日本腹部救急医学会雑誌
Online ISSN : 1882-4781
Print ISSN : 1340-2242
ISSN-L : 1340-2242
36 巻, 4 号
選択された号の論文の27件中1~27を表示しています
原著
  • 嶋田 仁, 片山 真史, 小林 慎二郎, 小泉 哲, 大坪 毅人
    2016 年 36 巻 4 号 p. 693-697
    発行日: 2016/05/31
    公開日: 2016/11/30
    ジャーナル フリー

    妊娠中の急性虫垂炎は診断に難渋する場合が少なくない。また,微少な腹腔内感染であっても児娩出に至ることもあり,その診断治療には適切な対応が必要とされる。1998年から2014年に当院で経験した妊娠時虫垂炎症例について非妊娠時虫垂炎と比較検討した。その結果,25例のうち初期治療として16例は外科的切除,9例は保存的治療を行った。保存的治療9例のうち2例は治療抵抗性であり手術を必要とし,このうち1例は早産となった。手術を行った18例のうち2例は帝王切開後に虫垂切除を施行した。当院で入院加療を行った非妊娠時虫垂炎184例と比較すると,症状出現時から来院までの日数,白血球数,CRP,体温,脈拍,抗生剤投与日数に有意差を認めず,入院期間は有意に妊娠症例が長かった。診断,治療が遅れた妊娠中の虫垂炎は早産などのリスクが高く,診断方法や手術適応の判断に注意が必要である。

  • 上野 太輔, 松本 英男, 河合 昭昌, 窪田 寿子, 東田 正陽, 岡 保夫
    2016 年 36 巻 4 号 p. 699-703
    発行日: 2016/05/31
    公開日: 2016/11/30
    ジャーナル フリー

    目的:緊急手術を施行した急性胆囊炎の術後合併症の予測因子を検討した。対象と方法:2010年1月から2014年5月までに急性胆囊炎と診断し,緊急手術を行った134例を対象とした。合併症あり群(A群)が30例,合併症なし群(B群)が104例であった。結果:A群の平均在院日数は27.0日,B群の平均在院日数は10.3日であった(P<0.001)。単変量解析では,A群はB群と比較して70歳以上の年齢,肝硬変既往例,腹部手術既往例,担癌歴,重症例,開腹例,100mL以上の出血の各因子が有意な予測因子となった。多変量解析では,70歳以上の年齢,肝硬変既往例,開腹例が独立因子であった。結論:急性胆囊炎に対する緊急手術後合併症の予測因子は70歳以上の患者,肝硬変既往例,開腹例であった。上記に該当した症例の場合,より一層術後合併症発生に注意する必要があると考えられた。

  • 大原 みずほ, 松野 直徒
    2016 年 36 巻 4 号 p. 705-709
    発行日: 2016/05/31
    公開日: 2016/11/30
    ジャーナル フリー

    1995年から2012年に当科で経験したSMA閉塞症20例について検討した。平均年齢は77歳,男性12例,女性8例,心血管疾患の既往は19例(95%)に認め,術前診断率は80%(CT15例,血管造影1例)であった。16例で開腹手術,4例で血栓溶解療法を施行した。1例は血栓溶解療法後に腸管壊死のため手術を要した。在院死亡は9例(死亡率45%)で,手術例8例(死亡率50%),血栓溶解療法例1例(死亡率25%)であった。7例でsecond look surgeryを施行し,2例で腸管追加切除を要し,うち1例が死亡し,死亡率は14%であった。Second look surgeryを施行しなかった9例のうち7例が死亡,死亡率は78%と施行した症例より有意に高かった。予後改善のため,積極的にsecond look surgeryを施行することが必要と考えられた。

  • 富田 晃一, 壽美 哲生, 沖原 正章, 佐野 達, 高野 公徳, 千葉 斉一, 中村 有紀, 片柳 創, 河地 茂行
    2016 年 36 巻 4 号 p. 711-715
    発行日: 2016/05/31
    公開日: 2016/11/30
    ジャーナル フリー

