【背景】2019年3月から腹部開放創用ABTHERAⓇドレッシングキットが本邦で使用可能となった。本邦にABTHERAが導入されてからのopen abdominal management(以下,OAM)の実態や予後に関連する因子は明らかになっていない。【目的】本研究の目的は,連続35例のOAMの特徴,治療成績を明らかにし,短期予後にかかわる因子を検討することである。【対象および方法】2019年6月から2021年6月までのABTHERAを用いた連続35例を外傷・非外傷群,生存・死亡群に分け各因子を比較した。【結果】非外傷群は有意に高齢で,死亡率は外傷群16.7%,非外傷群43.5%,筋膜閉鎖率は91.4%であった。APACHE Ⅱスコアは平均19.7,非外傷群・死亡群で有意に高く,予後因子であった。【結論】APACHE Ⅱスコアは非外傷群,死亡群で有意に高く,短期予後予測に有用な可能性がある。
日本腹部救急医学会会員に対してabdominal compartment syndrome(以下,ACS)に関するknowledge gapを調査した。回答者の約半数が,腹部救急疾患を専門としており,ほとんどがACSの病態について知識があると回答したが,正しく理解していると思われる割合は極めて低かった。Intra-abdominal hypertension(以下,IAH)/ACS 診療未経験との回答が多かったが,経験症例のなかに見逃されたIAH/ACSが存在している可能性も考えられる。ACSに関するガイドラインの活用を啓発するとともに推奨通り,危険因子と考えられる症例については積極的にintra-abdominal pressure(IAP)を測定するべきである。さすれば,経験症例は増えるであろうし,ひいてはIAH/ACSをきたしうる病態の予後改善につながるかもしれない。回答者は会員の6%でありその半分以上が外科医であった。したがって,救急科・集中治療専門医を対象とした調査では異なった結果が得られるかもしれない。学会を越えた多施設でIAH/ACSの疫学を調査する必要があろう。
腹部コンパートメント症候群(abdominal compartment syndrome:以下,ACS)は致命的な病態である。一般に,ACSの内科的治療を行っても腹腔内圧が下がらずに26mmHg以上のGrade Ⅳ状態かつ臓器障害を認める場合は,内科的治療の限界であるため外科的治療つまりopen abdomen management(以下,OAM)を行うことになる。しかし,一旦OAMとなった後の根治的閉腹に至るまでの経過は画一的なものではなく,各局面で治療方針の判断を下すにあたって常に理想と現実の狭間で悩まされることになる。
かつて腹部コンパートメント症候群は外傷外科を除けばその存在は知られておらず,診断がつかないままに不幸な転機をたどった症例もあった。そしてその名が有名になった現在は,かつてと逆に疑い症例が広がりすぎてしまったきらいがある。診断基準やガイドラインがあるとはいえ,まれな疾患の診療には困難を伴う。本稿では,筆者が経験したピットフォールを主に外科医の視点から診断と治療について述べる。
急性膵炎はintraabdominal hypertension(以下,IAH),abdominal compartment syndrome(以下,ACS)の危険因子である。ACSを発症した場合の死亡率は高く,いかにIAH/ACSを回避するかに注力する必要がある。腹腔内圧上昇にかかわる因子は膵臓自体の炎症や腸管浮腫,腹水など多くあるが,われわれが介入できるものとして適正な輸液管理はIAH/ACSを回避するうえで重要である。IAH/ACSに対しては輸液戦略を含む非侵襲的治療から侵襲的治療へとstep-up approachを行い外科的減圧術の回避をめざす。近年,急性膵炎によるACSに対して外科的減圧術を施行する機会は減っているものの,IAPがコントロール困難な場合には外科的減圧術を迅速に行う必要がある。本稿では,腹腔内圧を上げないための輸液戦略をはじめ,非侵襲的治療から侵襲的治療の流れと近年の報告,さらに自験例をもとにpit fallを含めて提示する。
