日本腹部救急医学会雑誌
Online ISSN : 1882-4781
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41 巻, 5 号
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症例報告
  • 横沢 友樹, 植木 俊輔, 小野寺 優, 鈴木 洋, 星田 徹
    2021 年 41 巻 5 号 p. 315-318
    発行日: 2021/07/31
    公開日: 2022/02/03
    ジャーナル フリー

    患者は69歳,女性。自動車を運転中に電柱に激突し,胸腹部を強打した。直後より前胸部痛,腹痛を認め,当院へ救急搬送された。来院時の腹部造影CTで,肝損傷(Grade Ib)と造影剤の血管外漏出像を認めた。CT中に血圧が低下し,transient responderとなったため,経カテーテル動脈塞栓術による止血後に,入院した。第14病日に施行したCTで門脈内に血栓を認め,第21病日のCTでは血栓が拡大していたため,抗凝固療法としてエドキサバンの内服を開始した。第31病日(内服開始後10日目)のCTで血栓の縮小を認め,第77病日(内服開始後56日目)のCTで血栓の消失を確認したため,内服を終了した。以後,門脈血栓症の再発は認めていない。肝外傷後の門脈血栓症の報告は少なく,また,門脈血栓症の治療法も確立されていないが,抗凝固療法としてエドキサバンの内服は有効と考えられた。

  • 長田 圭司, 中村 公治郎, 塩田 哲也, 松浦 正徒, 岩﨑 純治
    2021 年 41 巻 5 号 p. 319-323
    発行日: 2021/07/31
    公開日: 2022/02/03
    ジャーナル フリー

    腹腔鏡下ヘルニア修復術(transabdominal preperitoneal repair:以下,TAPP)は低侵襲でヘルニア門の確実な視認が可能であり,近年症例数が増加傾向にある。一方で腹腔内操作を伴わない従来のヘルニア修復術では起こり得ないTAPP特有の合併症が起こりうる。TAPP術後に腹膜縫合閉鎖部の裂隙に小腸が嵌頓し腸閉塞を発症した症例を経験した。症例は82歳男性。右鼠径ヘルニアに対しTAPPを施行した。術後2日目に腸閉塞の診断で緊急手術を施行した。腹腔鏡下に観察すると,腹膜縫合閉鎖部に生じた腹膜の裂隙を通して小腸が膀胱前腔に嵌入し,腸閉塞をきたしていた。腹膜縫合糸を切離し小腸の嵌頓を解除し,腹膜を再縫合閉鎖した。TAPP術後の腹膜縫合閉鎖部裂隙には腸管が嵌入しうるので,腹膜縫合閉鎖に際しては強度をもたせた隙間のない縫合を心がけるとともに,この病態を念頭に術後の観察を行う必要がある。

  • 大屋 勇人, 金岡 祐次, 前田 敦行, 高山 祐一, 高橋 崇真, 桐山 宗泰, 清板 和昭
    2021 年 41 巻 5 号 p. 325-329
    発行日: 2021/07/31
    公開日: 2022/02/03
    ジャーナル フリー

    傍ストーマヘルニアはストーマ造設後合併症として頻度は高いが,ヘルニア門が大きく,嵌頓による緊急手術はまれである。傍ストーマヘルニア嵌頓で腸管切除を要し,別部位にストーマを再造設した2例を経験したので報告する。症例1は80歳男性で,直腸癌に対するAPR術後8年で緊急手術となった。嵌頓部空腸を切除し,ストーマは左上腹部に再造設した。術後4年間再発なし。症例2は82歳女性で,閉塞性直腸癌に対するHartmann術後8ヵ月で緊急手術となった。嵌頓部小腸を切除し,ストーマは左上腹部に再造設した。再発はなかったが,術後10ヵ月で他病死した。腸管切除を要する傍ストーマヘルニア嵌頓手術は,海外の報告では単純閉鎖よりも再造設の再発率が低いという報告が散見されるが,本邦では単純閉鎖の報告例が多い。2症例のように別部位へのストーマ再造設は安全に施行でき,傍ストーマヘルニア嵌頓に対する術式の選択肢となりうると考える。

