日本腹部救急医学会雑誌
Online ISSN : 1882-4781
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ISSN-L : 1340-2242
39 巻, 5 号
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原著
  • 高橋 哲也
    2019 年 39 巻 5 号 p. 807-814
    発行日: 2019/07/31
    公開日: 2020/06/25
    ジャーナル フリー

    【目的】鈍的外傷による腸管損傷に対する手術の適応および施行時期判断の要因を検討すること。【対象と方法】2006年4月1日から2018年3月31日に来院時CT所見で腸管損傷が疑われた鈍的外傷症例を対象とし,腸管損傷の手術の適応および施行時期の判断の要因を後方視的に検討した。【結果】36例が対象となり,緊急手術群は10例,待機的手術群は6例,保存的治療群は20例であった。開腹所見で確認された損傷腸管は小腸が最多であった。また,来院時CTの異常所見では腸管壁肥厚が,開腹理由は腸管外遊離ガスが最多であった。CT異常所見数は,直接的外力による損傷に対する治療としての緊急+待機的手術群と保存的治療群の比較(3.1±1.2 vs 2.0±0.9,P<0.01)および緊急手術群と待機的手術群の比較(3.6±1.1 vs 2.2±0.8,P<0.01)で有意差を認めた。【結論】来院時CTの異常所見数は手術の適応および施行時期の判断の重要な要因と考えられた。

  • 安藤 恭久, 岡野 圭一, 村上 友将, 香西 純, 鈴木 啓文, 古市 ゆみ, 松川 浩之, 上村 淳, 須藤 広誠, 浅野 栄介, 大島 ...
    2019 年 39 巻 5 号 p. 815-819
    発行日: 2019/07/31
    公開日: 2020/06/25
    ジャーナル フリー

    2006年12月から2017年12月に当院で治療を受けた外傷性横隔膜損傷8例について検討した。男性6例,女性2例,平均年齢63.0(45~79)歳の患者を対象とした。6例が鈍的外傷で,2例が鋭的外傷であった。5例が受傷当日に診断され,うち4例が緊急手術となり修復を行ったが,1例は全身管理の後に受診後1日後に手術となった。3例は受傷から4~17日後に横隔膜損傷の診断となり手術となった。左側損傷が5例,右側は3例であり,右側3症例のうち2例は術前に横隔膜損傷の診断はできていなかった。手術アプローチ法は,開胸+開腹が3例,開腹のみが4例,開胸のみは1例(胸腔鏡補助下)であった。右側3症例と受傷後17日目の症例はすべて開胸アプローチで修復した。重症度の高い多発外傷では,初期診療から横隔膜損傷の可能性も考慮に入れて治療を行うことが重要であり,とくに右側の損傷は術前診断がつきにくい傾向にある。また,右側損傷および受傷後数日後の症例には胸部からのアプローチが有用と考えられた。

  • 傾向スコアマッチングを用いた検討
    小川 克大, 赤星 慎一, 松本 克孝, 髙森 啓史
    2019 年 39 巻 5 号 p. 821-828
    発行日: 2019/07/31
    公開日: 2020/06/25
    ジャーナル フリー

    【背景と目的】腹部緊急手術後敗血症性DICに対するrhTMの有用性と安全性を検討した。【対象と方法】2009~2014年の腹部緊急手術後敗血症性DIC症例147例を対象とした。rhTM使用群(T群)と不使用群(C群)で傾向スコア解析を用いて比較検討した。【結果】症例数はT群/C群=83/64で傾向スコアマッチングでT群/C群おのおの47例を抽出した。急性期DIC score(day0→day7)はT群において有意に改善したが28日生存率は両群間で有意差を認めなかった。有害事象に有意差はなかった。術前SOFA score,APACHEⅡscoreで4群に分けるとSOFA≧6,APACHEⅡ≧20でT群が有意に28日生存率を改善させた。【まとめ】腹部緊急手術後敗血症性DICでrhTM投与によりDIC scoreを有意に改善した。最重症例でのみ28日生存率を有意に改善した。

特集:腹部外傷治療戦略
  • 小泉 哲, 大坪 毅人, 小林 慎二郎, 片山 真史, 土橋 篤仁, 小倉 佑太
    2019 年 39 巻 5 号 p. 831-837
    発行日: 2019/07/31
    公開日: 2020/06/25
    ジャーナル フリー

    重症肝外傷症例における初期治療戦略では気道確保・呼吸管理に次いで出血制御による循環管理が優先される。1990年代以降は,我が国においても肝周囲ガーゼパッキングと補完的IVRにより止血を図る戦略が標準的となり治療成績は格段に改善した。しかし,この戦略のみでは救命しえない症例に遭遇することがある。今回われわれはオプション手術の1つとしてグリソン一括処理法の重症肝外傷症例への適用を紹介する。本手技は肝癌に対してより安全かつ簡単に肝切除を行うための工夫として開発された。これまでにわれわれは6例のⅢb型肝損傷に対し,2例はダメージコントロールとして,4例は蘇生的TAE後の急性肝壊死に対する根治的肝切除のために本法を適用した。6例すべて軽快退院され,社会復帰されている。いくつかの問題と制限はあるが,グリソン一括処理法は重症肝外傷における有用な手技の1つとなり得るであろう。

  • 須藤 広誠, 岡野 圭一, 大島 稔, 安藤 恭久, 松川 浩之, 上村 淳, 野毛 誠示, 浅野 栄介, 鈴木 康之
    2019 年 39 巻 5 号 p. 839-843
    発行日: 2019/07/31
    公開日: 2020/06/25
    ジャーナル フリー

