音声言語医学
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63 巻, 4 号
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総説
  • 前川 圭子
    2022 年 63 巻 4 号 p. 241-247
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/11/17
    ジャーナル フリー

    本邦では,職業歌手の音声障害に対して言語聴覚士(ST)による音声治療が行われることは少ない.しかし,微細な声帯病変でも歌声の異常をきたし仕事の成果にも影響する職業歌手に対してこそ,音声治療は積極的に行われるべきと考える.本稿では職業歌手の音声障害に対する音声治療の効果について文献的に考察し,実際に音声治療を行ううえでの要点について述べる.
    職業歌手に対する声の衛生指導の要点としては,1)歌唱以外の声の乱用・誤用を防ぐ,2)声帯の湿潤を心掛ける,3)vocal warm-up/cool-downを励行する,ことに留意している.また,発声訓練の要点としては,1)来院できる機会に集中的訓練を行う,2)試験的音声治療を行い最適な手技を使う,3)うまく歌うための技術指導は歌唱指導者から受ける,ことに留意している.発声訓練には,声帯の接触によるダメージを減らし,歌唱者の発声機能を改善することが報告されている半遮蔽声道エクササイズを利用している.

原著
  • ―エレクトロパラトグラフィー(EPG)による観察―
    山本 一郎
    2022 年 63 巻 4 号 p. 248-254
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/11/17
    ジャーナル フリー

    骨格性下顎前突症に対する外科的矯正術は,下顎骨を後方に移動することで上下顎の位置関係を改善し,咬合と顔貌を含めて審美性を改善することを目的としているが,咬合の変化に伴う舌位置の変化が構音に及ぼす影響についての知見は少ない.今回は外科矯正術前後における構音時の舌と口蓋の接触様態の変化を,エレクトロパラトグラフィ(以下EPG)を用いて観察した.対象は骨格性下顎前突症を呈した22歳の男性2名,発話サンプルは歯茎音を含む[ata]と[asa]である.結果,術前の接触位置は両症例とも前方化していたが,術後2ヵ月で適正な位置に変化していた.これらのEPGの接触様態は術後1年経過後も維持されていた.また舌と口蓋の接触の前後方向の偏りを示すCOG値は,症例1の/t/以外では術後増加した.骨格性下顎前突症に対する外科的矯正術による上下顎の位置関係の変化と前歯部の咬合の変化は,構音時の口蓋と舌の接触様態に影響を及ぼすことが示唆された.

  • 近藤 香菜子, 河合 良隆, 岸本 曜, 水田 匡信, 藤村 真太郎, 曽我美 遼, 原田 展子, 末廣 篤, 倉智 雅子, 大森 孝一
    2022 年 63 巻 4 号 p. 255-261
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/11/17
    ジャーナル フリー

    加齢性声帯萎縮に対する音声治療の効果について検討した.対象は21例で,年齢は55〜80歳(平均69.7歳),男性14例と女性7例で,全例に音声治療(vocal function exercise等)を実施した.GRBASの合算値と全個別項目,MPT,音響分析(jitter),VHI-10スコアが音声治療後に有意に改善し,加齢性声帯萎縮に対する音声治療の有効性が示された.また,音声治療によるVHI-10スコアの改善と年齢・性別等の個人因子には,いずれも有意な相関性を認めなかったが,個人因子からVHI-10スコア改善を予測するためロジスティック回帰分析による検討を実施したところ,治療前の声門間隙の程度が軽度という個人因子がある場合にVHI-10スコアが改善しやすいという回帰性が示された.本検討により,音声治療の施行前に治療効果の予測をする因子として,声門間隙の程度が候補になる可能性が示唆された.

症例
  • 大塚 満美子, 佐藤 絵梨, 熊田 政信
    2022 年 63 巻 4 号 p. 262-268
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/11/17
    ジャーナル フリー

    痙攣性発声障害(SD)の治療においては,鑑別診断が重要となる.2007年から2017年の10年間に当院を受診し,内転型SDや機能性発声障害が疑われた症例を後方視的に検討した.対象の 826例の治療内訳は,ボツリヌストキシン注入術(注射)のみが407例,音声訓練(訓練)のみが284例,注射と訓練の両方が135例であった.そのうち,注射と訓練の両方を実施して経過を確認できた106例の治療経過は,①注射を先行して補助的に訓練追加(診断はSD):27例,②注射を先行して訓練へ移行(診断は機能性):33例,③訓練を先行して注射へ移行(診断はSD):32例,④訓練を先行して注射後に訓練再開(診断は機能性):14例,の4パターンに大別された.注射も訓練も一定の治療効果や鑑別診断のための有用性が得られたことから,治療方針の選択の過程において注射と訓練という双方の選択肢があることは有意義であると考えられた.

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