日本腹部救急医学会雑誌
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41 巻, 6 号
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原著
  • 田中 祐介, 金岡 祐次, 前田 敦行, 高山 祐一, 高橋 崇真, 桐山 宗泰, 清板 和昭, 伊藤 喜介
    2021 年 41 巻 6 号 p. 403-407
    発行日: 2021/09/30
    公開日: 2022/03/31
    ジャーナル フリー

    【目的】大腸憩室出血の治療成績を検討し,手術の適応を明らかにすること。【対象と方法】2008年3月から2017年12月まで憩室出血のため入院した286例中,出血部位を同定できた110例を内科的治療群74例と手術群36例に分け,患者背景,臨床所見を比較検討した。また手術群36例の治療成績を検討した。【結果】両群で抗血栓薬,NSAIDs内服では有意差を認めず,手術群では有意に脳梗塞既往が多かった。出血部位は両群とも上行結腸がもっとも多く,次にS状結腸が多かった。総輸血単位数は手術群で有意に多かった。手術理由は内視鏡的止血困難,頻回出血,大量出血の順に多く手術時間中央値103.5分,出血量30mLだった。術後合併症(C-D grade>2)は10例で認め在院死亡は認めなかった。【結語】現時点での手術適応は内視鏡的止血困難,頻回出血,大量出血であり,今後手術への明確な適応判断基準やエビデンス発信が待たれる。

  • 沖野 哲也, 光浦 智証, 白石 裕大, 伊東山 瑠美, 清水 健次, 辛島 龍一, 松本 克孝, 高森 啓史
    2021 年 41 巻 6 号 p. 409-416
    発行日: 2021/09/30
    公開日: 2022/03/31
    ジャーナル フリー

    【背景】非閉塞性腸管虚血(non-occlusive mesenteric ischemia:以下,NOMI)は非連続性,分節状の腸管虚血をきたすため,切除範囲決定に難渋することがある。【方法】2012年5月〜2020年11月にNOMIで腸管切除した51例を対象とし,27例に術中インドシアニングリーン(indocyanine green:以下,ICG)蛍光法を行った。術中ICG蛍光法の有用性を検討するため,生存群と死亡群,ICG蛍光法施行群と未施行群に分け,周術期因子を比較した。さらにICG蛍光所見と術中所見を術後病理所見と比較検討した。【結果】死亡群では術後発症が有意に多く,術前乳酸値,術前SOFAスコアが有意に高値であった。またICG蛍光法施行群で切除腸管長が有意に短かった。さらに肉眼所見で同定し得なかった壊死病変をICG蛍光法で同定できた症例を7.4%認めた。ICG蛍光法でのシグナル欠損部位では病理所見ですべてに壊死・虚血を認めた。【結語】NOMIに対するICG蛍光法は術中腸管切除範囲決定に有用であった。

  • 太田 宏信, 渡辺 直純, 武者 信行, 林 達彦, 清水 武昭
    2021 年 41 巻 6 号 p. 417-425
    発行日: 2021/09/30
    公開日: 2022/03/31
    ジャーナル フリー

    【目的】術後仮性動脈瘤破裂に対するTAEの治療成績と,出血部位別の技術的問題点を検討する。【方法】2001年より2019年まで経験した消化器外科手術後の仮性動脈瘤破裂症例24例を対象とした。原疾患は胃癌6例,胆管癌6例,十二指腸乳頭部癌3例,膵臓癌2例,胆囊癌1例,大腸癌1例,良性疾患5例であった。術式は膵切除術(膵頭十二指腸切除術11例,ほか4例)が15例を占めていた。【成績】手術から術後出血発症までの期間中央値は19.0日。塞栓回数1回16例,2回6例,3回2例。全例プッシャブルマイクロコイルを使用し,腹腔動脈起始部症例1例にコイル逸脱を認めdetachable balloonを併用。TAEで24例中22例は止血し退院。2例死亡。TAEの合併症は肝梗塞3例(1例血漿交換を施行)と十二指腸穿孔1例で保存的に軽快。【結論】TAEの技術的困難部位は腹腔動脈基始部であった。死亡2例は重症難治性膵液瘻を合併していた。