    目的:憩室穿孔に対しても他の下部消化管穿孔と同様にprognostic scoring systemが適用可能かどうかを検討し,同systemの有用性を評価した。対象と方法:当施設で手術を行った81例を対象とした。憩室穿孔27例と他の下部消化管穿孔54例について,おのおのの背景因子・術後経過・prognostic scoring systemなどについて比較を行った。次に,憩室穿孔症例のうち生存群と死亡群について同様の比較を行った。結果:憩室穿孔と他の下部消化管穿孔の比較では,発症から来院までの時間のみ有意差を認めた。憩室穿孔の生存群と死亡群の比較では,術前の臓器障害を示す項目と,POSSUM scoreおよびMannheim Peritonitis Indexで有意差を認めた。結語:大腸憩室穿孔に対するprognostic scoring systemは他の下部消化管穿孔と同様に適用可能かつ有用である。

  • 森川 充洋, 五井 孝憲, 小練 研司, 村上 真, 廣野 靖夫, 片山 寛次, 山口 明夫
    2016 年 36 巻 4 号 p. 717-721
    発行日: 2016/05/31
    公開日: 2016/11/30
    ジャーナル フリー

    大腸癌穿孔は重篤な疾患であるが,救命の重視とともに長期予後の観点から治療方針を決める必要がある。当科で2000年1月から2013年12月に手術を施行した大腸癌穿孔21症例を対象に検討を行った。平均年齢76歳(50~100歳),穿孔部位は癌部口側9例,癌部12例で,遊離穿孔による腹膜炎症例は12例,進行度はstage Ⅱ/Ⅲ/Ⅳが7/9/5例であった。手術は,Hartmann手術9例,切除吻合9例,人工肛門造設3例であり,D2以上のリンパ節郭清を15例に施行した。周術期死亡率は4.8%,周術期合併症率は47.6%,他病死を除くdisease-specific survival rate(5年)は75%であった。再発症例をstage Ⅲの4例に認め,再発部位は肝・腹膜,肝・肺,腹膜,肝・肺・骨であった。治癒切除にて長期予後を期待できる可能性は十分あり,全身状態が許せば根治切除を目指すべきと考えられた。

症例報告
  • 箕輪 啓太, 高階 謙一郎, 下村 克己, 亀井 武志
    2016 年 36 巻 4 号 p. 723-726
    発行日: 2016/05/31
    公開日: 2016/11/30
    ジャーナル フリー

    腹痛・嘔吐を主訴に当院を受診し,胆石イレウスと診断された3例を経験したので報告する。症例1は78歳,男性。腹痛を主訴に他院を受診し,CTにて回腸に最大径4.0cmの結石を指摘された。手術目的に当院転院搬送され,胆石除去術を施行した。症例2は69歳,男性。消化器内科にて胆囊十二指腸瘻で通院中。嘔吐・腹痛を主訴に救急外来を受診し,CTにて最大径4.0cmの結石を指摘され,胆石除去術を施行。症例3は57歳,女性。嘔吐と間欠的な腹痛を主訴に救急外来を受診した。CTにて胆囊内に胆石1個,回腸内に落石胆石1個認めた。胆石イレウスに対して胆石除去術を施行した。第6病日に再び胆囊内の胆石が落石し,再び胆石イレウスが出現したために同日緊急手術を施行した。3症例ともに,胆石除去術のみで胆囊十二指腸瘻の根治術はせず外来通院にて経過観察となった。

  • 三宅 益代, 山本 淳, 佐藤 渉, 長嶺 弘太郎
    2016 年 36 巻 4 号 p. 727-731
    発行日: 2016/05/31
    公開日: 2016/11/30
    ジャーナル フリー

    症例は72歳,男性。ESD施行後胃癌に対して幽門側胃切除術,D1郭清,Billroth-Ⅰ (B-Ⅰ) 法再建を施行した。造影検査で縫合不全がないことを確認し経口摂取を開始,術後9日目に退院した。退院後,発熱・嘔吐が出現し当科受診した。血液検査では白血球数13,500/μL,CRP 26.19mg/dLと上昇し,腹部造影CT検査では胃十二指腸吻合部は一部離開し,周囲にair densityを含む液体貯留を認め,重症縫合不全と診断した。減圧チューブを用いて経鼻的に膿瘍腔のドレナージを開始した。減圧チューブの間欠吸引により膿瘍腔は縮小し,上部消化管内視鏡検査でも離開部の肉芽形成,粘膜再生を認めたため経口摂取を開始,第47病日目に退院した。重症縫合不全に対しては再手術や経皮的ドレナージが必要となることが多いが,今回われわれは,経鼻的ドレナージが奏功した症例を経験したため若干の文献的考察を加え報告する。

