日本腹部救急医学会雑誌
Online ISSN : 1882-4781
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ISSN-L : 1340-2242
39 巻, 4 号
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特集:Complicated appendicitisの診断と治療戦略
  • 松田 圭二, 岡田 有加, 大野 航平, 八木 貴博, 塚本 充雄, 福島 慶久, 堀内 敦, 島田 竜, 小澤 毅士, 端山 軍, 土屋 ...
    2019 年 39 巻 4 号 p. 629-635
    発行日: 2019/05/31
    公開日: 2020/05/27
    ジャーナル フリー

    近年,壊疽性および穿孔性の虫垂炎が複雑性虫垂炎(complicated appendicitis:以下,CA)とよばれ注目されている。本稿では,CAの現状と関与因子について概説する。当科で治療された虫垂炎手術症例196例は,CA群が89例45%,非CA群が107例55%であった。CA群は非CA群よりも男性が多く,年齢やBMIが高く,白血球数とCRPが高く,緊急手術や回盲部切除が多く,手術時間が長く,出血量が多く,切開創も長く,ドレーン留置が多く,術後合併症も多く,入院期間も長かった。CA群の有意なリスク因子は,CRP 1.83mg/dL以上,白血球数14,200/μL以上,年齢35歳以上であった。ガイドラインでは,●穿孔性急性虫垂炎では腹腔鏡下手術を行ってもよい,●腹膜炎の症状がない腫瘤形成性の虫垂炎には非手術を選択してもよい,●CAでは術後抗菌薬が推奨される,●CAでは経皮的ドレナージも選択される,であった。CAで緊急手術をしない場合は,悪化する可能性を考慮し,患者を慎重にフォローアップすることが肝要である。

  • 山本 澄治, 谷口 厚樹, 松本 尚也, 浅野 博昭, 久保 雅俊, 宇高 徹総
    2019 年 39 巻 4 号 p. 637-644
    発行日: 2019/05/31
    公開日: 2020/05/27
    ジャーナル フリー

    急性虫垂炎に対し保存加療が奏効しないと合併症として複雑性虫垂炎に進行するため,選択薬の効果の確認が重要である。われわれは保存加療導入後に汎発性腹膜炎所見の出現と白血球数値の経時変化の2項目を重視した効果判定を繰り返し,その有効性を治療成績から後方視的に検討した。2012年度の50例でROC曲線から複雑性虫垂炎進行例のCut Off値を設定し,24時間以内に初診時と比較して白血球数値が80%以上を維持するものとした。2013年度から汎発性腹膜炎の出現は緊急手術,保存加療継続例は翌朝の白血球数値80%以上で抗菌薬を変更し,48時間以内に手術判断とする治療戦略を立てた。これを厳密に確認した72例と従来法197例で検討した。手術26例,保存加療46例(抗菌薬変更8例,手術移行なし)で,複雑性虫垂炎進行例はなく有意に減少した。腹膜炎所見と24時間以内の白血球数値80%の指標は虫垂炎治療に有効と考えた。

  • 長田 俊一, 杉田 光隆
    2019 年 39 巻 4 号 p. 645-648
    発行日: 2019/05/31
    公開日: 2020/05/27
    ジャーナル フリー

    急性虫垂炎手術症例の画像診断を含めた術前所見から,壊疽性・穿孔性虫垂炎を予測する因子を後方視的に検討した。2005年4月より2009年12月までに切除した虫垂炎症例368例を対象とし,年齢,体温,筋性防御,白血球数,CRP,CT所見(虫垂内糞石,虫垂腫脹,虫垂周囲の脂肪織濃度の上昇,腹水)を2群に分け,予測因子について二項ロジスティック解析を用い検索した。壊疽性・穿孔性虫垂炎は,189例(51.4%)。予測因子は,単変量解析で体温,筋性防御,CRP,CT所見の虫垂周囲の脂肪織濃度の上昇,腹水。多変量解析でCRP,体温,CT所見の虫垂周囲の脂肪織濃度の上昇。壊疽性・穿孔性虫垂炎である確率は,陽性因子数2で75.5%,3で92.3%。2因子以上陽性の場合,外科的治療を優先する必要があると考えられた。

  • 原 敬介, 山田 岳史, 小泉 岐博, 進士 誠一, 松田 明久, 太田 竜, 横山 康行, 高橋 吾郎, 堀田 正啓, 武田 幸樹, 上田 ...
    2019 年 39 巻 4 号 p. 649-653
    発行日: 2019/05/31
    公開日: 2020/05/27
    ジャーナル フリー

    複雑性虫垂炎(以下,CA)に対する待機的虫垂切除術(以下,IA)は緊急虫垂切除術(以下,EA)より手術成績が良好だが,その中には逸脱症例が存在する。逸脱症例の治療成績からCAに対するIAの妥当性を検討した。2011年1月から2017年8月にCAと診断した165例を対象とし,EA,IA成功群(以下,IA-S),IA逸脱群(以下,IA-F)に分類し手術成績と入院日数を比較した。EA:95例,IA-S:53例,IA-F:17例だった。術後合併症率はEA:37.9%,IA-S:7.5%,IA-F:11.7%で,IA-SとIA-FはEAよりも低かった。出血量,手術時間ともにIA-SはEAより良好で,IA-FとEAは同等であった。総入院日数はEA:10日,IA-S:13日,IA-F:10日で,EAとIA-Fの入院日数は同等であった。IAは合併症率が低く,逸脱してもEAに劣らない。IAはCA治療の第1選択として妥当である。

  • 道傳 研太, 稲木 紀幸, 山本 大輔, 北村 祥貴, 角谷 慎一, 伴登 宏行
    2019 年 39 巻 4 号 p. 655-661
    発行日: 2019/05/31
    公開日: 2020/05/27
    ジャーナル フリー