症例報告
  • 山澤 海人, 柴 浩明, 柳垣 充, 飯田 智憲, 丹治 芳明, 萩原 慎, 佐久田 斉, 古川 良幸
    2021 年 41 巻 6 号 p. 427-430
    発行日: 2021/09/30
    公開日: 2022/03/31
    ジャーナル フリー

    症例は82歳男性で,慢性腎不全(透析中),高血圧,慢性閉塞性肺疾患,認知症の持病がある。突然の腹痛で当院緊急搬送となったが来院時の腹部所見は板状硬で反跳痛を認めた。腹部CT検査で胃小弯の腹腔内遊離ガスおよび腹水,上部消化管内視鏡検査で胃穹窿部の広範な壊死を認めた。特発性胃壊死・穿孔による汎発性腹膜炎の診断で緊急開腹手術を施行した。胃穹窿部から体部に広範な壊死所見を認めたが,全身状態が極めて不良なため,ドレナージ,経腸栄養目的の腸瘻造設を行った。術後9病日に下血を発症し,下部消化管内視鏡検査で上行結腸に露出血管を伴う広範な潰瘍を認め壊死を疑う所見であった。その後全身状態が悪化し術後34病日に敗血症で死亡した。特発性胃壊死は極めてまれで予後不良であり,結腸壊死を併発した報告は自験例がはじめてである。

  • 宇宿 真一郎, 平田 真太郎
    2021 年 41 巻 6 号 p. 431-434
    発行日: 2021/09/30
    公開日: 2022/03/31
    ジャーナル フリー

    症例は50歳台前半の男性,駅ホーム下の線路脇で倒れているところを発見され,救急搬送された。ショック状態で腹部全体に圧痛があり,FAST陽性であった。急速輸液による蘇生後に施行したCTでⅢb型肝損傷と診断した。CT終了直後に再び循環動態が不安定となったため緊急手術(肝縫合術,perihepatic packing,ドレナージチューブ留置)を行った。外科的止血が困難な持続動脈出血に対して術直後にTAEを行い止血を得た。第7病日のCTで肝S8に仮性動脈瘤を認め,同部にTAE(コイル塞栓)を施行した。同時に肝右葉に広範壊死を認めたが,肝切除による出血などの危険を憂慮し,ドレナージチューブからの洗浄による壊死組織除去を継続した。第45病日に退院し,外来でも洗浄を続け,初回手術から5ヵ月後にドレナージチューブを抜去できた。広範肝壊死に対して低侵襲なドレナージのみの治療の有効性が示唆された。

  • 笠原 優輝, 当間 雄之, 吉田 充彦, 松村 洋輔, 橋田 知明
    2021 年 41 巻 6 号 p. 435-438
    発行日: 2021/09/30
    公開日: 2022/03/31
    ジャーナル フリー

    症例は60歳男性。急性心筋梗塞に対して緊急で経皮的冠動脈形成術(percutaneous coronary intervention:以下,PCI)が施行され,プラスグレルとアスピリンによる抗血小板薬二剤併用療法が開始された。経過は良好であったが第6病日に急激な貧血の進行と黒色便を認めた。上部・下部消化管内視鏡検査では出血源は明らかでなかった。その後も貧血が進行したため,造影CT検査を施行したところ空腸に3cm大の多血性腫瘤を認めた。PCI直後で抗血小板薬継続は必須と考え,出血制御目的に緊急手術を行った。術式は臍部アプローチによる単孔式の腹腔鏡補助下に小腸部分切除を選択した。心血管イベントや周術期合併症なく経過し術後8日目に退院した。抗血小板薬使用に伴う大量消化管出血は難解な腹部救急疾患であり原疾患の管理と手術侵襲の調和が求められる。消化管出血とステント再狭窄の双方に対して早期の外科介入が有効な場合があり,その際は単孔式腹腔鏡補助下の低侵襲手術を考慮してもよいと思われた。

  • 山村 明寛, 八巻 孝史, 海野 倫明, 松本 純
    2021 年 41 巻 6 号 p. 439-441
    発行日: 2021/09/30
    公開日: 2022/03/31
    ジャーナル フリー