    【背景】外傷性膵Ⅲb型損傷の診断と至適術式選択は難しく,短期/長期成績評価が重要である。【目的】外傷性膵Ⅲb型損傷症例に対するERCPによる術前診断と短期/長期成績を評価する。【対象と結果】2007年7月から2018年6月に当科で外傷性膵Ⅲb型損傷に対し外科治療を行った9例。年齢中央値は31歳(8〜77歳)。CTで主膵管損傷を診断し得たのは9例中2例(22%)だが,ERCPでは7例全例で主膵管損傷(完全断裂4例,部分損傷3例)が診断された。膵瘻4例(44%),胆汁瘻1例(11%)。観察期間中央値57ヵ月(5〜80ヵ月)で,PDを施行した8例のうち若年齢を中心に吻合部狭窄(胆管空腸4例(50%),膵空腸2例(25%))を認め,2例(25%)で再手術を要した。【結語】外傷性膵Ⅲb型損傷に対するERCPはより正確な主膵管損傷評価が可能。若年例に晩期合併症を認め,今後の課題である。

  • 漆畑 直, 村田 希吉, 大友 康裕
    2019 年 39 巻 5 号 p. 845-849
    発行日: 2019/07/31
    公開日: 2020/06/25
    ジャーナル フリー

    腹部外傷におけるdamage control surgery(以下,DCS)の適応基準はいまだに多くの議論がある。今回われわれは,鈍的外傷患者におけるDCSの新適応基準を検討した。日本外傷データバンクから緊急開腹手術を受けたfocused assessment with sonography in trauma(FAST)陽性の鈍的外傷患者1,934例を抽出し,DCSを受けた364例と通常開腹手術を受けた1,570例を分析した。DCS群は来院時のバイタルサインが悪く,輸血率,死亡率いずれも高値であった。ロジスティック回帰分析では,血圧,意識レベル,体温がDCSの独立した予測因子であった。これら予測因子を用いてDCS予測スコアを作成したところ,死亡率と相関を認めた。Cut Off値3点で死亡率35.8%,感度 68%,特異度 63%であり,DCSの適応基準として妥当であった。本スコアは迅速に評価でき,早期よりDCSを要する重症患者の認識が可能である。

  • 日高 匡章, 井上 悠介, 猪熊 孝実, 濱田 隆志, 夏田 孔史, 大野 慎一郎, 釘山 統太, 足立 智彦, 伊藤 信一郎, 金高 賢悟 ...
    2019 年 39 巻 5 号 p. 851-854
    発行日: 2019/07/31
    公開日: 2020/06/25
    ジャーナル フリー

    近年,交通事故の減少に伴い高エネルギー外傷による腹部緊急手術は減少してきている。ここでは地方における腹部外傷を含めたAcute care surgery(以下,ACS)の体制や現状について,報告する。都市部の大学病院や総合医療センターでは,各科から救命センターへ派遣された専従医により初期対応がなされ,腹部外傷の専門医(消化器外科医や心臓血管外科医)が専門の手術を担当している。一方,地方においては一般外科医,とくに消化器外科医が腹部外傷を含めた腹部緊急手術(ACS)に対応している。ただ,その件数は少ないため,救急救命医,麻酔科,整形外科,手術室スタッフと研修会を開催,議論を重ねることで情報や手技の共通認識が向上し,少ない腹部外傷の症例に対応可能となる可能性がある。また,トレーニングシステムに参加することは,若手育成の面から重要である。

  • 柴田 智隆, 武内 裕, 松成 修, 鍋田 祐介, 猪股 雅史, 坂本 照夫
    2019 年 39 巻 5 号 p. 855-858
    発行日: 2019/07/31
    公開日: 2020/06/25
    ジャーナル フリー

    大分県および大分大学医学部附属病院高度救命救急センター(以下,センター)の現状を示し,方向性を考察する。大分県において,二次救急病院の62%,救命救急センターの75%に大分大学消化器・小児外科教室から医師が派遣されている。しかし,教室内に外傷専門医はいない。センターは2012年10月より稼働し,ドクターヘリの運用も開始した。2013〜2016年まで10,853人がセンターを受診し,2,678人(25%)が外因性であり,蘇生的手術は20例であった。一方,消化器外科では2,002例の手術が行われ,救急搬送を伴う緊急手術は103例(5.1%)であった。蘇生的手術件数は少数であり,早期からのOff the Job Trainingとドクターヘリなどを活用した重症外傷症例の集約化により外傷外科医育成が可能であると考えられた。

  • 松本 尚也, 山本 澄治, 浅野 博昭, 久保 雅俊, 宇高 徹総, 黒川 浩典, 小谷 穣治
    2019 年 39 巻 5 号 p. 859-862
    発行日: 2019/07/31
    公開日: 2020/06/25
    ジャーナル フリー

    重症外傷診療において,蘇生と止血は非常に重要である。Japan Advanced Trauma Evaluation and Care(以下,JATEC)の普及により外傷の救命率は向上したと言われているが,胸腹部の手術を要する外傷の救命率は上昇していない。外傷診療はJATECで述べられているような初期診療から,いかに手術や塞栓術といった止血術に引き継ぐかということが重要である。そのためには外科医や放射線科医が早期から外傷診療に加わるということが非常に重要である。その手段の1つとしてTrauma Team Activation (以下,TTA)が活用されている。TTAは,検査や手術までの時間短縮,指揮命令系統の明確化などの利点があり,外傷診療戦略の1つとして有用である可能性がある。

症例報告
  • 篠原 翔一, 俵藤 正信, 太田 学, 林 浩史, 佐藤 寛丈, 塚原 宗俊, 安田 是和
    2019 年 39 巻 5 号 p. 863-866
    発行日: 2019/07/31
    公開日: 2020/06/25
    ジャーナル フリー

    腹直筋膿瘍は手術創感染や腹腔内感染などによる続発性が多く,原発性はまれである。今回健常な若年男性に発症したまれな原発性腹直筋膿瘍の1例を経験したので報告する。症例はインドネシア人の20歳男性。発熱,左下腹部痛を主訴に前医受診。炎症反応高値と腹部CT上左腹直筋内に低吸収腫瘤があり,当院紹介となった。手術や外傷,易感染性疾患の既往なし。腹部超音波検査で20mm大の低エコー腫瘤を認め,腹直筋膿瘍と判断し局所麻酔下に切開排膿ドレナージを施行した。経口抗菌薬投与で経過観察するも膿瘍腔の増大を認め,2日後に全身麻酔下に切開排膿ドレナージを施行した。腹腔内感染は認めず培養結果はStaphylococcus aureusであった。経過良好で術後5日目に軽快退院となった。