  • 川村 紘三, 片桐 義文
    2016 年 36 巻 4 号 p. 733-737
    発行日: 2016/05/31
    公開日: 2016/11/30
    ジャーナル フリー

    症例は88歳,男性。便秘,腹痛を主訴に当院を受診した。腹部は膨満し筋性防御を認めた。CT検査でS状結腸の壁肥厚,口側結腸の拡張,後腹膜に便塊を伴った気腫像,縦隔気腫,両側頸部に皮下気腫を認めた。S状結腸穿孔性腹膜炎の診断で緊急手術を施行した。S状結腸の腸間膜側に2cm大の穿孔部位が存在し,肛門側に全周性の腫瘍を認めS状結腸癌閉塞による大腸穿孔と診断しハルトマン手術を施行した。術後は集学的治療を施行し,経過は良好で術後48日目に退院した。本邦で縦隔気腫を伴う大腸穿孔は12例の報告があるのみである。後腹膜気腫,縦隔気腫,皮下気腫と広範な気腫を形成したS状結腸穿孔症例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する。

  • 呉 一眞, 盧 尚志, 杉本 起一, 神山 博彦, 高橋 玄, 柳沼 行宏, 小島 豊, 五藤 倫敏, 坂本 一博
    2016 年 36 巻 4 号 p. 739-744
    発行日: 2016/05/31
    公開日: 2016/11/30
    ジャーナル フリー

    症例は92歳,女性。腸閉塞の診断で紹介入院となった。腹部CT検査で左閉鎖孔ヘルニア嵌頓による腸閉塞と診断し,腹腔鏡手術を施行した。左閉鎖孔に嵌頓した小腸を認め,フォリーカテーテル®をヘルニア囊に挿入し,生理食塩水を注入する水圧法で整復した。嵌頓小腸に非可逆性の変化はみられなかったので,メッシュシートを用いてヘルニア修復術を施行した。術後の経過は良好で,12日目に退院となった。腹腔鏡手術の進歩に伴い,閉鎖孔ヘルニアの治療に対して腹腔鏡手術が選択される症例が増えてきている。今回腹腔鏡手術において,鉗子で腸管を過度に牽引することなく,水圧法を用いて安全に整復することができた。嵌頓腸管の解除法として,水圧法はまず試みるべき整復法であると考えられた。また,ヘルニア門の修復方法は,腹腔内の汚染の有無を確認して慎重に判断するべきである。

  • 松岡 俊三
    2016 年 36 巻 4 号 p. 745-747
    発行日: 2016/05/31
    公開日: 2016/11/30
    ジャーナル フリー

    75歳,男性。受診当日18時頃腹痛を発症し近医受診。造影CT検査で上腸間膜動脈(superior mesenteric artery:SMA)塞栓症と診断され,外科的治療を念頭に当院紹介。造影CT検査ではSMAに血栓像をみとめるものの,下腸間膜動脈からのアーケードを介しSMA領域への血流がみられた。時間経過とCT検査所見より,まず経カテーテル的に血行再建を試みた。腹部血管造影にてSMA内に血栓と末梢血流の途絶を確認。挿入したカテーテルから血栓吸引を行い,暗赤色の血栓が多量に吸引され再開通を得た。腹痛は改善。フォローの造影CT検査でも腸管への血流は良好で,腸管壊死を免れた。昨今,血管内治療の適応は拡大し,血栓性病変に対する血栓吸引の手技やデバイスも改善が進んでいる。今後SMA塞栓症に対する有効かつ低侵襲な治療として,経カテーテル的血栓吸引療法が有力な選択肢となる場合があると考えられた。

  • 山岸 俊介, 窪田 信行, 中田 泰彦, 神野 大乗
    2016 年 36 巻 4 号 p. 749-752
    発行日: 2016/05/31
    公開日: 2016/11/30
    ジャーナル フリー

