日本腹部救急医学会雑誌
Online ISSN : 1882-4781
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29 巻, 3 号
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会長講演
  • 与芝 真彰
    2009 年 29 巻 3 号 p. 427-435
    発行日: 2009/03/31
    公開日: 2009/05/12
    ジャーナル フリー
    1976年から約30年間,一貫して劇症肝炎の救命率の向上を目指して検討を重ね,独自に以下の3点の治療戦略を確立した。(1)当初活性炭の吸着能を利用した血漿灌流からスタートしたが,本治療がDICを誘発する危険があることからこれを中止し,血漿交換療法に切り換えた。しかし,血漿交換は昏睡覚醒効果に乏しいことから血漿交換に中分子量の除去特性に優れた“high performance膜”を用いた“血液濾過透析(現在ではon─line pre─HDF)”を組み合わせた強力な人工肝補助治療を確立した。(2)劇症肝炎を起こしている基礎疾患の治療(ウイルス性であれば抗ウイルス剤とステロイドパルスとサイクロスポリン併用剤の併用,自己免疫性と薬剤性はステロイドパルスと減量)により可及的速やかにGOT,GPTを低下させる。(3)予知式を作成し,劇症化を早期に予知し基礎疾患治療により劇症化を阻止する。以上により劇症肝炎の予後は有意に改善したと考えられる。
原著
  • 宇高 徹総, 小林 成行, 久保 雅俊, 水田 稔, 白川 和豊
    2009 年 29 巻 3 号 p. 437-440
    発行日: 2009/03/31
    公開日: 2009/05/12
    ジャーナル フリー
    1993年から2007年までに当院で経験した胃癌穿孔10例を対象に診断と外科治療について検討した。男性7例,女性3例,年齢は44~85歳(平均60.9歳)であった。術前に診断できたのは7例(70%)で,残りの3例は術中に診断できた。手術法は胃切除術4例,胃全摘術2例,大網充填術後の二期的胃全摘術1例,穿孔部閉鎖術3例であった。転帰は呼吸不全による在院死が1例,stage IVの5例中4例が術後6ヵ月以内に癌性腹膜炎で死亡し,1例が1年7ヵ月肝転移生存中である。IIIBの1例が12ヵ月で肝転移により死亡し,1例は2年腹膜再発生存中である,IIIAの2例は5年以上無再発生存中である。術前の緊急内視鏡検査が重要である。根治性があると判断された場合,全身状態が不良な時は二期的根治手術が望ましく,全身状態が比較的良好な場合は一期的治癒切除が望ましい。
  • ─早期の検査は必要か?─
    小泉 正樹, 前島 顕太郎, 尾碕 卓司, 吉野 雅則, 尾形 昌男, 徳永 昭, 田尻 孝
    2009 年 29 巻 3 号 p. 441-446
    発行日: 2009/03/31
    公開日: 2009/05/12
    ジャーナル フリー
    下部消化管出血に対し緊急で下部消化管内視鏡検査を行った140症例を対象として,内服歴・前処置・原因疾患・治療法とその成績・偶発症について検討した。内服歴に関しては抗凝固剤と憩室出血・虚血性腸炎との関連が示唆された。緊急性が高いと判断し,より早期に行った検査ほど前処置なしの症例が多かった。内視鏡診断の正診率は前処置の有無や内容で差がなかったが,前処置なし・浣腸のみ症例では病変を十分に観察できないものも少なくなかった。原因疾患は大腸憩室出血(32.9%),虚血性腸炎(28.6%)が多くを占めていた。大腸憩室出血,出血性直腸潰瘍,血管拡張症,上部消化管出血は輸血を要するものがあった。内視鏡的止血術を行ったのは5例(3.5%)であった。前処置や検査による偶発症はなかった。下部消化管出血おいて前処置にこだわらず緊急に大腸内視鏡検査を実施することは,出血量を把握して方針を早期決定する点において有用と考えられた。
特集:「急性胆管炎・胆嚢炎 急性膵炎の診療ガイドライン」制定後の診療をめぐって
  • 平田 公一