    膿瘍形成性虫垂炎に対する治療戦略は緊急手術かinterval appendectomy(以下,IA)かという選択の議論に加えて,腹腔鏡手術が選択肢に加わり,治療戦略は多様化している。Laparoscopic IA(以下,LIA)は広く行われているが,laparoscopic emergency appendectomy(以下,LEA)との比較検討は十分になされていない。今回われわれは2007〜2016年にLIAを予定した31例を対象とし,同時期にLEAを施行した症例から31例をマッチングし,解析した。術後合併症はLIA群では認めず,LEA群で8例(25.8%)認めた(P=0.01)。術後在院日数の中央値はLIA群で4日,LEA群で7日であり,LEA群で長かった(P=0.007)。総在院日数の中央値はLIA群で16日,LEA群で8日であり,LIA群で長い結果となった(P<0.0001)。

  • 開腹術との比較
    緒方 健一, 山根 大侍, 武山 秀晶, 小川 克大, 林 洋光, 増田 俊郎, 赤星 慎一, 松本 克孝, 生田 義明, 髙森 啓史
    2019 年 39 巻 4 号 p. 663-667
    発行日: 2019/05/31
    公開日: 2020/05/27
    ジャーナル フリー

    膿瘍形成を伴う穿孔性虫垂炎では,抗生剤投与後やドレナージ後のinterval appendectomy症例が増加傾向にある。一方,膿瘍形成のない穿孔例では,緊急での腹腔鏡下手術の有用性は明らかでない。2011年から2017年までに穿孔性虫垂炎の診断において緊急で虫垂切除術を施行した症例68例を対象とした。腹腔鏡完遂群(腹腔鏡群:n=53),と開腹群(開腹群:n=15,腹腔鏡からの移行を含む)の2群に分け,手術関連因子と術後早期アウトカムについて比較検討した。手術時間は両群間に有意差を認めず,出血量は腹腔鏡群が有意に少量であった(15.1g vs 82.7g,P<0.001)。術後麻痺性イレウスやsurgical site infection発生は両群間に有意差を認めず,術後在院日数は腹腔鏡群が有意に短かった(腹腔鏡群8日,開腹群14日,P<0.001)。非膿瘍形成性穿孔性虫垂炎に対する腹腔鏡手術は,術後合併症を増加させることなく術後在院日数は短縮され,有用であった。

  • 岡村 裕輔, 岸 和樹, 岡田 俊裕, 中右 雅之, 池田 房夫, 森 毅, 沖野 孝
    2019 年 39 巻 4 号 p. 669-673
    発行日: 2019/05/31
    公開日: 2020/05/27
    ジャーナル フリー

    虫垂炎に対する腹腔鏡下虫垂切除術が標準アプローチとなり,穿孔性虫垂炎を含む複雑性虫垂炎に対しても腹腔鏡下に適切に対応する必要がある。当科における穿孔性虫垂炎に対する治療成績を検討した。2014年1月から2018年10月の急性虫垂炎に対する虫垂切除術274例を対象とした。①緊急腹腔鏡下虫垂切除術122例中,36例(29.5%)で虫垂穿孔を認め,非穿孔例と比して,手術時間の延長・合併症の増加・在院期間の延長を認めた。②穿孔性虫垂炎に対する腹腔鏡下手術36例と開腹手術14例の比較では,ドレーン留置は腹腔鏡下手術で少なかったが,合併症や術後在院期間は同等であった。③虫垂穿孔に伴う汚染範囲について,限局汚染22例と広範囲汚染14例の比較では,術後アウトカムへの影響は認めなかった。穿孔性虫垂炎に対する腹腔鏡下手術は,単純性虫垂炎と比較すると術後合併症に注意を要するが,従来の開腹手術同様に標準術式となりうる。

症例報告
  • 宮永 章平, 森 和也, 尾島 英介, 道輪 良男, 中野 達夫
    2019 年 39 巻 4 号 p. 675-678
    発行日: 2019/05/31
    公開日: 2020/05/27
    ジャーナル フリー

    症例は38歳,女性。食後の腹痛,嘔吐を主訴に近医を受診し,急性腹症の診断で当院へ紹介となる。腹部エコーおよびmultidetector row computed tomography(以下,MDCT)で,内部に腸石を有するMeckel憩室炎と診断し,保存的加療により一旦軽快を得た。腸石を伴うことより,炎症の再燃や穿孔のリスクを考慮し,単孔式腹腔鏡下Meckel憩室切除術を施行した。Meckel憩室の多くは良性疾患であることが多く,比較的若年者に発症することより,診断・治療に関して可能な限り低侵襲であることが望ましく,比較的低侵襲であると考えられる,腹部エコーやMDCT,および単孔式腹腔鏡手術は有用な可能性がある。

  • 渡邉 美帆, 藤﨑 滋, 高階 幹, 富田 凉一, 櫻井 健一, 増田 しのぶ
    2019 年 39 巻 4 号 p. 679-682
    発行日: 2019/05/31
    公開日: 2020/05/27
    ジャーナル フリー

    症例は74歳女性。前日より腹痛があり内服加療で改善せず当院を受診した。右上腹部に圧痛がみられたが腹膜刺激兆候はなかった。血液検査では白血球数,CRP値,アミラーゼ値の軽度上昇を認めた。腹部CT検査で十二指腸下行脚付近の脂肪織濃度上昇,後腹膜に液体貯留,胆囊壁の軽度肥厚がみられた。十二指腸など後腹膜臓器の穿孔を疑い,緊急開腹術を施行した。開腹すると,十二指腸下行脚から上行結腸の腹側で壁側腹膜下に黒褐色の液貯留が透見され,胆囊漿膜下にも同様の液貯留が透見でき,Morison窩にも少量の胆汁性腹水を認めた。Kocher授動を行ったが十二指腸など後腹膜臓器の穿孔は認めず,胆囊底部に小穿孔部を確認できた。胆囊漿膜下を経由して後腹膜腔に胆汁が穿破したと考え,胆囊摘出術・腹腔ドレナージ術を施行した。術後経過良好で11日目に退院した。後腹膜に胆汁貯留をきたした病態について考察を加えて報告する。

