音声言語医学
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40 巻, 4 号
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  • 武田 篤, 及川 絵美子, 村井 盛子, 千葉 隆史, 村井 和夫
    1999 年 40 巻 4 号 p. 314-319
    発行日: 1999/10/20
    公開日: 2010/06/22
    ジャーナル フリー
    当科で言語訓練を実施した難聴児110例中13例 (11.8%) に頭を壁や床にぶつける, 髪の毛をひっぱるなどの自傷行動や常同行動がみられた.これらの行動は早いもので生後5~6ヵ月頃, 遅くても1歳前後に出現していた.難聴の他に合併症を有するものに多くみられ, なかでも視覚障害を合併したものは全例で出現していた.これらの行動は補聴器を常時装用し, 聴覚補償が達成されれば消失した.したがって, 音声言語の獲得が難しいような重複障害を持つ難聴児に対しても補聴器の装用指導を積極的に行うべきと思われた.これらの行動の発現には, 母子間の相互作用や愛着性を十分図れないことが関与していると推測された.また, これらの行動は遅くとも1歳前後には出現しているので, 1歳6ヵ月児健診などでこれらの行動の有無を確認することにより難聴児を発見できる可能性が示唆された.
  • 山路 めぐみ
    1999 年 40 巻 4 号 p. 320-328
    発行日: 1999/10/20
    公開日: 2010/06/22
    ジャーナル フリー
    言語発達遅滞を神経心理学的および発達的という2つの視点からとらえると, 言語発達は「聴く」「話す」「視る」「書く」という4つの能力 (言語様式) が相互に影響し合いながら発達する過程と考えることができる.言語発達遅滞の訓練は発達の初期からの言語様式別能力の発達の評価に基づいて行われることが適切と考え, 言語様式別発達表を作成したところ, 1歳半から4歳までの視覚的な発達に関する項目が他の様式の項目に比べて少ないので, 健常な幼児32名の協力を得て, 視覚的理解の発達の指標となる行動の調査を行った.調査に用いた用具は日常的に良く接している物品, 玩具である.物品を用いた調査, 図形を用いた調査, 立体を用いた調査 (パズルボックス) , 文字型を用いた調査ではそれぞれ2個, 仮名文字の音読については1個の項目を検討し, それらをまとめて6個の指標を設定した.
  • 田中 美郷, 小寺 一興, 北 義子, 斉藤 宏
    1999 年 40 巻 4 号 p. 329-341
    発行日: 1999/10/20
    公開日: 2010/06/22
    ジャーナル フリー
    先天性重度感音難聴幼児2例の人工内耳装着前後の聴覚および言語の発達について詳述する.症例1は130dB以上の聾児 (男) , 補聴器の効果は全く認めなかった.2歳9ヵ月時, われわれのホームトレーニング・プログラムに参加, コミュニケーション・スキルや言語発達を促すために, キュード・スピーチ, 指文字, 手話, ジェスチャーなどのmanual communication手段を, 親子および聾学校教師の間で使うことを認めた.これにより言語発達は促進された.4歳0ヵ月のとき, 右耳に人工内耳 (Nucleus22チャンネル) を装着, しかしその後の聴能の発達はきわめて緩慢, そこで4歳10ヵ月のとき, 本児が知っている文字または単語を書いて示し, それを著者が発音し, かつ本児に模唱させるというトップダウン方式を採用, これにより本児は漸次聴覚的にことばが聞き取れるようになってきた.症例2は女児で, 1歳9ヵ月時重度難聴と診断された.ただちにホームトレーニングに参加, そこで箱形補聴器の処方を受けた.その後聾学校へ紹介され, 聴覚口話法による言語教育を受けた.4歳5ヵ月のとき, 聴力検査で130dB以上のきわめて重度な難聴であるが, ただし左耳の低音域にわずかに残存聴力があることが判明, 5歳6ヵ月のとき右耳に人工内耳を装着.術後の聴能の発達は手術年齢が症例1に比して高いにもかかわらず, 明らかに良好であった.これら2例から, 人工内耳以前に早くから聴覚体験を積んでおくと, 術後の聴能の発達に好結果をもたらすこと, および術前のmanual communicationは注意深く使用すれば, 人工内耳装用後の聴能の発達に必ずしも干渉しないことが示唆された.
