失語症者の家族のコミュニケーション自己効力感評価尺度(Communication Self-Efficacy Scale:CSE)は,「失語症者に対してコミュニケーション環境を提供できる家族のケア能力に関する自己認知を測定する尺度」と定義され,失語症者へのコミュニケーション対応における家族の自己認知を評価することができる.今回,60組の失語症者とその家族を対象とし,失語症者の言語機能と家族のCSEとの関連を分析し,失語症重症度別に家族のコミュニケーション対応における課題の傾向を検討した.その結果,中等度群の家族では,「会話環境と会話方法の工夫」に関する自己認知が低く,重~中等度群の家族では,「会話環境と会話方法の工夫」と「コミュニケーション・ツールの活用」が,ともに低いことが示された.重度になるほど,家族のコミュニケーション対応における課題は複雑であり,コミュニケーション障害に起因する心理的な問題を包含している可能性が示唆された.
文字教育を行っていない幼稚園3園に在籍する年長児230名を対象に,国立国語研究所(1972)および島村,三神(1994)の調査と同様の方法で,ひらがな71文字についての音読課題,書字課題,拗音,促音,長音,拗長音,助詞「は」「へ」についての音読課題を実施し,現代の幼児のひらがな読み書き習得度について検討した.ひらがな71文字における平均読字数は64.9文字,平均書字数は43.0文字であり,島村,三神の調査結果と近似していた.また,本研究における71文字の音読,書字課題成績について,性別および月齢による違いを検討するため分散分析を行った結果,71文字の書字課題のみで性別の有意な主効果が認められ,男児に比べて女児の成績が高かった.月齢の影響はなかった.書字において女児の成績が男児の成績に比べて高かった点で,先行研究を支持していた.
内転型痙攣性発声障害と診断された10例にアクセント対立のある同音異義語対を音読させ,聴覚障害のない標準語話者大学生10名が語意判定を行った.語意判定の結果,評価者内判定一致率は88.6%で,評価者の半数以上が誤判定したのは19/80試料(23.8%)であった.誤判定された19試料を①有声/無声,②アクセント核の位置という観点で分類したところ,有声音のみからなる場合(11/19試料),第2モーラにアクセント核がある場合(13/19試料)で誤判定されやすいという特徴が明らかになった.痙攣性発声障害における発語困難は単純な「こえ」の障害にとどまらず,声の高さの調節を含めた「ことば」の障害に波及し,発話明瞭度の低下につながる可能性が示唆された.
vocal cord dysfunction(VCD)とは,吸気位相において開大するはずの声帯が奇異的に内転してしまう現象である.今回,気管支喘息に続発したVCD症例を経験したので報告する.
症例は15歳男性である.当科を受診する16日前から咳嗽,鼻漏があり,近医内科で受けた内服・吸入加療でいったん症状は軽快した.再度,咳嗽の出現に対して同様の加療を行ったが症状は完治せず,さらに吸気性喘鳴と日中の呼吸苦が出現したため精査目的で当科を紹介された.初診時の喉頭所見で安静吸気時の声帯内転運動を認め,同時に喘鳴を聴取した.器質的異常のないことから非器質的VCDと診断した.診断日から喉頭リラクセーション法を用いた治療を開始した.治療開始後1週間で安静吸気時の声帯運動は回復し,症状は消失した.非器質的VCDの早期鑑別と喉頭リラクセーション法の介入は病悩期間を短縮する可能性がある.
吃音を主訴とする自閉性スペクトラム障害(以下ASD)の青年に対し,自身の流暢な発話場面のみからなる映像を視聴する,ビデオセルフモデリング(以下VSM)を導入した.最初に作成・提供した映像は,発話は流暢であるもののASDに特徴的な行動を含んでおり,症例が拒否的な反応を示したため視聴を中断した.その後,ASDの特徴を制御した発話行動を撮影してビデオを作成し直し,約3ヵ月の視聴を行った(言語訓練も並行して実施).その結果,①自由会話の非流暢性頻度の低下,②発話の自己評価と満足度評価の上昇,が認められた.視聴後の感想では,映像視聴によって自身の話せているイメージを初めてもてたことが報告された.自己モニタリングが難しいASDの特徴を有する吃音者へのVSM訓練は,映像がASDに関するセルフフィードバックとして機能する可能性に留意すべきという注意点はあるものの,吃音の問題改善に有効であることが示された.
片側性声帯麻痺に対する枠組み手術の有用性は広く知られているが,研修する施設は限られる.今回,私たちは,指導医不在の施設で喉頭枠組み手術の研修を行った.この結果,被指導医に頸部手術の十分な経験があること,麻酔法の工夫など一定の条件は必要ではあるが,指導医不在の施設でも喉頭枠組み手術を習得することができた.手術研修は,指導医と被指導医が同一の施設で研修を行うことが望ましいが,他施設への派遣が難しい場合には,今回のような研修により手術手技を習得することも一つの方法と思われる.