日本腹部救急医学会雑誌
Online ISSN : 1882-4781
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ISSN-L : 1340-2242
35 巻, 1 号
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原著
  • 添田 暢俊, 斎藤 拓朗, 竹重 俊幸, 浅野 宏, 武藤 亮, 高間 朗, 渡部 晶之, 遠藤 俊吾, 五十畑 則之, 三潴 忠通, 鈴木 ...
    2015 年 35 巻 1 号 p. 011-018
    発行日: 2015/01/31
    公開日: 2015/05/13
    ジャーナル フリー
    要旨:消化器外科手術後では術後せん妄の併発により重篤な合併症を併発することがある。抑肝散はせん妄に対する効果が報告されているが,経口摂取が困難な時期には使用しにくい。そこで抑肝散の座薬を作成し安全性と効果を検討した。【方法】座薬は漢方薬エキス製剤にホスコH─15を加えて作成し1日4回使用した。消化器外科手術を行った227例を対象とし,せん妄の程度は8時間毎にNEECHAM Confusion Scale(以下,Nスケール)により評価し。治療は抑肝散を第一選択とし8時間後にNスケール20pt以上へ上昇した場合を有効と判定した。【成績】227例中,Nスケール19点以下のせん妄は26例(11.5%)に認めた。この26例中23例に対して抑肝散座薬を使用し,有害事象を認めず,17例(73.9%)で有効であった。【結論】消化器外科手術後のせん妄において,抑肝散座薬は安全に使用可能で73.9%で効果を認めた。
  • 菅生 貴仁, 山田 晃正, 中川 朋, 金 致完, 平岡 和也, 小西 健, 遠藤 俊治, 奥山 正樹, 西嶌 準一
    2015 年 35 巻 1 号 p. 019-025
    発行日: 2015/01/31
    公開日: 2015/05/13
    ジャーナル フリー
    目的:大腸穿孔性腹膜炎の術後合併症予測因子を抽出し有用性を検討した。方法:大腸穿孔性腹膜炎に開腹術を施行した54例を対象とし術後合併症を軽症群と重症群に分類し,合併症予測因子を抽出した。結果:単変量解析では遊離穿孔症例,腹腔内糞便性汚染症例で有意に重症合併症を認めていた。開腹時腹腔内所見をType Ⅰ:被覆非糞便性,Type Ⅱ:被覆糞便性,Type Ⅲ:遊離糞便性に分類し,多変量解析を行うと開腹時腹腔内所見分類が独立した合併症予測因子として抽出された。Type Ⅲは術後周術期において敗血症全身状態評価スコアが有意に高値であり,ICU入室期間が長期化していた。重症合併症率はType Ⅰ/Ⅱ/Ⅲ=19%/20%/59%で,在院死亡は全てType Ⅲであった。結論:開腹時腹腔内所見分類は大腸穿孔の重症度の指標となり,術後重症合併症予測因子として有用であった。
特集:食道破裂,穿孔の診断と治療における戦略と工夫
  • 本城 裕章, 宗田 真, 宮崎 達也, 桑野 博行
    2015 年 35 巻 1 号 p. 029-034
    発行日: 2015/01/31
    公開日: 2015/05/13
    ジャーナル フリー
    特発性食道破裂および食道穿孔は初期診断が難しく,発症早期に適切な治療が為されなければ重篤化しうる比較的まれな疾患である。初期症状は胸腹部痛であることが多いため,正確な診断のためには詳細な問診と常に食道穿孔の可能性を疑って検査を進める姿勢が欠かせない。治療は外科手術が中心であるが,保存的治療の有効性も認められており,患者の全身状態と病態を正確に把握したうえで選択されるべきである。いずれの場合でも,発症から治療開始までの時間が予後を大きく左右する。手術においては穿孔部の確実な閉鎖と有効なドレナージ方法の選択が焦点となる。当科では典型的な症例の場合,穿孔部の単純縫合閉鎖に加えfundic patchによる被覆補強,経腹腔的T-tubeドレナージを行う方針としている。これまでに10例の食道穿孔を経験し,3例に保存的治療,7例に手術治療が施されいずれも良好な成績を得ている。
  • 村尾 佳則, 丸山 克之, 木村 貴明, 横山 恵一, 太田 育夫, 中尾 隆美, 濱口 満英, 石部 琢也, 中谷 壽男
    2015 年 35 巻 1 号 p. 035-041
    発行日: 2015/01/31
    公開日: 2015/05/13
    ジャーナル フリー
    食道破裂,穿孔の10症例の診断と治療について検討を加えた。症例は男性9例,女性1例で,平均年齢は64歳であった。特発性食道破裂は7症例で,異物による穿孔が2例,食道癌術後再建胃管穿孔の1例があった。特発性食道破裂の穿孔部位は全例とも下部食道で,再穿孔の1例をのぞき,経腹的アプローチを行い,後縦隔に食道裂孔からドレーンを挿入し,胸腔穿破している場合には,開胸ドレナージまたは胸腔ドレナージを加えた。入れ歯による頸部食道の穿孔は頸部よりドレナージを行い,PTPによる下部食道穿孔の膿瘍形成例では経腹的アプローチによりドレナージを行った。下部食道の特発性食道破裂や,下部食道に穿孔し周囲に膿瘍形成した症例に対する経腹的アプローチは,後縦隔にドレーンを適切な位置に挿入できること,大網を使用できること,手術侵襲が少ないこと,また腸瘻を追加できることなどが利点としてあげられ,有用であると考えられる。