  • 和田 英雄, 大坪 一浩, 大石 海道, 黨 和夫, 田場 充, 内藤 愼二
    2021 年 41 巻 5 号 p. 331-334
    発行日: 2021/07/31
    公開日: 2022/02/03
    ジャーナル フリー

    症例は91歳の女性。突然の上腹部痛で近医を受診し,同部に圧痛を伴う腫瘤を触知したため精査加療を目的に当院紹介となった。腹部CTで腫大した胆囊を認めた。頸部から胆囊管の狭小化と内方偏位を認め,胆囊捻転を疑い腹腔鏡下胆囊摘出術を施行した。術中所見で胆囊は不完全に捻転しており摘出標本では胆囊底部を主座とする腫瘍性隆起性病変を認めた。病理組織では,胆囊は捻転による梗塞性変化を示していた。胆囊底部の腫瘍性病変は腺扁平上皮癌であった。胆囊捻転症を契機に胆囊腺扁平上皮癌が診断されることは非常にまれであり報告する。

  • 佐藤 純, 廣澤 貴志, 金子 直征, 小林 照忠
    2021 年 41 巻 5 号 p. 335-338
    発行日: 2021/07/31
    公開日: 2022/02/03
    ジャーナル フリー

    症例は81歳女性。2年前に当科で経会陰的直腸脱手術を施行されたが,術後数ヵ月で直腸の再脱出を繰り返していた。くしゃみをした後に肛門から腸管が脱出したため当科を受診した。来院時,肛門から小腸が約1m脱出しており,経肛門的小腸脱出を伴った直腸穿孔の診断で緊急開腹手術を施行した。直腸前壁に径3cmの穿孔部を認め,同部から小腸が脱出していた。肛門側と腹腔内から愛護的に小腸を腹腔内に還納し,穿孔部は経肛門的に単純縫合閉鎖を行った。さらに穿孔部口側で直腸を切離し,単孔式人工肛門造設術を行い,残存直腸は穿孔部の補強目的で子宮と縫合した。術後は合併症を認めず,第20病日に退院となった。術後は直腸脱を認めず経過している。

  • 小野 仁
    2021 年 41 巻 5 号 p. 339-342
    発行日: 2021/07/31
    公開日: 2022/02/03
    ジャーナル フリー

    症例は52歳,女性。保存的加療後の急性虫垂炎に対し腹腔鏡下虫垂切除術を施行した。手術では臍部,左下腹部に12mm,恥骨上に5mmポートを留置した。術後2日目に嘔吐,左下腹部痛,左下腹部膨隆を認めた。同日CT検査で,左下腹部12mmポート孔への小腸嵌頓を認めた。ポートサイトヘルニア(port site hernia:以下,PSH)による絞扼性腸閉塞と診断し,緊急手術を施行した。腹腔内より嵌頓を解除したところ,腹腔内のヘルニア門は12mmポート孔であったが,腹壁からの脱出はポート孔ではないSpigel腱膜であった。嵌頓腸管は壊死が疑われ,小腸部分切除を施行した。ヘルニアが発生した左下腹部のポート創は腹直筋後鞘を欠いたレベルのSpigel腱膜で解剖学的に脆弱でありPSH発生の一因であると考えられた。PSHの予防には,筋膜縫合では不十分であり,全層縫合が不可欠である。ポート孔がSpigel腱膜に一致する場合はとくに注意が必要である。

  • 五十嵐 陽介, 中里 雄一, 池上 徹, 大木 隆生
    2021 年 41 巻 5 号 p. 343-346
    発行日: 2021/07/31
    公開日: 2022/02/03
    ジャーナル フリー