  • 田中 健士郎, 横山 裕之
    2019 年 39 巻 4 号 p. 683-686
    発行日: 2019/05/31
    公開日: 2020/05/27
    ジャーナル フリー

    高マグネシウム(以下,Mg)血症は,多くが腎機能障害患者へのMg含有製剤の過剰投与が原因とされている。今回,クエン酸Mg(マグコロールP®)服用後に高Mg血症と糞便性腸閉塞をきたした1例を経験したので報告する。症例は66歳女性。肛門痛と便秘症の精査で注腸検査予定となった。前処置としてクエン酸Mgを内服したところ,意識障害をきたし当院の救急外来へ搬送された。精査で高Mg血症および糞便性の腸閉塞を認め,緊急透析となった。翌日もMg値の再上昇,腸閉塞の悪化を認め,緊急S状結腸人工肛門造設術を施行した。術後,すみやかに血清Mg濃度は正常化した。腎機能障害を有さない患者でもクエン酸Mg製剤投与により重篤な高Mg血症を発症したとの報告がある。重度の高Mg血症は致死的な経過をたどることもあり,その投与に際しては十分な配慮と患者指導を行うとともに,発症時には迅速な対応が重要であると思われた。

  • 赤井 俊也, 東 幸宏, 丸尾 啓敏
    2019 年 39 巻 4 号 p. 687-690
    発行日: 2019/05/31
    公開日: 2020/05/27
    ジャーナル フリー

    症例は70歳代,男性。食道癌に対し右開胸食道亜全摘,後縦隔経路胃管再建,空腸瘻造設を施行した既往がある。食道癌の再発は認めなかったが,保存的加療で軽快する腸閉塞を繰り返していた。食道癌手術より約6年が経過後,腹痛と嘔吐を主訴として近医を受診し,腸閉塞の診断で当科に紹介となった。腹部はやや膨隆し,圧痛を認めたが,明らかな腹膜刺激症状はなかった。腹部造影CTでは,小腸間膜に渦巻様所見を認め,上腸間膜動脈は左側へ偏位していた。CT所見より絞扼性腸閉塞を疑い緊急手術を施行した。開腹すると空腸瘻造設部と腹壁の間隙に小腸が嵌入し,そのための腸閉塞が生じ,腸間膜根部付近で捻転をきたしていた。嵌頓と捻転を解除し,腸瘻造設部の空腸を腹壁から剝離し手術を終了した。食道癌手術時の空腸瘻造設部が関与する腸閉塞は,頻度としては低いものの実臨床において遭遇する病態の1つである。若干の文献的考察を踏まえ報告する。

  • 齋藤 麻予, 平松 聖史, 関 崇, 藤枝 裕倫, 鈴木 優美, 余語 孝乃助, 新井 利幸
    2019 年 39 巻 4 号 p. 691-694
    発行日: 2019/05/31
    公開日: 2020/05/27
    ジャーナル フリー

    症例は76歳の男性で,夕食後より出現した突然の嘔吐症状から腸閉塞を疑われ,前医より紹介となった。腹部CT検査では,小腸拡張,著明な胃拡張と胃壁内の連続する小気泡所見,門脈ガス血症を認めた。腸管および胃壁の造影不良所見は認めなかった。癒着性腸閉塞が原因となり発症した門脈ガス血症を伴った胃気腫症と診断し,閉塞解除のため同日手術を施行した。開腹すると,癒着によるバンド形成を認め,これを剝離した。胃壁は握雪感を認めたが,壊死を示唆する所見はなく,癒着剝離術のみで手術は終了した。術後経過は良好で,術後第10病日の腹部CT検査では,門脈ガス血症,胃気腫像ともに消失した。

  • 井上 明星, 山﨑 道夫, 濱中 訓生, 板橋 健太郎, 井本 勝治, 坂本 力, 村田 喜代史
    2019 年 39 巻 4 号 p. 695-698
    発行日: 2019/05/31
    公開日: 2020/05/27
    ジャーナル フリー

    症例は40歳男性。突然の心窩部痛を主訴に来院した。造影CTで肝左葉外側区域に肝外に膨隆するfill-in patternを呈する11×10×8cmの腫瘤を認めた。肝被膜下血腫および血性腹水も認めた。CT所見から特発性肝海綿状血管腫破裂と診断し,動脈塞栓術を行った。左肝動脈造影では腫瘤辺縁に斑状造影効果を認め,A2,3からゼラチンスポンジを用いて塞栓術を施行した。11日後に肝左葉外側区切除が行われ,病理組織学的に肝海綿状血管腫と診断された。動脈塞栓術は特発性肝海綿状血管腫破裂の一時止血に有用であるが,根本的治療のためには肝切除を行うべきと考える。

  • 川合 寛治, 岡村 寛子, 吉井 一博
    2019 年 39 巻 4 号 p. 699-702
    発行日: 2019/05/31
    公開日: 2020/05/27
    ジャーナル フリー

    症例は86歳女性。夜間に突然の腹痛を認め当院を救急受診した。来院時,体温は37.7℃で右下腹部に圧痛を認め,急性虫垂炎を疑い検査を行った。CT検査では盲腸から上行結腸が便残渣によって拡張していたが,虫垂の腫大や壁肥厚は認めず,虫垂内腔にガス像を認めた。このため,急性虫垂炎は否定的で,糞便性腸閉塞の診断で入院加療を行った。第3病日になっても症状は軽快しなかったため,再度CT検査を行ったところ虫垂の腫大と壁肥厚を認め,蜂窩織炎性虫垂炎と診断し虫垂切除術を施行した。術中所見では混濁した腹水を認め,虫垂壁の壊疽所見は認めなかったが,虫垂の遠位端に穿孔を認めた。切除標本の病理検査結果では,炎症の程度は蜂窩織炎性虫垂炎で,穿孔部は虫垂憩室の穿孔であった。虫垂憩室症は特異な臨床経過をたどることがしばしばあり,急性腹症の診療時には念頭に置くべき疾患と考えた。