  • 石塚 純平, 進藤 吉明, 齋藤 由理, 田中 雄一
    2019 年 39 巻 5 号 p. 867-869
    発行日: 2019/07/31
    公開日: 2020/06/25
    ジャーナル フリー

    症例は67歳男性。バイク運転中にハンドルで左下腹部を打撲し,受傷後3日目に左下腹部痛が増強したため,当院救急外来を受診した。血液検査で炎症反応軽度上昇あり,胸部立位X線写真で右横隔膜下のfree airを認めた。腹部造影CT検査ではS状結腸間膜内にairを認め,S状結腸穿孔と診断し緊急手術を施行した。術中,S状結腸間膜に穿通を生じており,それに連続するS状結腸に穿孔部位を認めたため,S状結腸部分切除術を施行した。鈍的外傷によりS状結腸から腸間膜内に穿通した後,遅発性に遊離穿孔をきたしたと考えられる症例を経験した。

  • 佐藤 誠洋, 平松 聖史, 関 崇, 藤枝 裕倫, 鈴木 優美, 崔 尚仁, 齋藤 麻予, 余語 孝乃助, 新井 利幸
    2019 年 39 巻 5 号 p. 871-874
    発行日: 2019/07/31
    公開日: 2020/06/25
    ジャーナル フリー

    症例は,47歳の男性で,アルコール多飲による慢性膵炎で加療中だった。黒色便と吐血で当院を受診した。来院時,高度の貧血を認めショックであった。緊急上部消化管内視鏡検査では胃・十二指腸内に多量の凝血塊を認めたが,出血源は明らかではなかった。補液と輸血を施行しながら入院で経過観察を行っていたが,翌日,再度ショックとなり内視鏡検査を施行した。十二指腸乳頭より活動性の出血を認めた。ヨードアレルギーによる心停止の既往があり,膵管造影,造影CT検査,血管撮影検査が不可能であった。腹部US,単純CT,造影MRI検査を施行し膵尾部の仮性囊胞内出血によるhemosuccus pancreaticusと診断,同日,緊急手術:膵体尾部切除術を施行した。術後,出血は止まりショックから離脱し,軽快退院した。病理組織学的にも膵仮性囊胞内出血と診断した。

  • 内田 史武, 福岡 秀敏, 片山 宏己
    2019 年 39 巻 5 号 p. 875-879
    発行日: 2019/07/31
    公開日: 2020/06/25
    ジャーナル フリー

    症例は82歳男性,右側腹部痛を主訴に前医を受診し,腹部単純CTで腹腔内膿瘍を認め,当科を紹介受診した。高熱と右側腹部の腫瘤を認め,血液検査で炎症反応の上昇と腫瘍マーカーの軽度上昇を認め,腹部造影CTでは造影効果を伴う右側腹部の液体貯留と,虫垂根部の壁肥厚を認めた。膿瘍に対してCTガイド下ドレナージを行い,炎症軽快の後精査を行った。注腸造影では膿瘍による上行結腸の内側への圧排,虫垂口の閉塞を認め,下部消化管内視鏡では虫垂口の乳頭状腫瘍と上行結腸の潰瘍性病変を認め,生検でいずれもGroup4であった。右半結腸切除,D3郭清,腹壁合併切除を行い,病理結果は虫垂粘液癌,pT4b(腹壁・上行結腸)N0M0,pStage Ⅱcであった。上行結腸と腹壁に同時に浸潤し,膿瘍を形成していた虫垂癌はこれまでに報告がなく,非常にまれな症例と考えられた。高齢者における重症虫垂炎症例では腫瘍合併を念頭に置くべきである。

  • 木建 薫, 豊田 和宏
    2019 年 39 巻 5 号 p. 881-885
    発行日: 2019/07/31
    公開日: 2020/06/25
    ジャーナル フリー

    症例は38歳,女性。下腹部痛を自覚し,近医より腸閉塞の疑いで当院へ紹介された。腹部CT検査で子宮広間膜ヘルニアと診断し,同日緊急手術を施行した。手術は単孔式腹腔鏡下に行った。腹腔内を観察すると子宮広間膜の裂孔に回腸が嵌入し,絞扼していた。嵌頓小腸を整復し,裂孔を縫合閉鎖した。気腹を終了後,小腸を臍創より挙上して壊死所見がないことを直視下に確認し手術を終了した。絞扼性腸閉塞は嵌頓腸管の腸管切除の必要性の評価が非常に重要である。腹腔鏡下手術ではその評価が視覚のみに頼らざるを得ない。本邦における過去の報告例では,嵌頓小腸の評価目的および切除目的に開腹移行となっている症例を認める。単孔式腹腔鏡手術は,創部を延長することなく絞扼腸管を直視下に観察でき,さらに腸管切除が必要な場合も対応可能であり,絞扼性腸閉塞に対して有用な術式の1つである。

  • 原 敬介, 山田 岳史, 小泉 岐博, 進士 誠一, 横山 康行, 高橋 吾郎, 堀田 正啓, 岩井 拓磨, 青木 悠人, 上田 康二, 吉 ...
    2019 年 39 巻 5 号 p. 887-890
    発行日: 2019/07/31
    公開日: 2020/06/25
    ジャーナル フリー

    経鼻減圧管(long tube:以下,LT)挿入中に2度の順行性腸重積を発症した症例を経験したので報告する。症例は20代男性。潰瘍性大腸炎の治療中に膿瘍形成性虫垂炎を原因とする癒着性腸閉塞を発症した。LTを挿入し症状が改善したため一度抜去したが,再び腸閉塞となった。保存的加療目的にLTを再挿入したが症状が改善せず手術を施行した。空腸に3ヵ所順行性腸重積を認めたため,Hutchinson手技によりこれを解除した。術後イレウス予防目的で継続してLTを留置していたが,再び腸閉塞症状をきたし,画像所見で腸重積と診断した。再開腹を行い,順行性腸重積を起こしていたためこれを解除し術中にLTを抜去した。その後腸重積の再発は起こしていない。LT抜去時の操作や陰圧吸引などで逆行性腸重積が医原性に惹起されることが数多く報告される。自験例は順行性腸重積でまれな病態であるが,LTの合併症として念頭に置かなければならない病態と考えられた。

