日本腹部救急医学会雑誌
Online ISSN : 1882-4781
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40 巻, 1 号
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原著
  • 早川 俊輔, 早川 哲史, 上原 崇平, 渡部 かをり, 藤幡 士郎, 宮井 博隆, 山本 稔
    2020 年 40 巻 1 号 p. 23-27
    発行日: 2020/01/31
    公開日: 2020/09/30
    ジャーナル フリー

    腹腔鏡下虫垂切除術(laparoscopic appendectomy:以下,LA)の病態別の手術成績を明らかにすることを目的として後方視的検討を行った。全LA 507例を非膿瘍形成性虫垂炎(non–abscess–forming appendicitis:以下,NAA)に緊急手術を施行した症例をE–NAA群440例,NAAに対するinterval LA(以下,LIA)をLIA–NAA群40例,膿瘍形成性虫垂炎(以下,AA)に緊急手術を施行したE–AA群15例,AAに待機手術を施行したLIA–AA群12例に分類し病態別の検討を行った。開腹移行はE–NAA群6例,E–AA群3例 (回盲部切除移行1例)であった。合併症率はE–NAA群,LIA–NAA群,E–AA群,LIA–AA群が4.5%,2.5%,26.7%,8.3%であった。LAの安全性を高めるためにはAAに対する緊急手術の回避が重要と考えられた。

  • 野中 有紀子, 神谷 忠宏, 加藤 岳人, 平松 和洋, 柴田 佳久, 青葉 太郎
    2020 年 40 巻 1 号 p. 29-34
    発行日: 2020/01/31
    公開日: 2020/09/30
    ジャーナル フリー

    【緒言】近年,腹部刺創症例に対する治療戦略は,強制開腹手術から選択的非手術管理に移行している。【目的】当施設における腹部刺創症例について検討した。【方法】2006年1月から2017年12月までの12年間に当施設に入院した腹部刺創症例33例を後ろ向きに検討した。【結果】患者背景は,年齢の中央値が57歳で,男性が23例,女性10例であった。緊急開腹手術を行ったのは24例(72.7%)であり,開腹理由は大網を含めた腹腔内臓器脱出が12例,extravasationやfree airなどのCT所見が12例,不安定な循環動態が4例であった。そのうち術中所見で臓器損傷を認めたのは13例で(重複あり),不必要開腹率は50%であった。【結語】当院の不必要開腹率は過去の報告と比べて高く,腹部刺創症例,とくに大網脱出を認める症例に対する緊急開腹手術の適応を見直す必要があると考えられた。

症例報告
  • 上村 翔, 藤田 晃司, 菊永 裕行, 三浦 弘志, 森永 正二朗, 熊井 浩一郎
    2020 年 40 巻 1 号 p. 35-38
    発行日: 2020/01/31
    公開日: 2020/09/30
    ジャーナル フリー

    症例は48歳,男性。心窩部痛と右下腹部痛を主訴に当院を受診した。身体所見上は,右下腹部に圧痛と反跳痛を認めた。血液検査所見では炎症反応上昇を認め,腹部造影CT検査で盲腸から骨盤内右側まで連続する拡張した囊胞性病変とwhirl signを認めることより,虫垂粘液性囊腫軸捻転症と診断し,緊急開腹手術を施行した。手術所見は,虫垂が粘液で拡張し時計方向に720度捻転していた。捻転を解除した後,自動縫合器で虫垂切除を施行した。悪性の可能性も否定できなかったため回盲部切除(D1郭清)を施行した。摘出標本の内腔は大量の粘液性物質で充満されており,病理組織学的所見は,虫垂壁の先端側2/3が捻転によると思われる充血と出血を認め,粘液囊胞腺腫様の像であった。今回,急性腹症で発症した虫垂粘液性囊腫軸捻転症の1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する。