  • ―予防的関与を視野に入れて―
    溝上 奈緒美, 早坂 菊子
    1999 年 40 巻 4 号 p. 342-348
    発行日: 1999/10/20
    公開日: 2010/06/22
    ジャーナル フリー
    幼児吃音発生に影響を与える環境要因を, 親子言語関係から探るために, 3歳児をもつ親885名に対し, 親子言語関係と子供の非流暢性発話に関する質問紙調査を実施した.親子言語関係の項目に対して因子分析を行ったところ, 規範性・受容性・過保護性の3因子が抽出された.また子供の非流暢1生発話の程度から対象者を吃音群・吃音high risk群・吃音low risk群に分け, それぞれの因子に関して群間比較を行ったところ, low risk群・high risk群・吃音群の順に規範性と過保護性が高くなっていく傾向がうかがわれた.一方, 受容性に関しては一貫した傾向がみられなかった.この結果から, 親が子供の非流暢性発話に対して規範的・過保護的に働きかけ, かつ子供の話をよく聞かない場合に, 親の働きかけと子供の非流暢性発話との間に悪循環が生じ, 幼児吃音の発生につながると考察された.ゆえに, 親子言語関係への早期介入が, 幼児吃音発生の予防となることが示唆された.
  • ―疳泣について―
    向井 將, 永杉 さよ子
    1999 年 40 巻 4 号 p. 349-356
    発行日: 1999/10/20
    公開日: 2010/06/22
    ジャーナル フリー
    われわれは新生児・乳児の疳泣は病的な心理的印象を与え, 音声分析では, 音声波形の立ち上がりが急激で, そのスペクトログラムは調波構造の形成が不十分で基本周波数が不安定であることを前回報告した.
    今回は, 疳泣と幼児虐待との心理的関係を調べるために虐待に繋がる心理的傾向を軸に多重評価法を用い音声分析との比較, 内観をみた.2名の疳泣児の局麻下レーザーによる舌・喉頭矯正術前後の泣き声を採取し, 10秒間再生した.多重評価軸には「不快だ―快感だ」, 「憎い―可愛い」, 「怒りたい―あやしたい」を7段階とした.術前は不快方向に―25で, 憎い方向に―4.5, 怒りたい方向に―4という評価であった.術後はすべてプラス方向へ24~30移動していた.音声分析による内観においては, (不快) に感じた部分は音の急激な立ち上がりと強いエネルギー, 調波構造が形成されていない部分であった.また (憎い・怒りたい) と感じた部分は共通しており, 不快な音の頻回の繰り返しに感じていた.
    さらにわれわれの観察している疳泣児の問題点を述べ, 疳泣は放置すべきでないことを明らかにした.
  • 岡崎 恵子, 大澤 富美子, 加藤 正子, 今富 摂子, 出世 富久子
    1999 年 40 巻 4 号 p. 357-363
    発行日: 1999/10/20
    公開日: 2010/06/22
    ジャーナル フリー
    口蓋化構音を認めた口蓋裂児 (口蓋化構音群) の2~5歳の構音発達の過程にみられた構音の誤りを音韻プロセスによって分析し, 正常構音を習得した口蓋裂児 (正常構音群) と比較した.いずれも片側唇顎口蓋裂で, 口蓋裂の手術は1~1歳6ヵ月の間に行い, 術後の鼻咽腔閉鎖機能は良好, 精神遅滞, 聴力障害のないものとした.
    25単語の構音検査を行い, 誤り音を14の音韻プロセスによって分類した.その結果, 1.正常構音群と比較して口蓋化構音群は音の誤りは多いが, 音韻プロセスの該当率が低く, 加齢に伴って該当率が低下した.2.口蓋化構音群は正常構音群と比較して, 硬口蓋音化のプロセスが少なく, 後方化のプロセスが多かった.
    以上の結果から, 誤り音における音韻プロセスの該当率が低く, 後方化のプロセスを示す場合は, 口蓋化構音へ移行する可能性が高いので, 慎重な経過観察が必要である.
  • 岡ノ谷 一夫
    1999 年 40 巻 4 号 p. 364-370
    発行日: 1999/10/20
    公開日: 2010/06/22
    ジャーナル フリー
    鳴禽類においては歌はオスがメスを性的に誘引するための行動である.また, この行動は幼鳥期に親から学習される行動である.一般に鳥の歌は複数の歌素を固定した順番に配列することでできている.しかし, ジュウシマツの歌は特異で, 複数の歌素を非決定的に配列してうたう.この配列規則は, 有限状態文法としてあらわすことができる.どうしてジュウシマツの歌はこのように複雑なのであろうか.まず, 解剖学的なレベルでの局所破壊実験により, 歌を制御する階層的構造が明らかになった.次に, 機能を知るためのメスの好みを測定する実験により, 複雑な歌はメスの性選択により進化したことが示唆された.さらに, ジュウシマツの祖先種であるコシジロキンパラのオスの歌はより単純であるが, メスは潜在的に複雑な歌に対する好みをもつことがわかった.以上の結果から, 複雑な行動の進化と脳の変化について考察し, ヒトの言語の起源に迫る手がかりとしたい.