    症例は64歳,男性。嘔吐,発熱を主訴として受診した。腹部CTにて後腹膜両側に及ぶ気腫像と膿瘍形成を認めた。保存的加療を行ったが,膿瘍は増大傾向であったため,経皮的後腹膜膿瘍ドレナージ術を施行した。しかし,ドレナージが不十分であったため,開腹洗浄ドレナージ術を施行した。明らかな原因は不明であり,広範囲に及ぶ特発性後腹膜膿瘍と診断した。抗菌薬投与,ドレナージ治療を継続し,入院後4ヵ月目に退院となった。比較的まれな広範囲に及ぶ特発性後腹膜膿瘍を経験したので報告する。

  • 松井 博紀, 宇根 良衛, 寺崎 康展, 中川 智徳, 長渕 英介, 佐藤 裕二
    2016 年 36 巻 4 号 p. 753-756
    発行日: 2016/05/31
    公開日: 2016/11/30
    ジャーナル フリー

    79歳,女性。鮭を摂取した2日後心窩部痛をきたし,4日目に救急車で来院した。血液検査上炎症反応高値で,CT検査にて上腹部に線状の高信号域がみられ,魚骨による穿孔性腹膜炎と診断し,緊急開腹手術を施行した。Treitz靭帯付近の十二指腸に白苔が付着しており,腹水もみられた。十二指腸を口側に剥離し,長さ約3cmの鮭骨を摘出,穿孔部を縫合閉鎖した。術後経過は良好であった。われわれが渉猟した最近の魚骨による十二指腸穿孔症例に自験例を加えた6例中5例では開腹手術が施行され,良好な経過をとっているが,診断と魚骨除去が遅れると肝または膵臓への穿通など重篤な合併症をきたす可能性があったと思われる。魚骨による十二指腸Treitz靭帯部の穿孔は比較的まれであり,術前診断にはMDCTによる迅速な画像診断が有用である。

  • 平井 隆仁, 村上 雅彦, 普光江 嘉広, 大塚 耕司, 藤政 浩一朗, 李 雨元, 李 雅弘, 山崎 達哉, 新谷 隆, 五藤 哲, 藤森 ...
    2016 年 36 巻 4 号 p. 757-760
    発行日: 2016/05/31
    公開日: 2016/11/30
    ジャーナル フリー

    誤飲された異物は,幽門輪を通過すれば,通常は自然排泄されるとされる。今回われわれは,合成樹脂製の形状記憶能を持つボールを誤飲し,小腸閉塞をきたした症例を経験したので報告する。77歳,女性。既往に認知症。嘔吐を主訴に当院に救急搬送された。緊急上部消化管内視鏡で,十二指腸水平脚に異物を確認できたが,摘出困難であった。経過観察の3日後に腸閉塞症状増悪し手術を施行した。手術所見では,空腸に嵌頓した異物が触知され,腸管を小切開し摘出した。術後は問題なく軽快退院した。本玩具のような柔軟性のある合成樹脂は,性質上粘着性も高く小腸内で停滞することもあり,緊急手術を念頭に置いた慎重な観察が必要であると思われた。また,高齢化社会における認知症患者の増加から,異物誤飲は,高齢者においても問題であり,今後注意が必要と思われた。

  • 山本 澄治, 久保 雅俊, 宇高 徹総
    2016 年 36 巻 4 号 p. 761-765
    発行日: 2016/05/31
    公開日: 2016/11/30
    ジャーナル フリー

    症例は56歳の女性。潰瘍性大腸炎の治療中に上腸間膜静脈血栓症を発症した。門脈から上腸間膜静脈まで広範な血栓を認めたが腹部症状は軽微であり,当初保存治療を選択し,ヘパリン投与を開始した。しかし,保存加療中も高熱が持続し,CT検査にて限局した回腸末端の浮腫の残存を認めたため,非可逆的な腸管虚血の残存を疑い,診断後8日目に回腸部分切除術を施行した。術直後よりヘパリン投与を再開したが,術後4日目に血小板数の減少をきたした。ヘパリン起因性血小板減少症(heparin induced thrombocytopenia)が疑われ,同日よりヘパリンの代替薬として抗トロンビン薬(アルガトロバン)の投与を開始した。ヘパリン中止後5日目に血小板数は上昇に転じた。HIT抗体は陽性でHITⅡ型の診断となった。今回上腸間膜静脈血栓症に対する抗凝固薬治療中にHITを発症した1例を経験したので報告する。