  • 高橋 利明, 山野 寿久, 工藤 泰崇, 黒田 雅利, 高木 章司, 池田 英二, 辻 尚志
    2019 年 39 巻 5 号 p. 891-895
    発行日: 2019/07/31
    公開日: 2020/06/25
    ジャーナル フリー

    症例は34歳の男性で,突然の左側腹部痛を主訴に発症から1時間後に来院した。腹部造影CTで,左側腹部に拡張した小腸が下腸間膜静脈を腹側へ圧排する形で存在し,造影不良域を認めた。左傍十二指腸ヘルニアによる絞扼性腸閉塞と診断し,発症より5時間で緊急手術を施行した。Treitz靭帯の左側に陥入していた約50cmほどの小腸は容易に還納することができ,ヘルニア門を縫合し閉鎖を行った。術後経過は良好で,術後4日目に退院した。術前の腹部造影CT から本疾患に特徴的な所見が得られ,早期診断が可能であった。過去の報告においても本疾患の診断は比較的容易で,血流障害による腸切除のリスクも低いため,腹腔鏡下手術は本疾患に対する有用な治療法と考えられた。

  • 藤野 靖久, 横藤 壽, 佐藤 正幸, 棚橋 洋太, 佐藤 寿穂, 石田 馨, 小鹿 雅博, 井上 義博
    2019 年 39 巻 5 号 p. 897-900
    発行日: 2019/07/31
    公開日: 2020/06/25
    ジャーナル フリー

    症例は40歳,男性。36歳より高血圧症で加療中。約1ヵ月前から左大腿から臀部の知覚異常を認めていた。腹痛・腹部膨満を発症した9日後,腸閉塞の診断で当科に紹介・搬送となった。大腸の拡張を認めたが,注腸造影で器質的閉塞なく,急性大腸偽性腸閉塞症(acute colonic pseudo-obstruction:以下,ACPO)と診断した。脊髄MRIでは脊髄出血を認めた。ともに保存的治療で軽快した。脊髄出血の原因として第Ⅶ因子欠乏症の関与が疑われた。ACPOの病因として交感神経副交感神経不均衡説が有力であるが,本症例は脊髄出血により胸腰髄の交感神経が障害されて発症したと考えられた。診断が遅れた場合は緊急手術を要することもあり,脊髄病変診断時には本症の発症も視野に入れて診療を進める必要があると考えられた。

  • 竹吉 大輔, 三浦 巧, 阿部島 滋樹, 平野 聡
    2019 年 39 巻 5 号 p. 901-904
    発行日: 2019/07/31
    公開日: 2020/06/25
    ジャーナル フリー

    症例は80歳,女性。1ヵ月間程度持続する左下腹部痛を主訴に当科紹介受診。来院時,左下腹部に限局性圧痛と筋性防御を認めた。腹部造影CTで横行結腸近傍の大網内に4cm長の線状高吸収領域を伴う5cm大の膿瘍を疑う腫瘤を認めた。下腹部痛が出現する数日前に鮭骨を誤飲した病歴があり,魚骨による消化管穿孔に続発した腹腔内膿瘍と診断し,緊急手術を施行した。単孔式腹腔鏡下に横行結腸に隣接した大網腫瘤を摘除した。腫瘤周囲の横行結腸漿膜に発赤と一部びらんを認めたが明らかな穿孔部位は同定できなかった。病理組織学的所見は大網に高度の好中球浸潤や壊死を認め,膿瘍内に4cm長の魚骨を認めた。魚骨による腹腔内膿瘍は穿孔や穿通部位が不明瞭な場合も散見されるが,術前CTである程度部位の同定が可能であり,近年普及してきている単孔式腹腔鏡手術も治療の選択肢になり得ると考えられた。

  • 清水 雄嗣, 丸尾 啓敏, 露木 肇, 東 幸宏, 関本 晃, 紅林 泰
    2019 年 39 巻 5 号 p. 905-908
    発行日: 2019/07/31
    公開日: 2020/06/25
    ジャーナル フリー

    症例は68歳女性。難治性の水様便と体重減少を主訴に近医を受診し,骨盤内巨大腫瘍を指摘され,卵巣腫瘍の疑いとして当院紹介となった。血液生化学検査では著明な低アルブミン血症を認めた。大腸内視鏡検査では上行結腸癌を認め,卵巣癌と結腸癌の重複癌,または結腸浸潤を伴う卵巣癌の術前診断で手術を施行した。腫瘍は上行結腸に存在し,腫瘍によって腸管自体が著明に緊満していた。両側付属器はほぼ正常径であった。結腸右半切除術を施行し,両側付属器切除術も併施した。組織型は高分化型粘液癌であり,蛋白漏出性胃腸症を随伴した大腸癌と考えられた。大腸癌による蛋白漏出性胃腸症の報告は数が少なく,まれな病態であるため文献的考察を含めて報告する。

  • 杉田 浩章, 石黒 要
    2019 年 39 巻 5 号 p. 909-911
    発行日: 2019/07/31
    公開日: 2020/06/25
    ジャーナル フリー

    症例は71歳の男性。1年6ヵ月前に他院で食道癌に対して胸腔鏡腹腔鏡下食道亜全摘,腹腔鏡下胃管再建術(後縦隔経路頸部吻合)を施行された。2日前より持続する嘔気と腹痛のため当科を受診した。CTで胃管左側の食道裂孔より横行結腸が左胸腔に脱出しており,横隔膜ヘルニア嵌頓の診断で緊急手術を施行した。腹腔鏡下に嵌頓した横行結腸を整復し,ヘルニア門を縫縮した。腸管壊死は認めず手術終了とした。食道癌術後の横隔膜ヘルニアはまれな合併症であるが治療が遅れると致命的となる可能性もあり,早期の診断と治療が必要である。

