日本腹部救急医学会雑誌
Online ISSN : 1882-4781
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ISSN-L : 1340-2242
40 巻, 5 号
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原著
  • 中西 真由子, 田中 信, 片山 政伸, 田中 基夫, 重松 忠
    2020 年 40 巻 5 号 p. 615-619
    発行日: 2020/07/31
    公開日: 2021/01/31
    ジャーナル フリー

    【研究背景・目的】「高齢者に関する定義検討ワーキンググループ」から提言された「高齢者」の定義である75歳以上の急性胆囊炎に対する初回の単回経皮的ドレナージ術の有用性と安全性の検討を目的とした。【対象・方法】2016年1月から2017年12月までに当院でドレナージを施行した62例に対し,75歳以上(高齢者群)32例と75歳未満(非高齢者群)30例との2群に分けて,重症度・再燃率・合併症率・内科入院期間・転帰について後ろ向きに比較検討した。【結果】中等症・重症例の割合は68.8%/33.3%で,有意に高齢者群に多かった。再燃は1例/0例,合併症は0例/1例で両群有意差をみとめず,内科入院期間・転帰とも両群有意差は認められなかった。【結論】初回治療の単回の経皮的ドレナージは,75歳以上においても75歳未満と同程度に,有用性が高くかつ合併症が少ない処置であることが示唆された。

症例報告
  • 河野 秀俊, 坂本 英至, 法水 信治
    2020 年 40 巻 5 号 p. 621-624
    発行日: 2020/07/31
    公開日: 2021/01/31
    ジャーナル フリー

    症例は腹部手術歴のない38歳男性。上腹部痛を主訴に当院を受診しCT検査で横行結腸左側に42×40mm大の腫瘤を認めたが下部消化管内視鏡検査では腫瘍性病変を認めなかった。半年後に心窩部痛を主訴に当院を受診し,腫瘤の増大と周囲のfree airを認め消化管穿孔の診断で緊急開腹手術を施行した。横行結腸壁外の充実性腫瘤と膿瘍腔を認め結腸切除術を施行した。病理検査で腫瘤はデスモイド腫瘍であり,結腸憩室炎を伴い,憩室部で穿孔していた。本症例は結腸憩室炎がデスモイド腫瘍の発生に関与していた可能性があること,また結腸穿孔にデスモイド腫瘍が関与していた可能性が考えられることから,極めてまれな症例と考えられる。

  • 角南 栄二, 平野 謙一郎, 佐藤 洋, 大岩 智, 森田 慎一
    2020 年 40 巻 5 号 p. 625-628
    発行日: 2020/07/31
    公開日: 2021/01/31
    ジャーナル フリー

    症例は58歳女性で右乳癌術後の多発肝・肺・骨転移,胸骨傍リンパ節転移の診断のもと当科で集学的治療中であった。2019年12月に腹痛,めまい,倦怠感が出現し,腹部造影CTで肝前区域に肝表に突出する病変を認め,肝表面および骨盤内に液体貯留を認めた。肝転移巣の自然破裂による腹腔内出血と考えられ保存的治療を行った。発症2日後に腹痛が増強し腹部膨満も出現したため経カテーテル動脈塞栓術(transcatheter arterial embolization:以下,TAE)を行い,肝右前区域枝をゼラチンスポンジ細片で塞栓止血した。塞栓後に自覚他覚症状は著明に改善した。しかし肝不全が進行し,TAE後15日目に原病死された。転移性肝腫瘍の自然破裂はまれであり,また乳癌肝転移は多発性が多いため手術適応となることは少ないが,止血を目的とした緊急的TAEを選択することはQOLを改善できる可能性があることが示唆された。貴重な1例を経験したので文献的考察を加え報告する。

  • 杉浦 清昭, 伊藤 康博, 田中 優衣, 上村 翔, 岸田 憲弘, 瀬尾 雄樹, 田中 求, 戸倉 英之, 高橋 孝行
    2020 年 40 巻 5 号 p. 629-632
    発行日: 2020/07/31
    公開日: 2021/01/31
    ジャーナル フリー