  • 奥村 浩, 内門 泰斗, 喜多 芳昭, 尾本 至, 惠 浩一, 林 直樹, 大脇 哲洋, 石神 純也, 夏越 祥次
    2015 年 35 巻 1 号 p. 043-045
    発行日: 2015/01/31
    公開日: 2015/05/13
    ジャーナル フリー
    目的:食道破裂・穿孔の適切な治療方針を検討すること。対象と方法:2004年7月から2013年6月に当科で診療した食道破裂・穿孔症例の特徴を検討した。結果:食道破裂・穿孔症例は10例であった。来院時ショック状態の3症例は下部食道の破裂で胸水貯留,白血球低下を伴い,2例にドレナージとステント挿入,1例にドレナージ後二期的経裂孔手術が施行された。非ショックの7症例では,胸水貯留が1例,白血球低下症例は認められず,4例に手術,3例に保存的加療がなされた。ショック群の在院日数が有意に長期であったが,在院死亡例はみられなかった。結論:来院時ショック状態の食道破裂症例に対しては,ドレナージを主体とし,ステント挿入も考慮した保存的治療を行い,手術は二期的に計画することが勧められる。
  • 小島 光暁, 加地 正人, 村田 希吉, 相星 淳一, 大友 康裕
    2015 年 35 巻 1 号 p. 047-053
    発行日: 2015/01/31
    公開日: 2015/05/13
    ジャーナル フリー
    特発性食道破裂は,発症24時間以上経過した後に治療を開始した遅延症例で予後が悪いとされており,適切な治療選択が重要である。【方法】当院に入院した特発性食道破裂症例を対象とし,臨床背景,治療方法,転帰等を後ろ向きに検討した。また,術式の工夫により良好な転帰を得た症例を提示する。【結果】対象症例は14例で,胸部下部食道左側壁の破裂が13例であった。発症から治療開始まで中央値は9.5時間で,24時間以上要した遅延症例は3例であった。全例胸腔内穿破型であり,緊急手術を施行した。在院日数の中央値は17.5日,2例で縫合不全を認めたが,全例生存退院した。【考察】遅延手術のうち,胃底部漿膜パッチ術を施行した症例は縫合不全なく転帰良好であった。また,縫合不全が遷延した症例の再手術においても同様に経過良好であった。【結語】胃底部漿膜パッチ術は,治療開始遅延症例に対する術式の選択肢となり得ると考えた。
  • 定永 倫明, 宮崎 雄幸, 山村 謙介, 松浦 弘
    2015 年 35 巻 1 号 p. 055-060
    発行日: 2015/01/31
    公開日: 2015/05/13
    ジャーナル フリー
    当院で外科的治療を施行した食道穿孔症例11例について検討した。食道穿孔の成因は良性8例(医原性5例,特発性2例,外傷性1例),悪性3例であった。治療について,良性例では,単純閉鎖5例,単純閉鎖と大網被覆1例,食道部分切除1例,胸腔鏡下ドレナージ1例であった。悪性例では,開胸ドレナージ後に食道ステント挿入1例,胸腔ドレナージ後に食道切除再建術施行1例,保存的治療後に食道バイパス術施行1例であった。術後合併症は,縫合不全2例,膿胸1例,創感染1例で,死亡例は認めなかった。食道穿孔は成因,病態が多彩であり,それぞれに応じた適切な治療方針の選択が重要である。
  • 松谷 毅, 野村 務, 萩原 信敏, 牧野 浩司, 丸山 弘, 宮下 正夫, 内田 英二
    2015 年 35 巻 1 号 p. 061-065
    発行日: 2015/01/31
    公開日: 2015/05/13
    ジャーナル フリー
    (目的)当科における食道破裂・穿孔症例の診断,治療と転帰を検討する。(対象)2003~2013年までの食道破裂・穿孔15例(特発性4例,医原性11例)を対象とした。(結果)特発性の縦隔内限局型2例は保存的治療を,胸腔内穿破型2例は手術療法を行った。食道アカラシアおよび食道狭窄のバルーン拡張術,内視鏡的逆行性胆管膵管造影用の内視鏡ファイバー,咽頭部通過用のガイドチューブ,食道癌に対する粘膜剥離術など内視鏡関連の医原性穿孔は9例で,全例保存的治療で軽快した。一方,胸部大動脈瘤ステント留置に伴う食道穿孔2例は,胸腔内穿破型で手術療法を行ったが,1例は縦隔炎から敗血症で死亡した。(結語)特発性,医原性を問わず縦隔内限局型は,適確なドレナージを行えば治癒率は良好であったが,胸腔内穿破型は,診断治療法が進歩した今日では,特発性・医原性に沿った治療方針の再検討が必要であると考えられた。
  • 疋田 茂樹, 坂本 照夫, 高須 修, 下条 芳秀, 鍋田 雅和, 吉山 直秀, 森 眞二郎, 吉富 宗宏, 赤木 由人, 的野 悟, 森 ...