閉鎖孔ヘルニアは高齢,やせ型,女性に好発する疾患であり,嵌頓を生じて緊急手術となる機会が多い疾患である。閉鎖孔ヘルニアに対して腹腔鏡下ヘルニア囊高位反転結紮術を自施設で新規に導入し,発症前のactivities of daily living(ADL)と同等の状態で退院した症例を3例経験した。手技が比較的単純であることから,高齢者や併存症のために耐術能に乏しい症例にも比較的短時間で施行可能な術式であると考えられた。
症例は82歳,女性。総胆管結石性胆管炎に対し内視鏡的乳頭切開術・胆管ドレナージを施行,待機的に根治目的の腹腔鏡下胆囊摘出術(laparoscopic cholecystectomy:以下,LC)を施行した。胆囊管は非吸収性ポリマークリップ(Hem-o-lok)で処理して術後4日目に退院となった。以降無症状で経過し,術後47日目に胆管プラスチックステント抜去を予定した。その際に下部胆管に8 mmの透亮像を認め内視鏡的に摘除し,胆囊管処理に使用したHem-o-lokと同定した。LC術後にクリップが迷入する合併症はまれながらも報告されており,術後1年以内の発見が多いものの遠隔期の報告もあり術後の時期を問わず発生しうる。総胆管結石症を契機に発見される割合が大きいが,機序は不明で確立された予防策はない。迷入の発見時には内視鏡的治療を検討すべきである。
症例は53歳の男性で1週間前からの腹痛で当院を受診した。造影CTで上腸間膜静脈血栓症(superior mesenteric vein thrombosis:以下,SMVT)と小腸重積を認め,小腸腫瘍による腸重積と診断し同日開腹手術を行った。Treitz靭帯より約310cmの回腸に腫瘍による重積を認め,術前の画像診断で血栓は広範囲であったものの腸管の血流は良好であったため,同部位の小腸部分切除のみ行った。術後翌日からヘパリン投与を開始し合併症なく術後14日目に退院した。本症例は凝固因子欠損症や凝固亢進をきたしうる背景はなく,腸重積により腸間膜静脈の還流不全からSMVTを発症したと考えられたため文献的考察を加えて報告する。
神経内分泌腫瘍(neuroendocrine tumor:以下,NET)において虫垂原発はNET全体の約3%と少なく,若年妊婦での発症は非常にまれである。今回,妊娠中の急性虫垂炎を契機に発見された虫垂NETの1例を経験したので報告する。症例は27歳女性,妊娠7週の初産婦で右下腹部痛を主訴に当院を受診した。腹部診察ではMcBurney点に反跳痛を認め,CTで急性虫垂炎と診断した。明らかな腫瘍性変化や特異的リンパ節腫大は認めなかった。妊娠中の急性虫垂炎であることも踏まえ,緊急手術の適応と判断し,腹腔鏡下虫垂切除術を実施した。術後経過は母児ともに良好で術後7日目に退院した。病理診断は穿孔性壊疽性虫垂炎および虫垂NET G1で,腫瘍径7 mm,間膜浸潤陰性,脈管侵襲陰性を確認して追加切除は行わない方針とした。妊娠中の虫垂NETにおいては腫瘍学的根治性と安全な周産期管理の達成を最大限に考慮する必要がある。
症例は80歳台,女性。食後の上腹部痛を主訴に救急搬送された。造影CTで中結腸動脈分岐部遠位の上腸間膜動脈に造影欠損を認め,上腸間膜動脈塞栓症と診断した。しかし,側副血行路を介して腸管の造影効果は保たれており,また腹部所見は比較的軽度であった。胸部大動脈壁は不均一に毛羽立ってみえshaggy aortaと診断した。全身ヘパリン投与による保存療法を行ったが,腹部症状が増悪したため受診から約18時間後に緊急手術を施行した。上腸間膜動脈の塞栓子を摘除し血流再開を得たが,色調が回復しなかった回盲部と上部空腸を切除した。その後,短腸症候群を回避するために,2回にわたり分割手術を行い最終的に小腸を約200cm残存せしめた。病理組織学検査の結果,塞栓子は血栓ではなく粥腫であった。まれながらshaggy aortaからの粥腫が塞栓を起こすことがあり,塞栓子の外科的摘出を考慮する必要があると思われた。