  • 森本 洋輔, 藤田 晃司, 菊永 裕行, 三浦 弘志, 森永 正二朗, 熊井 浩一郎
    2019 年 39 巻 4 号 p. 703-706
    発行日: 2019/05/31
    公開日: 2020/05/27
    ジャーナル フリー

    症例は87歳女性。1週間前より持続する右側腹部痛を主訴に来院した。右上腹部に圧痛・反跳痛・筋性防御を認め,血液検査で炎症反応の上昇および肝胆道系酵素の上昇を認めた。腹部CT検査で胆囊内腔のガス,肝表面の腹腔内遊離ガス,胆道気腫および胆囊内結石を認め,胆囊壁の破綻が示唆された。気腫性胆囊炎穿孔の診断で緊急開腹胆囊摘出術の方針とした。術中所見では,胆囊壁の破綻による腹腔内への胆汁漏出および胆石の落下を認めた。術中に採取した胆汁培養からはE.coliが検出され,起炎菌と考えられた。病理組織学的には胆囊壁全層に及ぶ高度の炎症細胞浸潤,びらん,潰瘍形成を認め,壊疽性胆囊炎と診断した。術後6日目にSSIを認めたが保存的加療で軽快した。気腫性胆囊炎は,壊死・穿孔の可能性が高く重篤化しやすい疾患である。腹腔内遊離ガスを認めた胆囊炎の本邦報告例は13例と少なく,若干の文献的考察を加え報告する。

  • 舘野 佑樹, 金田 祥明, 林 隆広, 手塚 徹
    2019 年 39 巻 4 号 p. 707-710
    発行日: 2019/05/31
    公開日: 2020/05/27
    ジャーナル フリー

    症例は51歳,男性。昼食2時間後手押し台車の取っ手で,心窩部を打撲。直後からの強い心窩部痛で当院を受診。腹部板状硬で,白血球上昇を認めた。外傷性消化管穿孔を疑い実施した造影CT検査で,肝周囲にわずかなfree airを認めた。全身状態は安定していたため,受傷後8時間で緊急審査腹腔鏡を施行した。十二指腸球部前壁に挫滅を伴わない十二指腸潰瘍穿孔様の円形穿孔と汚染腹水を認めたため,引き続いて,十二指腸潰瘍穿孔に準じて腹腔鏡下に穿孔部単純閉鎖術,大網充填術,洗浄ドレナージ術を施行した。術後経過良好で,術後9日目に退院した。本症例は鈍的外傷後に発症した十二指腸穿孔であるが,外傷による直接の十二指腸損傷としては極めて非典型的で,内因性十二指腸潰瘍部に加わった外力で生じた穿孔の可能性もある。非常にまれな経過の十二指腸穿孔症例だが,本症例のような特殊例では,腹腔鏡は診断から治療に円滑に移行でき有用であったと考える。

  • 竹内 悠二, 中川 真理, 竹内 瑞葵, 江原 玄, 嶋口 万友, 野田 大地, 大谷 泰介, 都島 由紀雄, 松尾 亮太
    2019 年 39 巻 4 号 p. 711-714
    発行日: 2019/05/31
    公開日: 2020/05/27
    ジャーナル フリー

    症例は27歳女性。自傷行為により果物ナイフで腹部を刺傷した。時間の経過とともに腹痛が増強し,当院に救急搬送となった。明らかな腹膜刺激症状は認めなかったが,血液検査で炎症反応が高値を示し,腹部造影CT検査で腹腔内にfree airと血液と思われる液体貯留を認めたため審査腹腔鏡を行うこととした。審査腹腔鏡では,ナイフの刺入ルートの全貌がはっきりせず,消化管穿孔部も明らかにできなかったことから開腹移行した。開腹所見では刺創は胃の前後壁,横行結腸間膜を貫き,空腸起始部付近の小腸間膜まで達していた。胃は,前後壁ともに全層縫合を行い,小腸腸間膜,横行結腸間膜も縫合した。腹部穿通性外傷に対して腹腔鏡により手術の完遂までを計画したが,刺創ルートの観察が不十分と判断し開腹移行した症例を経験したため,若干の文献的考察を加え報告する。

  • 塚本 芳嗣, 根岸 宏行, 大坪 毅人, 小倉 佑太, 福岡 麻子, 朝野 隆之, 月川 賢, 牧角 良二, 藤塚 進司, 三村 秀文
    2019 年 39 巻 4 号 p. 715-718
    発行日: 2019/05/31
    公開日: 2020/05/27
    ジャーナル フリー

    上腸間膜動脈閉塞症は早期診断,早期治療を行うことで良好な予後を得ている。早期の急性上腸間膜動脈閉塞症は軽度の腹痛のみで来院することがあり,早期に診断を行うことは困難である。治療の遅れは死に至る可能性が極めて高い重篤な疾患である。今回,IVRによる保存的治療のみで救命した急性上腸間膜動脈閉塞症の1例を経験したので報告する。症例は70歳代,男性。腹痛と血便で前医を受診し,CT検査で急性上腸間膜動脈閉塞症,小腸壊死疑いで当院紹介となった。発症24時間以内であり,画像診断では腸管壊死には至っていないと考え,IVRで血栓の除去を行った。その後,ウロキナーゼ持続投与を開始し,連日,上腸間膜動脈造影を行い血栓は縮小傾向であり第3病日には血栓は指摘できなかった。第5病日に経口摂取開始とし,その後経過良好で第17病日に退院となった。現在抗凝固薬内服で外来通院中である。

  • 有坂 早香, 林 勉, 瀬上 顕貴, 高川 亮, 村上 仁志, 長谷川 誠司, 池 秀之, 福島 忠男
    2019 年 39 巻 4 号 p. 719-721
    発行日: 2019/05/31
    公開日: 2020/05/27
    ジャーナル フリー

