総合健診
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50 巻, 2 号
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特集
総合健診の過去と未来
  • 福武 勝幸
    原稿種別: 特集
    2023 年 50 巻 2 号 p. 227-231
    発行日: 2023/03/10
    公開日: 2023/05/10
    ジャーナル オープンアクセス

     日本総合健診医学会の学会誌「総合健診」は、今年第50巻の発行を迎えました。本号では節目の第50巻にふさわしいテーマとして、「総合健診の過去と未来」を特集に組むことになり、総合健診に関係する領域ごとに、それぞれの過去や現在の問題点を整理し、近い未来ではどこまで変化し、どこを目指してゆくのかという点で各領域の専門家にご執筆いただきました。

     総合健診には、健診結果を基に疾患の発生リスクを予見して、生活習慣の改善などを通して発症を予防する一次予防、既に発生しつつある疾患を早期に発見して悪化を防ぎ、早期の治療に結び付けることで予後を改善する二次予防、そして、発病後、定期健診としての長期間のフォローアップを通して、既に発症した疾患の改善や悪化防止を担う三次予防について、それぞれの役割があります。また、総合健診は疾病予防の対象として、受診者個人に対しては疾患発病の高リスク群を抽出して対応する一方、集団としての行動変容を促すアプローチを示すとともに、介入効果を検証できる可能性も兼ね備えており、予防医学のエビデンスを創出するフィールドとしてさらに積極的な姿勢を示すべき時期が来ています。

     この50年の間に、これらの3段階の予防法と2つのアプローチ対象について、受診者、雇用者、行政からの総合健診に対する期待は変化してきました。これからの総合健診では遺伝子診断の応用や人工知能の利用が始まると思いますが、この特集が総合健診の発展の記録として、また、将来への展望として役立つと幸いです。

     なお、本稿は巻頭言ではありますが編集委員会からの要望があり、以下に簡単に総合健診のこれまでを振り返りながら、近い未来へ向けての私見を述べさせていただきます。

  • 高木 重人
    原稿種別: 特集
    2023 年 50 巻 2 号 p. 232-236
    発行日: 2023/03/10
    公開日: 2023/05/10
    ジャーナル オープンアクセス

     総合健診の標準化において、用語の統一は重要な課題である。2018年に日本人間ドック学会が設立し、2019年より日本総合健診医学会が加わった「人間ドック・健診用語集作成員会」では、画像検査で使用される所見・診断名の標準用語と類義語のシソーラス(対応表)作成作業が行われ、成果は2021年に健診標準フォーマットVer3.2として反映された。一方で、シソーラスを一般公開する意味での「健診標準フォーマットテキスト」発刊、新たな画像検査用語についての追加検討、既往歴病名の標準化、受診者向けの用語説明文策定など、まだ多くの課題が残されている。

  • 中山 富雄
    原稿種別: 特集
    2023 年 50 巻 2 号 p. 237-241
    発行日: 2023/03/10
    公開日: 2023/05/10
    ジャーナル オープンアクセス

     これまでのがん検診は臓器ごとの検査が行われてきた。わが国でのがん検診の導入は、当初専門家の意見で導入された経緯があるが、がん対策としてのがん検診という考え方の広まりに伴い、利益と不利益の対比を基準とした科学的評価による推奨、実効性を加味した議論に沿って厚生労働省の指針によって推奨されるという体制が近年整備されてきた。近年血液などで全身のがんのスクリーニングを目的としたMCED(Multi-cancer early detection)検査が注目されているが、発表された報告のほとんどがtwo-gate designを用いており、その結果をsingle-gate designで行われた既存の検査法の結果と比較してはいけない。リキッドバイオプシーに限っては、米英の大規模研究が進行中であり、その結果が期待されるところである。

  • 石垣 洋子
    原稿種別: 特集
    2023 年 50 巻 2 号 p. 242-254
    発行日: 2023/03/10
    公開日: 2023/05/10
    ジャーナル オープンアクセス

