジャーナル フリー

    症例は23歳女性。転倒し肘部で左腹部を強打した直後より腹部の激痛を自覚し当院へ救急搬送された。造影CTで膵体尾部に10cm大の腫瘍性病変を認め,腫瘍近傍に血腫と造影剤の漏出を認めた。腫瘍破裂による後腹膜出血と診断し緊急腹部血管造影検査を施行したが動脈性出血は認めなかった。バイタルサインも安定していたため保存的加療を開始した。術前画像検査の結果,膵Solid-pseudopapillary neoplasm(以下,SPN)と診断した。SPNは膵癌取扱い規約において基本的には低悪性度腫瘍であり予後良好とされているが,破裂症例は腹膜播種のリスクがあり,また術前画像診断で脈管浸潤も疑われ,縮小手術は適応外と判断し尾側膵切除を行った。切離断端の迅速病理診断で腫瘍の遺残は認めなかった。術後病理診断はSPNであった。外傷を契機に発見された膵SPNに対し緊急手術を回避し,術前診断や術式選択を検討することが可能であり,示唆に富む症例であったため若干の文献的考察を加えて報告する。

  • 升田 智也, 稲葉 基高
    2017 年 37 巻 6 号 p. 885-889
    発行日: 2017/09/30
    公開日: 2018/02/27
    ジャーナル フリー

    小腸悪性リンパ腫は特異的な臨床症状を欠くため診断が遅れることも多く予後不良であるとされる。今回,われわれは小腸穿孔による汎発性腹膜炎をきたした同時多発性小腸原発びまん性大細胞型B細胞性リンパ腫(diffuse large B-cell lymphoma:以下,DLBCL)の1例を経験した。DLBCLは原発性小腸悪性リンパ腫の中でもっとも多い組織型であるが臨床研究が少なく,急時の治療方針については確立されていない。自験例は緊急手術中に病変が小腸に多発していることが判明したため3ヵ所の小腸部分切除を施行し,触知可能なすべての小腸病変を切除した。術後経過は良好で早期に化学療法を導入することができた。自験例とともに本邦における過去の小腸原発DLBCLの多発穿孔症例について検討し,報告する。

  • 馬場 健太, 田崎 達也, 香山 茂平, 井上 聡, 上神 慎之介, 佐々木 秀, 中光 篤志
    2017 年 37 巻 6 号 p. 891-894
    発行日: 2017/09/30
    公開日: 2018/02/27
    ジャーナル フリー

    症例は51歳,女性。右上腹部痛,嘔吐,下痢が出現し,翌日には下血も出現したため受診した。腹部CT検査で,小腸─大腸の腸重積像を認め,先進部に脂肪腫を疑わせるlow density massが複数描出された。下部消化管内視鏡による整復を試みたが困難であったため,緊急手術を施行した。用手的に整復し,腫瘍を触知した約20cmの回腸を切除した。摘出した回腸には複数個の脂肪腫が存在していたため,回腸lipomatosisと診断した。

  • 野中 有紀子, 平松 和洋, 加藤 岳人, 神原 祐一
    2017 年 37 巻 6 号 p. 895-899
    発行日: 2017/09/30
    公開日: 2018/02/27
    ジャーナル フリー

    症例は67歳,男性。自転車走行中に乗用車にはねられ受傷した。腹部CTから膵損傷・肝損傷と診断し,緊急血管造影と内視鏡的逆行性膵管造影(以下,ERP)を施行した。主膵管損傷を認めた。膵管損傷部位より尾側の膵管が造影され,内視鏡的経鼻膵管ドレナージチューブ(以下,ENPDチューブ)が挿入可能だった。全身状態は安定しており,保存的治療を行った。入院16日目のERPで主膵管の損傷部位から造影剤の漏出像は消失し,主膵管の狭窄は認めなかった。ENPDチューブ抜去後も症状の悪化はみられず,入院24日目に自宅退院した。受傷後半年以上経過しているが,血液検査・画像検査に異常を認めていない。膵損傷に対する内視鏡治療の適応は定まっておらず,その治療方針の決定のためには今後も症例の集積・検討が重要と考える。

  • 安 炳九, 松川 浩之, 高原 秀典, 波戸本 理絵, 原 重雄
    2017 年 37 巻 6 号 p. 901-906
    発行日: 2017/09/30
    公開日: 2018/02/27
    ジャーナル フリー