  • 奥野 晃太, 若林 正和, 河野 悟
    2019 年 39 巻 5 号 p. 913-916
    発行日: 2019/07/31
    公開日: 2020/06/25
    ジャーナル フリー

    症例は66歳,女性。3年前に胃癌に対し幽門側胃切除,Roux-en-Y法再建術を施行し,再発なく経過観察していた。今回,夕食後に突然の腹痛を認め当院を受診した。癒着性腸閉塞の診断で保存加療目的に入院したが,翌朝に腹部症状が増悪し,肝・胆道系酵素,膵酵素の上昇を認めた。腹部造影CTを施行したところ,腸管の造影効果は保たれていたが腹水の増加と輸入脚の拡張を認め,輸入脚閉塞症と診断し緊急手術を施行した。手術所見では,Y脚吻合部腸間膜間隙に右から左へ全小腸が嵌入し絞扼されていた。小腸全体が暗赤色を呈しており,輸入脚閉塞症の原因となっていた。絞扼を解除してヘルニア門を縫合閉鎖し,手術を終了した。経過は良好で,術後11日目に軽快退院した。Roux-en-Y法再建術を施行する場合は,Petersen’s defectのみならず,Y脚吻合部腸間膜間隙を縫合閉鎖するべきであると考えられた。

  • 徳山 丞, 西原 佑一, 浦上 秀次郎, 石 志紘, 大石 崇, 磯部 陽, 尾本 健一郎
    2019 年 39 巻 5 号 p. 917-920
    発行日: 2019/07/31
    公開日: 2020/06/25
    ジャーナル フリー

    症例は74歳男性。左大腿部脂肪肉腫再発の既往があり左股関節離断術後および骨盤内リンパ節郭清術後で再発なく経過観察中だった。腹部膨満感を訴え来院しS状結腸の左鼠径部ヘルニア嵌頓による腸閉塞と診断し緊急手術を行った。手術診断は左大腿ヘルニア陥頓によるS状結腸穿孔であり,S状結腸人工肛門造設術,開腹洗浄ドレナージ術を行った。退院の約3ヵ月後に鼠径部切開法により腹膜外にメッシュを用いて大腿ヘルニア修復術を行ったが再発し腸閉塞となった。再発大腿ヘルニアに対する再手術として健側下肢の大腿筋膜を用いた腹腔内からの修復術を施行した。穿孔性腹膜炎術後の腹腔内に対して人工物を使用すると感染の恐れがあるため,遊離大腿筋膜移植術を選択した。術後再発をきたさなかったため安全で有用な選択肢と考え報告した。

  • 谷河 篤
    2019 年 39 巻 5 号 p. 921-923
    発行日: 2019/07/31
    公開日: 2020/06/25
    ジャーナル フリー

    73歳男性。腹痛を主訴に救急外来を受診した。身体所見では左下腹部に圧痛を認め,腹部は硬く限局的な腹膜炎の所見があった。血液検査でWBC 18,300/μL,CRP 16.5mg/dLと炎症反応の上昇を認めた。腹部造影CTで近位空腸に腸管外に突出した14cm大の巨大な腫瘍を認め,腫瘍内にair bubbleと腫瘍周囲の脂肪織濃度の上昇を認めた。Gastrointestinal stromal tumor(以下,GIST)は完全切除ができなければ予後にかかわる疾患であり,炎症を伴う巨大空腸GISTの疑いで同日緊急手術を行った。腫瘍が膵体部を圧排しており,腫瘍を含めた小腸部分切除術,膵体尾部切除術を施行した。病理組織学的検査でGISTと診断したが,腫瘍の破裂は認めなかった。術後イマチニブ400mgを内服,術後18ヵ月現在,無再発生存中である。

  • 遠藤 俊治, 山田 晃正, 板倉 弘明, 太田 勝也, 上田 正射, 池永 雅一
    2019 年 39 巻 5 号 p. 925-928
    発行日: 2019/07/31
    公開日: 2020/06/25
    ジャーナル フリー

    当院では胃癌穿孔による汎発性腹膜炎に対して腹腔鏡下大網充填・被覆術(以下,鏡視下閉鎖術)と洗浄ドレナージを第一選択とし,二期的胃切除術を行っている。当院での治療成績を報告する。2013年から2017年までの間に当院で胃癌穿孔に対し鏡視下閉鎖術後に胃切除術を行ったのは4例であった。内訳は男2例,女2例,年齢69~76(中央値74)歳,術前診断は胃癌(組織学的診断済)2例,胃癌疑い(CT所見)2例であった。全例鏡視下閉鎖術(大網充填2例,大網被覆2例)を行った。いずれも手術合併症はなく,二期的に開腹胃切除術(幽門側3例,全摘1例)を行った。腹腔内の癒着を認めたが,縫合不全や膵液瘻はなかった。2例が原病死(13ヵ月,11ヵ月),2例が生存中(39ヵ月,16ヵ月)である。胃癌穿孔に対する鏡視下閉鎖術後の二期的胃切除術は安全に施行可能であった。

  • 油木 純一, 長谷川 均, 雑賀 興慶, 松田 和哉
    2019 年 39 巻 5 号 p. 929-933
    発行日: 2019/07/31
    公開日: 2020/06/25
    ジャーナル フリー

    症例は51歳,男性。3日前から次第に増悪する右下腹部痛を主訴に救急外来を受診した。腹部造影CT所見から穿孔性虫垂炎と診断し,緊急手術を施行した。虫垂と考えた腸管を摘出して粘膜面と漿膜面を観察したところ穿通と穿孔を認めた。手術標本の病理組織学的所見から,虫垂として摘出した腸管は大腸の病理組織に合致しており,本来の虫垂は瘢痕化してその近傍の腸間膜内に存在していた。したがって,虫垂として摘出した腸管は重複腸管であり,大腸重複症と診断した。大腸重複症の報告例は少なく,自験例のように穿孔と穿通を同時に伴っている症例はまれである。盲腸における大腸重複症の場合,炎症を伴うと虫垂炎との鑑別が困難であり注意が必要と考えられた。