    症例は74歳の男性。義歯を誤飲したために近医を受診した。内視鏡的に義歯の摘出を試みるも困難であり,当院に紹介受診した。上部消化管内視鏡検査で胸部下部食道に義歯が確認されたが,経口的な摘出は食道穿孔の危険があり困難と考えられた。内視鏡下に義歯を胃内に落とした後に腹腔鏡・内視鏡合同手術(laparoscopy and endoscopy cooperative surgery:以下,LECS)で摘出する方針とした。内視鏡鉗子で義歯を把持し,腹腔鏡下に胃前壁を切開して義歯を摘出した。術後経過は良好であり,第15病日に退院した。内視鏡による異物除去の手技とLECSを併用することで開胸および開腹手術を回避することが可能となり,低侵襲で有用な治療法と考えられた。

  • 室屋 大輔, 岡部 正之, 岸本 幸也
    2019 年 39 巻 4 号 p. 723-726
    発行日: 2019/05/31
    公開日: 2020/05/27
    ジャーナル フリー

    症例は68歳の男性。44年前に虫垂炎手術歴あり。2週間前からの食思不振と右下腹部痛の増悪を主訴に受診。虫垂切除後の手術痕と一致する右下腹部に膨隆と圧痛を認めた。血液検査所見で炎症反応が高値であり,造影CT検査で腹壁から回盲部に連続する膿瘍を形成していた。限局しており,明らかな消化管の破綻所見を認めなかったため,経皮的ドレナージと抗生剤加療を行ったところ症状や炎症所見が改善した。細菌培養からはStreptococcus anginosus group(以下,SAG)が検出された。第13病日に自宅退院し,1年経過現在再発所見を認めていない。虫垂炎術後長期経過して発症する腹壁膿瘍の報告はまれであり,膿瘍形成傾向が強いとされるSAGが同定されたのは本症例が初であった。今回われわれはSAGを起因菌とする虫垂炎手術44年後に発症した巨大な腹壁膿瘍に対して経皮的ドレナージで改善した1例を経験したため報告する。

  • 五十嵐 陽介, 田口 恵理子, 黒河内 喬範, 鈴木 英之, 松田 実
    2019 年 39 巻 4 号 p. 727-731
    発行日: 2019/05/31
    公開日: 2020/05/27
    ジャーナル フリー

    症例は手術歴のない75歳男性。腹部膨満を主訴に当院来院し,腸閉塞の診断で入院した。入院時の腹部CTでは,回腸に楕円形の異物を認め,閉塞起点となっていた。保存的に症状改善したため,第7病日に退院した。しかし,退院5ヵ月後に再度腸閉塞症状が再燃,CTでは前回入院時と同様の異物を回腸に認め腸閉塞起点となっていた。保存的加療で改善がないため第5病日に腹腔鏡下小腸部分切除術を施行した。摘出腸管内には梅干しの種子を認め,同部位に炎症性肥厚と潰瘍を伴っていた。術後経過良好につき,術後7日目に退院し,現在も腸閉塞症状を認めず経過観察をしている。種子は少なくとも5ヵ月間回腸に留まっていたと考えられ,放置していた場合,腸穿孔をきたしていた可能性も示唆された。排出を確認できない種子による腸閉塞は積極的に手術を考慮すべきであると考えられた。文献的考察を加えてこれを報告する。

  • 三田地 克昂, 有明 恭平, 藤島 史喜, 元井 冬彦, 内藤 剛, 亀井 尚, 海野 倫明
    2019 年 39 巻 4 号 p. 733-737
    発行日: 2019/05/31
    公開日: 2020/05/27
    ジャーナル フリー

    症例は54歳,男性。前医で遠隔転移を有する胸部中部食道癌と診断され,加療目的に当院紹介となった。放射線化学療法中に腸閉塞で入院となったが,入院2日目に大量下血とともに高度貧血が認められ,腹部造影CT検査から小腸出血と診断された。緊急手術で小腸壁内結節からの出血と診断し,小腸部分切除を行った。病理検査では粘膜から漿膜下層にかけて扁平上皮癌を認め,食道癌の小腸転移と診断した。術後は合併症なく経過し9病日には退院可能となったが原疾患の治療目的に転科され,原病増悪に伴い56病日に在院死となった。食道癌の小腸転移はまれな転移形式である。腸閉塞と消化管穿孔に対する治療報告は多いものの,腫瘍出血に対して治療を要した例は極めてまれである。救命可能な緊急疾患ではあるものの,病態としては終末期であることが多いため,手術適応を十分に検討し,在院死のリスクも含めた説明を行ったうえで治療にあたる必要がある。

  • 林 昌孝, 山中 直樹
    2019 年 39 巻 4 号 p. 739-742
    発行日: 2019/05/31
    公開日: 2020/05/27
    ジャーナル フリー

    症例は76歳,女性。自己免疫性疾患のためステロイド剤と免疫抑制剤を長期内服していた。下血を主訴に内科を受診し,下行結腸憩室出血と診断され,内視鏡的止血術が施行された。止血術後5日目に再度下血を認め,再度施行した内視鏡検査で前回止血部位のクリップが脱落していたため,同部位に再度止血術が施行された。再止血術後翌朝より発熱と高度炎症所見を認め,外科へ転科となった。胸腹部CT検査で後腹膜,縦隔および皮下に至る広範な気腫を認めたが,注腸造影検査で明らかな腸管穿孔を認めなかったため,保存的治療を選択した。絶食,抗菌薬投与による保存的治療で軽快し,発症後18日目に退院した。大腸内視鏡検査後の広範な後腹膜気腫は極めてまれな偶発症であり,保存的治療の適応については定見がないため,若干の文献的考察を加えて報告する。

  • 遠藤 佑介, 落合 秀人, 稲葉 圭介, 神藤 修, 鈴木 昌八
    2019 年 39 巻 4 号 p. 743-746
    発行日: 2019/05/31
    公開日: 2020/05/27
    ジャーナル フリー

