日本腹部救急医学会雑誌
Online ISSN : 1882-4781
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ISSN-L : 1340-2242
35 巻, 7 号
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原著
  • 千野 修, 幕内 博康, 小澤 壯治, 島田 英雄, 西 隆之, 山本 壮一郎, 數野 暁人, 安田 聖栄
    2015 年 35 巻 7 号 p. 831-840
    発行日: 2015/11/30
    公開日: 2016/03/02
    ジャーナル フリー
    教室において経験した特発性食道破裂34例を対象として診断および治療成績と治療戦略について検討した。全例が嘔吐後の発症で主訴は胸背部痛が多かった。初診時正診率は55.9%であり,発症後診断までの時間は中央値で11(4-168)時間であった。穿孔形式は胸腔内穿破型22例,縦隔内限局型12例であった。穿孔部位は下部食道左壁が29例(85.3%)を占めた。食道外膜側の穿孔長径は中央値で3(1-8)cmを示し,胸腔内穿破型で有意に長かった。治療方法は縦隔内限局型では12例中6例に保存的治療を選択し,6例に手術を選択した。胸腔内穿破型では22例中21例に手術を選択し,急性期を過ぎた患者1例に保存的治療を行った。手術は開胸操作による層々二層縫合閉鎖のみを施行した患者が10例,層々二層縫合閉鎖に胃底部縫着術を付加した患者が15例,食道切除し頸部食道瘻を初回に行い,二期的に修復した患者が2例であった。縦隔内限局型は保存例,手術例ともに全症例が経過良好であった。胸腔内穿破型で手術例に縫合不全,膿胸などの合併症が9例(33.3%)発生し,術後在院死亡は1例(3.7%)認めた。胸腔ドレーンは通常留置される胸部背側に加え,胸部下行大動脈左側と左横隔膜上背側に留置した。術後膿胸と縦隔膿瘍に対する予防処置として有効なドレナージ法とわれわれは考える。特発性食道破裂患者に対し,適切に早期診断を行い,適切な治療選択を行うことで治療成績は向上すると考えられる。
  • 番匠谷 友紀, 小林 誠人, 永嶋 太, 蕪木 友則, 岡 和幸, 松井 大作, 前山 博輝, 杉野 貴彦, 中嶋 麻里, 藤﨑 修
    2015 年 35 巻 7 号 p. 841-847
    発行日: 2015/11/30
    公開日: 2016/03/02
    ジャーナル フリー
    【目的】大腸穿孔は敗血症に至ることが多く,周術期の集学的治療が救命のために重要である。当センターの大腸穿孔症例を検討し,救命率向上のための方策を提唱する。【方法】2010年4月から2013年8月の間に緊急手術を施行した大腸穿孔の21症例を対象に,当センターの周術期管理について検討した。【結果】術式はハルトマン手術が18例,うち2例に二期的手術を施行した。平均Acute Physiology And Chronic Health Evaluation(APACHE)Ⅱスコア21.7点,28日生存率95.2%,標準化死亡比0.11であった。Early Goal-Directed Therapy(EGDT)達成率は100%で,エンドトキシン吸着療法(PMX-DHP)は8例に導入,全例で循環動態の改善を認めた。【結語】当センターの標準化死亡比は良好で,治療戦略の妥当性が示唆された。
  • 山村 英治, 大住 幸司, 徳山 丞, 浦上 秀次郎, 尾本 健一郎, 石 志紘, 島田 敦, 大石 崇, 磯部 陽
    2015 年 35 巻 7 号 p. 849-853
    発行日: 2015/11/30
    公開日: 2016/03/02
    ジャーナル フリー