    血栓を伴う有症状の肝外門脈瘤に対して保存的加療で血栓・門脈瘤が縮小した症例を提示する。症例は53歳女性。検診で脾静脈と上腸間膜静脈合流部に約40mmの門脈瘤を指摘された。無症状であったため当院で1年前より経過観察していた。上腹部痛を主訴に受診し,約50mmに拡大した瘤と内部に充満した血栓を認めたが,肝内門脈血流は維持され,肝障害を認めなかった。入院し,深部静脈血栓症の治療法に準じてヘパリン投与を開始した。アピキサバン内服に切り替え,症状改善と血栓縮小傾向を確認後に退院した。退院3ヵ月後の造影CTでは,門脈瘤は約40mmに縮小し,血栓はほぼ消失していた。治療開始から6ヵ月後の現在も症状の再燃なく経過観察中である。文献的に手術症例も散見される血栓を伴う肝外門脈瘤に対して,期間は限られているが保存的に良好な経過を得ている1例を経験した。

  • 福岡 伴樹, 杉原 実, 冨永 奈沙, 岡野 佳奈, 水野 亮, 西 鉄生
    2021 年 41 巻 5 号 p. 347-350
    発行日: 2021/07/31
    公開日: 2022/02/03
    ジャーナル フリー

    症例は40歳,男性。腹部手術既往なし。心窩部痛を主訴に他院を受診し腸閉塞の診断で当院に紹介された。自覚症状は軽度であったが,腹部CTで胃の後面で頭側方向に拡張した小腸を認めたため内ヘルニアを疑い,入院のうえ保存的治療とした。入院後も腹痛が増悪したため翌日に手術を行った。大網の異常裂孔から胃の背側に小腸が迷入し,その小腸は小網にある別の異常裂孔から遊離腹腔に陥入していた。腹腔内に出た小腸は小網の裂孔に嵌頓しており,虚血の状態であった。絞扼された小腸の整復後壊死腸管を切除し,大網と小網の異常裂孔はそれぞれ縫合閉鎖した。小網裂孔ヘルニアはまれな疾患であり,大網小網裂孔網囊ヘルニアはさらにまれな病態である。今回経験した症例を文献的考察を加えて報告する。

  • 梶岡 裕紀
    2021 年 41 巻 5 号 p. 351-354
    発行日: 2021/07/31
    公開日: 2022/02/03
    ジャーナル フリー

    われわれは神経内分泌分化を伴う虫垂原発腺癌の1例を経験したので報告する。症例は34歳の女性で,腹痛を主訴に近医を受診し,虫垂炎疑いで当院を紹介受診した。CT検査で周囲脂肪織濃度の上昇を伴う虫垂腫大を認め,急性虫垂炎の診断となり,同日緊急で腹腔鏡下虫垂切除を施行した。肉眼的には切除標本上で虫垂腫瘍の存在を認識できなかったが,病理検査で神経内分泌分化を伴う腺癌と診断された。虫垂切除1ヵ月後にD3郭清を伴う腹腔鏡補助下回盲部切除を施行し,現在無再発生存中である。虫垂切除後の標本は若年であっても,病理検査を行う必要があるが,その際には標本全体を評価し,悪性腫瘍の有無を確認しなければならない。

  • 田澤 美也子, 馬場 裕信
    2021 年 41 巻 5 号 p. 355-357
    発行日: 2021/07/31
    公開日: 2022/02/03
    ジャーナル フリー

    症例は81歳男性。左下腹部痛を主訴に近医を受診した。内服による抗菌薬加療で改善に乏しく,発症12日目に当院紹介受診となった。腹部骨盤部CT検査で異物によるS状結腸穿通と診断され,入院となった。異物は形状と問診から魚骨が疑われた。下部消化管内視鏡検査で魚骨の摘出を行い,その後保存的加療で改善を認め,魚骨摘出後5日目に軽快退院した。下部消化管穿孔および穿通の症例においても,手術を行わず,保存的加療が奏効する症例もあることを念頭に置き,治療方法を選択するべきである。

  • 入村 雄也, 坪井 一人, 良元 和久, 梶本 徹也, 柏木 秀幸
    2021 年 41 巻 5 号 p. 359-362
    発行日: 2021/07/31
    公開日: 2022/02/03
    ジャーナル フリー