    症例は72歳男性で,膀胱浸潤および小腸浸潤を伴う進行直腸癌の診断で加療予定であった。腹痛を契機に当院受診し,精査の結果絞扼性腸閉塞の診断で緊急手術となった。術中直腸癌の浸潤を受けた虫垂が絞扼帯となり小腸を巻絡している所見を認めた。虫垂を切離して腸閉塞を解除し,小腸切除および結腸人工肛門造設を施行した。その後術前化学放射線療法を施行し,二期的に直腸癌の切除を行った。直腸癌の浸潤を受けた虫垂が絞扼帯となり絞扼性腸閉塞を発症した症例は極めてまれであると考えられ,文献的考察を加えて報告する。

  • 土屋 智, 上野 秀樹, 松本 淳, 辻本 広紀
    2020 年 40 巻 5 号 p. 633-636
    発行日: 2020/07/31
    公開日: 2021/01/31
    ジャーナル フリー

    症例は60歳台女性。右鼠径部の膨隆を主訴に受診した。CTにおいて腹腔内から大腿輪へ続く腫瘤影を認め,大腿ヘルニア嵌頓の診断で手術の方針とした。腹腔鏡下に腹腔内を観察したところ大腿輪に嵌入する虫垂を認め,de Garengeot herniaと診断した。虫垂はヘルニア囊内に強固に癒着しており,鼠径部切開法を併施しヘルニア門を開放することで嵌頓を解除し,腹腔鏡下に虫垂切除とtransabdominal preperitoneal approach (TAPP)法による後壁補強を施行した。大腿ヘルニア嵌頓に対する腹腔鏡アプローチは治療のみならず診断にも有用であると考えられた。

  • 樋口 陽大, 清水 勧一朗, 本橋 健司, 榎 啓太朗, 亀岡 佳彦, 倉田 直樹, 貞岡 俊一
    2020 年 40 巻 5 号 p. 637-640
    発行日: 2020/07/31
    公開日: 2021/01/31
    ジャーナル フリー

    非閉塞性腸間膜虚血(non–occlusive mesenteric ischemia:以下,NOMI)はときとして早期診断が困難であり,予後不良な疾患である。われわれは診断に難渋するもストーマの色調により診断,早期に治療介入し救命し得たNOMIの1例を経験したので報告する。症例は60歳台の男性。急性下肢動脈閉塞に対してPTAを施行した翌日よりアシドーシスの進行,腹痛,血圧低下を認めた。Lactateの上昇に乏しく,造影CT検査においても特異的所見はみられなかった。患者は直腸癌術後でストーマ造設されており,ストーマの色調が暗赤色を呈し腫大していることからNOMIを強く疑った。血管造影検査を行ったところ上腸間膜動脈分枝の狭小化,辺縁動脈の描出不良を認めたためパパベリン塩酸塩の持続動脈内注入療法を開始した。治療後,症状の改善とともにストーマの色調も正常化を示した。NOMIの診断の遅延は直接的に予後に結びつくため,疑われれば,より侵襲的検査も躊躇なくすみやかに行われるべきと考えられる。

  • 室谷 知孝, 山田 真規, 益田 充, 宮本 匠
    2020 年 40 巻 5 号 p. 641-644
    発行日: 2020/07/31
    公開日: 2021/01/31
    ジャーナル フリー

    症例は74歳女性で,他院受診時に偶発的に腹腔内伏針を指摘された。腹部症状はなく,また画像検査で消化管穿孔などの臓器損傷は否定的であった。患者の状態は安定していたため,厳重な管理のもと術前検査を行ってから初診より3日後に待機的手術の方針とした。手術は腹腔鏡下で,術中X線透視を用い伏針の場所を特定しながら行った。伏針は一部癒着した大網組織とともに摘出することで,腹腔内で遺残することなく安全に摘出できた。その後の経過は良好で術後3日で退院された。今回われわれは5年間もの長期に渡り気付かれることなく経過した腹腔内伏針の1例を経験した。近年,腹腔鏡手術の適応が拡大されつつあるが,長期間腹腔内で留置され腐食した脆弱な伏針に対しても腹腔鏡下手術で遺残させることなく安全に手術し得たため報告する。

  • 知念 良直, 上田 正射, 關口 奈緒子, 堺 貴彬, 佐藤 豪, 津田 雄二郎, 中島 慎介, 太田 勝也, 池永 雅一, 山田 晃正
    2020 年 40 巻 5 号 p. 645-648
    発行日: 2020/07/31
    公開日: 2021/01/31
    ジャーナル フリー