    2009 年 29 巻 3 号 p. 449-456
    発行日: 2009/03/31
    公開日: 2009/05/12
    ジャーナル フリー
    日本腹部救急医学会が中核的存在となって,「急性膵炎診療ガイドライン」と「急性胆管炎・急性胆嚢炎ガイドライン」を提案してきた経緯を紹介した。いずれも関連学会,関連組織の支援あるいは共同参画をいただく中で,国際的ガイドラインとしての関わりをも目的として,英文公開も行ってきた。診療ガイドラインは診療上の非論理的なばらつきを可能な限り排除すると共に,新知見としての診療行為についてはその実施を促すもので,標準的(一般的)診療の提供を目的とするものである。かつて本邦でのEBMの実践内容については不十分であったと考えるが,正確な診療ガイドラインがより正確なEBMへ果たす役割は大きい。病態幅の広い急性腹部疾患についての診療ガイドライン作成の是非については論議があったが,今日ではその心配をよそに診療ガイドラインの普及については順調といえる。一方,一部の医療者にあっては,ガイドライン利用の考え方,あるいは医療者以外の専門職種者の理解についてはわれわれとは大きく異なる解釈をする向きもある。医療費配分と社会意識の改革によってガイドライン存在のもと治療のアウトカムの改善を目指したいものである。
  • 横江 正道, 真弓 俊彦, 長谷川 洋
    2009 年 29 巻 3 号 p. 457-465
    発行日: 2009/03/31
    公開日: 2009/05/12
    ジャーナル フリー
    世界初となる急性胆道感染症に対する診療ガイドラインが日本から発刊されたのに引き続き,国際版ガイドラインも国際コンセンサス会議を経て日本から発信された。エビデンスをほぼ同じとする中で,国家間における診療体制や保険制度の違いなどもあり,国際版は日本国内版の単なる英訳ではなく,世界中の国々で使用する上での基礎的要素を含んでいる。両ガイドラインを比較すると多くの点で相違点がある。代表的なポイントとしては,国際版・急性胆管炎の診断基準では血液検査のみならず身体所見や既往歴を重視し,重症度判定基準では初期治療に反応したかどうかなどを問題にしている。一方,急性胆嚢炎の診断基準では,国際版では疑診の設定がなく,重症度判定基準では,局所所見よりも全身状態での評価に重きをおいている。国内で使用する上では,国内版への理解が当然,重要であるが,今後,両ガイドラインの有用性などを比較することで,さらなる質の向上に期待する。
  • 横江 正道, 真弓 俊彦, 折戸 悦郎
    2009 年 29 巻 3 号 p. 467-470
    発行日: 2009/03/31
    公開日: 2009/05/12
    ジャーナル フリー
    科学的根拠に基づく急性胆管炎・胆嚢炎の診療ガイドラインに関する実地臨床における評価はまだ定まっていない。今回,われわれは初期診断と胆道炎ガイドラインによる評価,さらに最終臨床診断との比較を行うことで胆道炎ガイドラインの診断基準と重症度判定基準の臨床上の評価を行った。対象を初期診断・急性胆管炎の74例と初期診断・急性胆嚢炎の81例として,それぞれの診断基準と重症度判定基準を用いて評価をした。急性胆管炎における初期診断と診断基準の合致率は疑診以上であれば81.1%であった。急性胆管炎と最終臨床診断された51例のうち診断基準に該当しなかった症例はわずか5例であった。急性胆嚢炎における初期診断と診断基準の合致率は疑診以上であれば82.7%であった。急性胆嚢炎と最終臨床診断された69例のうち,診断基準に該当しなかった症例は8例であった。急性胆管炎も急性胆嚢炎も,重症度判定基準上はいずれも中等症がもっとも多くなった。死亡例が含まれなかったため致命率などの検討はできなかった。診断基準と重症度判定基準の特性を知った上で胆道炎ガイドラインを使用していくことも重要である。
  • ─早期手術の臨床評価─
    松田 諭, 内藤 敬嗣, 杉村 幸春, 田山 愛, 遠藤 悟史, 阿部 大, 太田 智之, 上藤 聖子, 高 賢樹, 深澤 基児, 山田 成 ...