  • 中村 学, 石坂 克彦, 中山 淳
    2019 年 39 巻 5 号 p. 935-938
    発行日: 2019/07/31
    公開日: 2020/06/25
    ジャーナル フリー

    症例は80歳男性。左鎖骨上窩リンパ節に低分化腺癌の転移が出現し,約20年前に手術した胃癌組織像と類似していた。CTでは右上腹部中心の多発性リンパ節転移と肝細胞癌を認めたが,他に悪性腫瘍を疑う所見はなかった。生検した転移リンパ節の免疫染色での発現型CK7+/CK20−とCT所見から胃癌再発と診断し化学療法を行ったところ,転移リンパ節は著明に縮小した。化学療法開始約8ヵ月後に右側横行結腸穿孔のため結腸部分切除術を行った。切除標本に穿孔を伴う低分化腺癌を認めたため,左鎖骨上窩リンパ節転移の原発巣特定目的に,胃癌組織を含めた免疫染色による再検討を行った。その結果,CK7+/CK20−/CDX2−かつミスマッチ修復機構の欠損を示す深達度T3の大腸髄様型低分化腺癌およびそのリンパ節転移と診断した。癌部穿孔の一因として化学療法の抗腫瘍効果が考えられた。

  • 岩瀬 友哉, 神藤 修, 石川 諄武, 村木 隆太, 宇野 彰晋, 深澤 貴子, 稲葉 圭介, 松本 圭五, 落合 秀人, 鈴木 昌八
    2019 年 39 巻 5 号 p. 939-943
    発行日: 2019/07/31
    公開日: 2020/06/25
    ジャーナル フリー

    症例は45歳男性。普通乗用車を運転中にガードレールに正面衝突して救急搬送された。上腹部の圧痛に加え,軽度の貧血と肝胆道系酵素の上昇を認めた。腹部エコーで肝下面にecho free spaceがみられ,腹部造影CTで胆囊床部にextravasationを認めた。胆囊床部カントリー線上の外傷性肝損傷と考え,出血性ショックを伴っていたため緊急開腹手術を施行した。腹腔内には多量の血液が貯留していた。肝流入血流遮断を行い,腹腔内を観察すると,著明に腫大した胆囊が胆囊床から外れていた。胆囊は胆囊管と胆囊動脈のみで肝十二指腸間膜と連続しており,胆囊損傷としてはavulsionと分類した。胆囊摘出後に肝流入血流遮断を解除しても新たな出血は認められず,今回の出血源は胆囊外傷による胆囊動脈の損傷と考えられた。頻度はまれであるが鈍的外傷による胆囊avulsionは,治療方針の決定において肝損傷との鑑別を要する重要な腹部外傷の1形態である。

  • 吉村 幸祐, 坂部 龍太郎, 桒田 亜希
    2019 年 39 巻 5 号 p. 945-948
    発行日: 2019/07/31
    公開日: 2020/06/25
    ジャーナル フリー

    症例は81歳男性。突然の腹部全体痛のため当院内科を救急受診した。血液生化学検査で重度の脱水による腎障害,ならびに高度の炎症所見を認めた。単純CTでびまん性に小腸拡張像を認めたが,明らかな閉塞機転や腸管穿孔を認めなかったため内科で保存的加療を開始した。腹部症状の増悪はなく,腎機能が回復した発症72時間後の造影CTで上腸間膜動脈中枢閉塞と腎動脈下腹部大動脈の完全閉塞を認めたため当科に紹介された。大動脈閉塞により側副血行路が発達していたため腸管血流は不十分ながら確保されていた。ただちにヘパリン持続静注,プロスタグランジンE1静注を開始した。血栓の完全溶解は得られなかったが,腸管血流の改善とともに小腸拡張像は改善し,経口摂取,内服抗血栓療法が可能となり第91病日に独歩で退院した。

  • 小泉 範明, 有吉 要輔
    2019 年 39 巻 5 号 p. 949-952
    発行日: 2019/07/31
    公開日: 2020/06/25
    ジャーナル フリー

    膿瘍形成を伴う大腸憩室穿孔に対してはドレナージを含む治療が有用であるが,経皮的ドレナージが困難な場合は外科的なドレナージを含む治療戦略が求められる。計画的な二期分割腹腔鏡手術により,腸間膜内膿瘍を伴うS状結腸憩室穿通を低侵襲に治療し得たので報告する。症例は36歳,男性。S状結腸憩室穿通による腸間膜内膿瘍の診断で紹介受診された。初回手術では右下腹部にアクセスデバイスを装着し,腹腔鏡下ドレナージと回腸人工肛門造設を施行。3ヵ月後に施行した二期手術ではまず人工肛門閉鎖を行い,同部に再度アクセスデバイスを装着して腹腔鏡下S状結腸切除を施行,7日目に退院された。初回手術の確実な局所コントロールにより一期的吻合を伴う根治手術が腹腔鏡下に安全に施行でき,永久人工肛門を回避し得た。アクセスデバイスの有効活用により同一の小開腹で一連の治療が可能で,経皮的ドレナージが困難な場合に有用な方法と考えられた。

  • 渡部 かをり, 北上 英彦, 辻 恵理, 野々山 敬介, 早川 俊輔, 山本 稔
    2019 年 39 巻 5 号 p. 953-957
    発行日: 2019/07/31
    公開日: 2020/06/25
    ジャーナル フリー