    【症例】30歳台の女性。左下腹部に疼痛を認め,当院救急外来を受診した。腹部造影CTで左下腹部に腫大した虫垂を認め,急性虫垂炎と診断し,手術の方針となった。通常とは術者と助手の位置,モニターの位置を逆に配置し単孔式腹腔鏡下に手術を開始した。腹腔内を検索すると,胆囊は左側,胃は右側に位置し完全内臓逆位の所見であった。左側に回盲部を認め,虫垂は腫大しており急性虫垂炎と診断した。回盲部を電気メスで授動し,腹腔外に挙上後,虫垂を切除し手術終了とした。病理組織学的検査所見は蜂窩織炎性虫垂炎であった。術後経過は良好で,第4病日に軽快退院した。【考察】内臓逆位症の手術はその解剖的特異性のためときに困難なことがあるが,虫垂切除術では脈管系の破格が問題になることは少なく,単孔式手術を安全に行うことができた。

  • 柏木 良介, 平野 直大, 佐藤 将大, 谷口 肇, 荒木 孝明, 小野 文徳
    2020 年 40 巻 5 号 p. 649-652
    発行日: 2020/07/31
    公開日: 2021/01/31
    ジャーナル フリー

    症例は68歳,男性。突然発症の腹痛を主訴に救急搬送され,CTで膵頭部周囲の後腹膜に巨大な血腫を認め,ショック状態となったため緊急手術を施行した。開腹すると,後腹膜の巨大な血腫とともに膵十二指腸動脈の複数箇所から活動性出血を認め,姑息的な止血は困難であったため膵頭十二指腸切除を施行した。病理組織検査で膵十二指腸動脈の中膜平滑筋内に空胞形成と動脈解離所見があったことからsegmental arterial mediolysis(SAM)と診断した。術後は大きな合併症なく経過し第30病日に退院し,動脈解離の再発などはなく経過している。本症例は正中弓状靭帯症候群を合併していたが,両者の合併報告は非常に少なく,若干の文献的考察を加えて報告する。

  • 後藤 俊彦, 村田 徹
    2020 年 40 巻 5 号 p. 653-656
    発行日: 2020/07/31
    公開日: 2021/01/31
    ジャーナル フリー

    症例は80歳台半ばの男性で,腎機能低下のため当院通院中であった。1週間前から続く腹部膨満感を主訴に来院した。単純腹部CT検査より膿瘍を伴う虫垂炎と診断した。膿瘍腔が大きく,American Society of Anesthesiologists – Physical Status(ASA–PS)が3相当の虚弱な高齢者であったため,保存的治療のみでは治癒しがたいと判断した。経皮的ドレナージが解剖学的に困難で,また抗血小板薬内服により虫垂癒着剝離時の易出血が予想されたため,入院2日目に腹腔鏡下緊急膿瘍ドレナージ手術のみを行うこととした。実際,虫垂は高度に癒着しており,抗血小板薬内服中のため易出血性であった。術後18日目に退院し,初回手術から89日目に腹腔鏡下虫垂切除術を行った。虫垂周囲に軽度の癒着を認めるのみで,虫垂切除術を安全に完遂できた。虚弱な高齢者で大きな膿瘍形成する虫垂炎例においては,2期的腹腔鏡下手術も選択肢の1つであると考えられた。

  • 船水 尚武, 大村 健二, 尾崎 貴洋, 五十嵐 一晴, 若林 剛
    2020 年 40 巻 5 号 p. 657-660
    発行日: 2020/07/31
    公開日: 2021/01/31
    ジャーナル フリー

    症例は87歳男性。臍周囲の腹痛を主訴に当院を受診した。CTで空腸に多発憩室と遊離ガスを伴う膿瘍を指摘され,小腸憩室穿孔の診断で緊急手術を施行した。腸間膜の肥厚を伴う空腸を腹腔鏡下に部分切除した。経過良好であったが術後11日目に左上腹部痛を認め,縫合不全が疑われた。保存的治療で改善し退院となったが,その1ヵ月後に3度目の腹痛(右上腹部)を認めた。CTで右側腹部に膿瘍を認め,小腸憩室炎の診断で入院保存的加療を行った。軽快し退院となったが,さらに1ヵ月後に4度目の腹痛(右下腹部)で入院となった。CTで小腸憩室炎と診断し,保存的加療後に小腸内視鏡を施行した。回腸末端から可視範囲にわたり散在性に小腸憩室を認めたが炎症部位は不明であった。症状が遷延するため腹腔鏡下回腸部分切除を施行すると,腸管内に爪楊枝を認めた。したがって,位置を変えながら繰り返す腹痛には消化管異物を鑑別にあげる必要があると思われた。