    2015 年 35 巻 1 号 p. 067-072
    発行日: 2015/01/31
    公開日: 2015/05/13
    ジャーナル フリー
    過去13年間に経験した医原性食道破裂3例,特発性食道破裂11例を後方視的に検討した。全例が生存した。医原性食道破裂の3例は,破裂直後に診断・保存的治療され,2例は保存的治療のみで治癒し,1例は胸腔・縦隔ドレナージを要した。特発性食道破裂は11例全例が敗血症のため手術を施行された。2例に縫合不全のない破裂側の膿胸を合併し,不十分な洗浄,ドレナージがその原因と考えられた。3例に破裂部対側の膿胸を生じ,胸水ドレナージの遅れが,その原因と考えられた。8例の修復術例で縫合不全を3例に生じ,その危険因子は発症~治療までの遅れと被覆をしてないことであった。術前に呼吸不全に陥っていた2例は,Tチューブドレナージを施行され在院期間は延びたが治癒しえた。食道破裂の治療の本質は,汚染した腔内の洗浄・ドレナージと発症から治療までの時間経過とともに脆弱化する破裂部の適切な外科的処置である。
  • 片岡 祐一, 花島 資, 島田 謙, 浅利 靖
    2015 年 35 巻 1 号 p. 073-077
    発行日: 2015/01/31
    公開日: 2015/05/13
    ジャーナル フリー
    過去30年間で診療した特発性食道破裂29例中,緊張性膿気胸を呈した6例中2例が来院時CPAで死亡した。過去13年間で治療ができた19例は,開胸アプローチ7例(開胸群),開腹アプローチ7例,保存治療5例(合わせて非開胸群)。CTガイド下ドレナージ9例,胸腔鏡下ドレナージ1例に施行。開胸群(n=7)と非開胸群(n=12)の間で,入院後PO2/FiO2は214±83 vs. 278±143(p=0.23),ショックは86% vs. 58%(p=0.24),肺炎は14% vs. 33%(p=0.37),人工呼吸期間は3±3日 vs. 14±20日(p=0.08),ICU滞在期間は13±7日 vs. 26±19日(p=0.09),死亡は1/7 vs. 0/12。開腹アプローチは開胸アプローチに比べ手術時間と出血量が少なかった。急性期は呼吸・循環動態が悪化しやすく,患者の状態に合わせた治療の選択が必要である。
  • 尾島 敏康, 中森 幹人, 中村 公紀, 勝田 将裕, 早田 啓治, 山上 裕機
    2015 年 35 巻 1 号 p. 079-084
    発行日: 2015/01/31
    公開日: 2015/05/13
    ジャーナル フリー
    食道破裂に対する治療法に関するコンセンサスは得られていない。手術不能症例は保存的加療が行われるが,治療過程で食道難治性瘻孔となることが多い。難治性瘻孔の治療として生体接着剤を用いた瘻孔充填術の報告が散見される。私達は食道破裂後瘻孔に対するalpha-cyanoacrylate monomer(A-CA)を用いた内視鏡下瘻孔閉鎖術を行い良好な結果を得ている。具体的には透視下内視鏡的に瘻孔内にリピオドール1.7mLとA-CA 0.3mLを混合した塞栓剤を注入する手技である。これまで交通外傷後の食道穿孔1例,食道癌術後の食道瘻孔2例,食道切除後の再建結腸胸腔内穿破1例に本内視鏡治療を行い,全例治癒している。本内視鏡治療は低侵襲の面で推奨される治療法である。しかし,このような内視鏡治療の適応規準や内視鏡治療の限界は明らかにされておらず,今後さらに症例を積み重ねて検証していく必要がある。