  • 赤石 隆信, 梅原 豊, 谷地 孝文, 石戸 圭之輔, 髙橋 賢一, 袴田 健一
    2020 年 40 巻 1 号 p. 39-43
    発行日: 2020/01/31
    公開日: 2020/09/30
    ジャーナル フリー

    症例は63歳の女性で,61歳時に胆囊結石症に対し腹腔鏡下胆囊摘出術(以下,LC)を施行された。術後6ヵ月目に右側腹部痛が出現したため当院を受診し,CTおよびMRIで右腹壁内側と右横隔膜下にそれぞれ長径35mmと10mmの不整な腫瘤を認めた。LC後の遺残膿瘍と考えられ,CTによる経過観察を行う方針とした。初診から3ヵ月後のCTで腫瘤はいずれも増大しており,さらに右腹壁腫瘤は右大腰筋への浸潤が疑われ,悪性腫瘍が否定できない所見であった。初回手術から1年3ヵ月後に右腹壁腫瘍および右横隔膜下腫瘍摘出術を施行した。いずれの摘出標本も内部に膿瘍の形成と長径約5mmの結石を認めた。腫瘍に明らかな悪性所見はなく肉芽腫と診断され,また結石は胆汁由来であった。以上より初回手術時の落下結石に起因した肉芽腫の診断となった。遺残落下結石を核とした腹腔内肉芽腫を形成したまれな1例を経験したため,文献的考察を加え報告する。

  • 西原 佑一, 尾本 健一郎
    2020 年 40 巻 1 号 p. 45-47
    発行日: 2020/01/31
    公開日: 2020/09/30
    ジャーナル フリー

    腹直筋離開(rectus abdominis diastasis:以下,RAD)は臍ヘルニア術後再発の高リスク因子といわれ,小さい臍ヘルニアでもメッシュを用いた修復術が推奨されている。今回,妊娠を契機に発症したRADを伴う臍ヘルニアに対し腹腔鏡下手術を行った。症例は2回の経腟分娩歴のある36歳女性。第2子出産後より臍部の膨隆を自覚し,自己で還納を繰り返していた。今回,臍部の疼痛を契機に当院を受診した。臍ヘルニアと臍上部のRADを認め,composite meshによる補強を行った。修復に対する満足度は高く,術後約3年経過したが再発は認めていない。本邦ではRADという病態がほとんど着目されておらず,本症例もRADの存在に気づかなければ術式を誤る可能性があった。臍ヘルニアの診断・治療にはRADの合併に留意する必要があると考えられた。

  • 入村 雄也, 岡本 友好, 矢永 勝彦
    2020 年 40 巻 1 号 p. 49-52
    発行日: 2020/01/31
    公開日: 2020/09/30
    ジャーナル フリー

    症例は糖尿病歴を有し,非切除胃癌に対して全身化学療法中の75歳男性。発熱,会陰部痛を主訴に外来受診した。会陰部は一部組織が自壊しており広範囲に発赤を認めた。血液検査で著明な炎症反応と,腹部骨盤部CT検査で肛門から腹直筋にまで及ぶガス産生を伴う脂肪織濃度上昇と膿瘍形成を認め,フルニエ壊疽による敗血症性ショックと診断した。同日他科医師と連携を取り,緊急デブリードマン手術を施行した。その後,壊死の増悪を認め,第12病日に腹腔鏡下S状結腸人工肛門造設,経皮的膀胱瘻造設,再デブリードマンを行った。第46病日に会陰部皮膚欠損と両側精巣上体炎治療目的に両側除睾術および大腿筋皮弁形成術を施行し,第85病日軽快退院となった。フルニエ壊疽は予後不良な壊死性筋膜炎で,多臓器に障害を及ぼしうる病態である。そのため治療初期から他科と協働した集学的治療を行うことで救命および早期の社会復帰が可能になると考えられた。

  • 松友 寛和, 竹内 保
    2020 年 40 巻 1 号 p. 53-56
    発行日: 2020/01/31
    公開日: 2020/09/30
    ジャーナル フリー