症例1は86歳,女性。右鼠径部痛と嘔吐を主訴に受診した。腹部CT検査で右閉鎖孔ヘルニア嵌頓を認め,緊急手術を施行した。症例2は96歳,女性。嘔吐を主訴に受診した。腹部CT検査で右閉鎖孔ヘルニア嵌頓による腸閉塞を認め,緊急手術を施行した。いずれの症例も腹腔鏡下ヘルニア修復術(transabdominal preperitoneal repair:以下,TAPP法)を施行し,メッシュはセルフグリップメッシュを使用した。閉鎖孔ヘルニアに対する腹腔鏡手術は散見されるが,術式に関しては確立していない。TAPP法は,閉鎖孔ヘルニア症例に高率に合併するといわれるその他の潜在的なヘルニアを一期的に予防的根治できる点や,低侵襲で嵌頓腸管の質的診断も可能な点で有用である。また,TAPP法による術後慢性疼痛の原因の1つにタッキングがあり,自験例のようにタッキングの不必要なメッシュの使用は,術後疼痛軽減においても有用と考えられる。
症例は92歳男性,右鼠径部の膨隆および硬結,右陰囊からの膿汁流出を主訴に当院を受診した。精査の結果,陰囊膿瘍を伴う右鼠径ヘルニア盲腸嵌頓の診断となった。右鼠径部から陰囊にかけて広範な皮下の炎症性肥厚を認めたが,腹腔内の炎症所見は認めなかったため,腹腔鏡手術を選択した。嵌頓した盲腸は穿孔していたため回盲部切除術を施行した。一方鼠径部は炎症が強く高度に硬化していたため,鼠径ヘルニアの同時修復は困難と判断し一期的修復は行わない方針とした。術後創感染を認め,創部の切開排膿ドレナージを要したが,第16病日に退院した。陰囊膿瘍は術後約3ヵ月で自然治癒した。現在術後6ヵ月経過するも,ヘルニア嵌頓や陰囊膿瘍の再燃は認めていない。陰囊膿瘍を伴う鼠径ヘルニア回盲部嵌頓症例において,鼠径部や陰囊に炎症が限局していれば腹腔鏡アプローチは選択肢として考慮され得ると思われた。
内視鏡的胆管ステント留置術は高齢者などの高リスク症例に対しても低侵襲な処置であるため施行例が増加している。それに伴い胆管ステント挿入に関連した合併症が増加している。ステントの逸脱率は5〜10%とされるが,消化管穿孔はまれである。逸脱した胆管ステントによる大腸穿孔の1例を経験した。症例は91歳,男性。1年3ヵ月前に総胆管結石性胆管炎に対して,総胆管内にプラスチックステント(ストレートタイプ,7Fr,9 cm)を留置された。3週間ほど続く下腹部の違和感を主訴に当院を受診した。CT検査でステントによる大腸穿孔および膿瘍形成と診断し,手術を行った。開腹すると腹腔内に汚染はなく,S状結腸後壁をステントが貫通していた。ステントを抜去し,膿瘍をドレナージした。穿孔部を縫合閉鎖し,手術を終了した。術後10日目に退院した。胆管ステント挿入後に腹痛を認めた場合はステントによる腸穿孔も念頭に置くことが必要である。
症例は69歳の女性。8時間前からの腹痛・嘔吐のため救急車で搬送された。腹部CTでtarget signと口側腸管の拡張を認め,腸重積による腸閉塞と診断し,緊急手術を施行した。臍上約3cmの小切開をおき,単孔式腹腔鏡下手術を開始した。腹腔内を観察すると小腸に重積腸管を認めた。無傷性腸鉗子を用いてHutchinson手技で整復したところ,先進部に腫瘤性病変を認めた。小切開創から小腸を引き出し,腫瘤を含めた小腸部分切除を施行した。肉眼的には弾性軟の5cm大の有茎性の腫瘤を認め,病理組織学的検査でinflammatory fibroid polyp(以下,IFP)と診断した。小腸IFPを先進部とする成人の腸重積に対し,単孔式で腹腔鏡下手術を安全に施行できた。腹腔鏡下手術は低侵襲で整容性に優れており,よい適応と考えられた。文献的考察を加え報告する。
症例は20歳台,男性。ライフル銃を発砲し当院に救急搬送となった。前胸部に銃弾の射入口を,左側腹部に出血を伴う射出口を認めた。CTでは,左第10肋骨骨折,脾臓下極に境界不明瞭な領域を認めた。外傷性脾損傷の診断で緊急手術を施行した。術中所見では脾臓下極に裂傷を認めるも出血量は多くなかったため腹腔鏡下に脾臓を一部切除し,焼灼止血で手術を終了した。術後6日目には射出口部創より便汁漏出あり腸管穿孔と診断し,再手術で下行結腸に穿孔を認め,結腸左半切除術を施行した。術後は創感染を併発したが他に合併症なく経過し,術後4週目に近医へ転院となった。高速で放たれた弾丸はshock waveを生み出し周囲に損傷を与えつつ移動することが知られている。本症例では弾丸によるshock waveとtemporary cavitationにより結腸壁に損傷が生じ,遅発性の腸管穿孔を発症したと考えられた。