    潰瘍性大腸炎は大腸腺癌を合併する確率が高いことは知られているが,悪性リンパ腫を合併した報告例は少ない。今回われわれは,潰瘍性大腸炎に合併し腸閉塞を発症した直腸悪性リンパ腫の症例を経験した。症例は66歳男性,36年前に潰瘍性大腸炎と診断されたが無治療で経過していた。下血と右下腹部痛を主訴に当院を受診し,腹部CTで直腸腫瘍による腸閉塞と診断した。大腸内視鏡で直腸に全周性3型腫瘍と直腸粘膜の血管透見像消失を認め,病理学的に潰瘍性大腸炎と診断されたが悪性の診断は得られなかった。潰瘍性大腸炎に合併した直腸癌と考え,絶食管理後ハルトマン手術を施行した。病理組織学的検査で腫瘍はびまん性大細胞型B細胞リンパ腫と診断した。潰瘍性大腸炎に合併した悪性リンパ腫については長期の慢性炎症や免疫抑制剤が関与しているとの報告があり,潰瘍性大腸炎患者に発症した腫瘍性の大腸閉塞で診断に苦慮する場合は悪性リンパ腫も考慮される。

  • 清水 喜徳, 庄子 渉, 荻野 健夫, 柳田 充郎, 河村 正敏, 木村 一史, 山崎 美保子, 阿部 敏幸
    2019 年 39 巻 5 号 p. 959-962
    発行日: 2019/07/31
    公開日: 2020/06/25
    ジャーナル フリー

    胆囊癌を合併した総胆管囊腫の術後に右肝動脈仮性動脈瘤破裂をきたし,経カテーテル的動脈塞栓術(transcatheter artery embolization:以下,TAE)で救命した1例を経験した。症例は73歳の男性で精査で胆囊癌を合併した総胆管囊腫(戸谷Ia型)と術前診断し,拡大胆摘・胆管切除・胆管空腸吻合術を施行した。術後,合併症なく術後10日目に退院となったが,術後24日目に吐血をきたし当院救急外来へ搬送された。ショック状態のため緊急腹部造影CT検査を施行したところ胆管空腸吻合部で消化管内腔への造影剤の漏出が認められ,同部位での出血と診断し止血目的でTAEを施行した。腹腔動脈造影で胆囊動脈結紮部の右肝動脈に仮性動脈瘤と消化管内への造影剤の漏出が認められ,microcoilで塞栓し止血した。術後33日目に施行したangioCTでは動脈瘤は完全に消失し術後36日目に退院となった。

  • 皆川 雅明, 宮田 明典, 石田 隆志, 野村 幸博
    2019 年 39 巻 5 号 p. 963-966
    発行日: 2019/07/31
    公開日: 2020/06/25
    ジャーナル フリー

    症例は87歳女性。来院前日発症の右季肋部を最強点とする腹膜刺激徴候を認め当科紹介となった。腹部超音波検査,CT検査で胆囊は腫大し,壁はびまん性に浮腫状で,腹水貯留を伴っていた。腹腔穿刺の腹水ビリルビンは高値で,胆汁性腹膜炎の診断で緊急開腹手術を施行した。腹腔全体に中等量の胆汁が貯留し,胆囊に穿孔部位を認めなかったが胆囊体部の壁が菲薄化しており,同部位が胆汁性腹膜炎の原因と考え,胆囊摘出術を施行した。病理組織診断では,胆囊壁の菲薄部で静脈血栓を有し,漿膜下層において壊死を伴う浮腫を認めた。組織学的に穿孔部位を認めず,静脈血栓による胆囊壁の循環障害が原因と考えられる漏出性胆汁性腹膜炎と診断した。胆囊壁内に静脈血栓を有した循環障害が原因と考えられる漏出性胆汁性腹膜炎は,自験例を含め本邦で5例報告されており,まれな症例であったため,文献的考察を加えて報告した。

  • 三宅 亮, 村田 厚夫, 黒木 寿一, 松山 純子, 古城 都, 西中 徳治
    2019 年 39 巻 5 号 p. 967-970
    発行日: 2019/07/31
    公開日: 2020/06/25
    ジャーナル フリー

    今回われわれは主膵管損傷を伴う小児膵体部損傷Ⅲb型(AAST grade Ⅲ)の1例を報告する。症例は10代の男児,自転車事故による受傷4時間後に腹痛を主訴に当院へ来院した。CT検査で膵体部損傷および小腸損傷疑いと診断した。緊急審査腹腔鏡を行い腸管損傷がないことを確認したのちに開腹手術へ移行し,主膵管損傷を伴う膵体部損傷を確認した。脾温存脾動静脈温存尾側膵切除を施行した。軽度膵液瘻を呈したが術後経過は良好であり26日目に退院となった。主膵管損傷を伴う小児膵損傷はまれであり,とくに膵体部における損傷例ではその戦略はいまだに議論が分かれている。症例報告の積み重ねに加えNational databaseを用いた検討を行い,治療方針決定のフローチャートや一定の治療指針が提示されることを期待したい。

  • 村田 哲洋, 清水 貞利, 甲田 洋一, 高台 真太郎, 玉森 豊, 久保 尚士, 井上 透, 前田 清, 金沢 景繁
    2019 年 39 巻 5 号 p. 971-974
    発行日: 2019/07/31
    公開日: 2020/06/25
    ジャーナル フリー

    症例は50歳,男性。鉄パイプが腹部に落下し受傷,当院へ救急搬送された。腹部造影CTで十二指腸水平脚の穿孔と腹腔内出血を認め,下膵十二指腸動脈からのextravasationが確認された。輸液負荷でバイタルサインは安定し血管造影検査を行ったところ,下膵十二指腸動脈の断裂が認められ,術前に経カテーテル動脈塞栓術を施行した。術中所見では腸間膜根部右側に深い損傷があり,十二指腸水平脚の穿孔を認めた。膵頭部領域の動脈出血はコントロールされていた。十二指腸部分切除術と十二指腸・空腸側々吻合術を施行し,術後合併症なく退院した。外傷性十二指腸損傷の死因の大部分は腹部血管損傷合併例が占めるとされ,出血コントロールに難渋することが多い。今回,下膵十二指腸動脈断裂を伴った外傷性十二指腸損傷に対して,術前IVRで動脈出血をコントロールして開腹術を行い,術後合併症なく救命できた1例を経験したので報告する。