    急性虫垂炎は頻度の高い疾患であるが,虫垂憩室は比較的まれな疾患であり,虫垂炎の診断で手術を施行して診断されることが多い。今回,2012年1月から2013年12月までの2年間に急性虫垂炎の診断で手術を施行した191例のうち虫垂憩室を認めた14例(7.3%)について虫垂憩室を認めなかった177例(92.7%)と比較検討した。患者背景,来院時検査所見,最大虫垂径,穿孔率,在院日数を比較し,穿孔率が統計学的に有意に高値であった。虫垂炎の炎症の程度が軽症でも穿孔のリスクとなりえると考えられた。画像診断の進歩によりCTでの虫垂憩室の術前診断もある程度可能と考えられる。虫垂憩室を疑う所見を認めた場合,軽症虫垂炎と判断しても穿孔のリスクが高いため外科的治療を考慮する必要があると考えられた。
  • 深野 敬之, 森岡 真吾, 高山 哲嘉, 菅野 優貴, 小島 和人, 大原 泰宏, 淺野 博, 篠塚 望
    2015 年 35 巻 7 号 p. 855-861
    発行日: 2015/11/30
    公開日: 2016/03/02
    ジャーナル フリー
    当科で2009年4月から2014年3月までに経験した非外傷性小腸穿孔62例を検討した。原因はヘルニア嵌頓が15例(24%),腫瘍性が9例(15%),癒着性腸閉塞に起因したものが9例(15%),クローン病が8例(13%)であり,以下医原性4例,特発性4例,小腸潰瘍3例と続いた。術前に小腸穿孔と診断し得たのは,わずか5例(8.1%)で,在院死亡を6例(9.7%)に認めた。ヘルニア嵌頓に関連した穿孔は高齢女性に多く,クローン病に起因した穿孔は発症年齢が低かったが,創感染,腹腔内膿瘍などの術後合併症が多くみられた。腫瘍性の穿孔は術後3ヵ月以内の死亡率が60%と高く,良性疾患を原因とした死亡例は4例(6.5%)で,肝硬変や腎不全などの重篤な併存疾患を有していた。小腸穿孔は術前診断が極めて困難で,機を逸せず手術をすべきであるが,術後合併症は半数以上にみられ,重篤な併存疾患のある例や腫瘍性穿孔例では予後が不良であった。
  • 野澤 雅之, 早川 哲史, 北上 英彦, 山本 稔, 中村 謙一, 渡邊 貴洋, 早川 俊輔, 野々山 敬介
    2015 年 35 巻 7 号 p. 863-867
    発行日: 2015/11/30
    公開日: 2016/03/02
    ジャーナル フリー
    【目的】当院では成人の鼠径部ヘルニアに対して経腹的腹腔鏡下ヘルニア修復術(transabdominal preperitoneal laparoscopic hernia repair:TAPP法)を第一選択とし,2010年8月に嵌頓症例に対しても適応を拡大した。嵌頓鼠径部ヘルニアに対して腸管穿孔や大腸嵌頓を認めない症例をTension free法の適応とし,腹腔鏡手術の禁忌がなく安全に腹腔内操作が可能と判断された症例をTAPP法の適応としている。成人の嵌頓鼠径部ヘルニアに対するTAPP法の妥当性について検討した。【対象】2010年8月1日から2013年7月31日に手術を行った成人鼠径部ヘルニアは941例(1,034病変)であった。そのうち嵌頓鼠径部ヘルニア32例(32病変)を対象とした。【結果】平均年齢74.7歳(39~89歳),男性18例,女性14例であった。日本ヘルニア学会の鼠径部ヘルニア分類は,Ⅰ型15例,Ⅱ型1例,Ⅲ型16例であった。術式の内訳はTAPP法16例,鼠径部切開法12例(UHS法5例,Tissue to tissue法4例,Mesh Plug法3例),その他4例であった。Tension free法を行った患者のうち,TAPP法を施行した16例(TAPP群)と鼠径部切開法でアプローチした8例(UHS法5例,Mesh plug 3例)(鼠径部切開群)を比較すると,TAPP群は有意に出血量が少なく術後在院日数も短かった(p<0.05)。TAPP群の術後合併症として漿液腫2例,肺炎2例,腸閉塞1例を認めたが,メッシュ感染や再発は認めず,合併症発生率に差はみられなかった。【結論】腸管穿孔や大腸嵌頓のない嵌頓鼠径部ヘルニアに対して,TAPP法は妥当な術式であった。