     女性健診の展望と課題を考えるとき、「性差医学・医療の発展」と「女性検診(乳がん、子宮頸がん)の普及」は両輪である。女性の健康へのアプローチはエストロゲンをはじめとする女性ホルモンとの関係性が強く、ライフステージにより性差を念頭に検討することが重要である。2010年には日本循環器病学会から「循環器領域における性差医療に関するガイドライン」が発表され性差による注目が急速に高まりつつある。女性検診に関しては「乳がん検診」と「子宮頸がん検診」が代表的なものであり、国のがん対策推進基本計画においてがん対策に取り組んでいるが平成28年度までにがん検診受診率50%以上にするという目標は未だ達成できていない状況である。日本の乳がん、子宮頸がん死亡率は増加傾向であり、女性のがん検診は現時点で効果を発揮しているとは言えない。乳がん検診においては適切な精度管理のもとに「高濃度乳房問題」などエビデンスに基づいた検診を行うことが重要である。また、「ブレスト・アウェアネス」など乳房を意識して生活する習慣をがん教育の一環として義務教育の段階から啓蒙、啓発することによりMMG偽陰性率が高い高濃度乳房女性に対してもより早期に乳がんの発見が期待できる。ブレスト・アウェアネスの普及が女性の健康意識の熟成と検診受診への動機づけとなり、乳がん死亡率減少をもたらす効果となることを期待する。子宮頸がんは、検診を受診することにより予防可能であり、撲滅しうるがんであるにも関わらず、日本では子宮頸がんによる死亡率は高く、また、若年者に発症率が増加しているのが現状である。乳がん同様に子宮頸がんへの知識やがん検診の重要性を義務教育の段階から啓蒙、啓発し、若年層での受診勧奨は早急な課題である。2022年4月より接種推奨が再開されたHPVワクチンと子宮頸がん検診の推進により子宮頸がん死撲滅を切に願う。

  • 山上 孝司
    原稿種別: 特集
    2023 年 50 巻 2 号 p. 255-259
    発行日: 2023/03/10
    公開日: 2023/05/10
    ジャーナル オープンアクセス

     受診者統計Aの集計結果を、2014年度のものと2020年度のものを比較したところ、肝機能、糖代謝、脂質代謝、尿酸の各項目の要精密検査・要治療の割合が上昇していた。上昇していた年代は、肝機能と糖代謝が男女の全年代、脂質代謝が男女の30代、40代、尿酸が男性の30代であった。生活習慣病のリスクを持っている人が、若い年代を中心に徐々に増加していると考えられ、適切な保健指導と疾病の早期発見が一層重要になると思われる。

     受診者統計Bの集計結果を、2014年度のものと2020年度のものを比較したところ、20歳から体重が10kg以上増加した割合と、朝食を抜くことが週に3回以上あると答えた割合が、男女の全年代で上昇していた。望ましい食事の摂り方や身体活動量を増やす保健指導がこれまで以上に必要と思われる。

     受診者統計Aにおける総合健診受診者の年齢構成を見ると、男女ともに30代以下の割合が8~10ポイント低下し、50代の割合が6~8ポイント上昇していた。停年の延長が予想される今日において、50代はまだまだ働き続けなければならず、生活習慣病ですでに治療している人に対しては重症化予防の取り組みが、生活習慣病のリスクをすでに持っている人に対しては疾病の早期発見が一層重要になってきている。また生活習慣病のリスクを持つ若い世代が増加しているので、疾病の早期発見だけでなく、適切な食事や運動の指導による疾病の予防を図らなければならないと思われる。

原著
  • 佐々木 清寿, 熊倉 泰久, 増田 勝紀
    原稿種別: 原著
    2023 年 50 巻 2 号 p. 260-268
    発行日: 2023/03/10
    公開日: 2023/05/10
    [早期公開] 公開日: 2023/02/08
    ジャーナル オープンアクセス

    【目的】脳心血管病予防に関する包括的リスク管理チャートは、関係学会のガイドラインや治療方針も考慮したうえで、非専門医が日常診療において使いやすいように構成されており画期的であった。しかし、このチャートを健診の場で活用するにあたり、実際の受診者のリスク分布は、把握されていなかった。本研究では、健診後の適切な保健指導の計画立案ができるように、疾患罹患率やリスクカテゴリ分布を明らかにすることを目的とした。

    【対象】2015年1月から12月までに、聖路加国際病院予防医療センターの一日人間ドックを受診したのべ38,321人(男性18,019人、女性20,302人)を対象とした。

    【方法】包括的管理チャートのアルゴリズムに沿って、全6 Step中、治療開始前までのスクリーニングの1(a:基本項目、b:追加項目、c:専門医への紹介必要性の判断)と2(各リスク因子の診断と追加評価項目)に注目して分析を行った。

    【結果】Step 1c(要紹介)の該当者は、非治療者より、現在治療中者が多く、特に糖尿病が多かった。Step 2のリスク保有率が高い疾患は、糖尿病(男性:52.7%、女性:41.8%)・脂質異常症(男性:34.3%、女性:22.5%)であった。Step 2のリスク因子保有者率は、男性:約60%、女性:約50%であった。