    症例は31歳,男性。下腹部痛を主訴に入院した。血液生化学検査所見では炎症反応の上昇を認め,さらに腹部単純CT検査では憩室を伴ったS状結腸周囲にair densityを有するSpace Occupying Lesion(SOL)を認めた。S状結腸憩室穿通による結腸腸間膜膿瘍の診断のもと,腹腔鏡手術を施行した。手術所見では,S状結腸間膜は肥厚し,腸間膜膿瘍を形成していた。腹腔鏡補助下に膿瘍ドレナージ,S状結腸切除術を施行した。術後合併症は認めず,術後第25病日に軽快退院した。

  • 宮本 剛士, 笹原 孝太郎, 樋口 佳代子
    2017 年 37 巻 6 号 p. 907-909
    発行日: 2017/09/30
    公開日: 2018/02/27
    ジャーナル フリー

    症例は57歳男性。約60cmの高さの脚立から転落し,左臀部を打撲した。約5時間後から浮動性めまいと腹痛を認め,受傷6時間後に当院救急外来を受診した。腹部に打撲痕などは認めなかったが,右側腹部に自発痛と腹部全体に筋性防御を認めた。CTで腸間膜内の血腫と肝周囲,骨盤内に液体貯留を認めた。外傷性腸間膜損傷による腹腔内出血と診断し,緊急手術を施行した。術中所見ではTreitz靭帯から約110cm肛門側の腸間膜損傷を認め,同部位からの出血を認めたため,約50cmの小腸を切除した。病理検査では腸間膜裂傷による破綻動脈を認めたが,周囲の変性は認めず,腹部に直接的な外力もかかっていなかったため急速減速性メカニズムによる損傷を受けたと考えられた。

  • 岸本 拓磨, 池田 純, 谷口 史洋, 窪田 健, 下村 克己, 箕輪 啓太, 高階 謙一郎
    2017 年 37 巻 6 号 p. 911-914
    発行日: 2017/09/30
    公開日: 2018/02/27
    ジャーナル フリー

    症例は80歳,女性。3ヵ月前から間欠的な下腹部痛を認めていたが医療機関を受診せずに様子を見ていた。膣から排便を認めたために近医を受診し,婦人科疾患の精査目的に当院婦人科に紹介受診となった。当院婦人科で精査を行ったところ,子宮消化管瘻が疑われ当科紹介受診となった。腹部造影CT検査でS状結腸に腫瘤影を認め,同腫瘤と子宮に瘻孔形成が疑われた。下部消化管内視鏡検査でS状結腸に腫瘤を認め,生検の結果,S状結腸癌と診断した。S状結腸癌による結腸子宮瘻と診断し,手術を行った。切除標本の病理組織学的所見では子宮への腫瘍細胞の浸潤を認めなかったものの,肉眼的所見ではS状結腸子宮瘻を認めた。S状結腸癌は子宮に浸潤することはあるが,瘻孔形成に至ることは極めてまれとされている。今回われわれは,S状結腸癌による結腸子宮瘻の1例を経験したので報告する。

  • 齋田 司, 椎貝 真成, 古西 崇寛, 渡邊 あずさ, 石黒 聡尚, 阿竹 茂
    2017 年 37 巻 6 号 p. 915-918
    発行日: 2017/09/30
    公開日: 2018/02/27
    ジャーナル フリー

    バリウムを使用した上部消化管造影は健診で行われている一般的な検査である。今回われわれは,検査後に大腸損傷を発症した4例を経験したため,文献的考察を加え報告する。年齢は42~77歳,3名が男性,1名が女性であった。いずれも健診の2~4日後に発症した。S状結腸の腹腔内穿孔やバリウム嵌頓部口側のS状結腸憩室腹腔内穿孔,S状結腸の後腹膜穿通ではそれぞれ外科的手術を施行した。穿孔に至っていない1例では内視鏡で下行結腸に嵌頓したバリウムの破砕,摘出,損傷部の縫縮を行い,いずれの症例も経過良好であった。【結語】上部消化管造影後の大腸損傷は医原性の合併症でもあり,医療者としては十分留意する必要がある。腹部症状に加え,バリウムの停滞が確認された場合には,穿孔を避けるために積極的に介入する必要がある。

  • 田村 暢一朗, 山川 達也
    2017 年 37 巻 6 号 p. 919-921
    発行日: 2017/09/30
    公開日: 2018/02/27
    ジャーナル フリー