    症例は73歳,女性。腹痛,嘔吐,下痢を主訴に当科外来を受診した。腹膜刺激症状を認め,CT検査では肝の腹側に遊離ガスが認められた。またS状結腸から直腸にかけて多発憩室と周囲の脂肪織濃度上昇および腹水の貯留を認めた。直腸憩室穿孔の診断で緊急開腹手術を行った。腹膜翻転部より3cm口側の直腸前壁に3mm大の穿孔を認め,周囲の腸管漿膜や腹膜には発赤と膿苔の付着が広範囲に認められた。Hartmann手術を行い,十分な洗浄とドレナージを併施した。穿孔部の粘膜面にはbag closure(以下,BC)の鋭利な角が陥入しており容易には外れなかった。このためBCが憩室穿孔の契機となったと考えられた。術後経過は良好であった。また患者の認知力は正常で誤飲についての記憶はないとのことであった。BCにより消化管穿孔をきたした例はこれまでに報告がなく,本邦初報告と思われる。

  • 平松 宗一郎, 柳川 憲一, 松永 伸郎
    2020 年 40 巻 1 号 p. 57-59
    発行日: 2020/01/31
    公開日: 2020/09/30
    ジャーナル フリー

    子宮広間膜裂孔ヘルニアは,内ヘルニアの中でも比較的まれな疾患であり,術前診断が困難なことも多い。今回,CTの特徴的な所見から術前診断し得た1例を経験したので報告する。症例は50歳女性。下腹部痛と嘔吐を主訴に当院の救急外来を受診した。腹部CT検査でDouglas窩に入り込んだ小腸と,直腸や子宮の圧排像,また子宮左側に小腸ループの形成および腸間膜脈管の収束像を認めた。子宮広間膜裂孔ヘルニアによる腸閉塞と診断し,同日緊急手術を施行した。左子宮広間膜に生じた約3cmの裂孔に,回腸が30cmにわたり陥頓した内ヘルニアを認めた。陥頓を解除後,裂孔は縫合閉鎖した。陥頓腸管のうっ血,発赤は認めたが,虚血や壊死所見は認めなかったため,腸管切除は行わなかった。術後経過は良好で術後7日目に退院となった。

  • 海老沼 翔太, 大渕 佳祐, 小野 仁
    2020 年 40 巻 1 号 p. 61-63
    発行日: 2020/01/31
    公開日: 2020/09/30
    ジャーナル フリー

    症例は44歳男性。発熱,食事摂取不良,体動困難を主訴に当院救急外来へ搬送。臨床症状と検査値から甲状腺クリーゼの診断となった。入院後は主に脈拍コントロール,甲状腺ホルモンの調整,ステロイドと解熱剤投与を行い,2週間後に退院した。退院後1週間目に腹痛を主訴に救急外来を受診,汎発性腹膜炎の診断で緊急手術を施行した。術中所見で横行結腸の狭窄と口側腸管の拡張がみられ,狭窄部と拡張腸管を切除した。術後経過は良好で14日目に退院となった。病理検査から結腸狭窄病変に一致して潰瘍性病変がみられ,虚血が原因であると考えられ,狭窄部より口側腸管は炎症細胞浸潤と出血を認めるのみで消化管層構造は保たれ,その他異常所見はみられなかった。甲状腺クリーゼ発症時に結腸に虚血性潰瘍をきたし狭窄となり,緊急手術を要する閉塞性大腸炎,汎発性腹膜炎に至ったと考えられ過去に報告のないまれな症例であった。

  • 笹原 正寛, 横山 裕之, 佐藤 雄介, 望月 能成
    2020 年 40 巻 1 号 p. 65-68
    発行日: 2020/01/31
    公開日: 2020/09/30
    ジャーナル フリー