症例報告
  • 高橋 雄大
    2015 年 35 巻 7 号 p. 869-874
    発行日: 2015/11/30
    公開日: 2016/03/02
    ジャーナル フリー
    症例は52歳,男性,右側腹部痛を主訴に受診した。CTで膵頭部尾背側から右前腎傍腔に広がる後腹膜気腫と少量の液体貯留を認めた。上部消化管内視鏡検査では,Vater乳頭近傍の憩室壁の発赤や膿苔の付着,膿汁の排泄を認めた。十二指腸造影では,下行脚内側の憩室から後腹膜腔へ造影剤が漏出したため,十二指腸憩室穿孔による後腹膜膿瘍と診断した。白血球数が20,340/mm3と高値だったため手術も考慮したが,手術による胆道系の損傷や狭窄などの合併症が危惧されたこと,膿瘍腔が小さかったことなどから,十二指腸内のドレナージと抗生物質投与による保存的治療を行った。10日目の造影検査では,憩室外への漏出は認めなくなったため,14日目から食事を開始し,18日目に退院となった。その後5年以上経過したが再発は認めていない。今回われわれは,十二指腸憩室穿孔に対する保存的治療の1例を経験したので,文献学的考察を含め報告する。
  • 久恒 靖人, 松下 恒久, 野田 顕義, 天神 和美, 佐治 攻, 榎本 武治, 民上 真也, 福永 哲, 大坪 毅人
    2015 年 35 巻 7 号 p. 875-878
    発行日: 2015/11/30
    公開日: 2016/03/02
    ジャーナル フリー
    性的嗜好により経肛門的異物挿入で直腸穿孔となった症例を経験した。症例1,64歳男性。以前よりホースを肛門に挿入する自慰行為を行っていた。受傷当日も,ホースを使用した自慰行為を施行していたが,行為後より腹痛を認め,経過観察するも症状悪化したため近医へ救急搬送された。近医で処置困難と診断され当院へ紹介となった。精査にて直腸穿孔を認め,ホースによる直腸穿孔と診断し,緊急開腹術を施行した。症例2,75歳男性。友人に肛門へソーセージを挿入された。その後,ソーセージの排泄は認めず,腹痛増悪したため近医を受診された。イレウスと診断され,当院紹介受診。精査にてソーセージによる直腸穿孔と診断し,緊急開腹術を施行した。性的行為による経肛門的直腸異物挿入での直腸穿孔はまれであるため若干の文献的考察を加え報告する。
  • 鍵谷 卓司, 諸橋 一, 坂本 義之, 小山 基, 一戸 大地, 二階 春香, 内田 知顕, 袴田 健一
    2015 年 35 巻 7 号 p. 879-883
    発行日: 2015/11/30
    公開日: 2016/03/02
    ジャーナル フリー
    患者は開腹手術既往のない71歳の男性で,下腹部痛を主訴に来院した。精査の結果,絞扼性イレウスと診断し,緊急開腹術を施行した。手術所見では,回腸末端より口側50cmの腸間膜反対側に生じた7cmの先端囊状の管状構造物が同部位の小腸間膜に癒着しており,これにより形成された間隙に回腸が嵌頓していた。先端囊状の管状構造物を含む壊死小腸を約100cm切除した。病理検査で先端囊状の管状構造物は真性憩室であり,Meckel憩室と診断された。Meckel憩室の合併症の一つとして腸閉塞が知られているが,Meckel憩室と小腸間膜の癒着による内ヘルニアへの嵌頓が原因となるものはまれである。また,Meckel憩室による合併症の発生率は加齢に伴い減少するため,高齢での発症もまれと考えられた。開腹既往のない絞扼性イレウスの原因として,高齢者であってもMeckel憩室が発症要因である可能性を念頭におくべきである。
  • 石川 慎太郎, 佐藤 真輔, 大島 健志, 間 浩之, 永井 恵里奈, 瀧 雄介, 高橋 道郎, 京田 有介, 渡邉 昌也, 大端 考, 金 ...