  • 菖野 佳浩, 臼田 昌広, 望月 泉
    2016 年 36 巻 4 号 p. 767-772
    発行日: 2016/05/31
    公開日: 2016/11/30
    ジャーナル フリー

    症例は61歳,男性。7年前に右腎細胞癌に対して右腎摘出術を受けている。当院泌尿器科で経過観察され無再発生存中であった。突然の上腹部痛を主訴として当院救急外来を受診した。上腹部に圧痛を認めたため,CT検査を施行した。単純CT画像で胆囊内に出血と思われる高吸収域を認め,造影CT早期相で胆囊壁に14mm大の濃染する腫瘤を認め,胆囊出血を伴う胆囊腫瘍と診断した。出血性胆囊腫瘍に対して開腹胆囊摘出術を施行した。摘出胆囊内には凝固血液と胆汁が混じった暗赤色の液体があり,18mm大の遊離した胆囊腫瘍が含まれていた。腫瘍基部は肉眼的には不明であった。病理組織学的に淡明細胞癌の所見であり,既往の腎細胞癌の胆囊転移と診断した。腎細胞癌胆囊転移は多血性腫瘍であり,胆囊出血による胆道閉塞,急性胆囊炎といった急性腹症を発症する可能性があるため報告する。

  • 大塚 恭寛
    2016 年 36 巻 4 号 p. 773-776
    発行日: 2016/05/31
    公開日: 2016/11/30
    ジャーナル フリー

    症例は開腹歴のない妊娠22週の36歳女性で,腹痛・嘔吐を主訴に当院を救急受診。バイタルサインは安定していたが,腹部膨満・上腹部の圧痛・Blumberg徴候を認め,腹部単純X線にてniveau像を認めた。血液検査で炎症反応を認め,腹部造影CTで右上腹部に隣接する2つのbeak signを伴うclosed loopと少量の腹水を認め,絞扼性腸閉塞を強く疑った。胎児超音波検査・心拍数陣痛図にて胎児の状態は良好であったため,妊娠継続下での緊急手術を選択。開腹すると,横行結腸間膜に生じた径25mmの異常裂孔を通じて20cm長の回腸係蹄が網囊内に嵌入しており,横行結腸間膜裂孔ヘルニアと診断した。嵌入腸管は用手的牽引にて比較的容易に整復され,肉眼的にうっ血は認めたものの腸管・腸間膜に虚血障害はないと判断して腸切除は行わず,裂孔を縫合閉鎖した。術後は母体・胎児とも経過良好で,術後15日目に軽快退院した。

  • 村木 輝, 有田 淳, 小松 茂治, 高橋 和裕, 大山 莉奈, 三島 圭介, 黒田 誠司, 鈴木 英之, 内田 英二
    2016 年 36 巻 4 号 p. 777-780
    発行日: 2016/05/31
    公開日: 2016/11/30
    ジャーナル フリー

    腫瘤形成性虫垂炎を伴い保存的加療後にlaparoscopic interval appendectomyを施行した虫垂子宮内膜症の1例を経験したので報告する。症例は38歳,女性。右下腹部痛を主訴に来院。来院時の腹部造影CT所見では内腔に小石灰化を伴う盲腸と連続する腫瘤影を認めた。各種腫瘍マーカーはいずれも正常域であった。腫瘤形成性虫垂炎の診断とし,抗生剤点滴による保存的加療を行った。退院3ヵ月後にlaparoscopic interval appendectomyを施行した。手術所見では虫垂末梢側が限局性に腫大,屈曲していた。摘出標本の病理組織学的所見では虫垂体部より先端にかけ筋層内ならびに漿膜下組織に子宮内膜組織を認め,虫垂子宮内膜症と診断した。生殖年齢女性の虫垂炎においては本疾患の可能性も念頭におくべきであり,確定診断後は他部位の異所性内膜症の検索についても重要であると考えられた。