    症例は80歳,男性。右鼠径部膨隆と食思不振を主訴に紹介受診。腹部超音波検査とCTで右鼠径ヘルニア嵌頓を認めた。嵌頓内容は回盲部から連続する腫大した虫垂で,穿通とヘルニア囊内の膿瘍形成を認め,急性虫垂炎を伴うAmyand’s herniaと診断した。心房細動に対し抗凝固薬を内服していたため入院翌日に全身麻酔での手術とした。前方到達法で鼠径管を開放すると陥頓し穿孔した虫垂によりヘルニア囊は緊満していた。ヘルニア門より腹側で腹膜を切開して腹腔内に到達し,虫垂根部を同定した。腹腔内に膿瘍がないことを確認して,虫垂とともにヘルニア囊を切除した後にMcVay法で修復した。摘出標本の病理所見では,蜂窩織炎性虫垂炎で,虫垂の一部が穿通して虫垂間膜内に膿瘍を形成していた。Amyand’s herniaはまれな疾患であり,虫垂炎や腹腔内膿瘍の併存などを考慮して治療,手術を行う必要がある。本症例では画像検査で確定診断が可能であり,鼠径部からの前方到達法のみで手術が完遂できた。

  • 西村 廣大, 坂本 英至, 法水 信治, 尾辻 英彦, 米川 佳彦, 鈴木 瑛
    2019 年 39 巻 4 号 p. 747-749
    発行日: 2019/05/31
    公開日: 2020/05/27
    ジャーナル フリー

    症例は69歳男性。2年前に当院で早期胃癌に対して腹腔鏡下胃切除術,R–Y再建(結腸後経路)を施行し無再発経過観察中であった。腹痛で受診し,造影CTで挙上空腸と輸入脚の拡張を認めた。内ヘルニアによる腸閉塞を考慮したが造影不良域はなかったので,イレウス管を留置した。造影剤は結腸まで流れ排便もみられたが,第3病日のCTで輸入脚が減圧されていなかったため手術治療へ移行した。腹腔内の癒着はほとんどみられず,前回手術で挙上空腸と固定したはずの横行結腸間膜間隙から輸入脚を含めた大半の口側小腸が頭側に脱出し,さらにY脚吻合部背側の腸間膜間隙に肛門側の小腸が,ループ状に陥入していた。それぞれの内ヘルニアを解除して元の形に戻した。血流不全はなく全小腸を温存した。間膜間隙の閉鎖と挙上空腸の再固定を施行した。術後経過は良好で再発は認めていない。

  • 市川 淳, 山名 一平, 是枝 寿彦, 進 勇輝, 三ノ宮 寛人, 島岡 秀樹, 佐藤 啓介, 岡本 辰哉, 坂本 快郎, 栁澤 純, 乘富 ...
    2019 年 39 巻 4 号 p. 751-754
    発行日: 2019/05/31
    公開日: 2020/05/27
    ジャーナル フリー

    症例は8歳女児。坂道を下って走っているときに前方に転倒し,左肩から斜めにぶら下げていた水筒で腹部を打撲した。直後から腹痛が出現し,頻回の嘔吐がみられたため当院に救急搬送となった。腹部造影CT検査で十二指腸壁の浮腫と十二指腸周囲に腹腔内遊離ガス像を認め,上部消化管穿孔が疑われたため外科紹介となった。同日緊急試験開腹術を行った。十二指腸下行脚に直径3cm大の穿孔部を認め,外傷性十二指腸損傷Ⅱa型(日本外傷学会消化管損傷分類2008)と診断した。他の臓器損傷は認めず,穿孔部を単純閉鎖した。合併症は認めず,術後26日目に退院となった。小児においては水筒による腹部打撲が要因で十二指腸損傷が起こりうるため注意を要する。

  • 杉本 敦史, 福岡 達成, 前田 清, 永原 央, 渋谷 雅常, 井関 康仁, 松谷 愼治, 平川 弘聖, 大平 雅一
    2019 年 39 巻 4 号 p. 755-758
    発行日: 2019/05/31
    公開日: 2020/05/27
    ジャーナル フリー

    症例は68歳男性。難治性腹水で加療中に臍部膨隆で当科受診した。腹部CTで多量腹水と小腸の臍ヘルニア嵌頓を認めた。用手還納は困難であったため,緊急手術を施行した。ヘルニア内容は小腸で壊死所見を認めたため,切除吻合し,ヘルニア門は縫合閉鎖した。腹水検査でADA48.8U/L,血液QFT検査陽性であることから結核性腹膜炎に続発した臍ヘルニア嵌頓と診断した。術後合併症なく経過し,抗結核菌薬により改善した。結核性腹膜炎は結核感染者の0.1〜1.5%とまれな疾患であり,確定診断に難渋することが多いため,難治性腹水として長期間経過し急性腹症を続発する場合がある。本症例は結核性腹膜炎による長期間の腹水貯留および腹圧上昇が原因となった臍ヘルニア嵌頓と考えた。難治性腹水を伴う急性腹症は結核性腹膜炎を鑑別にあげ,術中に腹膜結節の検索や腹水の採取など行うことが重要である。

  • 前田 周良, 神谷 忠宏, 加藤 岳人, 平松 和洋, 柴田 佳久, 青葉 太郎
    2019 年 39 巻 4 号 p. 759-763
    発行日: 2019/05/31
    公開日: 2020/05/27
    ジャーナル フリー

    症例は70歳女性。1996年に右鼠径ヘルニアに対してメッシュプラグを用いた根治術を施行した。2017年9月頃から右鼠径部の腫脹,発赤を自覚し当科外来を受診した。右鼠径部手術痕を中心に発赤,腫脹,圧痛を認めた。血液生化学検査では炎症反応高値を呈し,腹部造影CT検査では,右鼠径部腹壁に膿瘍形成を認め,回盲部腸管との連続性が疑われた。メッシュプラグと消化管との間に瘻孔を形成し発症した遅発性メッシュ感染と診断し緊急手術を施行した。腹腔内を観察すると,メッシュプラグと回腸が癒着し瘻孔を形成し,同部位に連続して皮下から腹膜前腔にかけて広がる腹壁膿瘍を認めた。瘻孔切除,回腸縫合,メッシュプラグ除去,腹壁膿瘍ドレナージ術を施行した。術後経過は良好で7日目に退院した。現在術後11ヵ月経過し,感染再燃やヘルニア再発の所見はない。術後20年以上経過して発症した遅発性メッシュ感染は報告がない。