    症例は62歳の男性で,職場の同僚に作業場にある工業用エアコンプレッサーを殿部にむけ噴射され受傷し,当院に来院した。エアコンプレッサーと患者の殿部との距離は約50cm離れており,患者は長ズボンと下着を着用していた。来院時頸部から前胸部にかけての皮下気腫と下腹部に反跳痛を伴う圧痛を認めた。胸腹部CTで直腸穿孔による後腹膜気腫,縦隔気腫,皮下気腫への進展と診断し,緊急開腹術を行った。開腹したところ,腹膜反転部直上から約4cm口側にわたって直腸間膜対側に腸管軸方向に漿膜筋層の裂創と,その裂創の一部に全層性の穿孔部位を認め,Hartmann手術を施行した。術後,縦隔炎や後腹膜膿瘍を形成することはなく,第23病日に退院となった。エアコンプレッサー自体を肛門に挿入せずに,患者とある程度の距離から送気されたとしても,十分に直腸損傷を生じる可能性があると考えられた。

  • 倉橋 真太郎, 駒屋 憲一, 松村 卓樹, 宮地 正彦, 小松 俊一郎, 内野 大倫, 安井 講平, 佐野 力
    2017 年 37 巻 6 号 p. 923-926
    発行日: 2017/09/30
    公開日: 2018/02/27
    ジャーナル フリー

    症例は70歳女性。乳癌術後補助療法中に薬剤性肺炎を発症し,ステロイドパルス療法を施行中であった。十二指腸潰瘍出血を併発し,内視鏡的止血術を施行した。止血術後3日目,4日目に再出血し,ショック状態となった。経皮的動脈塞栓術により一時的な止血は得られたが,再出血のリスクが高いと判断し,緊急手術を行う方針とした。ダメージコントロール手術(damage control surgery:以下,DCS)の概念を適応し,出血制御のため手術は膵頭十二指腸切除術,非再建とした。すみやかに集中治療へ移行,循環動態の安定を図った後,術後36時間後に再建術を施行した。膵液瘻(Grade B)を認めたが,術後80日目に軽快退院した。DCSは外傷領域で提唱されてきた治療概念であるが,侵襲が高く再建を要する術式に対する治療方針としても有用であると考えられた。

  • 服部 圭祐
    2017 年 37 巻 6 号 p. 927-930
    発行日: 2017/09/30
    公開日: 2018/02/27
    ジャーナル フリー

    58歳女性。7ヵ月前に広汎子宮全摘,両側付属器切除施行し,その5ヵ月後尿管狭窄のため尿管膀胱新吻合を施行した。さらに2ヵ月後出血性ショックをきたしERを受診した。造影剤アレルギーの既往であったがやむを得ず造影CT検査を施行し外腸骨動脈小腸瘻と診断できた。頻回の開腹歴およびショック状態であったため,救命処置目的として左外腸骨動脈コイル塞栓術で止血を得た。術後追加手術を必要としたが治癒しえた症例を経験したため,報告する。

  • 山中 崇弘, 新木 健一郎, 石井 範洋, 塚越 真梨子, 五十嵐 隆通, 渡辺 亮, 久保 憲生, 大嶋 清宏, 桑野 博行, 調 憲
    2017 年 37 巻 6 号 p. 931-934
    発行日: 2017/09/30
    公開日: 2018/02/27
    ジャーナル フリー

    【はじめに】侵襲性クレブシエラ感染症は,Klebsiella pneumoniaeを原因菌とし,肝膿瘍から眼内炎や中枢神経感染症などの転移性感染巣を引き起こす。当科での1例を報告する。【症例】73歳男性。主訴は腰痛,視力低下。精査の結果,肝膿瘍,眼内炎,敗血症の診断で抗菌薬治療を開始,第3病日に肝ドレナージを施行した。培養からKlebsiella pneumoniaeが検出された。転移性感染巣検索では,腰部に椎体炎,硬膜外膿瘍を認めた。転移巣は保存的に軽快し,第52病日に転院となった。【考察】本邦での肝膿瘍を伴う侵襲性クレブシエラ感染症の報告10例では,眼内炎を7例(70%),死亡2例(20%)と危険な病態と考えられた。肝膿瘍,眼内炎という特徴的な所見を認めた際は,侵襲性クレブシエラ感染症を疑い,転移性感染巣を考慮した抗菌薬治療と,外科的治療を含めた集学的治療を行うことが重要である。

  • 矢澤 慶一, 杉田 光隆, 長田 俊一
    2017 年 37 巻 6 号 p. 935-940
    発行日: 2017/09/30
    公開日: 2018/02/27
    ジャーナル フリー