    2009 年 29 巻 3 号 p. 471-476
    発行日: 2009/03/31
    公開日: 2009/05/12
    ジャーナル フリー
    『急性胆管炎・胆嚢炎の診療ガイドライン』の発刊に伴い,2007年1月より急性胆嚢炎に対する治療方針を変更し,可能な限り早期の腹腔鏡下胆嚢摘出術を行う事とした。2007年1月からの1年11ヵ月間に腹腔鏡にて手術を開始した94例を検討した。早期手術群が50例,待機手術群が44例であった。手術成績は待機手術群において手術時間が長かった。開腹移行率はともに2割強であった。早期手術50例を前半と後半に分けると,開腹移行率は前半で40%(10/25)と高かったが,後半では8%(2/25)と有意に低下した。ガイドラインでは発症から72~96時間以内の手術を推奨しているが,発症から7~10日後の手術も安全に施行できた。内視鏡外科医を育成し早期腹腔鏡下胆嚢摘出術が標準治療になるためには,急性胆嚢炎の術者となるべきレベルの判定法や,トレーニング方法について現実に即した検討が必要である。
  • ─開腹移行ゼロ,合併症ゼロをめざして─
    鈴木 憲次, 野澤 雅之, 奥村 拓也, 岡本 和哉, 山下 公裕, 川辺 昭浩, 木村 泰三
    2009 年 29 巻 3 号 p. 477-480
    発行日: 2009/03/31
    公開日: 2009/05/12
    ジャーナル フリー
    当施設における急性胆嚢炎に対する腹腔鏡下胆嚢摘出術の手術成績をガイドライン刊行前後で比較検討した。前期はPTGBDが多数例に施行され比較的早期の待機手術が中心であったが,後期には症状緩和目的にPTGBAを施行し早期に手術を施行した。historicalなdataではあるが,開腹移行率は有意に減少し,術後合併症は減少傾向を認めた。手術時間,術後在院期間は変わらず,胆管損傷等の重篤な合併症は全期間を通して認められなかった。急性胆嚢炎に対しては,習熟した内視鏡外科医チームの元で,超音波凝固切開装置を多用しcritical view exposure techniqueを尊重したうえで,ガイドラインに従った早期の腹腔鏡下胆嚢摘出術が望ましいと思われた。
  • 小川 修, 吉汲 宏毅, 丸岡 直隆, 橋本 裕輔, 竹越 淳, 井上 和明, 与芝 真彰
    2009 年 29 巻 3 号 p. 481-486
    発行日: 2009/03/31
    公開日: 2009/05/12
    ジャーナル フリー
    【目的】急性胆炎に対する経乳頭的胆ドレナージ(endoscopic transpapillary gallbladder drainage:ETGBD)は現時点では一般的治療ではない。しかし,その可能性を考察するため,ETGBDの有用性と成否因子を検討した。【方法】2003年から2004年までに当科で治療した急性胆炎46例を治療法別(保存的治療,PTGBD,ETGBD)にその効果を比較検討した。さらにETGBD成否因子に関して,患者背景と検査所見と胆超音波所見を検討した。【結果】ETGBDは他の治療法と同様に有用であった。また成功例では炎症が低い傾向にあり,胆超音波所見において有意差をもって短径が短く壁の厚さが薄かった。【結論】ETGBDは成功さえすれば有用であった。特に低炎症例で高い成功率と治療効果が期待され,また超音波所見が成否の予測に役立つと考えられた。
  • 杉本 真樹, 安田 秀喜, 幸田 圭史, 鈴木 正人, 山崎 将人, 手塚 徹, 小杉 千弘, 樋口 亮太, 済陽 義久, 矢川 陽介, 植 ...