    症例は53歳女性で腎硬化症による慢性腎不全で腹膜透析カテーテル留置術を施行した。透析開始4日目より透析液の回収不良が出現し,カテーテル造影検査で内腔の閉塞を疑う造影欠損像を認めた。腹腔内臓器の巻絡によるカテーテル閉塞の診断で腹腔鏡下に緊急手術を行った。右卵管采が巻絡しており,これを鉗子で解除し,再発予防目的に右卵管采を切除した。透析再開65日目に再度透析液の回収不良が出現した。腹腔鏡下に再手術を施行したところ,左卵管采が巻絡していた。卵管采の巻絡によるカテーテル閉塞は比較的まれとされ,対側の再発はさらにまれである。閉塞解除に対する腹腔鏡下手術は有用と思われるが,再発防止策には一定の見解がまだ得られていない。

  • 照田 翔馬, 湊 拓也
    2020 年 40 巻 1 号 p. 69-72
    発行日: 2020/01/31
    公開日: 2020/09/30
    ジャーナル フリー

    症例は67歳の女性で,自動車事故後の右上腹部痛を主訴に救急搬送された。受診時は上腹部に打撲痕と疼痛を認め,腹部造影CT検査で右側腹部に高吸収を示す腹水貯留と,内部に造影剤漏出を伴う腫瘤を認めた。大網からの出血が疑われ,腹部血管造影検査を施行すると,右胃大網動脈の造影で同血管の分枝の末梢に造影剤漏出を認めた。血管の屈曲蛇行により出血部位へのカテーテルによるアプローチが困難であったため,塞栓術は困難と判断し,腹腔鏡下大網部分切除術を施行した。腹部鈍的外傷による腹腔内出血の原因として,単独の大網出血はまれである。経カテーテル動脈塞栓術は低侵襲であるが,出血部位へのアプローチが困難である場合があり,また血管の豊富な交通性から確実な止血が得られにくい可能性がある。一方手術加療では,大網へのアプローチや大網切除の手技は比較的容易で,とくに腹腔鏡手術では低侵襲に施行できるため有用であると考えられる。

  • 福田 直也, 飯村 泰昭, 廣瀬 和幸, 宮崎 大, 佐藤 暢人, 平野 聡
    2020 年 40 巻 1 号 p. 73-77
    発行日: 2020/01/31
    公開日: 2020/09/30
    ジャーナル フリー

    症例は82歳男性。転落により全身を打撲,横隔膜ヘルニアの疑いで搬送された。CTで左横隔膜の断裂と胃および横行結腸の胸腔内への脱出を認め,外傷性横隔膜ヘルニアの診断で同日,胸腔鏡・腹腔鏡下に修復術を施行した。手術は開脚上体右半側臥位で開始,腹腔鏡下に脱出臓器の還納を行い,胸腔鏡下に肺および縦隔損傷のないことを確認した。左横隔膜は腱中心で水平方向に8cm,全層性に離開しており,修復は腹腔鏡下に縫合を施行した。手術診断は外傷性横隔膜ヘルニア,外傷学会分類Ⅲb型であった。術後11日目にCTで心囊液増加とヘルニア再発を認め,2ヵ月後に胸腔鏡下再修復術(メッシュ使用)を施行した。再手術後12ヵ月を経過した現在,再々発は認めていない。外傷性横隔膜ヘルニアに対する鏡視下手術治療は,損傷部が心囊に近接する場合は,腹腔鏡に比べて操作の容易な胸腔鏡下修復が望ましいと考えられた。

  • 北川 智介, 西村 隆一, 藤原 翔, 小山田 尚
    2020 年 40 巻 1 号 p. 79-83
    発行日: 2020/01/31
    公開日: 2020/09/30
    ジャーナル フリー