    症例は70歳の男性。心房細動に対しワルファリン内服中であった。腹痛と下痢を主訴に当院へ救急搬送された。造影CTで上腸間膜動脈(以下,SMA)内腔に低吸収域を認め,血管造影では中結腸動脈,回結腸動脈の描出不良を認めた。SMA塞栓症と診断し,動注による血栓溶解療法を行った。SMAの再灌流を認めたが,第2病日に症状再燃とSMA本幹の再閉塞を認めたため開腹手術を行った。腹腔内の検索では,空腸の一部に色調不良を認めたのみで,SMA本幹,辺縁動脈の拍動は良好であった。色調不良な腸管を切除した。術後,症状再燃はみられず抗凝固療法を継続して退院した。SMA塞栓症は比較的まれではあるが,治療開始が遅れた場合,腸管壊死による腸管大量切除に至ることがあり,著しく術後のQOLが低下する疾患である。今回われわれは血栓溶解療法を先行させたことで腸管大量切除を回避したと考えられる症例を経験したので,文献的考察を加えて報告する。

  • 中川 暢彦, 横井 一樹, 佐藤 敏
    2017 年 37 巻 6 号 p. 941-945
    発行日: 2017/09/30
    公開日: 2018/02/27
    ジャーナル フリー

    食道破裂に対する外科的治療では開胸手術が一般的だが,近年では内視鏡手術を応用した術式の報告が増えている。当院で2008年11月から2015年5月までで特発性食道破裂の診断となり緊急手術を施行した5例を対象に,内視鏡手術の適応を検討した。開胸手術が2例,胸腔鏡下手術が2例,腹腔鏡下手術が1例に施行され,全例で縫合閉鎖およびドレナージが施行された。平均手術時間は開胸手術で208分,内視鏡手術で265分であり,平均出血量は560mLと33mLであった。平均術後在院日数は39日と28日であった。内視鏡手術では穿孔部によって腹腔鏡や胸腔鏡でのアプローチが可能であり,低侵襲で有用な術式であることが示唆された。

  • 笠井 華子, 伊藤 康博, 江川 智久, 北野 光秀
    2017 年 37 巻 6 号 p. 947-951
    発行日: 2017/09/30
    公開日: 2018/02/27
    ジャーナル フリー

    アメーバ肝膿瘍に合併した下大静脈血栓症に対して血栓摘除術を施行した症例を経験したので報告する。症例は50代,男性。発熱,倦怠感と右季肋部痛を主訴に近医を受診し,血液検査で炎症反応が上昇していたため当院へ紹介された。腹部単純CT検査で肝右葉に約10cm大の膿瘍を認め,血清アメーバ抗体価が高値であり,アメーバ肝膿瘍の診断で,ドレナージと抗菌薬による治療を開始した。入院第16病日に施行した腹部造影CT検査で肝膿瘍の増大と肝静脈から下大静脈に伸展する血栓を認めた。また右肺動脈にも血栓を認めた。ヘパリンの投与を開始するも,膿瘍ドレーンからの出血もあり,保存的加療が困難と判断し,入院第18病日に手術を行った。体外循環補助下で下大静脈をクランプし血栓を摘除した。膿瘍は開窓してドレナージした。術後はメトロニダゾール脳症と軽度の胆汁瘻を認めたが,経過はおおむね良好で,術後24病日にリハビリ病院に転院した。

  • 石川 衛, 岩本 久幸, 近藤 優, 宮本 康二
    2017 年 37 巻 6 号 p. 953-955
    発行日: 2017/09/30
    公開日: 2018/02/27
    ジャーナル フリー

    症例は13歳,男児。右下腹部痛を主訴に当院受診。腹部所見は右下腹部を中心に著明な圧痛および反跳痛を認めた。腹部CT検査では虫垂腫大は認めず,回盲部近傍に造影効果を伴った腫瘤様構造を認めた。Meckel憩室に起因する急性腹症が疑われ,腹膜刺激徴候も伴うため同日緊急手術を施行した。手術所見は回腸末端より口側約20cmの腸間膜対側に6×5cmのMeckel憩室を認め,根部で反時計方向に約720度捻転し壊死に陥っていた。捻転を解除後に楔状に憩室切除した。経過良好で第6病日退院。Meckel憩室合併症の中でも茎捻転は非常にまれであるため報告する。

  • 吉岡 佑太, 關根 沙知, 大石 達郎, 金本 義明, 坂平 英樹, 緒方 志郎, 小山 隆司
    2017 年 37 巻 6 号 p. 957-961
    発行日: 2017/09/30
    公開日: 2018/02/27
    ジャーナル フリー