  • 西尾 康平, 櫻井 克宣, 村田 哲洋, 西居 孝文, 日月 亜紀子, 玉森 豊, 久保 尚士, 井上 透, 前田 清
    2019 年 39 巻 5 号 p. 975-978
    発行日: 2019/07/31
    公開日: 2020/06/25
    ジャーナル フリー

    症例は36歳女性。右鼠径部の疼痛と小さなしこりを自覚し,翌日当院を紹介受診した。右大腿部に10mm大の膨隆を認め,用手還納は不可能であった。腹部CT検査で右大腿部に10mm大の腫瘤像を認め,明らかな腸閉塞像は認めなかった。また,経膣エコー検査で正常な両側卵巣が骨盤内にあることも確認した。内容は不明の右大腿ヘルニア嵌頓と診断し,同日緊急手術を施行した。腹腔鏡下で観察すると,右大腿輪に右卵管が嵌頓していた。腹腔鏡操作で右卵管を還納した後,myopectineal orifice(筋恥骨孔)をmeshで修復した。嵌頓していた右卵管の血流障害は認めなかった。術後経過は良好で,術後3日目に退院となった。イレウス症状を伴わない女性の大腿ヘルニアは,その内容が付属器である可能性を念頭に置く必要があり,腹腔鏡手術はヘルニア内容の確認が容易で,診断治療に有用であると考えられた。

  • 庄司 良平, 青山 克幸, 實金 悠, 岡田 剛, 渡邉 めぐみ, 繁光 薫
    2019 年 39 巻 5 号 p. 979-982
    発行日: 2019/07/31
    公開日: 2020/06/25
    ジャーナル フリー

    上部消化管バリウム造影検査後の下部消化管穿孔,バリウム腹膜炎はまれであるが,治療に難渋ししばしば重篤な経過をたどることがある。当院では2001年から2017年の期間で,上部消化管バリウム造影検査後の下部消化管穿孔症例を8例経験したので報告する。男性3例,女性5例で平均年齢73.4歳であった。上部消化管バリウム検査後から発症までの期間は平均5.5日であり発症から受診までの時間は平均15.8時間,受診から手術までの時間は平均6.3時間であった。穿孔部位はS状結腸5例,直腸3例であり,全例でHartmann手術を施行した。併存疾患として2例で癌,3例で憩室を認めた。術後は全例ICU入室となり集中治療を要した。在院日数は平均23.8日であり,在院死は1例であった。生存例のうち4例で後に人工肛門閉鎖術を施行した。

  • 佐藤 護, 山内 淳一郎, 池田 知也, 藤田 正太
    2019 年 39 巻 5 号 p. 983-987
    発行日: 2019/07/31
    公開日: 2020/06/25
    ジャーナル フリー

    膵切除後の膵液瘻に関連した腹腔内膿瘍に対しては,経皮的あるいは経胃的ドレナージによる治療が基本であるが,困難な場合も多い。今回,これらのドレナージが困難な腹腔内膿瘍に対して,経乳頭的ドレナージが有効であった症例を経験したので報告する。症例は77歳,男性。腎細胞癌膵転移に対して膵中央切除術を施行した。術後8病日に軽快退院したが,14病日に食思不振のため再入院し,CT検査で膵頭側断端付近の腹腔内膿瘍と診断した。膿瘍腔は腹壁や胃と接しておらず,ドレナージは経皮的にも経胃的にも困難であったため,内視鏡的逆行性膵管造影により自動縫合器で縫合閉鎖された膵断端を物理的に貫き経乳頭的に膵管を介してドレナージチューブを膿瘍腔に留置した。粘稠な排液のためチューブ閉塞を複数回きたしたが,内外瘻ステントを併用することでドレナージが良好となり85病日に軽快退院した。

  • 後藤 俊彦, 村田 徹
    2019 年 39 巻 5 号 p. 989-991
    発行日: 2019/07/31
    公開日: 2020/06/25
    ジャーナル フリー

    症例は75歳男性。右鼠径部の膨隆が増悪したため来院した。腹部CT,エコーで盲腸から連続し,大腿輪を通過してヘルニア囊に至る管状構造物を認めた。大腿ヘルニアの虫垂嵌頓すなわちDe Garengeot herniaが強く疑われ,緊急手術を行った。虫垂が嵌頓しており,先端は暗赤色に変化していた。穿孔や膿瘍形成を認めなかったため,虫垂切除を行いメッシュによる修復を行った。病理検査では虫垂に炎症性細胞の浸潤はほとんど認めず,うっ血による変化が主体であった。De Garengeot herniaでは腸閉塞を認めず,術前画像検査が診断に有用である。汚染をほとんど認めない場合はメッシュを用いた修復が可能であると考えられた。

  • 松本 陽, 松本 俊郎, 大地 克樹, 清永 麻紀, 岡本 和久, 岩下 幸雄, 猪股 雅史
    2019 年 39 巻 5 号 p. 993-996
    発行日: 2019/07/31
    公開日: 2020/06/25
    ジャーナル フリー

    急性炎症性疾患と同時に上腸間膜動脈解離が発見された報告は,われわれが調べ得た範囲では過去になく,極めてまれである。症例は高血圧症の既往がある56歳,男性。前日より心窩部痛と嘔吐を認めていたが,再度反復する嘔吐に引き続き,激しい下腹部痛を自覚し,自立歩行が困難となったため,当院に救急搬送となった。来院時,血圧の上昇があり,激痛のため鎮痛・鎮静剤投与下で緊急造影CTを施行した。CT上,総胆管結石と胆囊炎・胆管炎所見に加え,上腸間膜動脈に孤立性解離の所見を認めた。腸管虚血の症状や上腸間膜動脈解離に瘤化がなかったため,保存的加療の方針となり,翌日総胆管結石に対する内視鏡的砕石術が行われた。その後胆囊炎・胆管炎は改善し,孤立性上腸間膜動脈解離も経過とともに真腔狭小化の改善が得られている。自験例では高血圧症による血管脆弱性を背景に,胆囊炎・胆管炎による嘔吐を契機として孤立性上腸間膜動脈解離を生じたものと考えられた。

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