我が国の脂質異常症患者数は約220万5千人と推計され、総コレステロール値 240mg/dL以上の人は男性12.9%、女性22.4%と報告されており、健診で指摘される機会がもっとも多い疾患の1つである。脂質異常症は、動脈硬化性疾患の発症予防、進展阻止のための治療標的の1つであり、動脈硬化性疾患予防ガイドラインでは、脂質異常症の管理を中心として、脂質異常症以外の危険因子も包括して管理することが推奨されている。2022年版の動脈硬化性疾患予防ガイドラインでは、非空腹時トリグリセライド値 175mg/dL以上を高トリグリセライド血症と診断することとされ、随時トリグリセライド値の重要性が強調されている。また、久山町研究の結果を踏まえた久山町スコアが採用された。このことにより、虚血性心疾患とアテローム血栓性脳梗塞の発症をエンドポイントとしたリスク評価ができるようになった。さらに、動脈硬化性疾患発症リスクの高い集団におけるLDLコレステロール(LDL-C)値の管理目標が改定された。糖尿病罹患者のうち、末消動脈疾患・細小血管障害合併時・喫煙者では、LDL-C値 100mg/dL未満に管理すること、冠動脈疾患、アテローム血栓性脳梗塞の2次予防はLDL-C値 100mg/dL未満、2次予防の中でも、急性冠症候群、家族性高コレステロール血症、糖尿病、冠動脈疾患とアテローム血栓性脳梗塞両者の合併例では、LDL-C値 70mg/dL未満に管理することが推奨されている。家族性高コレステロール血症は冠動脈疾患発症リスクが非常に高い疾患であるが、早期診断・早期治療介入が行われているとは言いがたい。近年、新薬の発売、診断技術の進歩、疫学的知見の蓄積などに伴い、早期発見、専門医への受診勧奨につなげるためにも健診の意義は極めて重要になっている。本稿では、動脈硬化性疾患予防のための脂質管理について概説する。
厚生労働省発表の、「令和元年国民健康・栄養調査」によると、2019年時点で20歳以上の糖尿病リスク者は2,251万人と推定されている。一方、日本糖尿病学会が示す「糖尿病治療の目標」は、「糖尿病のない人と変わらない寿命とQOL」にあり、合併症の発症・進展の阻止のみならず、高齢化などで増加する併存症の予防・管理に加え、スティグマ、社会的不利益、差別の除去への対応も重要とされている。
糖尿病は発症前の耐糖能異常の段階から心血管イベントリスクが上昇し、糖尿病発症早期からの良好な血糖管理は合併症の発症進展予防への寄与のみならず、認知症など併存症の発症リスクも低下すると報告されている。また、2型糖尿病の診断時点での膵β細胞機能は約50%低下しているとの報告から、膵β細胞機能が残存している発症早期からの治療介入はインスリン分泌能低下を軽減し将来の良好な血糖マネジメントの維持に繋がると考えられる。
2008年度から生活習慣病の予防・早期発見を目的とし、40歳以上75歳未満の被保険者・被扶養者を対象に特定健康診査・特定保健指導の実施が義務づけられ、生活習慣改善を含めた早期からの糖尿病治療を行うことにより重症化予防に努めている。しかしながら、糖代謝異常で受診勧奨を受けた者のうち医療機関の受診率は約35%との報告や、治療中断率が年8%程度との報告がある。背景には「糖尿病は無症状であることが多い」「合併症、併存症予防の意義についての啓蒙が不十分」「周囲に糖尿病の罹患が知れることに対する負のイメージ(スティグマ)」などが根底にあると推察される。
昨今、SGLT2阻害薬やGLP-1受容体作動薬などの糖尿病治療薬の早期導入による合併症・併存症の発症や進展を抑制するエビデンスが構築されるとともに、CGM(Continuous Glucose Monitoring)などの先進機器を用いた質の良い血糖管理の実現が可能な時代となってきている。健診後の受診率が向上すれば合併症や併存症を予防できる可能性が高まり、ひいては健康寿命の延伸にもつながると期待される。
本稿では、糖尿病代謝内科医の視点から、糖尿病の早期治療介入や治療継続の重要性に加え、近年の糖尿病治療の進歩を中心に概説する。