    症例は88歳女性。認知症があり,食事は全介助であった。前日夕方からの嘔吐を主訴に当院外来を受診した。腹部造影CT検査で,小腸内に嵌頓する35mm大の胃石による腸閉塞と診断した。全身状態が落ち着いていたため,手術も視野に入れつつイレウス管挿入のうえ保存的に治療を開始した。入院翌日には上行結腸に造影剤が流出し,入院4日目には胃石を横行結腸内に認めた。入院7日目に注腸造影とともに肛門より排石された。同日イレウス管を抜去し,入院14日目に退院した。胃石は腸閉塞や穿孔を引き起こし手術が必要となることが多い。また手術を回避する際には,内視鏡的破砕術などの侵襲的な処置を要する。胃石がイレウス管のみの保存的治療で直腸まで移動し経肛門排出されたという報告はなく,症例によっては手術を回避できる1つの選択肢となりうる。ただし,その適応と治療継続のための経時的な評価が重要である。

  • 早川 雄貴, 大村 健二, 田中 寛人, 萩原 千恵, 筒井 敦子, 若林 剛, 川倉 健治, 絹川 典子
    2021 年 41 巻 6 号 p. 443-447
    発行日: 2021/09/30
    公開日: 2022/03/31
    ジャーナル フリー

    症例は80歳,男性。来院2日前に呼吸苦と動悸が出現,来院当日に体動困難となり救急搬送された。血圧は救急隊接触時90/60mmHgで輸液を開始,来院時は151/77mmHgに上昇した。来院時意識はJCSⅠ-3で体温は37.9℃,脈拍は117/分,呼吸数は24/分。陰囊・肛門周囲の皮膚は黒色に変化,悪臭が強く,肛門管から腫瘤が露出。直腸診で血便を認めた。腹部造影CT検査で陰囊から会陰部,骨盤内に気腫を認めた。以上より肛門管癌の穿通によるフルニエ壊疽と診断し,ただちにデブリードマンと人工肛門造設を行った。抗菌薬はメロペネムとクリンダマイシンを投与した。肛門腫瘤の病理組織学的診断は肛門管癌であった。フルニエ壊疽は死亡率20〜50%と予後不良の疾患である。直腸癌・肛門管癌の穿通で発症するフルニエ壊疽はまれである。フルニエ壊疽の診療では,早期の診断・手術が良好な予後を得るために重要である。

  • 仲野 宏, 渡辺 洋平, 伊藤 美郷, 加瀬 晃志, 山内 直人, 松本 拓朗, 金田 晃尚, 花山 寛之, 早瀬 傑, 門馬 智之, 佐瀬 ...
    2021 年 41 巻 6 号 p. 449-452
    発行日: 2021/09/30
    公開日: 2022/03/31
    ジャーナル フリー

    58歳男性。吐血し前医を受診した。上部消化管内視鏡検査で止血困難な出血性十二指腸潰瘍を認められ,大網充填,胃空腸バイパス術が施行された。しかし,再出血をきたし出血性ショックとなり当院へ搬送された。造影CT検査で潰瘍近傍に胃十二指腸動脈瘤を認め,出血性潰瘍の原因と考えた。IVRにより同動脈瘤に対しコイル塞栓し救命し得た。以降再出血なく,後日正中弓状靭帯切開術を施行した。正中弓状靭帯圧迫症候群(median arcuate ligament syndrome:以下,MALS)に伴う胃十二指腸動脈瘤の報告は散見されるが,動脈瘤により出血性十二指腸潰瘍を形成した症例はまれである。本症例もCTで腹腔動脈起始部の狭窄を認め,MALSと診断した。難治性の出血性潰瘍では本病態の可能性を考慮し腹腔動脈の狭窄や潰瘍近傍の動脈瘤の有無を検索し,これらを認めれば早急にIVRによる治療を行うことが重要である。

  • 山尾 幸平, 濵田 信男, 永田 祐貴, 飯野 聡, 吉野 春一郎, 勝江 達治, 基 俊介, 柳 政行, 前村 公成
    2021 年 41 巻 6 号 p. 453-456
    発行日: 2021/09/30
    公開日: 2022/03/31
    ジャーナル フリー