    【考察】健診実施者は、リスク因子の保有状況を念頭に保健指導をするとともに、各疾患で加療中の受診者についても主治医と積極的に連携していく必要性が示唆された。

実践報告
  • 半田 卓, 安達 良弘, 三澤 敏信, 土屋 修平, 佐藤 友晴, 後藤 敏和, 菊地 惇
    原稿種別: 実践報告
    2023 年 50 巻 2 号 p. 269-273
    発行日: 2023/03/10
    公開日: 2023/05/10
    ジャーナル オープンアクセス

     短時間に多数の尿検体を受領する大学の学校健診に於いて、持ち帰った尿検体が、健診システムにて予約登録された数より不足するという事例が生じた。確実な検体受領管理を行うシステムの構築を目指した。従来法では、尿検体受領ブースにて担当者が、事前に健診システムから印刷されたバーコードラベルを尿検体に貼付し、受診票及び一覧用のチェックシートに手書きチェックしていた。一覧用のチェックシートは尿検体数のみの把握で過不足が生じた際に個人が同定されず、チェック忘れにより検体数の方が多くなることがあった。構築システムは以下の如くである。事前準備として、実施主体から受領した受診者名簿情報を健診システムへ予約登録する。その際、受診票と共に印刷される各個人の健診月日、受付番号を表す一次元バーコードが印刷された尿検体ラベルを受診票にホッチキス留めし、ファイルに挟める(従来通り)。健診システムへ登録した個人属性情報を含む予約情報をデータ出力し、「尿検体確認用エクセルシート」へ取り込む。空の尿検体用スピッツは当日配布し、受診者は尿を採取する。採取した尿検体の受領は尿検体受領ブースにて職員2人で行う。職員Aは受診票にホッチキス留めされている尿検体ラベルをスピッツに貼付し職員Bに渡す。BはPCに接続されたバーコードリーダーにて尿検体ラベルを読み込み、「尿検体確認用エクセルシート」画面に表示される氏名を読み上げ、受診者へ本人確認をする。検体を尿ラックに格納し終了。検体持ち帰り時は、蓄積した読み込み件数と尿検体数が合っているかを確認し持ち帰る。本システムを、同校の健診で活用し極めて有効であった。【結語】検体受領時の本人確認をバーコードラベルで読み取ることで、エクセルを活用したシステムで確実に受領(通過)管理を行う仕組みを構築した。

大会講演
第50回大会
  • 対馬 ルリ子
    原稿種別: 大会講演
    2023 年 50 巻 2 号 p. 274-283
    発行日: 2023/03/10
    公開日: 2023/05/10
    ジャーナル オープンアクセス

     これまで企業健診、自治体健診に意識されてこなかった、女性の健康課題とその対策・予防について概説する。性差と年代リスクに基づいた女性検診や相談体制を整備することによって、月経や更年期の不調への対応力が増すばかりでなく、婦人科疾患や甲状腺疾患、膠原病、貧血、葉酸不足など、不妊や出産時リスクを減らし、安全な出産と産後就労に貢献できる。また、マイノリティの人権への理解が深まり、性差別、性暴力、小児虐待やD V、セクハラの予防となり、ダイバーシティ推進につながる。どの健診も検診も、人材育成、企業発展への投資となりうることを意識していただきたいと思う。

  • 植松 孝悦
    原稿種別: 大会講演
    2023 年 50 巻 2 号 p. 284-291
    発行日: 2023/03/10
    公開日: 2023/05/10
    ジャーナル オープンアクセス

     近年、世界的に乳癌発症リスク層別化による乳がん検診の概念が注目され、リスク層別化乳がん検診が不利益の少ない、対費用効果で優れる乳がん検診をもたらすと注目されている。日本で行われた40~49 歳の無症状の日本人女性を対象とした7万人を超える研究参加者で行われた、検診マンモグラフィと補助的検診モダリティの乳房超音波検査を併用した乳がん検診の成績を比較した大規模な世界初のランダム化比較試験であるJ-START は、乳癌発症リスクの高い40歳代の日本人女性に対する超音波検査を加えた intensive screening のリスク層別化乳がん検診と解釈することが可能である。

     日本の次世代乳がん検診は、乳房を意識する生活習慣というブレスト・アウェアネスの啓発を通して、有症状の女性は速やかに医師の診察を受けるという適切な医療受診行動を浸透させ、乳がん検診は無症状な女性が定期受診をするといった乳がん検診リテラシーを一般女性に浸透させることが重要である。そして、リスク層別化乳がん検診の概念も国民に啓発し、その導入に向けて世論形成とインフラ整備を整えていく必要がある。

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