    播種性骨髄癌症は骨髄転移の一病型であり高率に播種性血管内凝固症候群(disseminated intravascular coagulation:以下,DIC)を合併し極めて予後不良な病態である。今回われわれは胃癌根治術後にDICを伴う播種性骨髄癌症を発症したが,化学療法によりDICからの離脱と生存期間の延長が得られた1例を経験したので報告する。症例は61歳女性で,胃癌に対して胃全摘術を施行された。StageⅢCの診断となり補助療法としてS–1を1年間内服した。手術から2年5ヵ月後に歯肉出血を主訴に外来受診し,精査の結果DICを伴う播種性骨髄癌症の診断となったが,S–1+CDDP療法を開始することによりすみやかにDICを脱して約10ヵ月の生存を得た。胃癌術後播種性骨髄癌症によるDICでは化学療法が奏効する可能性があることを念頭に置き,早期に診断を得て化学療法の開始を検討する必要があると考えられる。

  • 平野 利典, 原田 拓光, 海氣 勇気, 田崎 達也
    2020 年 40 巻 1 号 p. 85-88
    発行日: 2020/01/31
    公開日: 2020/09/30
    ジャーナル フリー

    症例は81歳,男性。右鼠径部膨隆を主訴に受診。右大腿ヘルニア嵌頓の診断で緊急手術を行った。前方到達法で手術を開始。大腿輪に嵌頓し壊死した小腸を確認した。小腸部分切除術と組織縫合法によるヘルニア修復術を行った。翌日より呼吸苦と酸素飽和度の低下が出現し,造影CT検査で両肺動脈内の造影欠損域を認め肺血栓塞栓症と診断した。さらに右大腿静脈狭窄および末梢静脈の造影効果の低下を認め,血流の停滞が示唆されたが静脈内血栓は指摘できなかった。血行動態は安定しており未分画ヘパリン持続静注での治療を開始し,術後6日目には肺動脈内血栓の縮小を認めた。ヘパリン静注をエドキサバン内服に変更し,術後18日目に退院となった。肺血栓塞栓症の塞栓源の多くは下肢あるいは骨盤内の静脈で形成された血栓とされ,本症例では術後の右大腿静脈狭窄が血栓形成の原因と推測されたので,大腿ヘルニア嵌頓例における注意すべき合併症として報告する。

  • 川谷 洋平
    2020 年 40 巻 1 号 p. 89-93
    発行日: 2020/01/31
    公開日: 2020/09/30
    ジャーナル フリー

    肝動脈瘤はまれな疾患であるが,破裂に至ると高率に致死的となるため,破裂する前に手術を行う必要がある。今回,肝動脈瘤切迫破裂に対してコイル塞栓術を施行し有効に治療し得たので報告する。生来健康であった70歳女性が,来院前日に発症し次第に増悪する心窩部痛と背部痛を訴えて救急外来を受診した。造影CTで総肝動脈に16mmの造影効果を有する囊状瘤を認めた。その他,症状の原因となる異常所見を認めなかった。肝動脈瘤切迫破裂として,緊急でコイル塞栓術を施行した。動脈瘤末梢側の総肝動脈,動脈瘤内,動脈瘤中枢側の総肝動脈にコイルを留置した。術中造影で動脈瘤内に血流が消失したことを確認した。側副血行路を維持するために,胃十二指腸動脈と腹腔動脈本幹から脾動脈の血流を温存するように留意した。術翌日より心窩部痛と背部痛は消失し合併症なく退院し,術後6ヵ月の観察期間において問題なく経過している。

  • 石津 賢一
    2020 年 40 巻 1 号 p. 95-97
    発行日: 2020/01/31
    公開日: 2020/09/30
    ジャーナル フリー

    症例は78歳,男性。1週間前より続く右下腹部痛を主訴に外来受診した。右下腹部に虫垂切除手術痕を認め,同部位に膨隆と圧痛を認めた。腹部造影CTで皮下から腹直筋直下に及ぶ軟部腫瘤影がみられ,内部には3cm程度の線状石灰化影を認めた。腹壁内異物による膿瘍形成と診断し,局所麻酔下に切開排膿ドレナージを行った。4ヵ月後,全身麻酔下に膿瘍および異物摘出を行った。膿瘍は腹膜外に存在し,異物・膿瘍を一塊として摘出した。異物は魚骨であった。今回われわれは魚骨による腹壁膿瘍に対して外来でドレナージ術を行い,後日根治手術を施行し治癒し得た1例を経験したため報告する。