症例報告
  • 山崎 祐樹, 新保 敏史, 佐久間 寛
    2015 年 35 巻 1 号 p. 085-088
    発行日: 2015/01/31
    公開日: 2015/05/13
    ジャーナル フリー
    症例は80歳,男性。マントル細胞リンパ腫(mantle cell lymphoma;以下,MCL)の診断でR-CHOP療法により,寛解となり経過観察中であった。3年後に腹痛と嘔吐を主訴に救急搬送され,回盲部腸重積の診断を得て緊急手術を行った。回腸回腸結腸型の重積をきたしており,その他の小腸にも散在性に腫瘍性病変を触知した。MCLの再発によりmultiple lymphomatous polyposis(以下,MLP)を呈し腸重積をきたしたと考えられた。上行結腸への重積は用手的に解除可能であったが回腸回腸重積は解除できず,回盲部切除を施行した。病理検査の結果,MCLの再発と診断した。MCLはリンパ節原発例が多いが,節外臓器浸潤も高頻度で,消化管に浸潤する場合MLPを呈することが多い。MCLの既往のある腸重積症例においては,MLPを含む消化管再発を念頭に置き,治療法の選択を行う必要があると考えられた。
  • 石井 要, 金本 斐子, 八木 雅夫, 浅井 純
    2015 年 35 巻 1 号 p. 089-092
    発行日: 2015/01/31
    公開日: 2015/05/13
    ジャーナル フリー
    腹腔鏡下胆囊摘出術後8日目に遅発性に胆汁瘻を発症した1例を経験したので報告する。症例は39歳,男性。胆囊結石症に対して腹腔鏡下胆囊摘出術を施行した。術後経過は良好であり,術後2日目にドレーンを抜去し,4日目に退院した。術後8日未明から腹痛を自覚し,CT検査で胆囊床に少量の液体成分を認め,胆汁瘻を疑い経過観察のため入院した。翌日,高熱と痛みの増強があり,CT検査で液体の増加を認めたことから,腹腔穿刺を行った。胆汁が吸引されたことから,胆汁瘻と診断した。同日に緊急内視鏡的逆行性胆管造影検査を施行した。胆囊管断端から腹腔内へ造影剤の漏出を認めた。内視鏡的経鼻胆管ドレナージチューブを留置した。チューブ挿入から9日目には,造影検査で漏れはなく,11日目にチューブを抜去し退院した。胆汁瘻は,超音波凝固切開装置による熱損傷が原因と思われ,慎重な手術操作が必要であると考えられた。
  • 岸本 拓磨, 林 英司, 岡田 禎人, 前田 隆雄
    2015 年 35 巻 1 号 p. 093-095
    発行日: 2015/01/31
    公開日: 2015/05/13
    ジャーナル フリー
    症例は85歳,男性。既往歴で2004年に左鼠径ヘルニアに対してMesh Plug法を施行されていたが,腹部開腹歴はなかった。2013年2月に腹痛を認め,近医を受診し腸閉塞の診断で当院紹介となった。腹部造影CTを施行したところ,絞扼性イレウスを疑う所見を認めたために緊急手術を行った。開腹所見でMesh Plug法によるPlugがS状結腸の結腸垂に強固に癒着し,それが原因でヘルニア門を形成していたために絞扼性イレウスを生じていた。約20cmの小腸を切除し手術終了とした。術後創感染を生じたため第29病日に退院となった。今日,鼠径ヘルニアに対してprosthesisを用いたtension-free法が主に行われている。今回われわれは鼠径ヘルニアの術後合併症としてはまれな絞扼性イレウスを経験した。人工物を用いた鼠径ヘルニア手術は腸閉塞の原因となり得ることを文献的考察を加えて報告する。