    2015 年 35 巻 7 号 p. 885-889
    発行日: 2015/11/30
    公開日: 2016/03/02
    ジャーナル フリー
    症例は55歳男性。胸部食道癌に対して右開胸開腹食道亜全摘術,胸骨後胃管再建術を施行した。術後3年5ヵ月より胃管潰瘍で保存的加療を繰り返していた。術後4年2ヵ月目に,心窩部痛を主訴に救急外来を受診した。心窩部から前胸部の皮膚に発赤を認め,CT検査で胸骨前面皮下に気腫と脂肪織濃度の上昇が認められた。胃管潰瘍の胸壁穿通と診断し,緊急手術を施行した。胸骨部分切除を行い,壊死組織を除去して穿通部位を確認した。同部を閉鎖した後,大網で被覆した。術後経過は良好で16病日に退院となった。胃管潰瘍の穿孔,穿通部位はその再建経路によって特徴があり,診断や治療開始の遅延により致命的になりうる。胃管潰瘍がみられた場合には慎重な経過観察を行うとともに,穿孔,穿通を疑う場合には積極的に外科的介入を行うべきである。
  • 川井 陽平, 永田 二郎
    2015 年 35 巻 7 号 p. 891-894
    発行日: 2015/11/30
    公開日: 2016/03/02
    ジャーナル フリー
    症例は8歳,男児。腹痛と嘔吐を主訴に救急外来を受診した。急性腸炎の診断にて経過観察となったが翌日症状が増悪したため当科紹介となった。腹部は膨隆しており下腹部中心に圧痛を認め,筋性防御,反跳痛を伴っていた。腹部CTで他の腸管との連続性がない長径5,5cmの鏡面像を形成する囊状影を認めた。術前診断は困難であったが,臨床所見より汎発性腹膜炎を疑い緊急手術を施行した。回盲弁より口側80cmの部位に捻転により壊死に陥った10×2.5cmの憩室を認めた。この憩室は頸部を軸として反時計方向に180度捻転していた。憩室を含めた小腸楔状切除を行った。病理組織学的には真性憩室であり,Meckel憩室に矛盾しなかった。Meckel憩室茎捻転はまれな疾患である。本邦では小児発症例は11例の報告があるのみであり,術前診断が困難と考えられているが,小児の急性腹症の鑑別として念頭におくことが重要と考える。
  • 難波 美津雄
    2015 年 35 巻 7 号 p. 895-897
    発行日: 2015/11/30
    公開日: 2016/03/02
    ジャーナル フリー
    症例は80歳,女性。吐血と発熱の精査目的にて,老健施設より紹介受診した。うつ病の入院歴があり近年は認知症がみられた。腹部CT検査で上腹部に遊離ガス像がみられ,胃拡張と大量に胃内容物がみられた。保存的加療により遊離ガス像は消失し炎症反応は低下した。上部消化管内視鏡検査を施行したところ,胃内に多量の変性した手袋と胃角部前壁に穿孔したと思われる胃潰瘍がみられたが,手袋は内視鏡的にはほとんど摘出できなかった。そのため開腹手術を施行し手袋は完全に摘出でき,術後28日目に退院した。異食症による胃内異物について若干の文献的考察を加え報告する。
  • 清水 健司, 臼田 昌広, 原 康之, 望月 泉
    2015 年 35 巻 7 号 p. 899-903
    発行日: 2015/11/30
    公開日: 2016/03/02
    ジャーナル フリー
    症例は66歳,男性。 5ヵ月前に下部胆管癌とS状結腸癌との重複癌に対し,膵頭十二指腸切除およびS状結腸切除術を施行した。ショックを伴う吐下血で救急外来を受診し,腹部造影CTと上下部内視鏡検査施行するも出血源を特定できず,経過観察目的に入院となった。第1病日に下血を認め,上部内視鏡検査で左胆管からの出血を認めた。緊急腹部血管造影を施行したが,出血源を特定できなかった。上部内視鏡検査所見より,左肝動脈からの微小出血と判断し,ジェルパート®にて左肝動脈塞栓術を施行した。第5病日に再度下血あり,外側区域への分枝からの再出血を認め,マイクロコイルで左肝動脈塞栓術を施行した。発熱が遷延し,腹部造影CTで左肝膿瘍を認めたため,左肝膿瘍に対し肝左葉切除術を施行し根治し得た。胆道再建を伴う術後の肝動脈瘤に対する塞栓術後は,肝膿瘍発症を考慮した注意深い観察と治療が必要である。