  • 常俊 雄介, 倉内 宣明, 鍵谷 卓司, 澤野 武行, 笠島 浩行, 原 豊, 遠山 茂
    2019 年 39 巻 4 号 p. 765-768
    発行日: 2019/05/31
    公開日: 2020/05/27
    ジャーナル フリー

    症例は13歳女児。自転車運転中に転倒しハンドルで上腹部を強打。翌日上腹部痛が出現し,当院搬送。採血で血清アミラーゼ値の上昇を認め,腹部造影CTで上腸間膜静脈上での膵断裂像と周囲液体貯留を認め外傷性膵損傷と診断。主膵管損傷評価目的にERCPを試みたがVater乳頭に到達できず断念。MRCPでも評価不能であった。日本外傷学会膵損傷分類Ⅲa or Ⅲb型と診断した。治療は,腹腔鏡下手術か保存的治療かの選択で,バイタルサインが安定しており,腹部症状も軽度であったため絶食・安静・輸液と蛋白分解酵素阻害剤の投与による保存的治療を選択した。経過中に理学所見・血液検査・CT所見の増悪を認めず,受傷後8日目より経口摂取開始。その後も順調に経過し23日目に独歩退院した。外来でのCTで損傷部の縮小を認めた。小児の膵単独外傷においては,全身状態や画像所見を考慮しつつ,保存的治療も選択肢の1つとなり得ると考えられた。

  • 小林 龍太朗, 神谷 忠宏, 加藤 岳人, 平松 和洋, 柴田 佳久, 青葉 太郎
    2019 年 39 巻 4 号 p. 769-772
    発行日: 2019/05/31
    公開日: 2020/05/27
    ジャーナル フリー

    症例は20歳の男性。乗用車を運転中の交通事故で当院に救急搬送された。搬送時は,腹部にシートベルト痕を認め同部位に圧痛を認めたが,血液検査や胸腹部造影CTでは明らかな異常所見は認めず外来で経過観察となった。受傷後8日目に腹痛を認め当院に再受診した。腹部造影CTで臍下に小腸の狭窄を認め,狭窄部位より口側の小腸の拡張を認めた。外傷性の遅発性小腸狭窄と診断し,単孔式腹腔鏡下で緊急手術を施行した。腹腔内を観察すると肥厚し短縮した小腸間膜を確認した。小腸壁は肥厚し内腔が狭窄しており,口側小腸は拡張していた。狭窄部位を臍創部から体外に出し,小腸切除を施行した。経過良好で術後8日目に退院となった。外傷性遅発性小腸狭窄では間膜の肥厚や短縮により,病変部の小腸を体外に出すのは困難なこともあるが,CT画像で狭窄部位を確認し位置を把握することで,単孔式腹腔鏡手術も有用な選択肢の1つと考えられた。

  • 大野 徳之, 石田 誠, 出口 正秋
    2019 年 39 巻 4 号 p. 773-776
    発行日: 2019/05/31
    公開日: 2020/05/27
    ジャーナル フリー

    子宮広間膜裂孔ヘルニアは内ヘルニアの中でも比較的まれな疾患である。今回,術前の的確な診断の下,reduced port surgery(以下,RPS)で修復した子宮広間膜裂孔ヘルニアの1例を経験したため報告する。症例は46歳,女性。腹痛を認めて当院受診。腹部CT検査で子宮左側にclosed loopを伴う拡張小腸や腸間膜の収束像および子宮の右側への偏位を認め,子宮広間膜裂孔ヘルニアを強く疑った。腹腔鏡観察で診断を確定し,ヘルニア解除およびヘルニア門である子宮広間膜の異常裂孔を縫合閉鎖した。本症例のように術前診断が可能であれば,確定診断を兼ねた腹腔鏡手術は導入可能である。また,本疾患は女性特有であることから,とくに整容性にも優れたRPSは有用と考えられる。

  • 船水 尚武, 大楽 勝司, 中林 幸夫, 矢永 勝彦
    2019 年 39 巻 4 号 p. 777-780
    発行日: 2019/05/31
    公開日: 2020/05/27
    ジャーナル フリー

    症例は84歳,男性。発熱,心窩部痛を主訴に当科を受診。腹部造影CTで肝左葉に壁肥厚を伴う囊胞性病変を認め,感染性肝囊胞(infected liver cyst:以下,ILC)と診断した。同日,経皮経肝膿瘍ドレナージ(percutaneous transhepatic abscess drainage:以下,PTAD)を施行した。ドレナージにより炎症反応の改善後,第10病日にチューブを抜去し退院となった。その5ヵ月後に腹痛を認め,CTでILCの再燃が確認された。再びPTADを施行した。ドレナージで排膿後,ミノサイクリンを膿瘍腔に注入し改善した。チューブは患者の希望でクランプ,留置のまま退院となった。その2ヵ月後にチューブ刺入部周囲より膿の流出を訴え来院し,再燃と判断した。チューブを開放し排膿し,3日後に2日間隔で計3回エタノール注入療法を施行した。経過良好で第7病日にチューブを抜去し退院となった。その9ヵ月後の現在,再発を認めない。胆管交通がない繰り返すILCに対してエタノール注入療法は有効な治療選択肢の1つであると思われた。

  • 太田 拓児, 三野 和宏, 志智 俊介, 植村 一仁
    2019 年 39 巻 4 号 p. 781-785
    発行日: 2019/05/31
    公開日: 2020/05/27
    ジャーナル フリー