  • 町田 智彦
    2015 年 35 巻 1 号 p. 097-102
    発行日: 2015/01/31
    公開日: 2015/05/13
    ジャーナル フリー
    まれな胆汁漏出性腹膜炎の1例を報告する。症例は79歳,女性。穿孔性虫垂炎で回盲部切除術後にCV感染による菌血症をきたしたが,CV抜去後は軽快し,退院。CV先端の細菌培養でMRSAが検出された。退院後5日目より腰痛,微熱,腹痛を認め,当科外来を受診。腹部CTで腹壁膿瘍を伴う急性胆囊炎と診断し,翌日に手術を施行した。腹腔内は多量の胆汁性腹水を認め,胆囊は壊死し,壁は菲薄化していたが明らかな穿孔はみられなかった。手術は胆囊摘出術と腹腔ドレナージ術を施行した。腹水の細菌培養でMRSAが検出された。術後MRSA肺炎が発症したがVCMの点滴により軽快した。その後腰痛が持続し,精査にて化膿性椎体炎,椎間板炎と診断されたが,局所安静,VCM,LZDの点滴により軽快し得た。今回,MRSA敗血症の関与が考えられた壊死性無石胆囊炎による漏出性胆汁性腹膜炎の1例を経験したので報告する。
  • 牛田 雄太, 平松 聖史, 関 崇, 田中 寛, 田中 綾, 長谷部 圭史, 鈴木 優美, 尾崎 友理, 新井 利幸
    2015 年 35 巻 1 号 p. 103-106
    発行日: 2015/01/31
    公開日: 2015/05/13
    ジャーナル フリー
    今回,われわれは,メッケル憩室への魚骨の迷入,穿通による急性腹膜炎の症例を経験した。症例は,34歳,男性。腹痛を主訴に当院の救急外来へ徒歩で受診した。腹膜刺激症状を認めたため,精査を行ったところ,腹部CT検査で,骨盤内に膿瘍の形成を認めた。また,近傍の小腸内に,石灰化した異物を認めた。以上より,異物による消化管穿孔,急性腹膜炎と診断し,緊急手術を施行した。開腹すると,回腸に憩室を認め,同部位から魚骨が穿通し,腹腔内膿瘍が形成され腹膜炎をきたしていた。憩室を含め,小腸部分切除術を施行した。病理組織学的に,真性憩室であり,魚骨によるメッケル憩室穿通性腹膜炎と診断した。
  • 今井 健晴, 須原 貴志, 古田 智彦
    2015 年 35 巻 1 号 p. 107-113
    発行日: 2015/01/31
    公開日: 2015/05/13
    ジャーナル フリー
    症例は81歳の男性で,腹部痛が出現したため当院を受診した。初診時に腹部は膨隆し,腹部CTでは結腸の便による著明な拡張と,下行結腸の狭窄部を認めた。下部消化管内視鏡検査で下行結腸に全周性の腫瘍を認め,大腸癌イレウスと診断した。経肛門イレウス管の挿入が困難であったが,操作中に狭窄部から多量の食物残渣が排出された。絶食で腹部症状の改善を待ち,入院から22日目に下行結腸切除術を施行した。術後10日目に十二指腸の通過障害を発症し,中心静脈栄養による保存的治療を行い,術後24日目に経口摂取を再開した。術後32日目に発熱し,血液培養からMRSAと大腸菌が検出された。敗血症性ショックに陥り,抗菌薬治療で軽快した。リハビリテーション中の術後62日目に背部痛が出現し,CT・MRIで第8~9胸椎の骨溶解がみられた。経皮的骨生検の結果,MRSA脊椎炎と診断した。術後160日現在,保存的治療を継続中である。
  • 野坂 涼子, 山野 修平, 猪熊 孝実, 泉野 浩生, 井上 悠介, 三島 壯太, 虎島 泰洋, 藤田 文彦, 金高 賢悟, 高槻 光寿, ...
