生後6カ月時に罹患した単純ヘルペス脳炎により両側側頭葉聴覚領野を含む損傷を受け, 聴覚失認を呈した症例の4年間にわたる発達経過を, 当初難聴があるとされ後に正常聴力と判明した脳損傷例の聴覚発達と比較しながら報告した.現在までの経過より以下の知見を得た.
1) 精神発達, 視覚認知は徐々に発達しているのに対し, 聴覚は純音に対する反応閾値が低下したにもかかわらず, 質的面の発達は一定レベル以上に進展せず, 視覚と聴覚の高次機能の間に差が生じてきている.
2) 本例の聴覚発達で特異な点は, 高次機能の発達が抑制されているのに対し, 皮質下で統合された低次機能が独自に発達していることである.
3) 聴覚を介しての言語発達は期待できないため, 視覚を介しての言語訓練を試みたが, 現在まだ顕著な効果はみられない.
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