    症例は開腹歴のない37歳男性。下腹部痛を主訴に前医を受診。腹部単純X線検査でniveau像を伴う小腸ガス像を認めたため,腸閉塞の診断で当院へ紹介となった。腹部造影CT検査で一部壁の造影効果低下を伴う拡張した小腸とバンド形成を認め,内ヘルニアによる絞扼性腸閉塞を疑い緊急手術を行った。回盲弁より40cm口側にMeckel憩室が存在し,その盲端と腸間膜との間に索状物を認め,その間隙に小腸が嵌入し絞扼されていた。索状物の切離解除により血流は改善したため小腸は温存し,Meckel憩室のみ切除した。病理組織学的検査でMeckel憩室盲端部の索状物は血管構造を含んでおり,mesodiverticular vascular band(以下,MVB)と診断した。MVBによる絞扼性腸閉塞は比較的まれな疾患で,本症例のように若年者の開腹歴のない腸閉塞では本疾患も念頭に置く必要がある。

  • 上坂 貴洋, 奥田 耕司, 大島 隆宏
    2021 年 41 巻 6 号 p. 457-460
    発行日: 2021/09/30
    公開日: 2022/03/31
    ジャーナル フリー

    症例は88歳,男性。腹痛を主訴に前医を受診した。血液検査でHb 8.7g/dLと貧血を,腹部造影CTで脾臓周囲に造影剤の血管外漏出像を認めたため,治療目的に当院搬送となった。精査の結果,胃軸捻転および脾臓周囲の静脈性出血が疑われた。当院搬送後も出血の持続が疑われ,緊急試験開腹の方針とした。開腹時,腹腔内には多量の血腫が貯留していた。また,胃体部大弯側が左横隔膜下に彎入するとともに幽門が噴門の腹側直上に位置し,胃軸捻転の状態であった。脾臓下極に裂創があり,同部位から出血が持続していた。止血困難であったため脾臓は摘出した。直近の腹部外傷の既往がないことから,胃軸捻転により脾臓が牽引され損傷および出血をきたしたものと考えられた。胃軸捻転に伴う脾臓損傷および腹腔内出血は本邦報告例がなくまれな合併症である。胃軸捻転の特徴的な画像所見を知っておくこと,およびその合併症を念頭に置くことが重要である。

  • 宮田 量平, 百瀬 ゆずこ, 徳田 敏樹, 高木 知聡, 冨田 眞人, 佐藤 道夫, 安藤 暢敏
    2021 年 41 巻 6 号 p. 461-464
    発行日: 2021/09/30
    公開日: 2022/03/31
    ジャーナル フリー

    症例は21歳,女性。1ヵ月前より下腹部膨隆を自覚し近医を受診したが改善せず,来院当日朝から下腹部に強い腹痛が出現し当院救急外来を受診。腹部骨盤CTで屈曲した膵尾部に隣接した遊走脾を認めた。脾の右側は造影不良で虚血が疑われ,脾尾側には14cm大の囊胞を認めた。脾囊胞を伴う遊走脾捻転と診断し待機的に手術を施行した。下腹部正中を小開腹し囊胞内容液を吸引し,グローブ法で気腹しポートを2本追加した。脾は周囲靭帯との固定がなく時計回りに180度捻転していた。鉗子で捻転解除を試みたが巨脾のため困難であったので,右季肋下切開からhand assisted laparoscopic surgery(HALS)により捻転解除,脾摘を行った。遊走脾は脾腫などの重力負荷が加わると捻転しやすくなるが,遊走脾に併存した脾囊胞が原因で脾捻転することはまれであり文献的考察を加えて報告する。

  • 番場 悠太, 北見 智恵, 河内 保之
    2021 年 41 巻 6 号 p. 465-468
    発行日: 2021/09/30
    公開日: 2022/03/31
    ジャーナル フリー