  • 水村 直人, 小川 雅生, 奥村 哲, 豊田 翔, 今川 敦夫, 川崎 誠康
    2016 年 36 巻 4 号 p. 781-785
    発行日: 2016/05/31
    公開日: 2016/11/30
    ジャーナル フリー

    閉塞性ショックは迅速な診断と治療を必要とする。だが,腹部コンパートメント症候群(ACS)により閉塞性ショックが生じることはあまり知られていない。79歳の男性が腹痛で救急搬送され,CT検査後に急激な呼吸状態悪化と血圧低下を認めた。身体所見では腹部緊満,CT検査では著明な小腸拡張による下大静脈圧排を認めた。腸閉塞に伴うACSと診断し,救急室で開腹すると呼吸循環動態が急激に改善した。腸管壊死は認めず,腸閉塞の原因は癒着であった。ACSは腹腔内圧が上昇し閉塞性ショックを生じる。腹腔内圧測定ができない急変時の診断は困難であるが,救命には開腹減圧術が必要である。また本邦報告例の約半数でも腹腔内圧が測定されていないが,ACSを生じる可能性がある患者では定期的な腹腔内圧測定を行い,手術時期を見極める必要がある。

  • 郷右近 祐介
    2016 年 36 巻 4 号 p. 787-789
    発行日: 2016/05/31
    公開日: 2016/11/30
    ジャーナル フリー

    症例は16歳,男性。既往に先天性腎性尿崩症があり1日10Lほど飲水している。穿孔性虫垂炎と汎発性腹膜炎の術前診断で,腹腔鏡下虫垂切除術を施行した。術中所見は壊疽性虫垂炎であり,穿孔はなかった。術後は血清電解質,血糖,尿量を2時間ごとにモニタリングした。最低限の電解質を補うため,3号液80mL/hを投与し,加えて2時間尿量を5%糖液で等量還元した。制限なく飲水再開とするまでの12時間で輸液量6,670mL,尿量7,000mL,血清Naは138mEq/Lから148mEq/Lで推移した。術後第1病日に食事再開し,経過良好で術後第3病日に退院となった。本疾患患者に一般的な細胞外液による輸液管理を行えば高浸透圧血症により重篤な神経学的後遺症を残す可能性がある。手術施行を余儀なくされた場合,頻回の採血・尿量モニタリングを行い,可及的早期に水分再開を図るべきである。

  • 西村 潤也, 寺岡 均, 山越 義仁, 高田 晃次, 南原 幹男, 瀬良 知央, 野田 英児, 西野 裕二
    2016 年 36 巻 4 号 p. 791-795
    発行日: 2016/05/31
    公開日: 2016/11/30
    ジャーナル フリー

    症例は71歳,男性。脳梗塞にて入院中であった。嘔吐および腹部膨満が出現し,イレウスの診断でイレウス管挿入を行った。保存的加療にて軽快したため精査を行ったが器質的病変は認めず,抗精神病薬の長期内服に伴う麻痺性イレウスと診断した。イレウス管抜去後8日目にイレウスが再燃したため,イレウス管の再挿入を行った。翌日イレウス管の排液が血性に変化し,腹部単純CT検査にて腸重積症と診断し緊急手術を施行した。術中Treitz靭帯より20cm肛門側の空腸がイレウス管のバルーンを先進部として肛門側空腸に順行性に重積している所見を認めた。重積腸管は壊死しており空腸部分切除術を施行した。摘出標本に腸重積症の原因となるような病変を認めず,イレウス管留置を契機とした腸重積症と診断した。腹部手術歴のない麻痺性イレウスに対するイレウス管留置が原因で発症した腸重積症の1例を経験したため,文献的考察を加え報告する。

  • 黒田 雅利, 池田 英二, 辻 尚志, 横山 伸二, 高木 章司, 山野 寿久
    2016 年 36 巻 4 号 p. 797-802
    発行日: 2016/05/31
    公開日: 2016/11/30
    ジャーナル フリー