  • 西尾 康平, 村田 哲洋, 白井 大介, 田嶋 哲三, 木下 正彦, 濱野 玄弥, 高台 真太郎, 清水 貞利, 金沢 景繁
    2020 年 40 巻 5 号 p. 661-665
    発行日: 2020/07/31
    公開日: 2021/01/31
    ジャーナル フリー

    von Recklinghausen病(von Recklinghausen disease:以下,VRD)は血管脆弱性のため動脈瘤を合併することが知られているが,脾動脈瘤の報告はまれである。今回,脾動脈瘤を合併したVRDの1例を経験したので報告する。症例は46歳男性。腹部CTで,脾動脈瘤と診断された。動脈瘤は脾門部近傍に存在し,広基性のためIVRによる塞栓術では脾動脈本幹の血流の温存は困難であること,造影剤アレルギーの既往があることなどより,手術を選択した。腹腔鏡下に,脾動脈本幹をクランプすると,脾臓の約8割に阻血性変化を認めたため,動脈瘤を含めた脾臓摘出術を施行した。動脈瘤の病理組織学的所見では,内膜の肥厚,中膜の菲薄化,内弾性板の断裂を認めた。術後経過は良好で,術後11日目に退院となった。術後1年2ヵ月経過現在,再燃は認めていない。VRD合併の動脈瘤はときに致死的な経過をたどることがあり,慎重な経過観察と迅速な対応が必要である。

  • 飯沼 伸佳, 黒岩 雄大, 北川 敬之, 秋田 眞吾, 三輪 史郎
    2020 年 40 巻 5 号 p. 667-669
    発行日: 2020/07/31
    公開日: 2021/01/31
    ジャーナル フリー

    大腿ヘルニア嵌頓は腸管壊死に至る例も多い。今回,われわれは大腿ヘルニア嵌頓に対し,ヘルニア囊を開放せずに大腿法を先行させ腹腔鏡を用い嵌頓腸管を評価した3例を経験した。3例は,73歳から82歳と高齢者で,そのうち1例はPerformance Status(PS)のscoreが2であった。全例女性で,患側は右側および嵌頓臓器は小腸であった。手術時間は35〜121分で1例に腸管切除を施行した。3例とも術後の経過は良好であった。大腿法を先行し,腹腔鏡での嵌頓腸管の評価は,侵襲やメッシュ感染のリスクの軽減の点で,大腿ヘルニア嵌頓には有用であると考えられた。

  • 福田 一将, 清水 尚, 森田 英夫, 調 憲
    2020 年 40 巻 5 号 p. 671-675
    発行日: 2020/07/31
    公開日: 2021/01/31
    ジャーナル フリー

    症例は58歳,男性。突然の右季肋部痛・嘔吐を主訴に近医を受診,造影CTで後下膵十二指腸動脈瘤破裂・後腹膜穿破と診断され当院に転院搬送となった。緊急血管造影を行い,動脈瘤に対し経カテーテル動脈塞栓術(transcatheter arterial embolization:以下,TAE)を施行した。第14病日のCTで前下膵十二指腸動脈に新たな動脈瘤が出現,再度TAEを施行した。第16病日に,下十二指腸角部の浮腫に伴う嘔吐があり,胃内に減圧チューブを留置,第21病日に黄疸,胆道系酵素・血清アミラーゼ値の上昇,CTで胆囊腫大がみられたため,経皮経肝胆囊ドレナージ術を施行した。症状の改善後に,経鼻経管栄養チューブを空腸に留置して経管栄養を開始後,十二指腸浮腫は徐々に改善,経口摂取も可能となり,第48病日に軽快退院した。治療後2年が経過したが,新たな動脈瘤を認めず,経過は良好である。

  • 廣澤 貴志, 金子 直征, 小林 照忠, 舟山 裕士
    2020 年 40 巻 5 号 p. 677-679
    発行日: 2020/07/31
    公開日: 2021/01/31
    ジャーナル フリー