    症例は87歳女性で,前日からの水様性下痢便,嘔吐を主訴に近医を受診し精査加療目的に当院へ紹介となった。腹部CT検査で小腸の広範な拡張および骨盤底背側部にtarget signを認めたことから腸重積症に伴う腸閉塞と判断し同日緊急手術を施行した。開腹所見では回腸に腸重積を認め,Hutchinson手技による整復後にバウヒン弁より口側50cmに腫瘤を触知したため,小腸部分切除術を施行した。切除標本の病理組織学的所見は囊胞状小腸リンパ管腫の診断であった。小腸リンパ管腫は小腸腫瘍のなかでもまれな疾患であるが,なかでも囊胞状小腸リンパ管腫の占める割合は少ない。成人発症の腸重責症の一因として本病態も念頭に置く必要がある。

  • 田澤 俊幸, 須藤 亜希子, 横山 昌樹
    2021 年 41 巻 5 号 p. 363-366
    発行日: 2021/07/31
    公開日: 2022/02/03
    ジャーナル フリー

    症例は70歳,男性。約10年前よりアルコール性肝硬変で治療中であった。突然出現した臍部からの液体流出と腹腔内組織の脱出を主訴に当院救急外来を受診した。大網の腹壁外脱出を伴う臍ヘルニア破裂と診断し緊急手術が必要と判断した。しかし,胸部CTで高度の肺炎像を認めたため全身麻酔は困難と判断し,局所麻酔で手術を施行した。脱出した大網を愛護的に腹腔内へ還納しヘルニア門を単純閉鎖した。術後,皮下に留置したドレーンより1,000mL/日以上の腹水流出が続いたため腹水濾過濃縮再静注法を行った。その後ドレーンの排液量は減少し,術後8日目にドレーンを抜去し術後11日目に退院した。臍ヘルニア破裂はまれな疾患であり,報告は散見されるのみである。今回局所麻酔下に修復術を施行した臍ヘルニア破裂症例を経験したので報告する。

  • 加藤 潤紀, 早川 俊輔, 柳田 剛, 藤幡 士郎, 中屋 誠一, 佐川 弘之, 田中 達也, 小川 了, 高橋 広城, 松尾 洋一, 瀧口 ...
    2021 年 41 巻 5 号 p. 367-370
    発行日: 2021/07/31
    公開日: 2022/02/03
    ジャーナル フリー

    症例は87歳女性で,前日からの下腹部痛で当院を受診した。炎症反応の上昇は認めなかったもののCT上,小腸の拡張と内部に球状異物を認め,異物による腸閉塞の診断で同日緊急手術を施行した。腹腔鏡で観察後,高度な癒着のため開腹に移行した。拡張部位はMeckel憩室であり,憩室内に4cm大の結石が嵌頓していた。小腸を切除し憩室および結石を摘出した。病理組織学的所見では憩室粘膜に壊死,出血,膿瘍の所見を認めていた。腸石については成分分析の結果真性腸石と診断した。真性腸石を伴うMeckel憩室炎により腹痛をきたした極めてまれな1例を経験したため,文献的考察を加え,報告する。

  • 内海 史織, 北見 智恵, 河内 保之
    2021 年 41 巻 5 号 p. 371-374
    発行日: 2021/07/31
    公開日: 2022/02/03
    ジャーナル フリー

    5-fluorouracil(以下,5-FU)による比較的まれな副作用として高アンモニア(以下,NH3)血症が報告されている。今回われわれは食道癌術前5-FU・cisplatin併用療法(以下,FP療法)中に高NH3血症をきたした1例を経験した。症例は66歳男性で胸部下部食道癌cT3N1M0 StageⅢと診断され,FP療法を開始した。Day3から食欲低下,day5から見当識障害,歩行障害,尿失禁が出現し,血液検査で腎機能障害と高NH3血症を認めた。5-FU投与を中止し,分岐鎖アミノ酸製剤と補液で血清NH3値は翌日には正常化した。術前化学療法を中止し,手術を施行した。術後補助化学療法は行わず,術後4年6ヵ月経過した現在無再発生存中である。本例は骨格筋量低下,腎機能障害を認めており,高NH3血症の誘因となった可能性がある。5-FUを含む化学療法中の意識障害では高NH3血症の可能性を念頭に置き,早期診断・治療を行う必要がある。