    2015 年 35 巻 1 号 p. 115-118
    発行日: 2015/01/31
    公開日: 2015/05/13
    ジャーナル フリー
    胆囊は解剖学的に外力による損傷を受けにくく,鈍的外傷による胆囊破裂は比較的まれである。今回われわれは鈍的多発外傷に合併した胆石を伴う胆囊破裂の1例を経験したので文献的考察を加え報告する。症例は64歳,女性。駐車場内で徐行中の乗用車と接触転倒し,足側から腹部へ乗り上げられ,ショック状態で当院へ搬送された。来院時ショック状態でFASTではMorrison窩・脾周囲にecho free spaceを認めた。腹部造影CT検査で肝左葉の損傷と多量の血性腹水を認め,胆囊壁は不整で胆囊内外に胆石を複数個認めた。CT検査後,FASTでecho free spaceの増大を認め,CTで肝損傷と門脈損傷の疑いもあったため緊急開腹手術を施行した。肝S2・S3にⅢb型損傷と肝S4Ⅰb型損傷,胆囊破裂があり,腹腔内への胆石の撒布を認めた。肝外側区域切除・胆囊摘出術を施行した。入院経過中に腹部の術後合併症はなく転院となった。
  • 須藤 翔, 小林 隆, 廣瀬 雄己, 堅田 朋大, 滝沢 一泰, 若井 俊文
    2015 年 35 巻 1 号 p. 119-124
    発行日: 2015/01/31
    公開日: 2015/05/13
    ジャーナル フリー
    症例は66歳,女性。検診で上部消化管造影検査を施行された2日後に腹痛を自覚した。翌日腹痛が増悪したため救急要請し,搬送先病院で心肺停止状態となった。蘇生処置により心拍再開し,腹部CT検査で腹腔内遊離ガスと腸管外へのバリウム漏出を指摘された。消化管穿孔によるバリウム腹膜炎と診断され,同院では緊急手術の施行が困難な状況であったため,当院へ転院搬送し緊急手術を行った。S状結腸に穿孔部を認め,S状結腸部分切除,人工肛門造設,洗浄ドレナージを施行した。手術直後は循環動態が不安定であったが,PMX-DHPを含む集学的治療により敗血症性ショックから離脱し,神経学的後遺症無く術後36病日目に退院した。上部消化管造影検査後に生じる大腸穿孔によるバリウム腹膜炎はまれだが重篤な合併症である。本症例は一時心肺停止状態となったが,迅速な手術と集学的治療により救命し得たので,若干の文献的考察を加え報告する。
  • 水野 克彦, 高橋 滋, 安井 寛
    2015 年 35 巻 1 号 p. 125-129
    発行日: 2015/01/31
    公開日: 2015/05/13
    ジャーナル フリー
    症例は71歳女性,悪寒・嘔吐・発熱を認め,当院救急外来を受診した。腹部造影CTで脾彎曲部の結腸の壁肥厚を認めた。脾臓に結腸から連続する不明瞭な腫瘤像を認め,結腸癌による脾臓浸潤・脾膿瘍を疑い入院となった。入院後,抗菌薬・輸液で感染制御,精査後に手術方針となったが,入院48時間後に血圧低下を認めた。腹部単純CTで脾膿瘍の穿通,腹腔内穿破,汎発性腹膜炎を疑い緊急手術を施行した。開腹時,膿性腹水を認め,脾膿瘍の腹腔内穿破,汎発性腹膜炎と診断した。腹腔内洗浄ドレナージ・脾臓摘出・横行結腸左側からS状結腸切除・横行結腸人工肛門造設術を施行した。術後,明らかな合併症を認めず,術後28日目に退院となった。結腸癌の直接浸潤に伴う脾膿瘍はまれな疾患であるが,脾膿瘍が短期間に増大し,脾膿瘍の腹腔内穿破より汎発性腹膜炎を併発することを認識し,診断後,早期に外科的処置が必要であると考える。
  • 堀井 伸利, 上向 伸幸, 和田 朋子, 小澤 真由美, 齋藤 健人, 平野 進, 長堀 優
    2015 年 35 巻 1 号 p. 131-134
    発行日: 2015/01/31
    公開日: 2015/05/13
    ジャーナル フリー
    症例は96歳,女性。腹痛と嘔吐を主訴に前医を受診し,急性腹症を疑われ当院に搬送となった。既往として腸閉塞の手術歴を認めた。腹部所見では下腹部全体の膨隆と圧痛を認め,左下腹部に3cm大の弾性軟の腫瘤を触知した。血液検査所見では炎症反応の軽度上昇を認めた。腹部CT所見で小腸の捻転像とDouglas窩の腹水貯留を認め,絞扼性イレウスと診断し緊急手術を施行した。腹腔内は癒着が高度で腹腔内全体の観察は困難であったが,S状結腸間膜に2cm大の異常裂孔が存在し,この裂孔に小腸が約30cmに渡り嵌入,絞扼されていたため,S状結腸間膜裂孔ヘルニアと診断した。壊死腸管を切除し,裂孔を閉鎖した。術後は誤嚥性肺炎を発症し術後46日目に永眠された。S状結腸間膜に関する内ヘルニアはまれで,術前診断は困難とされている。今回われわれは超高齢者に発症したS状結腸間膜裂孔ヘルニアを経験したため報告する。