  • 高橋 啓, 林 昌俊, 栃井 航也, 小久保 健太郎, 丹羽 真佐夫
    2015 年 35 巻 7 号 p. 905-907
    発行日: 2015/11/30
    公開日: 2016/03/02
    ジャーナル フリー
    症例は94歳,女性で,約20年前に直腸脱に対してThiersch法を施行されているが,最近になり再び直腸脱を繰り返すようになっていた。施設入所中に直腸脱が還納不可能となり当院救急外来を受診した。来院時,径10cm長の完全直腸脱を認め,直腸粘膜は暗赤色で,造影CT検査では脱出直腸壁の増強効果が減弱していた。全身麻酔下に会陰部に切開を加え縫縮された肛門輪を切開したところ,経会陰的に脱出直腸を還納したが,還納された直腸の虚血性変化は不可逆性と判断し,Hartmann手術を施行した。術後経過は良好で術後29日目に退院となった。本症例のように経肛門的直腸脱手術後の直腸脱再発は嵌頓する可能性があり,注意を要すると考えられた。
  • 小嶌 慶太, 青木 真彦, 高橋 有未子, 田村 光, 小島 正夫
    2015 年 35 巻 7 号 p. 909-912
    発行日: 2015/11/30
    公開日: 2016/03/02
    ジャーナル フリー
    症例は51歳,女性。左側腹部痛を主訴に近医を受診し,腹部超音波検査で腹腔内腫瘤を認め当院に紹介された。左中腹部に手拳大の腫瘤を触知し,同部位に圧痛を認めた。腹部造影CTでは空腸壁に連続し,内部に出血像を呈する約8cm大の腫瘍を認めた。腹部MRIではgastrointestinal stromal tumor(以下,GIST)が疑われた。小腸腫瘍出血の術前診断で緊急手術を施行した。腹腔鏡下で手術を開始し,全小腸を検索したが腫瘤は認められず,横行結腸壁から壁外性に発育した腫瘍であった。サイズは約8cmであり,小開腹を行い腫瘍の切除を行った。摘出標本は表面平滑な有茎性腫瘍で,割面は内部に出血および囊胞を認めた。病理学的には腫瘍は筋層由来で,紡錘形細胞が交錯して増生していた。c-kit陰性,CD34陰性,desmin陽性,MIB1≦5%で平滑筋腫と診断された。術後経過は良好で第10病日に退院した。
  • 白桃 雄太, 門野 潤, 中薗 俊博, 安田 洋, 佐々木 文郷, 井本 浩
    2015 年 35 巻 7 号 p. 913-916
    発行日: 2015/11/30
    公開日: 2016/03/02
    ジャーナル フリー
    症例はMarfan症候群による大動脈解離に対し,Bentall手術,胸腹部大動脈人工血管置換術の既往がある47歳の男性で,左側腹部痛を主訴に紹介医を受診した。CTで胸部下行から腹部大動脈の人工血管置換部周囲に血腫を認めた。人工血管吻合部からの遅発性出血と判断し,開胸止血を行った。術前から胃拡張を認めていたが,この術後に上部消化管内視鏡検査と同時に行った透視検査にて短軸性胃軸捻転と診断された。内視鏡的整復を行ったが,すぐに再発した。絶食で経過観察中に敗血症を併発し,CTで非閉塞性腸管膜虚血(NOMI)を疑い緊急手術を行った。実際にはNOMIは認めず,胃前庭部が短軸方向に捻転していた。捻転を解除し,胃体部を腹壁に縫合固定した。敗血症は長期絶食によるbacterial translocationが原因と考えられた。Marfan症候群に発症した胃軸捻転はまれで,発症の機序を中心に報告する。