  • 鄭 栄哲, 神谷 忠宏, 田島 陽介, 小出 欣和, 升森 宏次, Hiroshi Matsuoka, 佐藤 美信, 花井 恒一, 宇山 一 ...
    2021 年 41 巻 5 号 p. 375-378
    発行日: 2021/07/31
    公開日: 2022/02/03
    ジャーナル フリー

    症例は81歳男性。腹痛と嘔吐を主訴に当院を受診した。腹部所見は平坦やや硬で, 腹部全体に圧痛と反跳痛を認めた。腹部CT検査では上腹部を中心に腹腔内遊離ガスと膀胱壁在気腫を認めた。上部消化管穿孔による汎発性腹膜炎を疑い,同日緊急手術を施行した。腹腔鏡下で腹腔内を観察すると淡血性の混濁した腹水を中等量認めるも,消化管に明らかな穿孔所見を認めなかった。膀胱右側壁に径1cmの穿孔所見を認め,膀胱破裂に伴う腹膜炎と診断した。穿孔部を縫合閉鎖し腹腔内を洗浄して手術を終了した。術後明らかな合併症を認めなかったが,廃用症候群が進んだためリハビリテーションを行い第35病日に退院した。膀胱破裂の際に腹腔内遊離ガスを伴うことがあり,消化管穿孔との鑑別が困難である。今回,消化管穿孔を疑い緊急手術を施行した気腫性膀胱炎に伴う膀胱破裂の1例を経験したので報告する。

  • 中邑 信一朗, 田端 正己, 中村 俊太, 瀬木 祐樹, 藤村 侑, 小林 基之, 岩田 真, 三田 孝行
    2021 年 41 巻 5 号 p. 379-382
    発行日: 2021/07/31
    公開日: 2022/02/03
    ジャーナル フリー

    副脾は10~30%に認められるが無症状に経過することが多い。最近われわれは術前に副脾梗塞と診断し手術を施行した1例を経験したので報告する。症例は35歳男性。入院当日朝から左側腹部痛が出現し救急搬送された。単純CTでは脾臓の頭腹側に31mm大,脾門部に18mm大の球形腫瘤が認められ,頭腹側腫瘤は軽度の周囲脂肪織濃度の上昇を伴っていた。造影すると,頭腹側腫瘤は全く造影されなかったが,脾門部腫瘤はよく造影された。エコーでは頭腹側腫瘤に向かう栄養血管が描出されたが,ドップラーでは血流は確認できなかった。以上より捻転による副脾梗塞と診断し,腹腔鏡下摘出術を施行した。大網内に暗赤色の副脾を認めたが,血管茎には大網が癒着しており捻転の確認はできなかった。血管茎を凝固切開装置で切離し,副脾を摘出した。病理組織学的には脾臓組織で,高度の間質出血・うっ血を伴っていた。術後経過は良好で術後4日目に退院した。

  • 田中 秀治, 村瀬 勝俊, 波多野 裕一郎, 松橋 延壽, 高橋 孝夫, 吉田 和弘
    2021 年 41 巻 5 号 p. 383-386
    発行日: 2021/07/31
    公開日: 2022/02/03
    ジャーナル フリー

    症例は73歳,男性。下血を主訴に当院へ緊急搬送された。上下部内視鏡,緊急小腸内視鏡を施行したが,出血源を同定できなかった。腹部造影CT検査でも出血源は不明であり,集中治療室で経過観察の方針としたが,その後大量下血から出血性ショックとなり,緊急開腹手術を施行した。術中,漿膜面からの観察では出血源同定困難なため,術中内視鏡を行った。出血部位は同定できなかったがTreitz靭帯より肛門側20cmから100cmの範囲に鮮血を多量に認め,同範囲内に出血源が存在すると判断し,同部位80cmの空腸部分切除を施行し,循環動態は安定した。病理組織学的所見では,粘膜欠損部に破綻した拡張動脈の突出を認め,Dieulafoy’s lesionと診断した。出血源同定困難であったが,術前小腸内視鏡と術中内視鏡併用により切除範囲を決定し,大量腸切除を回避し得た空腸Dieulafoy’s lesionの1例を報告する。