  • 佐川 弘之, 松尾 洋一, 溝口 公士, 坪井 謙, 森本 守, 宮井 博隆, 石黒 秀行, 木村 昌弘, 竹山 廣光
    2015 年 35 巻 1 号 p. 135-140
    発行日: 2015/01/31
    公開日: 2015/05/13
    ジャーナル フリー
    症例は69歳,女性。交通事故による腹部鈍的外傷を受傷し,救急搬送された。来院時と受傷3時間後に施行した腹部CT検査で肝損傷(Ⅰb型)を認めた。受傷7日目になり後腹膜腔液体貯留を認め,DIC-CT検査と後腹膜腔穿刺ドレナージ所見により胆管損傷と診断した。さらに受傷20日目に十二指腸穿孔を発症し,緊急開腹術を施行した。胆管損傷は膵上縁部胆管に認めた。十二指腸損傷は下降脚から水平脚にかけて認め,Vater乳頭部にも及んでいたため(Ⅱa(D2~D3)RP,VP),膵頭十二指腸切除術を施行した。外傷性十二指腸損傷と外傷性胆管損傷は,腹部鈍的外傷のなかでも比較的頻度が低いとされているが,なかでも受傷7日目以降の穿孔例は極めてまれである。腹部鈍的外傷は,遅発性に臓器損傷を発症する可能性を十分に念頭においたうえで慎重に経過を追い,状況に応じて適切な対応をとる必要があると考えられた。
  • 山本 昌明, 小川 雅生, 奥村 哲, 豊田 翔, 水村 直人, 今川 敦夫, 出村 公一, 川崎 誠康, 亀山 雅男
    2015 年 35 巻 1 号 p. 141-145
    発行日: 2015/01/31
    公開日: 2015/05/13
    ジャーナル フリー
    症例は86歳の女性で糖尿病に対してα-グルコシダーゼ阻害剤(以下,α-GI)の投与を受けていた。意識障害を主訴に前医へ搬送され,腹部CTで消化管穿孔を疑われ当院に救急搬送となった。JCS-200,腹部は膨満で軟,腹膜刺激症状は意識障害により不明であった。血液・尿検査などから,高浸透圧性非ケトン性昏睡の状態であり,腹部CTで腹腔内遊離ガスを認めたことから消化管穿孔の疑いで試験開腹術を施行した。開腹したところ明らかな穿孔所見を認めず,小腸間膜の漿膜に気腫性変化を認めたため,気腹症を伴う腸管囊胞状気腫症と診断した。成因としてα-GIが関与した疑いがあったため,同薬剤の内服を中止し,高浸透圧性非ケトン性昏睡に対する治療を行い,術後第31病日に退院となった。本邦における気腹症を伴う腸管囊胞状気腫症にα-GIが関与した報告は本症例を含め15例と比較的まれであり,意識障害を主訴とした報告は認めない。
  • ─小腸大量切除を回避できた非閉塞性腸間膜虚血症の1例から─
    牛窓 かおり, 鹿股 宏之, 鈴村 博史
    2015 年 35 巻 1 号 p. 147-151
    発行日: 2015/01/31
    公開日: 2015/05/13
    ジャーナル フリー
    症例は71歳,女性。主訴は腹痛。腹部所見とCT画像から急性汎発性腹膜炎,消化管穿孔と診断し緊急手術を行った。腹腔内は便で汚染され,直腸S状部に1cm大の憩室穿孔を認めた。また,小腸から盲腸にかけて,広範囲に虚血を認め非閉塞性腸間膜虚血と診断した。穿孔部にはHartmann手術を行った。腸管の虚血は,切除となるとほぼ全小腸となるため,温存を目指し,滅菌した市販のポリエチレン袋の口を創部に被せ,周囲の皮膚に全周縫着して手術を終了した。術後は人工呼吸器管理とし,ポリエチレン袋の底を解放し,ベットサイドで連日用手的に全小腸を観察した。第4病日,温存可能と判断し閉腹,第41病日に退院した。ポリエチレン袋を縫着するのみのopen abdominal managementは,手術操作が極めて簡便で,外から透見できるだけでなく,いつでも繰り返し容易に全腸管の用手的観察が可能であり,極めて有用であった。
  • 和田 英雄, 富永 哲郎, 黨 和夫, 柴﨑 信一, 内藤 慎二, 岡 忠之
    2015 年 35 巻 1 号 p. 153-156
    発行日: 2015/01/31
    公開日: 2015/05/13
    ジャーナル フリー