    2009 年 29 巻 3 号 p. 487-491
    発行日: 2009/03/31
    公開日: 2009/05/12
    ジャーナル フリー
    胆道炎ガイドライン診療指針による急性胆嚢炎の治療において,胆嚢ドレナージの重要性が強調されているが,PTGBDのみが推奨度Bで,PTGBAや経乳頭的内視鏡的ドレナージ,開腹による胆外瘻増設術は推奨度Cである。経皮的ドレナージは,適応や禁忌(出血傾向,腹水),合併症(肝膿瘍,癌拡散,自己抜去など)などの問題点があり,ドレナージ施行後の胆摘術の必要性,時期なども一定の見解はない。胆道ドレナージ法は,内視鏡技術の進歩により,経皮的から,経内視鏡的,経鼻的経乳頭的と進歩し,ドレナージチューブからチュ─ブステントへと発展した。急性胆嚢炎に対する胆嚢ドレナージ法も,内視鏡的ドレナージの報告が増えつつある。さらに経鼻的経乳頭的なENGBDのほかに,胆嚢ステント術EGSも行われている。これらは非観血的な生理的経路であり,PTGBD禁忌例にも適応となる。胆結石嵌頓解除も期待でき,とくにEGSは,ENGBDより手技が簡潔で,チューブフリーのためADLが保持され,事故抜去も少ない。またEGS留置下でも,経胆嚢管的抜去法により一期的に鏡視下胆摘が可能である。今後は低侵襲性と安全性を十分考慮した胆嚢ドレナージ法が必要であり,超音波内視鏡ガイド下経十二指腸的胆嚢ドレナージESGBDや経管腔的内視鏡手術NOTESによる手技の可能性も期待できる。
  • 古屋 智規, 和嶋 直紀, 木村 昭利, 菅原 和子
    2009 年 29 巻 3 号 p. 493-497
    発行日: 2009/03/31
    公開日: 2009/05/12
    ジャーナル フリー
    地方における急性膵炎診療ガイドライン(GL)制定後の診療体制変化について言及した。重症自検例93例を,GL発刊前54例,初版発刊後(2003年7月~2007年2月)30例,第2版改訂後(2007年3月~)9例に分け,搬送までの期間,特殊治療(動注療法,早期経腸栄養,血液浄化療法等)施行率および治療成績を比較した。GL発刊前の搬送までの期間は膵炎発症後17.4日,重症判定後12.0日だったが,初版発刊後各6.6日,5.4日に短縮。しかし,第2版改訂後は同8.9日,7.9日と不変で,旧厚労省判定基準重症II以上の割合が58.3%から77.8%に増加した。特殊治療施行率は発刊前75.9%だったが,発行後・改訂後は全例で施行され,改訂後,続発性膵感染率は34.7%から14.3%に低下,生存例の平均入院日数は59.6日から32.6日に短縮した。以上,GLは地方においても極めて有効だが,地方特有の地理的問題,施設の受入限界,専門医不足等で,エビデンスに基づく診療体制維持は困難のため,今後は社会的背景も視野に入れた改訂も必要と考える。
  • 真弓 俊彦, 吉田 雅博, 平田 公一, 高田 忠敬
    2009 年 29 巻 3 号 p. 499-503
    発行日: 2009/03/31
    公開日: 2009/05/12
    ジャーナル フリー
    急性膵炎では,発症早期からの診断,治療が予後を左右する。しかし,血中アミラーゼの診断率には限界があり,診断率が高い血中リパーゼも時間外などには測定できない施設が多い。膵酵素であるtrypsinの前駆物質trypsinogen-2は,急性膵炎の発症早期から尿中に排泄され,近年,この尿中trypsinogen-2の試験紙法による迅速簡便な定性測定法が開発された。現在,急性膵炎を否定できない症例でのこの測定法の急性膵炎診断能を検討するため多施設共同研究を行っており,その概要を報告する。研究開始当初の解析では,エントリー74症例中,急性膵炎が26例,それ以外が48例で,尿中trypsinogen-2定性法のsensitivityは61.5%,specificityは89.6%であった。擬陰性は急性胆管炎を併発して旧厚生労働省重症度判定スコア3点と判定された重症膵炎1例(現重症度判定スコアでは軽症)以外は前例軽症膵炎であった。既存の報告同様,trypsinogen-2定性法の急性膵炎診断での有用性が示唆され,この測定法による急性膵炎の早期診断により急性膵炎の予後を改善することが期待される。