2023年NAFLD(non-alcoholic fatty liver disease)はMASLD(metabolic dysfunction associated steatotic liver disease)に名称が変更され、代謝異常の重要性や中等度飲酒者に対する分類がなされた。このMASLDの予後は肝関連イベントだけでなく、脳心血管イベント、肝臓がん以外の他臓器がんが知られており、肝関連イベントは肝臓の線維化進展例から脳心血管イベント、肝臓がん以外の他臓器がんはMASLD全体からリスクがあることがわかってきた。
MASLDの肝線維化進展には糖尿病やPatatin-like phospholipase domain-containing 3(PNPLA3)リスクアレルが関連しており、さらにはこの線維化を肝生検以外の非侵襲的診断法で診断する方法が多く検討されている。また、MASLDの治療の基本は食事運動療法であり、保険適応となった薬剤はない。しかしながら、現在も多くの臨床治験が行われており、今後新薬の開発に期待される。
がんは、定期的ながん検診の受診による早期発見・早期治療により、リスク低減が可能であるが、諸外国と比較して日本におけるがん検診受診率は低く、中でも乳がん・子宮頸がん検診は40%前後にとどまっている。聖隷予防検診センターが所在する浜松市も例外でなく、健診機関として女性スタッフを中心に啓発活動を行っていたものの、特にAYA世代を中心とした受診率が伸び悩んでいた。
そのような状況を踏まえ、スタッフとともに、どのような手法であれば行動変容を起こすことが出来るのか検討した結果、そもそも「忙しい中でもなぜ検診を受ける必要があるのか」や「なぜ検診によるがんの早期発見が重要なのか」を自分事として認識してもらう必要があり、その点を同世代から共感を呼ぶような分かりやすい言葉で伝えることで課題解決につながるのではないかという仮説を立てた。
そこで2019年8月に近隣に所在する聖隷クリストファー大学看護学部の先生に、学生を中心とした婦人科検診啓発プロジェクト設立を打診したところ快諾を頂き、同年10月より「楽しい!婦人科検診啓発活動」をコンセプトとした学生主体型のがん検診啓発プロジェクト「SGE♡プロジェクト※」を発足させた。
活動においてコロナ禍による影響もうけたものの、学生のアイデアを積極的に取り入れながら行政や企業を巻き込んだ産学官連携による様々な啓発活動を実施、その活動は地元メディアや医療経営雑誌等に取り上げられるとともに、2023年3月には浜松市から「浜松ウエルネスアワード市民健幸部門」の受賞を受けるなど、さまざまな分野から共感や反響を頂いている。
今回、本プロジェクトの設立の経緯や健診機関側から見た活動の成果とともに、プロジェクトメンバーの学生から学生の視点からとらえたプロジェクト参画に対する思いや成果、受診率向上に向けて見えてきた課題やプロジェクトの今後の展望などについて報告する。
※SGE♡プロジェクト
S:SEIREI(聖隷) G:GYNECOLOGY(婦人科) E:ENLIGHTENMENT (啓発)に♡(愛)を持って活動する
視覚障害の原因疾患上位に緑内障、糖尿病網膜症、加齢黄斑変性が並ぶ現在、健診の眼科的意義は、緑内障の早期発見と黄斑疾患など眼底疾患の検出にある。しかし、通常健診でのカラー眼底写真と眼圧測定による発見には限界がある。視神経乳頭や黄斑網膜の変化を鋭敏に検出できる光干渉断層計(OCT)の進歩は目覚ましく、現在では非常に早期の緑内障をも検出可能である。また、加齢黄斑変性や黄斑前膜の早期は、通常の眼底写真では判別しにくいため進行するまで放置されることも多い。そうなると、治療後の視機能回復は不良になる。現在は、これらの疾患もOCTや光干渉断層血管撮影(OCTA)などの検査で比較的容易に検出できる。また、通常の眼底写真の範囲に病変が見られず見落とされる疾患もある。これは、超広角眼底カメラで周辺の病変を拾うことができる。さらに、広角OCTAで糖尿病網膜症の毛細血管閉塞や網膜新生血管も検出できる。このように、健診の眼科検査と進歩した眼科光学検査機器を用いた眼科診療の疾患検出能力には大きな差がある。そのため、倉敷成人病健診センターは、倉敷成人病センターアイセンター外来の施設で、精度の高い検査機器を用いた検査と眼科医の細隙灯顕微鏡による診察とをおこなうアイドックを2022年9月から始めた。これまでの短期実績を含めて紹介する。