  • 船水 尚武, 尾崎 貴洋, 中西 亮, 岡本 知実, 穂坂 美樹, 石井 智, 筒井 敦子, 大村 健二, 若林 剛
    2020 年 40 巻 1 号 p. 99-101
    発行日: 2020/01/31
    公開日: 2020/09/30
    ジャーナル フリー

    症例は74歳男性。前日より右下腹部痛を認め,翌日前医を受診された。精査加療目的で当科を紹介受診となった。血液検査で炎症反応が上昇し,腹部造影CTでMeckel憩室と思われる構造物内に石灰化を伴う異物を認めた。またその周囲に膿瘍形成と少量の腹水を認めた。問診結果も併せて,魚骨によるMeckel憩室穿孔と診断し,緊急手術を施行した。鏡視下にMeckel憩室を含む回腸部分切除術を施行した。術後は創感染を認めたものの,改善し術後10日目に退院となった。魚骨によるMeckel憩室穿孔に対する診断,および治療を兼ねた鏡視下アプローチは有用と考えられた。

  • 新井 相一郎, 室屋 大輔, 岡部 正之, 岸本 幸也
    2020 年 40 巻 1 号 p. 103-106
    発行日: 2020/01/31
    公開日: 2020/09/30
    ジャーナル フリー

    症例は78歳の女性。3日前から腹痛,嘔吐と下痢が出現し受診。血液検査所見で炎症反応が高値であり,造影CT検査で骨盤内に膿瘍を形成した穿孔性虫垂炎の診断で入院となった。超音波ガイド下経臀部膿瘍ドレナージと抗生剤加療を行ったところ,炎症所見が改善した。5ヵ月後に待機的腹腔鏡下虫垂切除術を施行し,合併症なく退院した。複雑性虫垂炎に対する待機的虫垂切除術は緊急虫垂切除術より手術成績が良好とされる。また複雑性虫垂炎に対する膿瘍ドレナージの有効性の報告も認めるが,骨盤内膿瘍に対する超音波ガイド下経臀部ドレナージの報告は認めない。今回われわれは骨盤内膿瘍を形成した複雑性虫垂炎に対して,超音波ガイド下経臀部膿瘍ドレナージを行い,待機的腹腔鏡下虫垂切除術を安全に施行し得た1例を経験したため報告する。

  • 鯨岡 学, 浅井 浩司, 渡邉 学, 森山 穂高, 渡邉 隆太郎, 斉田 芳久
    2020 年 40 巻 1 号 p. 107-109
    発行日: 2020/01/31
    公開日: 2020/09/30
    ジャーナル フリー

    症例は70歳台の女性。悪性胸膜中皮腫で他院加療中であった。腹痛,右鼠径部の膨隆で近医から搬送となり,右鼠径ヘルニア嵌頓に伴う小腸穿孔,腸閉塞の診断となった。緊急手術を考慮し,十分なインフォームドコンセントを施行したが,悪性胸膜中皮腫の終末期状態であることから同意が得られず,保存的加療を行う方針となった。対症療法としてイレウス管の挿入,右鼠径部の切開ドレナージ術を施行した。第8病日にはイレウス管の先端が小腸穿孔部を介してヘルニア囊内に脱出したため,脱出したイレウス管をガイドに鼠径部より腸瘻チューブを挿入し,穿孔部を介して消化管の減圧を行った。第17病日にイレウス管を抜去し,経口摂取を開始したが,腸閉塞は再燃せず,腸瘻チューブを挿入したまま第63病日に自宅へ退院となった。小腸穿孔を伴う鼠径ヘルニア嵌頓は通常緊急手術が必要であるが,保存的対症療法も可能な場合があると考えられた。

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