  • 笹沼 澄子
    1999 年 40 巻 4 号 p. 371
    発行日: 1999/10/20
    公開日: 2010/06/22
    ジャーナル フリー
  • 小寺 富子
    1999 年 40 巻 4 号 p. 372-377
    発行日: 1999/10/20
    公開日: 2010/06/22
    ジャーナル フリー
    〈S-S法〉は, 臨床現場で作られた, 言語発達遅滞に対する総合的な評価・訓練法である.〈S-S法〉には, 言語行動への3側面からのアプローチ, 評価と訓練が結びついている (評価の結果ある程度自動的に方針が得られる) , 言語未習得から習得に至る事象系と記号系の連続性, などの特徴があるが, 本論文では, 言語記号の持つ性質と言語訓練との関係に焦点をあててその特徴が述べられた.すなわち, 臨床的なニーズに応えるために, 言語理解のプログラム, 言語理解と音声表現の関係に関する知見, 初期の質問―応答のプログラム, など現在の到達点のいくつかが紹介された.これらのプログラムの形成や展開に関して, 言語記号の持つ“有縁性・恣意性”“示差性”“連辞関係・範列関係”といった性質が重要であった.
  • ―読み書き障害の場合―
    大石 敬子, 斎藤 佐和子
    1999 年 40 巻 4 号 p. 378-387
    発行日: 1999/10/20
    公開日: 2010/06/22
    ジャーナル フリー
    知的発達に遅れがなく, 日常会話に問題がないが, 読み書きの発達が特異的に遅れた言語性読み書き障害7例 (小1~6年) に, 音韻, 意味, 構文, 喚語, 記憶の5領域からなる検査バッテリーを作成し, 実施した.結果は, (1) 音韻2課題 (単語逆唱と促音, 長音を含む無意味語のモーラ数かぞえ) の成績が正常コントロール群と比較し劣った. (2) 意味理解課題 (なぞなぞに答える) はコントロール群と差がなかった. (3) 動作語, 物品名, 色名のカテゴリー別呼称で, 動作語, 物品名に比べ, 色名の成績が劣り, コントロール群との差が大きかった. (4) 意味カテゴリーからの語想起に比べ, 音からの語想起の成績が劣る症例が多かった.
    以上より, 7症例は言語発達の諸領域に発達の個人内差があり, 音韻の発達が遅れること, 意味理解は良好であること, 呼称機能にカテゴリーによる差があることなどが明らかとなった.読み書き障害と音韻発達の関係は欧米でも指摘されており, 日本語でもその傾向が示唆された.
  • 宇野 彰, 春原 則子, 金子 真人, 加我 牧子, 松田 博史
    1999 年 40 巻 4 号 p. 388-392
    発行日: 1999/10/20
    公開日: 2010/06/22
    ジャーナル フリー
    特異的言語機能障害 (SLI: specific language impairment) 児の言語的発達と非言語的発達について認知神経心理学的な障害構造から検討した.その結果, SLI児では音読や復唱は可能であるが意味を理解することが困難であることから意味理解障害が中心症状と考えられた.SLI児は言語に関する意味理解力は障害されている一方で, 非言語的意味理解力は正常に発達していると思われた.同じ先天的障害例である, 非言語的能力も障害されている特異的漢字書字障害児と対称的であった.以上から, 言語的能力と非言語的能力は共通に発達していくだけでなく, 意味能力に関しては独立して発達していることが示唆された.
  • ―幼児期の特徴と学童期の能力―
    北野 市子
    1999 年 40 巻 4 号 p. 393-401
    発行日: 1999/10/20
    公開日: 2010/06/22
    ジャーナル フリー
    4歳時に重~中度の精神発達遅滞を示した子どもに対し, 個別継続的プログラムされた言語訓練を行わず, 長期的な助言指導・経過観察を行った児の8歳時のコミュニケーションについて調査した.重度群24例, 中度群25例であった.結果, 中度例で学童期に発語可能となったものは25例中24例で, このうち「簡単な会話成立」以上の実用的発語が可能なものは15例であった.一方, 重度例では24例中16例に発語がみられた.また, パニックが減少した児の中に発語可能となった者が多かった.発語可能な重度例の半数以上は学童期以降に音声模倣や発語が盛んとなった.このことから重度群については長期的な視野をもって母子の援助に当たることが重要であると考えられた.今回の調査結果は, STの指導効果を示したものではなく, 児の成長力を示したものである.したがって, こうした児に対するSTの直接的な訓練効果を検討する場合には, これらの児のもつ成長力を十分に考慮するべきであると考える.
  • 小島 義次
    1999 年 40 巻 4 号 p. 402-407
    発行日: 1999/10/20
    公開日: 2010/06/22
    ジャーナル フリー
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