  • 上野 修平, 篠田 憲幸, 高嶋 伸宏, 堅田 武保, 原田 真之資
    2015 年 35 巻 7 号 p. 917-920
    発行日: 2015/11/30
    公開日: 2016/03/02
    ジャーナル フリー
    症例は48歳男性。トラックとフォークリフトに挟まれ当院救急搬送。搬入時GCS E4V4M6,血圧58/23mmHg,脈拍78bpmであった。初期輸液に反応し,造影CT検査を施行。SMA損傷による腹腔内出血と診断した。再度血圧の低下を認め,緊急手術の適応と判断するも,手術まで時間を要してしまう状況であった。SMA根部をバルーンカテーテルにて閉塞(SMA Balloon Occlusion;SMABO),その後開腹止血術を施行した。後腹膜およびSMAを含む広範な腸間膜の損傷を認めた。可及的に縫合止血を行い,血流不良の腸管を切除し,ガーゼパッキングの後に閉創した。3日後に再開腹し,人工肛門造設術を施行,10ヵ月後に人工肛門閉鎖術を施行した。SMABOにより開腹手術までの出血をコントロールしえたとともに,Intra-Aortic Balloon Occlusion(IABO)の問題点である再灌流障害や他臓器の虚血障害を起こすことなく長期の留置が可能であった。また損傷部以外のSMA領域の血流を最小限確保できたと考える。
  • 齋藤 一幸, 多賀谷 信美, 立岡 哲平, 菅又 嘉剛, 大矢 雅敏
    2015 年 35 巻 7 号 p. 921-924
    発行日: 2015/11/30
    公開日: 2016/03/02
    ジャーナル フリー
    上腹部手術既往のある急性胆囊炎例に対して緊急手術として単孔式腹腔鏡下胆囊摘出術を施行した1例を経験したので報告する。症例は62歳,男性。15歳時に虫垂切除術,25歳時に開腹にて詳細不明な胃切除術が施行されていた。急性胆囊炎の診断にて紹介入院となり,緊急手術が施行された。上腹部正中切開による瘢痕創は臍の左側まで達していたが,臍部に手術瘢痕はなく,臍部縦切開によるGlove法にて手術を開始した。腹腔内癒着は認められたが,胆囊管および胆囊動脈を剥離・同定し,Critical viewを得た後,胆囊を臍部より摘出した。手術時間は132分,出血量は50mLであった。術後,炎症反応が遷延したが,軽快し第6病日に退院した。上腹部手術既往症例に対しても緊急での低侵襲内視鏡下手術は安全に施行可能であり,考慮してもよい術式の一つであると思われた。
  • 伊達 慶一, 中村 敏夫, 藤原 聡史, 大石 一行, 徳丸 哲平, 上月 章史, 寺石 文則, 福井 康雄
    2015 年 35 巻 7 号 p. 925-928
    発行日: 2015/11/30
    公開日: 2016/03/02
    ジャーナル フリー
    62歳,男性。腹部違和感を主訴に近医を受診した。腹部CTで腸重積を疑われ,当院に紹介入院した。腹部造影CT で20mm大の腫瘤が先進部となり,回腸結腸型腸重積を呈していた。バイタルサインは安定していたため,準緊急に手術を施行した。腹腔鏡下に回盲部切除を施行した。摘出した標本では,バウヒン弁近傍の回腸に20mm大の腸石が嵌頓していた。腫瘍性病変やMeckel憩室は認めなかった。腸石の嵌頓による腸重積は9例の報告しかなく,若干の文献的考察を加え報告する。
  • 藤村 至, 下沖 収, 八重樫 瑞典, 高橋 正統, 皆川 幸洋, 藤社 勉, 阿部 正
    2015 年 35 巻 7 号 p. 929-933
