総合健診
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51 巻, 2 号
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特集
総合健診とAI
  • 後藤 信一
    原稿種別: 特集
    2024 年 51 巻 2 号 p. 209-214
    発行日: 2024/03/10
    公開日: 2024/05/10
    ジャーナル オープンアクセス

     総合健診は我が国が世界に誇る健康管理システムである。一見健康な集団に対して大規模かつ定期的にスクリーニング検査を実施することで、多くの疾患を無症状のうちに検出し、予防・治療につなげることができる。しかし、対象集団のほとんどが健康であるため、有病率が極端に低く、精度の高い検査であっても偽陽性が多くなってしまうという問題がある。人工知能は、現在人間が行っているタスクの自動化および、検査から直接疾患を検出するシステムの構築を可能にし、健診で扱える情報の拡大や検査精度の大幅な改善を実現しうる。疾患の見落としを減らすだけでなく、不要な2次検査を減らすことで、医療費の削減や不要な身体侵襲・放射線被曝なども減らせる。また、機械は疲れることなく同じ計算を繰り返し実施できるため、健診のように、大規模な集団を対象とするにはうってつけだ。

     このように、非常に有用な人工知能であるが、世間でまことしやかに囁かれている「医師の仕事を奪う」というようなことは、今しばらくは起こらないと考えられる。あくまで、優れた検査結果が追加で得られるのと同様であり、結果の解釈や患者の価値観に基づく次のステップの判断など、重要な医師の仕事を肩代わりすることはできない。我々、現代の医師には、AIの長所と短所を正しく理解し、上手に使いこなすことが求められている。

  • 岡本 勇助, 小澤 毅士, 柴田 淳一, 由雄 敏之, 平澤 俊明, 藤崎 順子, 後藤田 卓志, 多田 智裕
    原稿種別: 特集
    2024 年 51 巻 2 号 p. 215-223
    発行日: 2024/03/10
    公開日: 2024/05/10
    ジャーナル オープンアクセス

     近年AIは様々な分野で活用され、医療においては特に画像診断支援領域でのAIが注目を集めている。消化管内視鏡領域でも社会実装が進んでおり、上部消化管領域では食道、胃の腫瘍性病変検出のAIが、下部消化管領域では大腸ポリープの検出や鑑別のAIが既に実臨床で使用されている。特に大腸ポリープ検出支援AIは複数製品が上市されており、リアルワールドでのAIの性能結果も徐々に明らかになってきている。本邦では消化管がん検診として、胃がんの内視鏡スクリーニングが施行されており、検査精度向上が報告されているが、今後内視鏡AIを用いることで、胃がん内視鏡検診の更なる精度向上が期待される。本稿では、各種内視鏡AIの現状と今後の展望について概説する。

  • 中田 典生
    原稿種別: 特集
    2024 年 51 巻 2 号 p. 224-228
    発行日: 2024/03/10
    公開日: 2024/05/10
    ジャーナル オープンアクセス

     第3次AIブームは2000年代初頭のディープラーニングの登場から始まり、画像認識において特に進展した。2017年のtransformerアルゴリズムの登場により自然言語処理が進化し、ChatGPTなどの大規模言語モデルが登場し第4次AIブームが始まった。医療分野では、画像診断支援AIの導入が進み、FDAやPMDAによって多くの医療機器が認可されている。将来的には、言語、画像、その他のデータを統合するマルチモーダル大規模言語モデル(LLM)の開発が期待されている。

  • 田村 雄一
    原稿種別: 特集
    2024 年 51 巻 2 号 p. 229-235
    発行日: 2024/03/10
    公開日: 2024/05/10
    ジャーナル オープンアクセス

     昨今、人工知能(AI)を使ったモノやサービスの開発が盛んに行われており、医療の分野でも人工知能を使った研究や医療機器開発が多く行われている。循環器内科領域においても、大量のデータをもとにしたデジタルヘルスを活用した診断支援システムなどの開発が進んでいる。特に心電図読影の分野では画像認識技術の向上により心電図の画像データを大量に学習することで作成された人工知能を使った心電図自動診断の研究報告が多くされている。またこれまでブラックボックスとされていた人工知能の判定の過程を人間の目で可視化できるような研究も行われている。最新の研究では、心電図を使って人間の目では通常は心電図から認識できない所見や徴候を人工知能を使って検出し、左室機能不全や一過性心房細動の発症予測など行う技術の実用化が進んでいる。疾患の徴候を検出するAIを利用して、病気の発症前に高リスク群の患者を効率よくスクリーニングすることができるようになることが期待され、予防領域にも大きなインパクトをもたらす可能性が高い。

  • 井上 勉, 岡田 浩一
    原稿種別: 特集
    2024 年 51 巻 2 号 p. 236-241
    発行日: 2024/03/10
    公開日: 2024/05/10
    ジャーナル オープンアクセス

     日本の慢性腎臓病患者数は約1,400万人と試算されている。進行すると透析や腎移植が必要になるだけではなく、免疫力の低下や動脈硬化の進行を介して主要な死亡原因と関連している。診断には腎生検の他、超音波、MRI、CTなどの画像検査も用いられるが、日常診療では血清クレアチニン、蛋白尿、血圧が主要な評価項目である。