    症例は75歳男性で,右鼠径部の膨隆を主訴に前医を受診した。膨隆は容易に還納されたが,整復後のCTで腸閉塞が疑われた。イレウス管が挿入されたが改善せず,整復5日後に当院に搬送された。前医のCTで右下腹部にproperitoneal hernial sac sign,同部位の小腸にcaliber changeを伴うbeak signを認めた。右鼠径ヘルニア偽還納の診断で緊急手術を行った。下腹部正中切開で開腹,腹膜前腔に小腸が嵌頓しており,用手的に整復した。解除した小腸に血流障害はなく,腸管切除は行わなかった。鼠径管内にヘルニア囊の脱出は認めなかった。腹膜前腔にPROLENE Mesh(Ethicon社)を挿入した。日本ヘルニア学会による分類はM1型であった。本疾患に特徴的な画像所見を確認することで診断は容易である。ヘルニア還納後の腸閉塞にはCTを施行し,的確な診断,早期手術を行うことが重要である。

  • 貝崎 亮二, 井上 透, 高塚 聡, 塚本 忠司, 西口 幸雄
    2021 年 41 巻 6 号 p. 469-472
    発行日: 2021/09/30
    公開日: 2022/03/31
    ジャーナル フリー

    症例は53歳,女性。朝排便後から左鼠径部の膨隆と腹部不快感を認めたため,当科を受診した。初診時,左鼠径部にピンポン玉大の膨隆を認め,緊満していた。鼠径部ヘルニア嵌頓と思われた。腹部超音波検査で腸管の脱出を確認したが,検査中に還納された。腹部CT検査では左鼠径部に軽度の脂肪織の脱出と少量の液体貯留がみられた。左鼠径部ヘルニア嵌頓(解除後)と診断し,嵌頓腸管の観察も必要と考え緊急手術を施行した。腹腔鏡下にアプローチした。左内側臍ヒダの内側にヘルニア門があり,膀胱上窩ヘルニアと診断した。回腸が約5cmにわたり発赤しており,嵌頓していた部位と思われた。腸管壊死の所見がなく腸切除は不要と判断し,腹腔鏡下ヘルニア修復術(TAPP)を行った。Hesselbach三角内側部に2cm弱のヘルニア門を認め,新JHS分類M2型であった。腹腔鏡下手術が有用であった症例を経験したので報告する。

  • 中森 万緒, 間下 直樹, 谷口 絵美
    2021 年 41 巻 6 号 p. 473-476
    発行日: 2021/09/30
    公開日: 2022/03/31
    ジャーナル フリー

    症例は61歳女性。4年前に直腸癌による腸閉塞でS状結腸双孔式人工肛門を造設し,化学療法後,腹会陰式直腸切断術および子宮膣合併切除術を施行されていた。双孔式人工肛門は造り替えず切除断端は盲端となっていた。今回,腹痛のため救急搬送され,傍ストーマヘルニア囊内での消化管穿孔による急性汎発性腹膜炎の診断で緊急手術となった。術中所見は,傍ストーマヘルニア囊内でS状結腸双孔式人工肛門の肛門側が穿孔し糞便や膿性腹水が貯留していた。穿孔部を切除して左上腹部に人工肛門を再造設した。ヘルニア囊内で肛門側断端のステイプルが腹壁に癒着し,入り込んだ小腸や結腸の捻転や便塊貯留によって圧迫され,牽引されて穿孔したと考えられた。傍ストーマヘルニア内での腸管穿孔はまれであるため報告する。

  • 堀尾 卓矢, 亀井 英樹, 赤木 由人
    2021 年 41 巻 6 号 p. 477-479
    発行日: 2021/09/30
    公開日: 2022/03/31
    ジャーナル フリー

    内ヘルニアによる絞扼性腸閉塞の診断で緊急手術を行い,術中所見より大網裂孔ヘルニアの診断に至った症例を経験した。症例は52歳,男性。突然の上腹部痛を主訴に近医を受診した。腹部造影CT検査で絞扼性腸閉塞が疑われ当院に救急搬送された。内ヘルニアによる絞扼性腸閉塞の診断で緊急開腹術を行った。開腹すると大網に3cm大の裂孔が存在し同部位をヘルニア門としてTreitz靭帯より140cmの小腸が90cmにわたり嵌入し虚血性変化を認めた。裂孔部を開放すると腸管壁の色調は改善を認め小腸切除は施行せず閉腹した。大きな合併症なく,術後7日目に食事を開始し,術後15日目に退院となった。

  • 栗原 由騎, 阿部 恭, 若林 俊樹, 菊地 功, 佐藤 勤
    2021 年 41 巻 6 号 p. 481-484
    発行日: 2021/09/30
    公開日: 2022/03/31
    ジャーナル フリー