    発行日: 2015/11/30
    公開日: 2016/03/02
    ジャーナル フリー
    60歳代男性,大酒家であったが2ヵ月前から食思不振を呈し,突然の腰腹部痛と悪寒戦慄,嘔吐および40℃の発熱を訴え来院した。腹膜刺激症状と右鼠径部の膨隆および末梢循環不全を認め鼠径ヘルニア陥頓による腸管虚血を疑った。緊急開腹手術では明らかな腸管虚血を認めなかったが,入院時血液培養からAeromonas hydrophilaが検出されたため敗血症による急性循環不全と診断した。明らかな感染経路は特定できず腸管からのBacterial translocationが疑われた。敗血症に準じた抗菌薬投与と人工呼吸器管理による集中治療によって救命し得た。患者はアルコール多飲による慢性肝炎と食思不振で免疫低下状態にあったと推察された。免疫低下状態の患者で急性腹症を伴う重症敗血症を呈した場合は,原因の一つとしてAeromonas hydrophilaを念頭に置いた検査や治療が必要である。
  • 徳田 裕二, 若林 正和, 佐々木 一憲, 河野 悟
    2015 年 35 巻 7 号 p. 935-938
    発行日: 2015/11/30
    公開日: 2016/03/02
    ジャーナル フリー
    症例は42歳,男性。突然の心窩部痛と嘔吐で当院救急外来を受診した。腹部造影CT検査で左傍十二指腸ヘルニアによる絞扼性イレウスと診断し同日緊急手術となった。腹腔鏡で観察したところ, Treitz靭帯の左外側で,下腸間膜静脈背側の腸間膜欠損孔へ小腸が嵌入し,その口側腸管が拡張していた。腹腔鏡下に嵌入した小腸をヘルニア囊外へ導出し,ヘルニア門を縫合閉鎖した。術後18日目で軽快退院した。腹腔鏡補助下に整復した左傍十二指腸ヘルニアの1例を経験したので報告する。
  • 安藤 知史, 愛甲 聡, 前田 真悟, 大平 正典
    2015 年 35 巻 7 号 p. 939-943
    発行日: 2015/11/30
    公開日: 2016/03/02
    ジャーナル フリー
    症例は18歳の男性。排便中の突然の左下腹部痛を認め当院に救急搬送となり,下行結腸の虚血性腸炎の診断で入院となった。入院後に症状・所見の増悪を認め再度施行したCTで下行結腸穿孔と診断され緊急手術となった。結腸穿孔部縫合閉鎖,横行結腸人工肛門造設術を施行したが,憩室や腫瘍などの併存する原因疾患は認めず,また用指把持により小腸漿膜が容易に剥離する所見を認め,Ehlers-Danlos syndrome(EDS)を疑った。遺伝子検査を行い血管型EDSと診断された。7ヵ月後に危険性について説明の上,人工肛門閉鎖術を施行したが,術後麻痺性の大腸イレウスから上行結腸壊死・穿孔をきたし再手術となった。術後正中創哆開や小腸瘻,ループ式人工肛門の断裂などのEDSに関連した合併症を認めたものの社会復帰に至った。若年者の原因不明の消化管穿孔で病歴や所見からEDSの関与の可能性が疑われる場合には,人工肛門閉鎖には極めて慎重な姿勢で臨む必要がある。
  • 西野 裕人, 木村 有佑, 吉村 玄浩
    2015 年 35 巻 7 号 p. 945-949
    発行日: 2015/11/30
    公開日: 2016/03/02
    ジャーナル フリー