40代女性,腹痛と嘔吐を主訴に受診した。回盲部腸閉塞と診断され入院となった。イレウス管による保存的加療で軽快し退院となったが,1ヵ月後に腸閉塞を発症し再入院となった。腹部CT検査で,回盲部の狭窄に伴う腸閉塞と診断した。下部消化管内視鏡検査で回腸終末部に全周性の輪状潰瘍性病変を認めた。潰瘍部の生検では,多彩な炎症細胞浸潤,炎症性肉芽を認めた。原因として腸結核などの炎症性腸疾患,腫瘍性病変による腸閉塞が考えられ,診断,治療を兼ねて腹腔鏡下回盲部切除術を施行した。病理組織学検査で,壊死を有するラングハンス巨細胞を伴った類上皮肉芽腫を認めたが,乾酪性肉芽種は認めなかった。抗酸菌染色で抗酸菌は同定できなかった。QFT検査は陽性であり腸結核と診断した。既往歴,接触歴は明らかでなく,喀痰塗抹検査,便培養検査でも結核菌の排菌は認めなかった。本邦における腸結核で発症した腸閉塞症例を検討考察し,自験例を報告する。
症例は60歳,男性。数年前から繰り返す膀胱炎に対して,近医で抗菌薬加療がされていた。1ヵ月前から下腹部の違和感を認め,前日から下腹部痛が出現したため当院に救急搬送された。気尿や糞尿は認めなかったが,CTで虫垂膀胱瘻が疑われ,膀胱造影検査で確定診断に至った。MRIで虫垂や膀胱に拡散制限なく,膀胱鏡検査でも腫瘍は認めなかった。入院2日目に腹腔鏡下虫垂切除術,膀胱部分切除術を施行した。虫垂切除標本には虫垂憩室が散見され,瘻孔部と一致した憩室には炎症細胞の浸潤を認めた。膀胱には全層の線維化と粘膜下層のリンパ球の集簇を認めるのみで特異的な所見は認めなかった。虫垂憩室炎に伴う虫垂膀胱瘻と診断した。術後2年以上が経過するが,再発や排尿障害は認めず,手術前より数年間認めていた膀胱炎症状は消失した。虫垂憩室炎を契機に虫垂膀胱瘻を呈することは極めてまれであり,若干の文献的考察を加え報告する。
胆囊捻転症は高齢女性に好発し,胆囊壁の血流障害を生じ緊急手術を要する。当院では2016年から2022年に3例の胆囊捻転症を経験した。症例1は99歳,女性。心窩部痛を主訴に当院を受診した。CTで胆囊壁の肥厚と胆囊管の途絶像を認めた。症例2は82歳,女性。右季肋部痛を主訴に当院を受診した。CTで胆囊腫大と胆囊管の渦巻き像を認めた。症例3は89歳,女性。右季肋部痛を主訴に当院を受診した。CTで胆囊腫大と胆囊管の途絶像を認めた。いずれの症例も特徴的な画像所見より胆囊捻転症と術前診断し,迅速に腹腔鏡下胆囊摘出術を施行し良好な経過を得た。胆囊捻転症は術前診断が困難とされていたが,画像診断精度の向上や疾患認知の広まりにより近年では術前診断率は70%程度に上昇している。平均寿命の延長に伴い高齢者の発症数はさらに増加すると予測され,発症リスクや特徴的な画像所見の理解が早期診断および治療介入に重要である。
症例は69歳,女性。間歇的な腹痛を主訴に当院を受診。CTで腸重積症が疑われ,下部消化管内視鏡検査を施行後に入院となった。その後も症状が繰り返されるため当科紹介となり緊急手術が施行された。手術は腹腔鏡下盲腸切除術が施行された。切除標本は虫垂根部の腫瘤を先進部として盲腸内に嵌入していた。病理診断は低異型度虫垂粘液性腫瘍(low-grade appendiceal mucinous neoplasm:以下,LAMN)であった。LAMNは従来の粘液囊胞腺腫や粘液囊胞腺癌に該当し,大腸癌取扱い規約第8版において新たに分類されたが,治療法について明確な基準が存在しない。さらに虫垂重積症を伴う場合,整復の是非といった新たな問題点も加わり,より一層治療方針について判断に苦慮する。よって,今後さらなる症例の蓄積により早急なガイドラインの作成が必要であると考える。
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