音声言語医学
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57 巻, 1 号
選択された号の論文の6件中1~6を表示しています
原著
  • 兵頭 政光, 弘瀬 かほり, 長尾 明日香, 吉田 真夏, 大森 孝一, 城本 修, 西澤 典子, 久 育男, 湯本 英二
    2016 年 57 巻 1 号 p. 1-6
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/02/23
    ジャーナル フリー
    本邦における痙攣性発声障害患者数や臨床像を明らかにすることを目的として,アンケート方式による疫学調査を実施した.本疾患の音声所見を収録したサンプルCDを作成したうえで,全国の主要な耳鼻咽喉科医療機関655施設に調査表を送付した.その結果,過去2年間にこれらの医療機関を受診した患者は1,534例あり,このうち新規患者は887例(0.70人/10万人)いることが確認できた.これにより,有病率は3.5~7.0人/10万人以上になることが推測された.臨床像としては,年齢は20および30歳代が59.0%を占め,男女比は1:4.1と女性が多かった.病型は内転型が約93.2%を占め,症状は内転型では声のつまりや努力性発声,外転型では失声や声が抜けるなどが特徴的であった.症状発現から医療機関受診までの期間の中央値は3.0年であった.治療はA型ボツリヌス毒素の内喉頭筋内注入療法や甲状軟骨形成術Ⅱ型などが,一部の医療機関で集約的に行われていた.今回の調査を通して,痙攣性発声障害は耳鼻咽喉科医においてもまだ十分に認識されていないことが推測された.調査結果などを基にして,診断基準の作成や治療指針の確立が望まれる.
  • 富里 周太, 大石 直樹, 浅野 和海, 渡部 佳弘, 小川 郁
    2016 年 57 巻 1 号 p. 7-11
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/02/23
    ジャーナル フリー
    吃音は社交不安障害などの精神神経疾患や発達障害が併存しうることは指摘されているが,これらの併存疾患に関する本邦からの報告はいまだ少数である.そのため,本邦における吃音と併存疾患との関連を検討することを目的に,2012年と2013年に慶應義塾大学耳鼻咽喉科を受診し吃音と診断された39症例について,併存する精神神経疾患および発達障害の有無を調べ,性別,年齢,発吃年齢,吃音頻度との関連を後方視的に調査した.
    併存する精神神経疾患として,気分障害(うつ,適応障害),強迫神経症,てんかん,頸性チックの合併を全体の15%に認めた.発達障害の併存は,疑い例や言語発達障害のみの症例を含め18%に見られた.発達障害の有無によって吃音頻度,性別,年齢に有意差は見られなかったが,発吃年齢は発達障害併存群で有意に高い結果だった.吃音は発達障害が併存することにより,発達障害を併存しない吃音とは異なった臨床経過を示す可能性が示唆された.
  • 周 英實, 朴 賢璘, 宇野 彰
    2016 年 57 巻 1 号 p. 12-17
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/02/23
    ジャーナル フリー
    全般的な知能が正常である韓国語話者小学3年生101名を対象とし,書取課題,音読課題と認知課題(音韻認識能力,視覚認知能力,自動化能力,語彙力)を実施し,ハングルの書字に影響する認知能力を検討した.書取成績を従属変数とし,音読と認知課題成績を独立変数とし重回帰分析を行った結果,単語書取成績を有意に予測した認知能力は語彙力と音韻認識能力であった.また,非単語音読が非単語書取成績を有意に予測した.重回帰分析の結果から,認知能力が音読成績を媒介し間接的に書字に影響している可能性が考えられたため,共分散構造分析を行った.その結果,単語書取成績と非単語音読成績が非単語書取成績を有意に予測した.これらの結果から,ハングルの書字に複数の認知能力が直接的に影響し,音読力が間接的に影響していると考えられた.
  • 酒井 奈緒美, 森 浩一, 北條 具仁, 坂田 善政, 餅田 亜希子
    2016 年 57 巻 1 号 p. 18-26
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/02/23
    ジャーナル フリー
    当センター「成人吃音相談外来」の1年間の新規患者43名中,合併症のない27名に対し,吃音の困難を包括的に評価する質問紙OASES(Overall Assessment of Speaker’s Experience of Stuttering: Yaruss and Quesal, 2006)の日本語版試案を実施した.4セクションからなるOASESの重症度は,セクション3(日常のコミュニケーション)が「中等度」である以外は「中等/重度」と困難が高く,既報告の吃音自助団体参加者のデータと比較してその差は有意であった.患者群は,全セクションで困難度が「中等/重度」の高困難群と,セクション1(全般的情報)が「中等/重度」である以外は「中等度」で困難度が相対的に低い中等度困難群に分類された.言語聴覚士(ST)の評価(発話重症度と心理重症度)は,それぞれセクション3とセクション4(生活の質)のインパクト得点と,また各セクションの一部の項目と有意に相関していた.OASESが,STの評価からは浮かび上がらない吃音の困難を把握し,臨床的介入の観点を提供しうることが示唆された.
症例
  • 村上 健, 深浦 順一, 山野 貴史, 中川 尚志
    2016 年 57 巻 1 号 p. 27-31
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/02/23
    ジャーナル フリー
    変声は14歳前後に完了するといわれている.今回,20代で声の高さの異常を他者に指摘されて初めて症状を自覚し,当科を受診した変声障害2症例を経験した.2症例とも第二次性徴を完了しており,喉頭に器質的な異常は認められなかった.話声位は男性の話声位平均値よりも高い数値を示したが,声の高さの異常に対する本人の自覚は低かった.初診時にKayser-Gutzmann法,咳払い,サイレン法により低音域の話声位を誘導後,低音域の持続母音発声から短文まで音声訓練を行い,声に対する自己フィードバックも実施した.訓練は1~2週に1回の頻度で実施した.2例とも訓練初回に話声位を下げることが可能であったが,日常会話への汎化に時間を要した.個性を尊重するなどの学校社会における環境の変化が,本人の自覚を遅らせ,診断の遅れにつながったのではないかと推測した.
  • ―直接的な発話訓練と認知行動療法的アプローチの経過―
    仲野 里香, 菊池 良和
    2016 年 57 巻 1 号 p. 32-40
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/02/23
    ジャーナル フリー
    吃音の悩みをきっかけに「不登校準備段階」の状態を呈し,「吃音をゼロにしたい」と当院を受診した13歳中学1年生男児に対して,直接的な発話訓練と多因子モデルに基づいた認知行動療法的アプローチを同時に行った.直接的な発話訓練は,軟起声・構音器官の軽い接触・弾力的な発話速度・随伴症状に対する訓練を中心に実施した.認知の修正に対しては,吃音の知識・自己評価・目標・発話体験を記録する「吃音ノート」を独自に作成して使用した.3ヵ月全11回の治療で吃音は軽快し,不登校に陥ることなく学校生活が楽しめるようになった.直接的な発話訓練と同時に多因子モデルに基づいた認知行動療法的アプローチを実施することは,「不登校準備段階」にある中学生に有効であることが示唆された.
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