症例報告
  • 金田 和久, 上西 崇弘, 栄 政之, 田中 肖吾, 山本 隆嗣, 石原 寛治, 久保 正二, 大野 耕一
    2009 年 29 巻 3 号 p. 505-508
    発行日: 2009/03/31
    公開日: 2009/05/12
    ジャーナル フリー
    症例は70歳,男性。肺気腫の急性増悪のため入院治療中,38℃に及ぶ発熱が持続し,左下腹部痛および反跳痛が認められた。血液生化学検査では白血球数,CRP値が著明に上昇していた。腹部CT検査上,多数のS状結腸憩室と骨盤内に鏡面像を伴う直径12cmの低吸収領域が認められたため, S状結腸憩室穿孔による骨盤内膿瘍と診断して抗菌薬投与を開始した。緊急開腹手術を考慮したものの,呼吸機能が著明に低下していたため全身麻酔管理は危険性が高いと判断し,超音波ガイド下で経皮的穿刺膿瘍ドレナージを施行した。ドレナージ施行後3日目からは発熱が認められなくなったため,ドレナージ施行後5日目に局所麻酔下で人工肛門造設術を施行した。術後経過は良好で,術後41日目に局所麻酔下で人工肛門を閉鎖し,その後退院となった。
  • 木内 誠, 黒田 房邦, 土井 孝志, 小林 信之
    2009 年 29 巻 3 号 p. 509-512
    発行日: 2009/03/31
    公開日: 2009/05/12
    ジャーナル フリー
    症例は77歳男性。腰背部痛および腹痛を主訴に当院を受診した。理学所見では腰背部に叩打痛および右下腹部に圧痛を認め,さらに右股関節は屈曲位をとっており,いわゆる腸腰筋肢位を呈していた。腹部CTおよびMRIでは右腸腰筋および右腎を腹側に圧排するような約10cm大の膿瘍形成を認め,その辺縁部に腫大した虫垂突起と思われる管状構造物を認めた。以上より急性虫垂炎による後腹膜後腔膿瘍と診断し虫垂切除およびドレナージ術を施行した。標本所見では虫垂突起根部に壊疽性変化を認め,ここより膿瘍が進展したと考えられた。腸腰筋肢位は腸腰筋への炎症の波及時にみられる所見であり,腸腰筋肢位を呈するような急性虫垂炎症例では後腹膜後腔膿瘍の併発を積極的に疑うべきである。
  • 小田 晃弘, 衛藤 謙, 小菅 誠, 石山 哲, 林 武徳, 渡部 篤史, 小林 徹也, 小川 匡市, 柏木 秀幸, 矢永 勝彦
    2009 年 29 巻 3 号 p. 513-516
    発行日: 2009/03/31
    公開日: 2009/05/12
    ジャーナル フリー
    症例は29歳,女性。以前より原因不明の腹痛を自覚していたが放置していた。嘔吐・腹痛を主訴に当院救急外来を受診し,腹部所見と画像所見で腸閉塞と診断した。翌日の腹部造影CTで小腸腫瘍による腸重積が疑われ,同日腹腔鏡補助下に緊急手術を施行した。回盲弁から約1m口側に小腸の重積を認め,小開腹下に腸重積を解除し,小腸部分切除を施行した。病理組織診断ではPeutz-Jeghers型ポリープであった。家族歴や色素沈着等の症状は認めず,不全型Peutz-Jeghers症候群と診断した。
  • 工藤 秀徳, 古川 清憲, 横井 公良, 真々田 裕宏, 瀬谷 知子, 堀場 光二, 金沢 義一, 山田 岳史, 白川 毅, 田中 宣威, ...
