超音波検査(以下、US)は、放射線被曝や苦痛もなく装置も簡便であることから、一般診療のみならず任意型検診や人間ドックにも広く用いられており、がん検診における有用性も報告されている。その一方で、診断装置や走査法などの実施基準、US画像所見の判定基準、事後指導についての明確な規定はなく、がん検診としての精度管理や有効性の評価はなされていなかった。
2014年に日本消化器がん検診学会、日本超音波医学会、日本人間ドック学会が連携して、がん検診としての精度管理や有効性の評価を目的に「腹部超音波検(健)診判定マニュアル」(以下、判定マニュアル)が発行された。判定マニュアルは、実施基準、カテゴリー、判定区分(事後指導)からなっており、US画像所見にカテゴリーが対応しているため、専門領域でない判定医にも適切な判定区分の決定が可能となる。
一方、判定マニュアルの運用にはいくつかの課題もある。実施基準においては、検査担当者の専門性と記録断面がUS検(健)診の質的向上と均質化において最も重要な因子であり、推奨走査法や記録断面を定める必要がある。US画像所見とカテゴリーについては、US画像所見の不備、不十分な理解あるいは誤った解釈は、偽陰性例や偽陽性例といった受診者の不利益を生じる可能性がある。そのため、US画像所見の継続的な改訂と検査担当者に対する教育指導が必要である。
さらに、US検(健)診の精度向上と均質化には、US検(健)診の走査技術や読影技術に対する外部評価が必須であり、信頼性の高い優良施設の育成にも有用と考えられる。
健診で心電図検査を行うことにより、不整脈、心筋の異常、呼吸器疾患の可能性など多様な情報が得られ、心疾患の早期発見と治療につながりその意義は高い。
最近のほとんどの心電計では、記録終了とともに、自動診断所見が即時に表示され、その精度も向上している。これは大変有用な機能で、健診現場において特に循環器専門以外の医師が、この自動診断所見を診療の一助として活用していることも多い。しかし、計測ポイントの精度やノイズ混入時の判断など改善の必要な問題点も多々存在する。
一方心電図は心臓の電気現象を反映したもので、その情報だけで病名を診断できる場合は限られる。冠動脈の危険因子の有無や胸部X線の所見が判断に重要な場合もある。また、臨床症状やその経過の情報がまったくなく、心電図の経時的変化を見ないと診断が困難である場合もしばしば経験し、1 枚の心電図で正しい診断を確定するには時に限界がある。さらに心電図波形は年齢、体形、自律神経の影響で変化する。そのため、心電図の判定では、心電図波形の判読とともに医療面接・診察、心電図以外の検査の情報を加味した上での最終判定が本来望まれる。
このような状況下において総合健診を受けられる方々の信頼を維持していくためには、行われる心電図検査が信頼される水準にあることが施設には求められる。そのためには施設内部の精度管理はもとより外部精度管理に参加することで自施設の水準を確認することが重要と思われる。日本総合健診医学会では年1回心電図の精度管理を行い2018年は363施設が参加しほとんどの施設が優良の判定を受けている。しかし、心電図判定をだれがどのタイミングでするのか、判定結果をどう健診結果に反映させるのかなど各施設によっての状況の違いもある。そのような施設間の多様性を背景に、精度管理の内容については公共性・信頼性のより高いものとなるべく毎回改善努力が続けられている。
医療の「質」とは何か。組織は社会に対してどうあるべきか。顧客に対してどのような質を提供していきたいのか。また、社会に対して「質」が高いことをどのように伝えるのか。さらに、組織が目指す「質」を職員一人ひとりが理解し、認識し、行動に起こして、さらなる向上を目指すにはどうすればよいのか。これらの問いが内部でしっかりディスカッションされることが、質の向上に向けた実践的な活動につながると考えられる。
医療の「質」やその評価指標・制度については、いろいろな定義がなされており、質を継続的に維持するために第三者評価制度が取り入れられている。
日本総合健診医学会でも第三者認証が実施されており、また日本人間ドック学会においては「人間ドック健診施設機能評価制度」が導入されている。
一方、病院機能評価では、「患者・家族の意見を聞き、質改善に活用している」などの項目が設定されており、これらに共通する目的や意味を考察することが重要である。
実例として、質改善に向けて継続的・体系的にPDCA サイクルを回している4病院の取り組みを紹介する。いずれも内部でチェックする体制(内部監査)の仕組みを構築している。プロセスを可視化し、PDCAサイクルを回すようになれば、医療・健診の質は大きく向上するが、監査を受ける側の姿勢を、“受け身”から“前向き”に変え、“前向き”に指摘事項を受け入れられる環境づくりをしなければならない。
第三者評価制度及び内部監査は、組織のQMSを向上させるための両輪であり、安心・安全なサービスを継続して提供する仕組みがあることの証明にもなるが、各組織の状況に適したシステムを作り、全員で取り組むことが重要である。
2017年5月30日より「改正個人情報保護法」が施行された。これに先立ち、同年2月15日付けで、文科省、厚労省、経産省の3省連名による「個人情報保護法等の改正に伴う研究倫理指針の見直しについて」との手順書が政府HPで公開された。当学会は、研究など学術活動を通した社会貢献を基幹事業の柱としており、本法の理解と遵守は大変重要なことである。
では何故今回の改訂に到ったのか?。ここ数年、本邦ではマイナンバー制度の開始、スマートフォンの普及と電子決済等の増加、地上デジタル放送への完全移行及びこれに伴うデータ放送における双方向性の確立など、「個人情報」をめぐる環境が大きく変化し、様々な業態において異なったレベルで個人情報が管理される事となった。しかし、これまでの個人情報保護法では、取り扱う情報数5,000以下は適用外であり、さらに所轄官庁が異なるための様々な問題、あるいはEUをはじめとする国際的基準に比して甘いなどの課題を多く抱えていた。
今回、これらの諸問題を解決するために、人数の下限を撤廃するとともに、「個人識別符号」や「要配慮個人情報」など、用語に関する定義づけを行って認識の共通化を図りつつ、個人情報の適正な流通と利活用環境の整備を目指すための改正が行われた。研究分野においては、とくに①ヒトゲノム・遺伝子解析研究、②人を対象とする医学系研究、③遺伝子治療等臨床研究、の3方面において、用語の定義づけに添って、「インフォームド・コンセント等の手続」と「匿名加工情報・非識別加工情報の取扱規定」について見直すよう求められているが、②には殆ど全ての臨床研究が含まれると言える。
情報の取得者は、提供者に不当な差別や偏見が及ばない最大限の配慮義務が明記された。具体的には、紙媒体での管理はカギのかかる引き出しで保管する、パソコン上の管理ではパスワードを設定し、ウィルス対策ソフトを入れるなどの対応が必要となる。そしてさらに管理者は、その情報に触れる従業員や委託業者に対して、個人情報の私的な使用や漏洩はもとより、その情報を以て差別が発生をしない、などの教育を徹底させることが必要となる。
加えて特定の企業による利益相反事件に端を発する、臨床研究法が2018年4月1日より施行され、新たに「特定臨床研究」という概念が導入された。本講演ではそれらについて解説した。