    症例は63歳,男性。陰囊腫大の増悪を主訴に当科受診。会陰から陰囊にかけて圧痛,握雪感を認めた。血液検査ではWBC:21,900/μL,CRP:45.64mg/dLと炎症反応を認め,HbA1cも11.4%と上昇していた。CTでは陰囊から直腸周囲,下腹部腹壁の腹膜外腔にガスと液体貯留を認め,下部直腸壁の肥厚があり直腸癌によるフルニエ症候群を疑い,同日切開ドレナージ,デブリードマン,人工肛門造設術を施行。ドレナージ後15日目よりVacuum Assisted ClosureⓇ療法(VAC療法)を行い, ドレナージ後46日目に腹腔鏡下直腸切断術(D2郭清)を施行。病理結果はpT4b(Ai: seminal vesicle),pN1,M0,pStage Ⅲaであった。術後15日目に尿道のleakがあり膀胱瘻を造設,術後76日目に退院となった。フルニエ症候群を合併した直腸癌の1例を経験したので報告する。

  • 太白 健一, 小泉 大, 高橋 大二郎, 丸山 博行
    2016 年 36 巻 4 号 p. 803-806
    発行日: 2016/05/31
    公開日: 2016/11/30
    ジャーナル フリー

    症例は35歳の男性。突然の間欠的腹痛で発症し,当院救急外来を受診した。心窩部から右下腹部にかけての腹痛と右下腹部の反跳痛,軽度の炎症反応の上昇,腹部造影CT検査で上行結腸に腫瘤性病変とターゲットサインを認めた。以上より腫瘍を先進部とした腸重積症と診断し,緊急手術を施行した。術中所見では,回腸―結腸型の腸重積を認めた。Hutchinson手技で整復すると,先進部の盲腸に腫瘤を触知したため,大腸癌に準じて回盲部切除術(D2郭清)を施行した。術後経過は良好で,第9病日に退院した。術後の病理組織学検査で腫瘍は盲腸リンパ管腫と診断した。成人腸重積症は,腸重積症全体の5%と比較的まれであり,消化管リンパ管腫はリンパ管腫全体の0.1%以下と極めてまれな疾患である。今回,盲腸リンパ管腫が先進部となり成人腸重積症を発症した極めてまれな1例を経験したので,文献的考察を加え報告する。

  • 今井 勇伍, 井上 明星, 大田 信一, 高木 海, 中川 達也, 友澤 裕樹, 渡辺 尚武, 新田 哲久, 村田 喜代史, 貝田 佐知子, ...
    2016 年 36 巻 4 号 p. 807-811
    発行日: 2016/05/31
    公開日: 2016/11/30
    ジャーナル フリー

    症例は89歳,男性。7ヵ月前に胃癌に対して胃全摘術を施行され,再発なく経過していた。経過観察のため定期受診でCTを撮影した翌日に,腹痛と強い背部痛を訴え救急外来を受診。造影CTで,絞扼性小腸閉塞と拡張腸管による下大静脈閉塞,および脊柱管内の静脈である前内椎骨静脈叢の拡張を認めた。これらの所見は前日に撮影されたCTでは認めなかった。絞扼性小腸閉塞に対して緊急開腹手術を施行され,術後には腹痛,背部痛の訴えは消失した。術後9日目の造影CTで下大静脈の閉塞と前内椎骨静脈叢の拡張はともに消失しており,術後36日目に退院となった。腹痛は絞扼性小腸閉塞が原因と考えられたが,強い背部痛は下大静脈閉塞により拡張した前内椎骨静脈叢による脊髄および神経根の圧迫が原因と考えられた。

  • 小寺澤 康文
    2016 年 36 巻 4 号 p. 813-817
    発行日: 2016/05/31
    公開日: 2016/11/30
    ジャーナル フリー

    胆囊捻転症は比較的まれな疾患である。今回,当科において胆囊捻転症の6例を経験した。全例で胆囊摘出術を施行し,うち2例に対し腹腔鏡下胆囊摘出術を行った。本邦での同症例報告例と,当科にて緊急手術を行った胆囊結石症・急性胆囊炎症例とを比較すると,胆囊捻転症において,高齢,痩せ型の患者が多く,胆囊結石の合併が少なかった。同症のみに特異的な臨床所見は乏しく,術前診断としてはCTの多断面再構成像が有用であった。治療法としては原則手術が必要であり,特に腹腔鏡下胆囊摘出術が有用で安全に施行可能と思われる。