    2009 年 29 巻 3 号 p. 517-520
    発行日: 2009/03/31
    公開日: 2009/05/12
    ジャーナル フリー
    閉鎖孔ヘルニアは全ヘルニア症例の0.07%と比較的まれな疾患である。最近われわれはCTにて術前診断し得た閉鎖孔ヘルニアの1例を経験したので報告する。症例は80歳,女性。入院前日に腹痛,嘔吐を主訴に近医を受診し,イレウスの診断で当院に紹介された。骨盤CTにて右閉鎖孔ヘルニア嵌頓によるイレウスと診断し緊急開腹手術を施行した。小腸は壊死には至っておらず,腸切除は施行せず,右閉鎖孔にメッシュをあて縫合閉鎖した。術後経過は良好で術後10病日退院した。当科で閉鎖孔ヘルニア7例を過去に経験しており今回の1例とともに報告する。近年高齢化が進むにつれて増加している本疾患では特に早期診断および早期治療の必要があると考えられた。
  • 木村 尚哉, 在原 文夫, 堀 道大, 中村 直和, 渡辺 繁, 澤田 傑, 白井 聡
    2009 年 29 巻 3 号 p. 521-524
    発行日: 2009/03/31
    公開日: 2009/05/12
    ジャーナル フリー
    症例は89歳,女性。意識消失発作があり脳外科専門病院へ搬送された。消化管穿孔を疑われ当院へ転送された。軽度の腹部膨満と上腹部の圧痛のみの腹部所見であったが,上腹部消化管に異常はなく,CT上直腸周囲に腸管外ガス像を認めた。ガストログラフィンによる下部消化管造影において直腸Raにapple-core signを認め,その約2cm口側に造影剤の腸管外への漏出がみられた。直腸癌に合併した閉塞性大腸炎の後腹膜穿孔を疑い,緊急開腹術を施行した。黒色に変色したS状結腸間膜および直腸間膜を切開すると膿汁が流出した。Hartmann手術を施行し,術後にエンドトキシン吸着療法を実施した。術後第7日に人工呼吸器を離脱したが,第14日,創開が生じ再手術を施行した。その際,直腸切除断端の縫合不全が確認されENDO GIATM UNIVERSAL Stapler Systemにより再縫合した。再手術後の経過は良好であった。
  • ─ビタミンK欠乏症を伴った胆嚢炎の1例─
    猪熊 孝実, 蒲原 行雄, 松尾 圭, 赤司 有史, 井上 啓爾, 小原 則博, 前田 潤平, 宮田 昭海
    2009 年 29 巻 3 号 p. 525-528
    発行日: 2009/03/31
    公開日: 2009/05/12
    ジャーナル フリー
    症例は82歳の男性で,心窩部痛のため近医を受診した。胆嚢炎の診断にて絶食,補液のもと,sulbactam sodium/cefoperazone sodium(SBT/CPZ)の投与を行っていた。症状,炎症反応は一時軽減したが,食事開始にて症状が再増悪するため,約1ヵ月絶食,SBT/CPZの投与が続いていた。保存的治療困難のため手術目的で当院へ転院となった。転院時,画像診断上は胆嚢炎の所見を認めた。血液検査所見ではPT,APTTが著明に延長し,PIVKAIIが高値を呈していた。肝腫瘍が認められないことからビタミンK欠乏による凝固異常と診断し,menatetrenoneの静脈内投与を行った。3日後の血液検査にて凝固能が正常範囲内に改善していることを確認し,開腹胆摘出術を施行した。ビタミンK欠乏症はまれな疾患であるが,長期絶食,抗菌薬長期投与時にはビタミンK欠乏症が起こりえることを念頭に置く必要がある。
  • 金子 真美, 清原 薫, 野崎 善成, 曽我 真伍, 大和 太郎, 田畑 敏, 家接 健一, 酒徳 光明, 中島 久幸
    2009 年 29 巻 3 号 p. 529-532
    発行日: 2009/03/31
    公開日: 2009/05/12
    ジャーナル フリー
    症例は36歳男性。自動車事故による多発外傷にて救急搬送された。腹部造影CTではIIIb型の肝損傷を認め,後区域から造影剤の漏出を認めた。保存的加療を行っていたが胆汁性腹膜炎を併発し,経皮的ドレナージやENBDを行ったが症状は改善しなかった。当初,後区域枝のみの胆道損傷と考えていたがMRCPにて左肝管の損傷も認め,開腹の上洗浄ドレナージを行った。鈍的外傷に伴う胆管損傷はまれであり診断および治療法の選択に難渋したが,診断には腹腔穿刺とMRCPが有用であった。また,ドレナージのみで内視鏡的処置や追加手術を行わずとも合併症なく退院可能だった。