    症例は86歳,女性。幼少期に虫垂切除術の既往があった。突然の右下腹部痛を訴え,救急搬送された。腹部造影CT所見で,盲腸の背外側にclosed–loopを形成した拡張小腸を認め,その口側腸管も拡張していた。小腸嵌頓を伴う盲腸周囲ヘルニアの診断で,発症から約5時間後に腹腔鏡下に緊急手術を開始した。虫垂切除後の癒着とは別部位の盲腸外側に直径約2cmのヘルニア門を認め,小腸が嵌入していた。小腸の嵌頓を解除したところ,嵌入小腸は約10cmに及んでいたが,温存可能であった。再発予防のため,ヘルニア門を切開して開大した。術後経過は良好で,第12病日に退院した。盲腸周囲ヘルニアは,腸閉塞症の原因としては比較的まれであるが,特徴的なCT所見により術前診断は可能で,早期の腹腔鏡下手術による低侵襲治療が有用であると考えられる。

  • 村田 宇謙, 荻野 秀光, 数納 祐馬, 磯貝 尚子, 河内 順
    2020 年 40 巻 5 号 p. 681-684
    発行日: 2020/07/31
    公開日: 2021/01/31
    ジャーナル フリー

    症例は59歳男性,腹痛を主訴に救急搬送となった。造影CT検査で腹腔動脈起始部狭窄,十二指腸下行脚および膵頭部周囲の血腫,下膵十二指腸動脈の拡張を認めた。左上腕動脈より上腸管膜動脈を造影し,下膵十二指腸動脈が拡張していたが動脈瘤は認めなかった。また,総肝動脈は逆行性に造影された。以上より,正中弓状靭帯圧迫症候群(median arcuate ligament syndrome:以下,MALS)による膵十二指腸動脈アーケードの破裂と診断し,腹腔動脈起始部に6×18mmのバルーン拡張型ステントを留置した。最終造影で総肝動脈は順行性に造影された。術後経過は良好で,半年後の造影CT検査でステントの開存と後腹膜血腫の縮小を認めた。われわれは後腹膜出血をきたしたMALSによる腹腔動脈狭窄に対し,ステント留置術が奏効した症例を経験したので報告する。

  • 池田 直隆, 北薗 正樹, 豊﨑 良一, 上村 真弓, 大山 智宏
    2020 年 40 巻 5 号 p. 685-688
    発行日: 2020/07/31
    公開日: 2021/01/31
    ジャーナル フリー

    症例は62歳女性。腹痛を主訴に近医受診し,CTで腸重積を疑われて当院紹介となった。腸管血流評価目的に当院で造影CT施行。石灰化を伴う先進部が上行結腸に嵌入している像が認められ,腸重積と診断した。また横行結腸の浮腫と周囲の腹水が認められ,血流障害が疑われたため同日緊急手術の方針とした。手術は開腹による回盲部切除ならびに所属リンパ節郭清を施行した。切除標本では虫垂突起ははっきりせず,同部位に粘液貯留を認めた。病理組織検査では腫瘍表層部の一部に虫垂由来の絨毛状腺管の圧排性増殖巣を認め,low–grade appendiceal mucinous neoplasm(LAMN)の組織像を呈していた。連続して浸潤性の粘液腺癌の全層性浸潤増殖がみられた。今回われわれは,虫垂粘液腫瘍嵌入による腸重積に対して緊急回盲部切除が有用であった1例を経験したので,若干の文献的考察も加えて報告する。

  • 関 太要, 小柳 和夫, 二宮 大和, 谷田部 健太郎, 樋口 格, 山本 美穂, 小澤 壯治
    2020 年 40 巻 5 号 p. 689-692
    発行日: 2020/07/31
    公開日: 2021/01/31
    ジャーナル フリー