  • 能浦 真吾, 大植 雅之, 三吉 範克, 安井 昌義
    2016 年 36 巻 4 号 p. 819-822
    発行日: 2016/05/31
    公開日: 2016/11/30
    ジャーナル フリー

    症例は57歳,男性。咽頭癌・食道癌の術前検査にて直腸原発神経内分泌腫瘍を指摘された。咽頭癌・食道癌に対する手術終了後,直腸原発神経内分泌腫瘍に対して経肛門的局所切除(病変を一括全層切除の後,欠損部は閉鎖)を施行した。術直後より発熱を認め,白血球,CRPの高値を認めた。腹部に腹膜炎の所見は認めなかった。腹部CT検査にて腹腔内に遊離ガス像は認めないが,直腸周囲の後腹膜や腸間膜内にガス像を認め後腹膜気腫と診断した。絶飲食,抗生剤にて保存的に経過観察を行ったが,循環動態が不安定となったため,S状結腸による双孔式人工肛門造設術を術後3日目に施行した。人工肛門造設後は順調に炎症所見も低下し,循環動態も改善し軽快退院となった。経肛門的局所切除は通常の経腹的腸管切除に比べて術後合併症は低い。非常にまれではあるが,後腹膜気腫などを認めることが報告されており注意が必要である。

  • 山地 康大郎, 隅 健次, 田中 聡也
    2016 年 36 巻 4 号 p. 823-828
    発行日: 2016/05/31
    公開日: 2016/11/30
    ジャーナル フリー

    子宮全摘後に膣断端離開により小腸脱出をきたした2症例を経験したので報告する。症例1は33歳,女性。卵巣腫瘍に対し腹腔鏡下子宮全摘,付属器切除を施行され,術後2ヵ月目の性交渉直後より腹痛を自覚し当院を受診した。膣より小腸の脱出あり緊急手術を施行された。膣断端が離解し回腸が80cmにわたり嵌頓していた。腸管壊死はなし。膣断端閉鎖を施行された。また総腸間膜症が認められた。症例2は53歳,女性。子宮筋腫に対し腹式子宮全摘を施行され,術後2ヵ月目に排便後,腹痛と膣脱出物を自覚し当院を受診した。膣より小腸の脱出あり緊急手術を施行された。膣断端が離解し回腸が1mにわたり嵌頓していた。腸管壊死はなし。膣断端閉鎖を施行された。本症でも総腸間膜症あり。子宮全摘後の膣断端離開はまれな合併症だが,小腸嵌頓が生じると症状が激烈であるため緊急手術の必要がある。また総腸間膜症が小腸脱出を助長する一因となることが示唆された。

  • 高橋 遼, 林 英司, 蟹江 恭和, 岡田 禎人
    2016 年 36 巻 4 号 p. 829-832
    発行日: 2016/05/31
    公開日: 2016/11/30
    ジャーナル フリー

    症例は21歳,男性。乗用車同士の交通事故で救急搬送された。全身CT検査で,左横隔膜損傷Ⅲb型(lR3)Stを認めた。呼吸状態が悪かったため気管挿管を行い,緊急手術が必要と判断した。意識障害を認めたが循環動態は安定しており,鏡視下手術も可能と考え,緊急で鏡視補助下に横隔膜修復術を施行した。術中所見では,左横隔膜に径約10cmの穿孔を認め,胃が嵌頓していた。嵌頓を整復した後,腹腔内・胸腔内を観察したが,その他の損傷は認めなかった。横隔膜は鏡視補助下小開腹にて縫合閉鎖した。術後経過良好であった。外傷性横隔膜損傷に対して,緊急手術を要する場合には開胸・開腹下で行うことが一般的であるが,待機的手術が可能の場合には,鏡視下手術の報告が増えてきており,術後の整容性が評価されている。今回われわれは,鏡視補助下で緊急手術を安全に施行できた外傷性横隔膜損傷の1例を経験した。

feedback
Top