  • 黒川 剛史, 門脇 嘉彦, 田村 竜二, 岡本 貴大, 高橋 卓也, 森 隆
    2009 年 29 巻 3 号 p. 533-536
    発行日: 2009/03/31
    公開日: 2009/05/12
    ジャーナル フリー
    症例は79歳,女性。既往歴として狭心症があり内服治療中であった。突然に発症した腹痛のため近医を受診し,腹部CT検査でpneumobiliaを伴う急性腹症と診断され,翌日当院紹介となった。前医にてpneumobiliaと診断されていたのは門脈内ガスであり当院受診時のCT検査では消失していた。しかし回腸終末から口側の腸管に壁肥厚が目立ち,一部に造影効果を認めなかったため,小腸壊死と診断して同日緊急開腹術を行った。腹腔内にはやや混濁した黄白色の腹水を認め,回腸末端の口側10cmから50cm付近まで壊死を起こしていた。同部を切除し小腸人工肛門を作成した。術後経過は良好で,第22病日に退院された。門脈ガス血症は腸管壊死やイレウスなどに合併する比較的まれな病態であり,腸管壊死に伴う例の予後は不良と報告されている。今回,われわれは門脈ガス血症を伴った非閉塞性腸管虚血症症例を救命しえたので文献的考察を加えて報告する。
  • 渡邉 学, 長尾 二郎, 田中 英則, 浅井 浩司, 大沢 晃弘, 松清 大, 草地 信也, 斉田 芳久, 炭山 嘉伸
    2009 年 29 巻 3 号 p. 537-541
    発行日: 2009/03/31
    公開日: 2009/05/12
    ジャーナル フリー
    症例:77歳男性。C型肝炎,肝硬変,多発性肝細胞癌の診断にてTACE(transcatheter arterial chemoembolization)を施行されている。TACE施行7ヵ月後上腹痛を訴え緊急入院。ショック状態・著明な貧血を認め,腹部CT検査・腹水穿刺より肝細胞癌による肝破裂の診断にて緊急血管造影施行,外側区域腫瘍の腫瘍濃染,血管外漏出像を認め選択的にTAE(transcatheter arterial embolization)施行し止血した。その後経過良好にて退院となったが,TAE施行3ヵ月後再度急激な腹痛出現。前回同様ショック状態・貧血を認め,再度肝細胞癌の破裂による腹腔内出血を疑った。緊急血管造影にて肝S6腫瘍の腫瘍濃染認め,そこからの出血と考え選択的にTAE施行し止血した。2度の出血はそれぞれ異なる部位の肝腫瘍からの破裂であったが,迅速な対処による緊急腹部血管造影検査による診断およびTAEによる止血術は非常に有効であり,救命することができた。
  • 齋藤 智明, 渡邉 学, 浅井 浩司, 田中 英則, 大沢 晃弘, 松清 大, 長尾 二郎, 前谷 容
    2009 年 29 巻 3 号 p. 543-547
    発行日: 2009/03/31
    公開日: 2009/05/12
    ジャーナル フリー
    34歳,男性。腹満感と嘔気・嘔吐にて近医を受診した。胃潰瘍の診断にて,保存的に経過観察されていた。症状発症後10日目に再度前医を受診した際,心窩部より臍上縁の左側に,圧痛を伴わない腹部膨満を認めた。前医にて緊急血液検査や緊急腹部造影CT検査を施行したところ,腹腔内出血と診断され,当院へ精査加療目的にて搬送となった。当院にて緊急腹部血管撮影検査を施行したところ,正中弓状靱帯圧迫症候群が認められた。また,中結腸動脈左枝と左結腸動脈合流部近傍より,膵下縁を経由して腹腔動脈へ流入する異常血管を認めた。同部位の血管に不整や数珠状拡張,動脈瘤を認め,出血源と考えられ,マイクロコイルにて塞栓術を施行した。本症例はSegmental arterial mediolysisによる腹腔内出血と考えられ,若干の文献的考察を含め報告する。
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