    非閉塞性腸間膜虚血(non-occlusive mesenteric ischemia:以下,NOMI)は,腸間膜動静脈の器質的閉塞のない腸管虚血症である。しばしば腸管に分節状の病変を広範に有し,腸管の大量切除が必要となることが多く,水分・電解質管理に難渋する。今回NOMI再発に対し,再切除および腸管吻合を行い,脱水・電解質喪失を防ぎ得た症例を経験したので報告する。症例は72歳男性で,腹痛と嘔吐を主訴に当院へ救急搬送され,腸管壊死が強く疑われ緊急開腹術を行った。小腸はほぼ全領域にわたり分節状に色調不良を認め,NOMIと診断し小腸切除,空腸瘻造設,および回腸粘液瘻造設を行った。初回手術より26日目に回腸粘液瘻の粘膜壊死を認め,右結腸切除,空腸と横行結腸を吻合した。術後は経静脈栄養を併用のもと経口摂取は可能となり,術後137日目に栄養管理目的に転科となった。

  • 江本 慎, 千田 圭吾, 谷 道夫, 河合 朋昭, 小林 清二, 小笠原 和宏
    2019 年 39 巻 4 号 p. 787-791
    発行日: 2019/05/31
    公開日: 2020/05/27
    ジャーナル フリー

    84歳女性。左鼠径部の膨隆および疼痛を主訴に前医を受診し,左鼠径ヘルニアの嵌頓と診断され,当科を紹介された。来院時,左鼠径部に発赤と圧痛を伴う膨隆を認めた。CTで左鼠径部に腹腔と連続して気泡を伴う液体貯留を認め,鼠径ヘルニアの消化管嵌頓・壊死に伴う鼠径管膿瘍と診断し,同日手術を施行した。下腹部正中切開で開腹すると,子宮筋腫が左鼠径部に嵌頓していた。剝離すると内部から膿汁の流出を認めた。鼠径部皮膚側から膿瘍に切開を加え鼠径管を観察したが,炎症により正常構造は同定できなかった。皮膚切開は開放のままとし,膿瘍の腹膜側を縫合して膿瘍腔が体外にのみ開放される形にして手術を終了した。今回われわれは,子宮筋腫の嵌頓が誘因と考えられたまれな鼠径管膿瘍を経験したので報告する。

  • 穂坂 美樹, 筒井 敦子, 中西 亮, 大村 健二, 若林 剛
    2019 年 39 巻 4 号 p. 793-796
    発行日: 2019/05/31
    公開日: 2020/05/27
    ジャーナル フリー

    開腹歴のない腸閉塞の原因として重要なものに内ヘルニアがある。その中でも傍下行結腸窩ヘルニアの報告例は非常にまれである。症例は開腹歴のない62歳男性。突然発症した持続する腹痛を主訴に受診した。腹部造影CT検査で下行結腸の外側背側に,closed loopを形成する造影効果不良の小腸を認めた。内ヘルニアによる絞扼性腸閉塞を疑い腹腔鏡手術を行った。軽度に拡張した小腸を認め,下行結腸と左側腹壁が広範に癒着し,その癒着性膜様物と傍下行結腸窩の隙間に色調不良な小腸が陥入していた。傍下行結腸窩ヘルニアと診断し,ヘルニア門を開放し,小腸部分切除術を行った。傍下行結腸窩ヘルニアは特徴的なCT所見を呈し,腹腔鏡を用いることで低侵襲に診断治療が可能であった。

  • 塚本 忠司, 堀 高明, 貝崎 亮二, 枝川 永二郎, 栂野 慎吾, 高塚 聡, 山口 誓子
    2019 年 39 巻 4 号 p. 797-800
    発行日: 2019/05/31
    公開日: 2020/05/27
    ジャーナル フリー

    症例は69歳,男性。肺結核の治療目的に当院紹介。入院時のCT検査で右腎癌および膵石と膵仮性囊胞を伴う慢性膵炎が指摘された。4ヵ月間の肺結核の治療ののち,右腎癌に対して右腎摘出術が行われた。術1ヵ月後頃より上腹部痛を自覚し,徐々に疼痛の増強と嘔吐を認め,術2ヵ月後に当院に救急搬送された。来院時の腹部CT検査で,慢性膵炎の急性増悪と膵仮性囊胞内出血が疑われた。入院後の上部消化管内視鏡検査で,十二指腸乳頭から流出する胆汁・膵液に血液の混在(hemosuccus pancreaticus)が認められた。腹部血管造影検査で右胃動脈および左胃動脈の胃小弯への分枝から囊胞内への出血が確認され,これらの動脈枝の塞栓術が施行された。動脈塞栓術10ヵ月後に膵仮性囊胞内出血の再発が疑われたが,出血は活動性ではなく,待機的に膵体尾部切除術が施行され,術19日後に軽快退院した。膵切除術30ヵ月後の現在,膵炎や膵仮性囊胞の再発は認めていない。

  • 小松 優, 大橋 拓, 池田 義之, 田中 典生
    2019 年 39 巻 4 号 p. 801-804
    発行日: 2019/05/31
    公開日: 2020/05/27
    ジャーナル フリー

    近年,動脈瘤破裂に対してIVRによる治療が積極的に行われているが,その致命的な合併症として腹部コンパートメント症候群(以下,ACS)が指摘されている。今回,脾動脈瘤破裂に対する動脈塞栓術後に生じたACSに対して減圧開腹術を施行した1例を経験した。49歳の男性が腹部膨満を主訴に受診し,CTで脾動脈瘤破裂と診断した。IVRでのコイル塞栓で止血し得たが,術直前からの出血性ショックに大量輸血を要した。塞栓での止血の12時間後から呼吸促迫と腹部緊満とを認め,膀胱内圧測定などからACSと診断した。緊急減圧開腹術で3,700gの血腫を除去し,一期的に閉腹した。術後早期から呼吸状態の改善を認め,腹腔内圧の再上昇を認めなかった。術後第29病日に独歩退院した。腹部動脈瘤破裂症例では,非手術治療後でもACSの発症があり得ることに留意し,ACSを発症した際には躊躇せずに減圧開腹術を施行すべきである。

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