総合健診
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47 巻, 6 号
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大会講演
日本総合健診医学会 第48回大会
  • 赤松 利恵
    原稿種別: 大会講演
    2020 年47 巻6 号 p. 647-652
    発行日: 2020/11/10
    公開日: 2020/12/01
    ジャーナル オープンアクセス

     食行動は他の健康行動と比較して、変容させるのが難しいとされている。本稿では、食行動の特徴を踏まえて、健診後の生活習慣改善指導において、食行動の変容を促すポイントを解説する。

     まず、行動視点で受診者の話を聴くことである。食行動変容を促すには、食物視点と行動視点の両方のアドバイスが必要である。もし、エネルギーや栄養素といった食物視点のアドバイスだけに偏ると、「わかっているけど、できない」人を生んでしまう。習慣化された行動は、行動の鎖のように連なってパターン化されている。行動の鎖をイメージしながら、食生活を把握することで、問題行動にたどりつかないよう、鎖をどこで切ればよいかを提案できる。

     次に、自信を高める情報提供を行うことがあげられる。行動変容の準備性を「重要性」と「自信」の二軸で考えると、「重要性」は高いが、「自信」が低い人が「わかっているけど、できない」人である。この人たちには、「重要性」を高めるより、「自信」を高める方が時間を有効に活用できる。「自信」を高めるためには、行動ができなくなりそうな場面(誘惑場面)で、どのような対策がとれるかといった情報が、有効である。

     最後に、食物の情報を提供する際は、料理・食事レベルの情報にすることがあげられる。食物の情報には、栄養素・食品・料理・食事・行動レベルがあるが、栄養素や食品レベルの場合、自己評価が難しく、実践もしにくい。料理・食事レベルに置き換えてアドバイスすることが望まれる。

     健診後の生活習慣改善指導は、時間が限られており、栄養素レベルまでの評価とアドバイスは難しい。標準的な質問票をうまく活用し、行動視点から話を聴き、「それだったら、できそう」と思ってもらえる指導を心がけることが重要である。

  • 江口 泰正
    原稿種別: 大会講演
    2020 年47 巻6 号 p. 653-659
    発行日: 2020/11/10
    公開日: 2020/12/01
    ジャーナル オープンアクセス

     人々が自発的、自主的に健康行動をとっていけるようにしていくためには、その基本能力としての「ヘルスリテラシー」が重要となる。この「ヘルスリテラシー」という能力を健康情報の「入手」「理解」「評価」「活用」といった局面要素に分類したとき、対象者がどの局面の能力が不十分であるかを把握できれば、効率的な保健指導に結びつけることが可能となる。一方、保健指導者においては、対象者が「理解」しやすくて容易に「評価」でき、活用していけるように支援していく工夫が求められるため、健康情報を提供する側のリテラシーも重要となる。

     他方、健康情報の面でこれらのリテラシーが高いからと言って、誰でもが健康行動をとっていくことにつながるわけではない。「理解」「評価」と「活用」との間に大きな壁が存在するといっても過言ではない。このような「わかっているけれども、やれない人」をどのように支援すれば健康行動につながるのかを探究していくことは、これからの重要課題と言える。たとえ論理的には正しくても、行動目標が複雑だったり、興味が沸かない内容だったりするものであれば相手の心には響かない。相手の感情や行動特性に働きかけることも求められる。

     我々が実施したRCTによる介入研究の結果からは、運動の効果を前面に出した支援を行った群よりも、運動の過程を楽しむことを前面に出した支援を行った群のほうが介入期間中の離脱者が少なかった。保健指導者においては、ともすれば健康行動の結果や成果ばかりに目が行き、そのことだけを相手に伝えてしまいがちである。しかしながら、行動変容を促すためには、そればかりではなく「楽しみながら」取り組める機会を増やすことをもっと支援した方が良いのかもしれない。健康情報に対する「リテラシーを高める支援」に「人の心に寄り添う行動科学的な支援」をどのように絡めていくと良いのかについて、さらに研究を進めていく必要がある。