    症例は71歳,女性。全身性エリテマトーデス(以下,SLE)でステロイド内服中。呼吸困難,悪寒を主訴に当院へ救急搬送された。腹部造影CT検査で腹腔内の広範なfree airおよび腸管壁の肥厚を認め,消化管穿孔の診断で緊急手術を施行した。開腹したところ回腸に2ヵ所の穿孔を認めたため,穿孔部を含め回腸を約15cm切除した。切除標本では腸管粘膜に広範に多発する潰瘍を認めその一部が穿孔していた。病理所見では潰瘍近傍で散在性にフィブリン血栓や一部に弾性線維の破壊像がみられ,SLEに伴う血管障害による多発潰瘍と診断した。腸管は吻合せず術後はopen abdominal managementで管理した。CHDFや腹腔内洗浄を行うも敗血症が進行し,第17病日に死亡した。SLEは腹痛・下痢などの消化器症状を伴うことがあるが,血管障害から腸管壊死,腸管穿孔に至り致命的となりうるため早期診断,早期治療が必要である。

  • 野々山 敬介, 北上 英彦, 近藤 靖浩, 安田 顕, 山本 稔, 早川 哲史
    2017 年 37 巻 6 号 p. 963-967
    発行日: 2017/09/30
    公開日: 2018/02/27
    ジャーナル フリー

    当院で経験した腸管切除を施行した鼠径部ヘルニア嵌頓症例に対して二期的に腹腔鏡下ヘルニア修復術(transabdominal preperitoneal approach:以下,TAPP)を5例に施行した。男性1例,女性4例であり,平均年齢は71歳であった。抗血栓薬は3例で内服されていた。JHSヘルニア分類はⅠ型が1例であり,その他4例はⅢ型であった。嵌頓臓器は全例小腸であり,腸管切除を施行した理由は腸管穿孔が3例,微小穿孔疑いが2例であった。2回目手術までの待期期間の中央値は55日(11~81日)であった。待期中に再嵌頓した症例はなかった。術後合併症は初回術後に麻痺性イレウスを1例認めたが,二期的TAPP後の合併症は認めなかった。腸管穿孔や微小穿孔により腸管切除を必要とする嵌頓ヘルニアに対して,二期的TAPP法は安全に施行でき有用な術式と考えられた。

  • 小山 剛
    2017 年 37 巻 6 号 p. 969-972
    発行日: 2017/09/30
    公開日: 2018/02/27
    ジャーナル フリー

    症例は69歳男性。2日前から便秘,腹満があり,下腹部痛が増強したため当院受診。腹部は膨隆し,自発痛,圧痛があり,反跳痛も認めた。腹部単純CTで,盲腸から下行結腸までの拡張およびその肛門側に壁肥厚を認めた。盲腸から上行結腸には腸管気腫を認めたが,腹腔内遊離ガス像は認めなかった。血液検査上,軽度の炎症を認めるのみであった。以上より,腹膜炎・腸管気腫症・閉塞性大腸癌疑いで,同日緊急手術を施行した。術中所見では,上行結腸前面は菲薄化・穿孔しており,腹腔ドレナージ術・右側結腸切除術・人工肛門造設術を施行した。術後全身状態を改善させた後,根治術を施行し,下行結腸癌と診断された。術後肺転移をきたすも,初回手術から約4年半後の現在,外来通院中である。本症は遊離ガス像を伴わない腸管気腫症であったが,腸管壊死・穿孔をきたしており,理学的所見の重要性を再認識させられた症例であった。

  • 吉川 晃士朗, 金岡 祐次, 前田 敦行, 亀井 桂太郎, 高山 祐一, 深見 保之, 尾上 俊介
    2017 年 37 巻 6 号 p. 973-976
    発行日: 2017/09/30
    公開日: 2018/02/27
    ジャーナル フリー

    症例は80歳の男性で,2014年7月某日軽トラック運転中に普通乗用車と追突した。その後に腹痛が出現し当院へ救急搬送された。診察時には脈拍86回/分,血圧89/55mmHgと血圧低下を認め,CTでは腹腔内に血性腹水の貯留と虫垂壁構造の不整,その周囲のfree airを認めた。虫垂損傷ならびに外傷性腸間膜損傷の診断で緊急手術を施行した。開腹所見では虫垂断裂と回腸間膜損傷を認め,回盲部切除術を施行した。術後経過は良好であり術後14日目に退院した。

feedback
Top