    症例は77歳の男性で,イレウス症状で他院に入院中に小腸腫瘍に起因する腸重積が疑われ,当院に紹介となった。初診時,腹部CT検査で空腸に造影効果のある腫瘍がみられ,同部を先進部とする腸重積を呈していた。消化管造影検査で空腸に5cmの境界明瞭な球状の陰影欠損を認め,小腸内視鏡検査では頂部にDelleを伴う粘膜下腫瘍を認めた。入院中にイレウス症状の改善と再燃を繰り返したため手術を行った。小腸は腫瘍部で重積しており,用手整復後,小腸部分切除術を行った。切除標本は3.5×2.5cmの有茎性病変で,病理組織学検査では粘膜下に筋線維芽細胞を主体とする炎症細胞の浸潤を認めた。免疫組織染色では,Vimentinが陽性で,SMA,CD34,desmin,S-100 Proteinは陰性であり,診断はInflammatory myofibroblastic tumorであった。
  • 山下 達也, 鈴東 昌也, 恵 浩一, 小倉 修
    2015 年 35 巻 1 号 p. 157-160
    発行日: 2015/01/31
    公開日: 2015/05/13
    ジャーナル フリー
    症例は87歳,女性。発熱,嘔吐を主訴に来院。血液検査で炎症反応の亢進を認めた。腹部CT検査で子宮内部背側にlow density areaを認め,腟内に子宮脱用リングペッサリー:Ring─Shaped Pessary(以下,RSP)を認めた。RSP留置が腟炎を惹起し,その後子宮留膿腫が発症したと推測した。子宮留膿腫の原因であるRSP 摘出を試みたが,疼痛のため腟外への単純な引き抜きによる摘出は困難で,静脈麻酔下に糸鋸と肋骨剪刃を使用してRSPを切離し,腟外へ摘出したので報告する。
  • 三浦 弘志, 堂脇 昌一, 菊永 裕行, 熊井 浩一郎
    2015 年 35 巻 1 号 p. 161-165
    発行日: 2015/01/31
    公開日: 2015/05/13
    ジャーナル フリー
    症例:82歳,女性。腹痛持続で当院緊急搬送され,ショック状態・貧血を認め,腹部CTで肝外側区域の肝細胞癌破裂と血性腹水貯留の診断でTranscatheter Arterial Embolization(以下,TAE)施行し止血を行った。高齢と本人が二期的治療を望まない理由で保存的観察となった。その後肝細胞癌は縮小傾向で腫瘍マーカーも低下し,当院での経過観察上4年4ヵ月再発なく5年7ヵ月生存している。肝細胞癌破裂においてはTAEでの初回止血と二期的手術との併用により生存率向上が得られるという報告が多いが,今回TAEのみで止血に成功し二期的治療を行わず腫瘍退縮が得られている1例を経験した。
  • 丹羽 真佐夫, 関野 考史, 村瀬 勝俊, 木村 真樹, 関野 誠史郎, 竹村 博文
    2015 年 35 巻 1 号 p. 167-169
    発行日: 2015/01/31
    公開日: 2015/05/13
    ジャーナル フリー
    症例は8歳女児,1週間ほど前から自覚した腹痛が保存的に改善せず悪化したため当院紹介受診した。腹部CTで大網の脂肪織濃度上昇あり,大網梗塞の診断で緊急手術を施行した。腹腔鏡下で手術を開始したが,大網が腹壁に広範に癒着していたため,臍部の12mmポートを下部に延長し約2cmの小開腹創を置き用指的な剥離を要した。明らかな捻転の所見はなかったが限局した大網の肥厚を認め,可及的に切除した。病理組織学的検査で,大網に炎症細胞浸潤,繊維芽細胞増生,出血を伴う梗塞と診断した。術後経過は良好で,4PODに退院となった。自験例に文献的考察を加え報告する。
  • 村川 正明, 松本 松圭, 清水 正幸, 伊藤 康博, 船曵 知弘, 江川 智久, 山崎 元靖, 林 忍, 長島 敦, 北野 光秀
    2015 年 35 巻 1 号 p. 171-175
    発行日: 2015/01/31
    公開日: 2015/05/13
    ジャーナル フリー
    ヘルニア内容が虫垂であるAmyand’s herniaは比較的まれな疾患である。今回,術前CTで大腿ヘルニア虫垂嵌頓と診断し,虫垂切除術およびDirect Kugel patch法によるヘルニア修復術を同時に行った症例を経験した。症例は75歳女性で,腹痛を主訴に来院した。CT検査で大腿ヘルニアに起因した腹痛でその内容が虫垂であることを診断し,緊急手術の方針とした。手術は虫垂切除術およびDirect Kugel patch法によるヘルニア根治術を行った。術後経過は良好で術後3病日に退院となった。近年CT検査の発達によりヘルニア嵌頓内容を正確に診断することが可能である。ヘルニア囊内に膿瘍を認める場合はSurgical site infectionのリスクを考え,人工物の使用は避けるべきであると考えられた。一方,早期手術例やCT検査で膿瘍形成のない症例では人工物を使用しても合併症が少ない可能性が示唆された。
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