  • 浦岡 未央, 船水 尚武, 高田 泰次, 飛田 陽, 山元 英資
    2021 年 41 巻 5 号 p. 387-391
    発行日: 2021/07/31
    公開日: 2022/02/03
    ジャーナル フリー

    症例は47歳女性で,繰り返す心窩部痛を自覚し前医を受診した。血液検査で炎症所見はなく,腹部CTで虫垂体部に2cmの造影効果を有する腫瘤を認めた。虫垂神経内分泌腫瘍を疑い,腹腔鏡下回盲部切除術を施行した。虫垂は屈曲・腫大し,屈曲部の漿膜に白色の平滑な腫瘤が露出していた。虫垂近傍の腹膜にも白色結節を認め,播種が疑われた。しかし,病理組織学的検査で虫垂腫瘍・腹膜結節ともに子宮内膜症と診断された。子宮内膜症のうち,腸管に生じるものは腸管子宮内膜症とよばれる。発生部位はS状結腸と直腸がほとんどであり,虫垂は3%と非常にまれである。虫垂子宮内膜症は内膜組織からの出血により虫垂炎に類似した症状を呈することがある。画像上は造影される腫瘤像を呈することがあり,虫垂腫瘍との鑑別が困難とされる。閉経前の女性における虫垂腫瘍は,虫垂子宮内膜症も鑑別にあげる必要があると思われた。

  • 赤澤 智之, 本田 晴康, 津澤 豊一, 林 誠一, 小平 日実子
    2021 年 41 巻 5 号 p. 393-396
    発行日: 2021/07/31
    公開日: 2022/02/03
    ジャーナル フリー

    異物肉芽腫はガーゼ遺残や縫合糸などの腹腔内異物によって形成される肉芽腫で,CTなどでも認識できる腹腔内腫瘤として発見されることが多い。今回われわれは術中に白色の小結節として腹腔内に散在しているのが確認され,肉眼的に腹膜播種との鑑別が困難であった胃穿孔後の食物残渣による異物肉芽腫を経験した。症例は58歳女性。腹痛,腹部膨満を主訴に当院を受診。内視鏡で胃体部小弯に巨大な潰瘍がみられ,CTで胃の腹側に腹腔内遊離ガスを伴う液体貯留を認めた。胃潰瘍穿孔による膿瘍形成を疑い,腹腔鏡下に穿孔部位の閉鎖,膿瘍ドレナージを予定した。術中,腹壁に白色の小結節が散在しており肉眼的に腹膜播種が疑われた。結節の生検を行ったところ食物残渣による異物肉芽腫であった。消化管穿孔の既往がある場合,腹腔内に小結節がみられた際に腹膜播種の他に食物残渣による異物肉芽腫の可能性があることを念頭に置く必要があり病理学的診断が必須と思われた。

  • 永井 啓之, 野澤 聡志
    2021 年 41 巻 5 号 p. 397-401
    発行日: 2021/07/31
    公開日: 2022/02/03
    ジャーナル フリー

    症例は18歳の男性で,心窩部痛を主訴に当院を紹介受診となった。問診で3ヵ月前に金属片を自ら飲み込んだとのことであった。心窩部に圧痛を認めたが腹膜刺激症状はなかった。血液検査では炎症反応および肝胆道系酵素の上昇を認めた。腹部造影CT検査では十二指腸から肝右葉内へ穿通する金属片およびその先端には径65mm大の肝膿瘍を認めた。緊急経皮経肝的膿瘍ドレナージと抗菌薬投与を行い,その4日後に開腹下異物摘出術を施行した。手術は十二指腸球部前壁を切開し異物末端を把持し抜去した。異物は106mm長の金属片であった。魚骨や爪楊枝などの先端が鋭利な細長い異物はときに消化管穿通をきたし,まれに無症状で肝内に迷入し潜伏期間を経てから肝膿瘍を呈することがある。今回3ヵ月間無症状で経過した金属片が十二指腸から肝臓へ穿通し肝膿瘍をきたした症例を経験した。

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