    胆囊穿孔は腹部鈍的外傷のなかで比較的まれである。今回われわれは,屋内での転倒による右側腹部打撲後に胆囊穿孔をきたした2例を経験した。1例目は77歳男性,飲酒後の転倒により右側腹部を受傷した。10日後に受診し,胆囊穿孔の診断に至った。2例目は86歳女性,自宅での転倒により右側胸部を受傷した。翌日近医を受診したが,腹部所見が顕在化するまで診断に至らなかった。2例とも即座には胆囊穿孔の診断に至らず,保存的治療が行われた。しかし,炎症所見の改善がみられず,1例目は受傷15日後,2例目は10日後に開腹胆摘が行われた。右側腹部外傷後,それが軽微であっても腹痛・炎症所見が持続する場合には,胆囊穿孔を考慮に入れ腹部画像診断を行うべきと考えられる。

  • 佐藤 朝日, 桂 彦太郎, 山田 理大, 山本 秀和
    2021 年 41 巻 6 号 p. 485-489
    発行日: 2021/09/30
    公開日: 2022/03/31
    ジャーナル フリー

    症例は24歳男性。排尿困難と右下腹部痛を主訴に近医受診し抗菌薬内服治療を行った。1ヵ月間症状が持続するため当院を紹介受診した。画像上虫垂の腫大,回盲部脂肪織上昇と右水腎を認めた。急性虫垂炎の診断で虫垂切除術を行った。術後すみやかに症状軽快したため5日目に退院した。退院後に病理診断が確定し放線菌症の診断であった。退院後3日目に腹痛と排尿障害が再燃し,再度当院を受診した。CTで回盲部周囲に膿瘍を認め,血液検査で炎症反応上昇あり,放線菌による遺残膿瘍と診断した。ベンジルペニシリンカリウムを2週間点滴静注し,退院後1ヵ月間ミノサイクリンの内服を行った。尿路症状を契機に発症する腹部放線菌症はまれであり,非特異的な経過を有する虫垂炎疑診患者においては本症の可能性も念頭に置くことで,再入院や不完全な抗菌薬治療となることを防ぐことができると考えられた。

  • 鈴木 源, 勅使河原 勝伸, 神山 治郎, 五木田 昌士, 清田 和也
    2021 年 41 巻 6 号 p. 491-494
    発行日: 2021/09/30
    公開日: 2022/03/31
    ジャーナル フリー

    症例は44歳の男性。他院でStanford B型急性大動脈解離に対してステントグラフト内挿術後翌日に非閉塞性腸間膜虚血の診断となった。同日当科に転院搬送後,合計4回の手術で小腸起始部より10cmの空腸から横行結腸中央まで切除し,空腸横行結腸吻合で再建した。在宅静脈栄養管理で発症166日に退院。その後,カテーテル関連血流感染症を繰り返したがエタノールロック療法とアルコールキャップの装着を行うことでカテーテル関連血流感染症を予防でき,同一カテーテルを長期に使用することができた。非閉塞性腸間膜虚血術後の短腸症候群の繰り返すカテーテル関連血流感染症に対して,エタノールロック療法ならびにアルコールキャップが有用であった1例を経験したため報告する。

  • 山田 真規, 室谷 知孝, 青山 諒平, 東出 靖弘, 益田 充, 宮本 匠
    2021 年 41 巻 6 号 p. 495-498
    発行日: 2021/09/30
    公開日: 2022/03/31
    ジャーナル フリー

    症例は36歳,女性。1年1ヵ月前に当院で右子宮広間膜裂孔ヘルニアに対し,腹腔鏡下ヘルニア修復術が施行された。その際裂孔は吸収糸で連続縫合閉鎖された。今回突然の下腹部痛を主訴に当院ERを受診し,CTで絞扼性腸閉塞を伴う子宮広間膜裂孔ヘルニアを疑う所見を認め,再度緊急で腹腔鏡下修復術を施行した。前回と同様の裂孔を認め,前回手術で用いられた吸収糸はみられなかった。今回は裂孔を非吸収糸で連続縫合閉鎖して手術を終了した。子宮広間膜裂孔ヘルニアにおける裂孔の処理については,内ヘルニアの修復例と同様に,吸収糸による縫合閉鎖が主とされる。しかし本邦でも,本例のような吸収糸使用での再発例の報告もあり,その手法の確実性に疑念が抱かれる。要因の1つとして,子宮広間膜の漿膜面どうしを縫着しても癒着が生じにくい可能性が考えられ,縫着には非吸収糸を使用すべきではないかと考える。