  • 増田 大作
    原稿種別: 大会講演
    2020 年47 巻6 号 p. 660-668
    発行日: 2020/11/10
    公開日: 2020/12/01
    ジャーナル オープンアクセス

     健康診断において現在、脂質異常は動脈硬化性疾患発症リスクの観点から疫学的なデータを背景として脂質値[LDLコレステロール、トリグリセライド(TG)、HDLコレステロール値]が測定されそれぞれのカットオフ値を用いて評価が進められている。LDLやHDLの粒子数と直接的な相関のあるLDL・HDLコレステロール値は動脈硬化性疾患イベント評価に有用であるが、空腹時TG値はばらつきが多くまた同程度の数値であってもリポ蛋白プロファイルが異なるとリスクの程度は大きく異なる。このため、健康診断で採用されている脂質値のみならず、リポ蛋白プロファイルを評価するマーカーの開発が必要とされてきた。高TG血症の動脈硬化性疾患発症リスクの背景にはTGを含むレムナントリポ蛋白の蓄積が存在する。この評価のためにレムナントコレステロール値(RLP-CあるいはRemL-C)が存在するが、我々は独自に小腸由来カイロミクロンレムナントを反映するアポ(リポ蛋白)B-48濃度の測定系を開発した。空腹時アポB-48濃度は、健康診断での健常例の検討でReference Interval;0.74-5.65μg/mL、基準値上限;5.7μg/mLと低値であったが、レムナントによる動脈硬化リスク状態にあるIII型高脂血症、メタボリックシンドローム、慢性腎臓病症例で上昇していた。さらに空腹時アポB-48濃度は、空腹時TG値が正常高値(100-150mg/dL)の症例において頚動脈中膜内膜複合体肥厚と正相関しており、冠動脈カテーテル検査の連続症例における冠動脈狭窄有病者、ステント留置後の新規狭窄病変や脳大血管の梗塞の発症の有病率に関連していた。このように、空腹時アポB-48濃度測定はカイロミクロンレムナントの蓄積を反映する、独立した動脈硬化の危険因子の評価系として確立し得た。健康診断でのTG値測定は重要であるがリポ蛋白異常の検出が動脈硬化性疾患発症リスク推定には重要であり、アポB-48濃度測定などのリポ蛋白プロファイル解析が活用されるべきである。

  • 和田 高士, 長谷川 泰隆
    原稿種別: 大会講演
    2020 年47 巻6 号 p. 669-675
    発行日: 2020/11/10
    公開日: 2020/12/01
    ジャーナル オープンアクセス

     長期間での高中性脂肪血症の有病率の推移を明らかにするために、東京慈恵会医科大学付属病院の1988年からの31年間の人間ドック受診者259,935名を対象に解析した。30歳から79歳までの症例を男女別に10歳刻みに分類した。各群での毎年の中性脂肪150mg/dL以上の有病率、脂質改善薬の服薬率を調査した。

     男性では全年齢群において高中性脂肪血症の有病率は減少した。女性は30歳代を除いた全年齢群で高中性脂肪血症の有病率の減少を認めたが、男性に比べると減少率はゆるやかであった。

     脂質異常改善薬の服薬率は年々増加したが、非服薬群に限定しても高中性脂肪血症の有病率の推移は、全体とほぼ同じような減少傾向を示した。

     BMIの推移は、男性では増加傾向、女性は減少傾向であった。飲酒量の減少から、高中性脂肪血症の有病率が減少した理由として飲酒量の減少が考えられた。

     体重減量による高中性脂肪血症の改善効果は、減量が大きいほど効果がみられたが、300mg/dL以上では効果が薄れていった。400mg/dL以上では強力な抗酸化物質である総ビリルビンが減少した。包括的リスクチャートでは500mg/dL以上を専門医紹介となっているが、人間ドック受診者を対象とした検討では、その該当者はわずか0.4%すぎない。健診では、150~399mg/dLは生活習慣改善とし、治療を前提とした受診勧奨のカットオフ値は400mg/dLに変更が望まれる。

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