    症例は54歳,男性。2017年6月に食道扁平上皮癌と診断された。化学療法,化学放射線療法を施行し完全奏効が得られるも,半年後に原発巣の再発,両側多発肺転移を認めた。再発病変に対して胃瘻造設後より化学療法を開始した。開始3日目より悪心・嘔吐,開始5日目に呼吸困難を認め,CT検査を施行した。縦隔気腫と縦隔内の液体貯留を認め,縦隔限局型の特発性食道破裂と診断,保存的加療が選択された。翌日,呼吸状態の悪化を認め再度CT検査を施行したところ,左胸腔内への穿破が疑われ,同日緊急手術となった。左開胸による穿孔部縫合閉鎖術,洗浄ドレナージ術を施行した。術後第78病日に軽快退院となった。特発性食道破裂は,急激な食道内圧の上昇により,食道壁の全層に損傷を生じる比較的まれな良性疾患である。本症例では悪心・嘔吐による食道内圧の上昇のほか,上部食道の閉塞や長期の化学療法による栄養状態の悪化も原因と考えられた。

  • 高津 史明, 市原 周治, 橋田 真輔, 大谷 弘樹, 田中 則光
    2020 年 40 巻 5 号 p. 693-695
    発行日: 2020/07/31
    公開日: 2021/01/31
    ジャーナル フリー

    症例は87歳男性。徐々に増悪する倦怠感と腹部膨満感を主訴に救急搬送となった。理学所見上,下腹部痛と著明な腹部膨満がみられ,血液検査では乳酸値と炎症反応の上昇が認められた。腹部CT検査では腸管拡張と腹腔内に散在する遊離ガス像が指摘された。消化管穿孔による急性汎発性腹膜炎と診断し緊急手術を施行したところ,魚骨様の硬状索状物が直腸Rsの腹側壁から腹腔内へと穿通していることを確認した。同部を切除し,Hartmann手術を施行した。切除標本および本人家族への聴取から,異物は硬化したクッションタイプの義歯裏装材であった。術後経過は良好で,術後21日目に退院となった。義歯裏装材による消化管穿孔の報告は非常にまれであり,文献的考察を加えて報告する。

  • 岡崎 由季, 塚本 忠司, 江口 真平, 貝崎 亮二, 高塚 聡, 西口 幸雄
    2020 年 40 巻 5 号 p. 697-700
    発行日: 2020/07/31
    公開日: 2021/01/31
    ジャーナル フリー

    腹腔内に囊胞形成した結核性腹壁膿瘍の1例を報告する。症例は肺結核治療歴のある85歳の男性で,腹壁からの排膿を主訴に受診した。当院受診の8ヵ月前,前医で腹膜癌の疑いで腹腔ポートを造設された。しかし,腹水に結核菌を認めたため結核性腹膜炎と診断され,抗結核薬の内服がはじまった。その4ヵ月後,ポート造設部に膿瘍を認めポートが抜去された。膿性排液からは結核菌群のみが検出され抗結核薬が継続されたが,抜去創から排膿が続き当科紹介となった。CTで腹壁直下の腹腔内に囊胞状の液体貯留を認め,経皮的にドレーンを留置し洗浄を開始した。囊胞内容液からは結核菌polymerase chain reaction陽性とメチシリン感受性黄色ブドウ球菌が認められ,腹腔内に囊胞形成した結核性腹壁膿瘍に混合感染が生じたと考えられた。抗結核薬に抗菌薬の内服を追加し囊胞内洗浄を続けたところ,膿瘍は消褪し,以後再燃せず経過している。

  • 江藤 聡一, 室屋 大輔, 石川 博人, 岡部 正之, 岸本 幸也
    2020 年 40 巻 5 号 p. 701-704
    発行日: 2020/07/31
    公開日: 2021/01/31
    ジャーナル フリー

    症例は33歳,女性。右下腹部痛と発熱を主訴に受診。血液検査で炎症所見を認め,造影CT検査では糞石を伴う虫垂の腫大と盲腸周囲の脂肪織濃度の上昇を認めた。複雑性虫垂炎と診断し,抗生剤加療後に待機的虫垂切除術を行う方針とした。3ヵ月後のCT検査では糞石は消失し,炎症所見も改善していた。腹腔鏡下手術の術中所見では,虫垂と回腸が癒着し,漿膜面には粘液瘤を認めた。虫垂粘液性腫瘍と診断し,臍部創より挙上して虫垂切除および小腸部分切除術を施行した。永久標本で虫垂粘液囊腫の診断であった。糞石を伴った虫垂炎に対する保存的加療後の虫垂粘液囊腫の術前診断は難しく,術中所見により虫垂粘液囊腫と診断し腹腔鏡下に小腸合併切除を完遂できた比較的まれな症例だったため,文献的考察を加え報告する。

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