人工内耳は「最も成功した人工感覚器」とされているが,蝸牛神経を刺激することにより聴覚を再獲得させるので,その効果を十分に享受するためには,ある程度蝸牛神経が残存している必要がある.また,近年人工内耳の適応が低音に残聴のある症例にも拡大され,その効果を十分に得るためには残存している有毛細胞をできるだけ障害せず,また障害した場合でも回復させる方法の重要性が増している.
これらの人工内耳の限界を取り払い適応拡大の効果をより高めるため,従来哺乳類では再生することがないといわれていた蝸牛神経あるいは内耳有毛細胞を再生または保護することが必要である.増殖因子や幹細胞といった再生医療技術を用いてこれらが可能であることがさまざまな動物実験から示されており,増殖因子であるIGF-1は臨床試験によって突発性難聴に対する効果が示された.今後はこれらの研究結果を新しい人工内耳医療に応用する方法を開発することが望まれる.
抄録全体を表示