    症例は69歳男性。2005年に胃体上部後壁の早期胃癌に対し胃全摘術(Roux-en-Y法再建)を施行,7年間無再発で経過していた。2012年1月に腹痛で救急搬送,腹部造影CTで輸入脚の拡張を認め緊急手術を施行し,輸入脚の捻転を認めたため捻転の解除を行った。腸管虚血はないと判断し腸切除は行わなかったが,術後経過は良好であった。2012年6月の血液検査で肝胆道系酵素の上昇を認め,腹部造影CTで輸入脚の拡張を指摘された。全身状態は安定していたため,輸入脚の減圧を試みることとした。経皮経肝胆道ドレナージを施行し,後日チューブ先端を十二指腸へ通過させ輸入脚の減圧を行った。腸管拡張が改善したのを確認し待機的に手術を施行,狭窄した腸管を部分切除し輸入脚を肛門側腸管と側側吻合し,術後2年再発は認めていない。輸入脚症候群に対する治療として経皮経肝胆道ドレナージの応用は有効な手段であると考えられた。
  • 大草 幹大, 進士 誠一, 菅 隼人, 山田 岳史, 小泉 岐博, 山岸 杏彌, 町田 幹, 内田 英二
    2015 年 35 巻 7 号 p. 951-954
    発行日: 2015/11/30
    公開日: 2016/03/02
    ジャーナル フリー
    患者は37歳の男性で,主訴は腹痛,嘔吐であった。アトピー性皮膚炎に対して10年間14種類の漢方生薬を服用していた。腹部造影CTで特発性腸間膜静脈硬化症(idiopathic mesenteric phlebosclerosis:IMP)による麻痺性イレウスと診断した。保存的に加療し軽快したが,退院後5日目に症状が再燃したため再入院となった。腹部CT検査では盲腸から下行結腸脾弯曲部の腸間膜静脈分枝に沿った多数の線状粒状石灰化を認めた。下部消化管内視鏡検査では盲腸から下行結腸の粘膜は茶色を呈しており,横行結腸を中心にびらんが散在していた。同部位の生検では静脈周囲の線維性肥厚を認め,IMPと診断した。腹腔鏡補助下拡大結腸右半切除術を行い,漿膜側の色調が良好で浮腫のない脾弯曲部を切除線とした。術後36ヵ月が経過した現在再発を認めていない。IMPの1切除例を経験したので報告する。
  • 山本 澄治, 橋本 好平, 久保 雅俊, 宇高 徹総
    2015 年 35 巻 7 号 p. 955-960
    発行日: 2015/11/30
    公開日: 2016/03/02
    ジャーナル フリー
    近年,コーラによる胃石の溶解が報告されるようになり治療に応用され始めている。今回,コーラ飲用による溶解が誘因と考えられる,柿胃石による小腸イレウスを2度発症した症例を経験したので報告する。症例は82歳の男性で,3日前より嘔気を自覚し腹痛も認められたため受診した。CTにて食餌性イレウスの診断となり,保存的治療による改善がみられず腸管切除により異物を摘出した。しかし退院20日後に再度食餌性イレウスを発症し,再度腸管切除により異物を摘出した。2回とも先進部に線維性の塊が認められた。胃石の落下を疑いCT画像を再確認したところ,初回時の胃内に2回目の嵌頓物と同様の塊が存在した。胃石を疑った詳細な問診で,5ヵ月前に柿の食事歴があり,悪臭のある口臭が持続するため,初回入院の5日前に初めてコーラを飲用したことが判明した。このことから柿胃石がコーラにより溶解し,腸管内へ異時性に落ち込んだものと考えられた。
  • 田村 徳康, 坂東 道哉, 北川 祐資, 毛利 俊彦, 及川 芳徳, 梅谷 直亨
    2015 年 35 巻 7 号 p. 961-963
    発行日: 2015/11/30
    公開日: 2016/03/02
    ジャーナル フリー
    患者は82歳女性, 以前より内臓逆位を指摘されていた。息切れと腹痛を主訴とし救急外来を受診,CTなどにより直腸憩室穿通と診断,緊急で腹腔鏡下前方切除術を施行した。術前に他臓器奇形などを評価し,鏡面構造を意識した手術体制を組立て,慎重に操作を行えば,低侵襲な腹腔鏡での緊急手術が可能であると考えられた。
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