     これらの既存の臨床データを特徴量として、急性腎障害の発症や、生命予後、腎疾患進行リスクの推定にAI診断の導入が試みられている。腎生検の定量的評価においてもAI的手法の導入が模索されており、組織分類や病変の識別に高い精度を発揮している。

     MRIを代表とする画像診断の進歩は、これまで叶わなかった腎病態の可視化を可能にした。撮像法の工夫によって腎臓の虚血・低酸素状態、灌流量、微細構造の変性や線維化に関連する情報を非侵襲的に取得可能である。AI技術は膨大な画像情報を包括的・定量的に処理する手段として重用されている。

     慢性腎臓病は未だに有効な治療法がないため、早期診断と適切な治療介入が重要である、AI技術の活用は、腎疾患の正確な診断や治療効果の評価に貢献し、臨床研究の進展にも大きな影響を与えると期待されている。

  • 井川 房夫
    原稿種別: 特集
    2024 年 51 巻 2 号 p. 242-251
    発行日: 2024/03/10
    公開日: 2024/05/10
    ジャーナル オープンアクセス

     一般社団法人日本脳ドック学会は、未破裂脳動脈瘤や無症候性脳梗塞など無症候性脳疾患の早期発見早期治療を目的として、世界では例を見ない日本独自の脳健診システムである。現在は、脳卒中と認知症予防の医学会として認知症予防にも力を入れている。日本には1990年台から脳ドック健診の画像データがあり、健常人脳画像エビデンスの宝庫といえる。しかし、全てがデータベースとして登録されているわけではなく、現在データベース化されているデータを集積研究している。例えば、未破裂脳動脈瘤を脳ドック健診でたくさん発見し、治療していけばくも膜下出血は減少するのではないかと考えられていた。しかし、現在では脳ドック健診で発見される未破裂脳動脈瘤は限られており、これらを治療してもくも膜下出血を減少させることは困難で、むしろ脳ドック健診により生活習慣を改善することがくも膜下出血頻度の減少に寄与することがわかってきた。

     人工知能(artificial intelligence: AI)は、教師データから正解を導き出す手法で脳ドック健診における画像診断の補助や将来の脳梗塞や認知症リスクを予想するには適しており、すでに実用されている。現在、主に脳の萎縮や、特に海馬の萎縮を測定するAIが実用化されており、我々は未破裂脳動脈瘤診断補助AI、脳白質変化のAI等を開発している。一方、実際の脳ドックではMRI画像データ以外にも、既往歴、生活習慣、採血データ、心電図、頚動脈超音波検査、認知機能検査等が行われる。これらのデータを統合してAIによる予測することも可能となりうる。本稿では、人工知能の画像診断支援への応用とAIによる脳ドック診断の可能性について解説する。

原著
  • 蕪 龍大, 岩崎 留己, 福田 莉香子, 松本 栞音, 古島 京佳, 竹下 哲二
    原稿種別: 原著
    2024 年 51 巻 2 号 p. 252-257
    発行日: 2024/03/10
    公開日: 2024/05/10
    [早期公開] 公開日: 2023/11/28
    ジャーナル オープンアクセス

    【目的】特定健康診査 (以下住民健診) における眼底撮影は対象基準改正等もあり、現在は2007年までと比して100分の1にまで減少した。上天草健康管理センターは眼科疾患の早期発見を目的として、2022年の住民健診では全受診者に対して眼底撮影を行った。これに伴い精密検査受診票を持参し眼科受診する患者が増加したが、眼底病変よりも白内障を指摘された受診者が多くみられた。眼科受診契機となった割合、検眼所見から住民健診における眼底撮影の有用性について検討した。

    【方法】2022年6月から12月までに住民健診を受診した1,928人に無散瞳眼底撮影を行い、193人が精密検査判定となり受診票を郵送した。受診票を持参し上天草総合病院眼科にて精密検査を行った102人を解析対象とした。眼科受診歴、白内障手術計画の有無について診療録より後ろ向きに調査した。受診歴から初診群および再診群の2群に分けて群間比較を行った。

    【結果】対象者102人の年齢は73.6±7.7歳 (平均±標準偏差)、男性47人 (46.1%)、女性55人 (53.9%) だった。精密検査受診者のうち、当科の受診歴は初診52人 (51.0%)、再診50人 (49.0%) だった。初診52人のうち、他院眼科受診の既往があったのは5人 (4.9%) だった。白内障の診断は71人 (有所見率69.6%) だった。群間比較の結果、白内障と診断されたのは初診群42例 (41.2%)、再診群29例 (28.4%)、手術計画件数は初診群20件 (38.5%)、再診群8件 (16.0%) でともに有意な偏りを認めた (p<0.05:Pearson’s カイ二乗検定)。

    【結論】住民健診における眼底撮影によって白内障の検出の有用性が明らかになった。特に眼科医療機関の少ないへき地では受療行動に繋がると考え、より効果的であることが示唆された。

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