  • 郡司掛 勝也, 安居 利晃
    2021 年 41 巻 6 号 p. 499-501
    発行日: 2021/09/30
    公開日: 2022/03/31
    ジャーナル フリー

    症例は幽門側胃切除術の腹部手術歴のある63歳男性。腹痛と嘔吐を主訴に当院を受診した。右下腹部に圧痛を認め,腹部CT検査で,右下腹部に小腸の狭窄を認めた。腸管虚血を疑う所見は認めず,癒着性腸閉塞と判断し保存的加療を開始した。イレウス管を挿入し,造影検査を施行したところ,CTと同様に右下腹部に小腸の狭窄を認め,それより肛門側への造影剤の流出を認めなかった。保存的加療では腸閉塞の解除は困難と考え,第7病日に腹腔鏡下腸閉塞解除術を施行した。腹腔内を観察すると,盲腸の外側に小腸の陥入を認め,外側盲腸周囲ヘルニアによる腸閉塞と診断した。陥入した小腸に血流障害は認めず,ヘルニア囊を開放し手術終了とした。術後に改めて術前CTを再検討したところ,盲腸の外背側に小腸の集簇像を認めており,盲腸周囲ヘルニアに特徴的な所見であると考えられた。

  • 本多 弘幸, 山下 万平, 濵田 隆志, 大塚 哲洋, 宮﨑 敦史, 黒木 保
    2021 年 41 巻 6 号 p. 503-506
    発行日: 2021/09/30
    公開日: 2022/03/31
    ジャーナル フリー

    症例は50代男性。前医で盲腸癌(cT3N0M0,StageⅡ)に対して腹腔鏡下右半結腸切除術が施行された。術後3日目に腹痛と腹部膨満感,貧血進行のため造影CTを撮像,下膵十二指腸動脈瘤の切迫破裂による出血性ショックのため当院転院となった。また造影CTで正中弓状靭帯圧迫症候群を認め,動脈瘤形成の原因と考えられた。緊急IVRで膵十二指腸動脈瘤を選択的にコイル塞栓した。塞栓後胃十二指腸の排泄遅延を認めたが保存的に改善し31日目に退院した。本症例では術前CTで正中弓状靭帯圧迫による腹腔動脈狭窄を認めており,右半結腸切除に伴い回結腸動脈と右結腸動脈を切離したことが相対的に膵十二指腸動脈への血流を増加させ,動脈瘤形成・破裂に影響した可能性が考えられた。

  • 久下 恒明, 野﨑 礼史
    2021 年 41 巻 6 号 p. 507-510
    発行日: 2021/09/30
    公開日: 2022/03/31
    ジャーナル フリー

    症例は81歳,男性。右鼠径部の膨隆と右下腹部痛を主訴に当院救急外来を受診した。右鼠径ヘルニア嵌頓と診断し用手還納したがその後も嘔気と右下腹部痛が持続していた。腹部CT検査を施行すると右下腹部に小腸のclosed loop形成を認め,ヘルニア偽還納に伴う絞扼性腸閉塞と診断し緊急手術を施行した。ヘルニア囊に包まれ嵌頓した小腸を認め,嵌頓を解除すると腸管の血流障害は改善した。腸管は切除せず,meshを用いてヘルニアを修復した。術後経過は良好で第7病日に退院した。ヘルニア偽還納はまれな病態であるが,絞扼性腸閉塞であり基本的に緊急手術を要する。また腸管壊死に至り,腸管を切除した報告例も少なくない。鼠径ヘルニア嵌頓の整復後も腹痛や腸閉塞症状が遷延する場合,壊死腸管の還納や偽還納の可能性がある。早期に診断し,手術を行うことで腸管を温存できる可能性がより高まると考えられる。

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